滅尽の守り龍   作:止まらないラージャンBB

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輪廻のひずみ

新大陸にて、かつて1つの命が散った。

 

 

 

マグマが脈動する龍結晶の地にて、5人のハンターが何かから逃げるように走る。

 

「ここは俺が引きつける! お前達は逃げろ!」

 

「正気か!?」

 

「友よ、生き急ぐな!」

 

傷だらけになった一人の女を担ぐ大男は、同じく怪我人を担いでいる雌火竜の鎧を着た男と共に走るのもやめて、武器を構えた男に向かって手を伸ばす。

 

「……さよならだ」

 

俯いたままそう呟いた彼は、手に持った石を水晶へ投げ飛ばす。

たちまち水晶は崩落し、男と友の間にある道を塞ぐ。

 

「頼んだぞ、調査団を……ッ!!!」

 

大地をも震わせる咆哮が、男の耳をつんざくように響く。

咆哮の主は四つ足で大地を踏みしめ、滅尽の悪魔は男を睨む。

 

「殺りあおうじゃねぇか……ネルギガンテェェェェェ!!!!」

 

男は老山龍の角から作られ、滅龍の力が込められた片手剣を構えて駆ける。

滅尽龍も好敵手に呼応するように前脚に力を込め、奴を叩き潰さんとする。

 


 

「はぁ、はぁ……ああああああああぁぁぁ!!!!」

 

戦いはどちらかが倒れるまで続いていた。

男の持つ得物の片手剣は、ただの1度も折れなかったはずの刃が欠けてもなお、滅尽龍の鎧でもある金剛の如き棘を引き裂いていく。

劣勢となった滅尽龍は強く吼え、天高く飛ぶ。

 

(はは、は…ヤバい……俺は……死ぬのか?)

 

そのまま突撃して、次々と男の肉体を削ぎ潰す滅尽龍を目にして、明確な死を悟った男は……

 

「ただで、死ぬかよ……! テメェも、死にやがれッ!!」

 

男は残った僅かばかりの筋肉で骨を動かし、滅尽龍の顔に刃を突き立てる。

すると、まるで彼の意思に呼応するかのように片手剣の滅龍の力が解き放たれ、滅尽龍の身体を蝕んでいく。

 

龍結晶の地に轟いた断末魔と共に、滅尽龍は力なく倒れる。

 

 


 

(クソが……治らねぇ)

 

男は生きていた。いや、生かされていたというのが正しいだろう。

滅尽龍が最後に放った技で、男には数多の棘が刺さっていた。

どうやっても、傷口は癒えなかった。

今作れる最高の出来だった薬を浴びせても、いにしえから伝わる秘薬を口にしても、棘は男を呪うように刺さったままでいた。

 

(殺されたのに、お前を狩った俺に縋り付くんじゃねぇ、よ……)

 

男は自分だけが知る、龍結晶の地の隠れ家で倒れ伏す。

 

(すげぇ、眠いな……これが、死ぬ時の感覚か……)

 

男は人知れず、人ならざる者となった。

 

 


 

時は大きく進み、調査団も五期団がやってきてしばらく経った頃。

とある世界から落ちてきた水晶により、異界の門が開かれた。

調査団は総力を決して、異界から降り立った魔獣を狩ろうとした。

 

「きゃあっ!(あ、やば……)」

 

ランスを持った五期団でも指折りのハンターが、魔獣ベヒーモスの操る風に吹き飛ばされる。

彼女が叩き潰されそうになった瞬間……かの龍は鉄槌を下した。

ベヒーモスの死角から、倒されたはずの滅尽龍が弾丸のようにベヒーモスの背中を抉り潰す。

 

ベヒーモスの背中に大量の棘が刺さり、魔獣はたまらず悲鳴を上げる。

 

(ネルギガンテ!? 討伐したはずなのに!)

 

ランスを持ち直したハンターは、自らが狩った筈の滅尽龍が居ることに驚愕する。

滅尽龍は古龍を喰らう古龍。その特異な生態から、総数は他の古龍に比べると少ない。

 

(……あれは、片手剣?)

 

ハンターは、滅尽龍の背中に刺さった武器を見た。

蒼い老山龍の角から作られた片手剣は、まるではじめからあったように、今戦っている滅尽龍の背へ深く刺さっていた。

 

「なんで、片手剣が……」

 

己が倒した滅尽龍に、武器など刺さっていなかった。

そして、彼女は大団長の話を思い出す。

 

──── 一期団が新大陸に降りたって間もない頃、一人のメンバーを失ってしまった事

 

──── 彼は大団長やソードマスター達を逃がす為に、たった1人でネルギガンテに立ち向かった事

 

──── そして、彼は老山龍の角で作られた片手剣をずっと使っていたという事。

 

彼女は気がつく。

滅尽龍は自分達ハンターを守るように戦っていた。

 

滅尽龍が圧倒的な膂力で、魔獣の顔を叩き伏せる。

たまらずベヒーモスは怯み、反撃に隕石を降らせる。

それをいとも容易く避ける滅尽龍は、天高く空を飛んで再び突撃する。

 

魔獣もそれに呼応するようにエネルギーを溜め、自分への被弾覚悟で月蝕の隕石(エクリプスメテオ)を降らせる。

 

「総員、近くの隕石を盾にしろ!」

 

総司令の命令で、急いでハンター達は小さな隕石の影に隠れる。

 

全てを焼き尽くさんとする隕石を見た滅尽龍は突如進路を変え、隕石に突撃する。

しかし、隕石の持つエネルギーは強大で、滅尽龍ごと落ちてくる。

滅尽龍を覆う大量の棘が折れ、翼はありえない方向に曲がる。

押し負けて尚、滅尽龍は隕石に掌底を打ち込む。

 

 

隕石が地面に触れた瞬間、凄まじい熱量が辺り一体を吹き飛ばす。

やがて、ハンター達を守る盾となっていた隕石がボロボロと崩れる。

 

「た、倒した! 魔獣を倒したぞー!!!」

 

(……あのネルギガンテは……一体、どこに……)

 

倒れ伏すベヒーモスの姿を見て、陽気な推薦組が手を掲げて喜んでいる中……滅尽龍は忽然と消えていた。

 


 

(クソっ……俺は今度こそ死んだのか……?)

 

暗い、暗いどこかの空間。

滅尽龍に変わり果てた身体を引きずり、男だった龍は歩みを進める。

 

「……お疲れ様、名もないハンターさん」

 

不意に、声をかけられる。

振り向くと、そこには白いドレスの少女がいた。

 

「なんで自分の事を知ってるのか、みたいな顔をしてるね? ……まぁ、時間が無いの。何故、私が色々と知っているのかは聞かないでね」

 

少女は何も無い所に腰掛け、告げる。

 

「あなたは隕石をすんでのところで打ち砕いて、あの子達を守った。……そして、あなたはそれを壊した時のエネルギーの影響で、全く関係の無い異界に引きずり込まれたの。ここはそこへと繋ぐ、とても脆い道。もうあなたがあそこへ戻ることは出来ない」

 

少女の説明を聞いた龍は、悲しそうに俯く。

 

(……もう、あいつらには会えねぇのか)

 

「あなたにも、また会いたかった人がいたかもしれない。でも、それでも……あなたは進むのでしょう?」

 

まるで試練を与えるように、少女はそう呟く。

 

「私は、あなたの向かう世界へは行けない。今こうやって話すのが限界なの。……もう時間切れ。とにかく、最後に一つだけ…私が代わりに伝えるわ」

 

どんどん薄くなり、霞んでいく少女はこう言った。

 

「大地に還るその時まで、あの人たちはあなたの事を伝え続ける」

 

 


 

眩い光と共に、滅尽龍は草原に倒れ伏していた。

傷だらけで動くのが精一杯のはずなのに、滅尽龍は歩みを止めない。

 

ただ生き続け、調和をもたらすのが龍の責務であり、本能なのだから。

だから、まずは傷を癒さなければならない。

 

滅尽龍は安息の地を求めて歩いていく。

 

滅尽龍は誰に会う?

  • 異変を察知した異界の神様
  • 穢れを察知した月の民
  • 名もしれない妖怪
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