男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
「……一応、聞くね? ……授業、分かった?」
「分かんね!!」
「だと思った……!」
やっぱり力男に飛び級なんて無理だったんだ。朝の時点でダメだろうなぁ、とは思っていたけれどやっぱりダメだったんだ。
これからどうするかと考える。中3の勉強内容を丸々全部教えた上で、IS学園という世界最高峰の学校の勉強を教えなければならない。いや、別に私が教えなくても先生に相談すればいいんだけど……やっぱり、私が教えたい。
一緒の時間は多いに越したことは無いし……ね。
自分で書いたノートを見てずぅっと唸っている力男を眺めながら、そんなことを考えていると、私達に近付いて来る人影が目に入った。
「えっと……」
「ん!? 何か用か!!」
「声でか……」
分かる(分かる)。でもこの声の大きさも力男の良い所だからさ……私の男性観ってかなり力男に歪められてるんだと解る今日この頃。
話しかけてきたのはクラスメイトの……田沢さんだった。意外と名前覚えてるな私、偉いぞ。
「っと、そんなことじゃなくて……ほら、やっぱり同じクラスになったんだから仲良くしたいじゃん? だから挨拶に来たの」
「なるほど!! 確かにそうだ!! よろしくお願いします!!」
敬語を話す力男はやっぱり何か違和感がある。いや、敬語を話す力男に違和感があるんじゃなくて力男が話す敬語に違和感があるんだ。
「それで、聞きたいんだけどさ。阿智君と更識さんってどういう関係なの?」
「恋人で頼れる先輩だ!!!!」
「……へ?」
教室の中が静止する。もちろん私も静止する。
なんで口止めしなかったんだと自分を責めたりこれからの自分のクラスでの扱いを想像したり……多分1分もこの静止は続かなかっただろうに、次に意識が現実に引き戻されるときには体感1時間は経っていた。
「へ、へぇ……ん? 先輩……? えっと……阿智君って何歳?」
「今年で14歳!!」
ハッと意識が覚醒する。この馬鹿はどうしてこんなに爆弾投下が上手なのだろうか。その爆弾投下技術をもう少しばかり頭脳のほうに回すことはできなかったのだろうか。
天は二物を与えずとは言うがもう少し、人並みくらいの頭を力男に与えることは出来なかったのだろうか。それこそTPOを弁えた行動と言動をするくらいの頭を。
「14歳……更識さん年下に手を出したの?」
「1歳差はセーフじゃないかしら?」
「学生の1歳差は大きいってお母さんが言ってた」
「玄人同士多くは語らない。あの2人イイよね」
「イイ……」
ほらもうなんかザワザワとし始めたし変な人も沸いてるし滅茶苦茶だよ。
「へぇ……え、恋人?」
田沢さんが情報過多で情報のスタックを起こしている。初めて力男の天井歩きを見た本音もこんな感じになってたなそういえば。
「……ごめんね、ちょっと情報整理したいからタイム」
「うっす!」
ああ、ついに情報過多を処理しきれずにプログラムが停止しちゃった。うーんと唸りながら自分の席に帰る田沢さんを見送りながら力男の肩を叩く。お話の時間ですよ力男さん。
「あのね、力男。TPOって分かる?」
「鶏ササミ! プロテイン! オロナミンC!!」
「筋トレに有用な飲食物だね、違います。そうじゃなくて時と場合と場所」
「へぇ!!」
どうしてTPOが時と場合と場所となるのだろう? と考えているのがまるわかりな顔をしている力男については気にせずに話を続ける。
「力男、私達の関係を馬鹿正直に話すのはTPOに則してないの」
「なるほど!!」
「とりあえず、今後は自重してね? お願いだから」
「まぁ、多分もう手遅れだけど」と心の中で付け加える。私が力男に教育を施している間にクラス内で私と力男の関係が周知されたようだ。
しかも、私たちを遠巻きにしている生徒たちの中には明らかに別クラスの生徒も混ざっている。なんなら別学年の生徒らしき顔も見える。
「学校中に知れ渡っちゃうだろうなぁ……」
「やっべ、弁当忘れた!!」
「くそぅ……底なし能天気め。私のを分けてあげるから我慢してね。どうせお金ないだろうし」
「マジで!? ありがとう愛してるぜ簪!!!!」
シーンと教室が静まり返り、全ての視線が私達に集中する。
突然だけど暴力系ヒロインというものをご存じだろうか。鈍感だったり少しでもデリカシーのない行動をした主人公に対して殴るけるの暴行を加えるヒロインのことだ。
2010年代にツンデレヒロインとセットで大流行したのだが、私はなぜ好きな人に暴力を振るうのかが理解出来なかったからそこまで好きではない。
でも、今なら彼女達の心が理解できる。言葉じゃなくて、正真正銘感情で理解できる。あえて口に出すなら――
「殴りたい、この笑顔……!」
殴ったらこっちにダメージが来るから殴らないけど……殴りたい。願わくばシティハンターに出てくる100tハンマー……いや、∀ガンダムに出てくる殺意マシマシのガンダムハンマーで殴りたい。
そんな怒りと周囲からの視線に対する羞恥を感じつつ、私は机に突っ伏した。おでこが痛い。