艦隊これくしょん ─態度と乳と乗艦がクソデカいタイプの転生者─ 作:物凄く強い美少女×戦艦はいい文明
気付けば真っ赤な川の中に立っていた。
ムッとする鉄臭さと粘ついた感触から、川の水が血と油なのが分かった。
どう見てもこの世のものとは思えない光景に絶句する。
かつて聞いたことがある。
わたくしの先祖……日本人はかつてあの世とこの世の境目に川……三途の川と呼ばれる場所が有ると考えていたと。
生者と死者を別つ川。
ただ、伝説に伝え聞いていた川と比べて余りにも物騒で余りにも大きい。
朧気で見えない水平線の彼方まで血と油が混じった水面が続いている。
まるで海のような広さだ。
ただ、視界は遮られがちで実際より遥かに狭く感じられます。
わたくしの周囲にはミサイル等のハイテク兵器が開発される前の……未だ軍艦が水上にしか居なかった時代のものらしい古めかしい姿の軍艦が幾つも浮かび、ゆっくりと水面を進んでいる。
その何れもがボロボロに傷つき、錆だらけになってしまっている。
大きなものも小さなものも、大砲を山積みしたものも平たい甲板のものも、何もかもが。
三途の川には渡し舟がいると聞いたけれど、こんなフネなのだろうか。
そんな取留のない考えを巡らせていると、いつの間にか古い軍艦達は舳先を向けてぐるりとわたくしを囲んでいた。
ふと頭の中で声がした。
いえ、正確には声ですらない。
脳内に意味だけを叩き込まれているイメージです。
─辛いでしょう。
当然です。
わたくしの人生はこれからだったのですから。
─悔しいでしょう。
当然です。
わたくしの力があれば多くの人を護ることが出来たのだから。
─憎いでしょう。
……いえ、憎しみはありません。
敢えて言うならば怒りだ。
倒すべき相手を倒し切れない不足した自分に。
この身を捧げてすべきだった使命を果たせないことに。
寧ろ穏やかに答えるわたくしに声は言い募る。
力を持たない人々の愚かしさ……。
犠牲を強いる愚民共……。
我々には復讐する権利がある……。
憎め…
憎め!
憎め!!
「否っ!!」
叫ぶと同時に剣を抜き放つ。
切先を正面の黒々とした鋼鉄の城へと向けて啖呵を切る。
「
大見得を切って見せたものの、わたくしを取り囲む軍艦は不気味な沈黙を保ったまま。
やがて、そのどれかが軋むような音を響かせました。
─ふざけるな!
叫ぶような思念。
次の瞬間、光速を超える速度で周囲の軍艦達がわたくしに「流れ込んで来る」。
それはまるで、わたくしという存在そのものを艦にしてしまおうとするかのような感覚。
そして荒れ狂う憎悪と怒り──いえ、これは……嫉妬?
無数の怨念……妬み嫉みの感情が渦巻き、わたくしの精神を塗り潰そうとする。
「ぅ……!」
呻くことしか出来ず、再び遠ざかる意識。
ここが何処なのか、この艦達は何だったのか。
一切を理解することも出来ずにわたくしは再び気を失い――。
意識が浮上する。
視界に光が溢れる。
思考を含めて全てが真っ暗闇だった所に眩しいまでの光が飛び込んで来て眩惑される。
混乱の極致で自分の体が水面にフワフワと漂っていることにおぼろ気ながら気が付いた。
「……ここは?」
独特な潮風の匂いが鼻を突く。
海だ。
呑気にそこまで考え、慌てて周囲を見渡した。
そうです!わたくし達は特甲種の爆発を抑え込んで……。
「エイリア!クオント!無事ですの!?返事をなさい!」
光速の27倍の速度を誇るタキオン波による念話。
わたくしの出力なら距離2000kmまで届く筈のそれに対する返答は皆無だった。
それはつまり、エイリア達だけでなくわたくしの念話を拾える友軍……クロハヤ軍を含めた相手が少なくとも半径2000kmの距離に全く居ないことを意味していた。
アープの自爆で全て吹き飛ばされてしまった?
いえ、それは有り得ません。
特甲種の爆弾は確かに惑星破壊規模の威力を持っていましたが、それ故にもしわたくし達の妨害が失敗に終わったのならこんな「普通の海」に浮いているということが有り得ない。
ではそもそもここはどこなのか?
サイオから余程遠くにまで吹き飛ばされたのか。
それにしたって少なくとも軌道上には航宙艦なり衛星なりが居てわたくしの念話を受信してくれる筈。
「わぷ!」
考え事をしていると、波を被ってしまう。
塩辛い水を存分に飲んでしまい咳き込む。
それなりに波浪が荒く、しかも肉眼で見える範囲に陸地が見えないところを見るとここは外洋らしい。
このまま海上に浮かんでいても仕方が無いと飛翔し海水を軽く払う。
装備を確認すれば少なくとも五体もスーツも破損は無い。
ただ、非常に理力の反応が悪い。
本来なら29万9千m/sで飛ぶことも出来るのに、今はどれだけ頑張っても音速の壁すら突破出来る気がしない。
かと言って体調が悪いとか怪我をしているとかの不調は無い。
あるのはただ、妙に力が出し切れないという事実だけ。
何かがおかしい。
「……とにかく、陸地を目指しましょう」
不安をかき消すようにわざと声に出して呟いてみる。
幸いにも周囲に敵の気配は無し。
……感知範囲が露骨に狭まってはいるけれど、少なくとも60km圏内には居ない筈。
そう考えると念話も到達距離が狭まってそもそも友軍にまで届いていないのかも知れません。
大きな不安と、思ったよりも友軍が近くに居るかもという僅かな希望を胸に抱えたまま、わたくしは飛行を開始した。
移動を始めて10分程。
わたくしは途方に暮れていました。
まず160m/s程度にまで落ち込んだ飛行速度に絶望し、高度3000m程度で呼吸が苦しくなることに絶望し、どこまで行っても眼下に広がる同じ景色に絶望する。
海と空の境界すら曖昧になる延々と続く水平線。
その先に陸地など無いのではないかという恐怖に飲まれそうになる自身を奮い立たせながら真っ直ぐ飛び続ける。
その時、感知に何かが引っ掛かる。
精査能力も落ちるだけ落ちて相手が何かも分からなくなっているものの、何かが居ることは探知することが出来ました。
しかもこちらに近付いている!
速度と高度から低速の航空機だと思われる反応に、何とかなるかもという考えが頭を過る。
そして、その考えを肯定するように前方から飛来する物体があった。
「あれは……」
それは奇妙な形状の飛行機械だった。
大気圏内用に翼があるのは分かるけれど、鼻先にプロペラが付いている。
まるで歴史の資料で見たことがあるレシプロ航空機かターボプロップ機のようだった。
何にせよ今のわたくしには唯一の助けの手。
こちらよりも遥か上方を飛んでいる相手に向かって大きく手を振る。
すると僅かな間を置いて機首を下げて急降下してくる。
助かった……そう思った矢先でした。
「!」
両翼の中程が光ったかと思うと、超低初速かつ連射も酷く遅いながらも銃弾が放たれた。
機関砲!?
咄嵯に回避すると、クラシカルな黒い戦闘機は機首を捻って再び攻撃体勢に入ろうとする。
コミュニケーションを取るという選択肢は消滅した。
「なんです……のっ!?」
こちらも加速しながら左手から攻勢術式を放ち、旋回中の「敵機」に撃ちかける。
計12本の赤黒いエネルギーの槍が避ける間も無く敵機の胴体に突き刺さる。
普段から比べれば遥かに低出力な術式だけれど、あの程度の規模の機体なら木端微塵に出来る……筈でした。
「!?」
理力障壁もエネルギーシールドも無い古臭い航空機の無防備な腹に突き刺さった攻勢術式は、しかし僅かに光っただけで霧散してしまった。
わたくしが驚く間に、敵は再び両翼の機関砲を放つ。
今度はわたくしの障壁をすり抜けて腕や胴や脚に被弾してしまう。
「ぐっ!?」
幸い非常に低性能な機関砲らしくダメージはほとんど無かったものの、精神衛生に非常に良くない。
そもそもあの程度なら障壁で完全に防げる筈なのに……。
そのまま突撃してくる敵に、思い切ってこちらも突っ込む。
僅かに身をずらして機関砲弾を避けながら、すれ違いざまに翼を渾身の力で殴りつける。
少なくとも金属で出来ているなら粉砕出来る筈……なのに、手応えこそあったものの敵機は僅かにバランスを崩しただけで無傷。
混乱の極致に陥りながらも、半ば反射で逃走を始める。
確かにこちらの攻撃は容易に当たり、相手の攻撃は容易に避けられるうえに威力は無い。
だけれど、お互いにダメージを与えられない状況ではどうしようもない。
「一体なんなのです!?あの飛行機は!?」
叫びつつも海面近くまで降下して逃げる。
しかし、敵機は執拗に追跡を続けわたくしを撃ち殺そうと機関砲を撃ってくる。
速度はこちらが僅かに上、何より圧倒的に小回りが利くわたくしなら撃ち落されることは恐らく無いけれど、だからといっていい気分にはなれそうにない。
「……」
残る攻撃手段はそう多くは無い。
メイン装備である幻想武器。
これが効かなければ……。
祈るような気持ちで武器を具現化した。
「!!?」
手に握る筈だった大剣の感触は無く、箱状の空間に放り出される。
状況に追い付けず、その中を転がり強かに壁へと背中を打ち付けてしまう。
背中の理力ブースターが派手な音を立ててしまうが、ともかく怪我は無しで済んだようです。
「は?な……はぇ?」
全く理解が追い付かず、間抜けな声を漏らしながら周囲を見渡す。
そこは敢えて言うならば艦艇の戦闘指揮所のような場所。
四方30mはあり、高さも8mくらいはありそう。
全周型のスクリーンに外の景色が映っていて、海面も空も何もかもが見える。
部屋の中央中空には「ここ」を中心としたリアルタイム式の海図が投影されていて、「ここ」から離れていくプロペラ機が簡略化して示されています。
そしてそれを見下ろすような位置に玉座を思わせる豪奢な椅子が浮いている。
「これは……」
戦闘指揮所のような……ではない。
これは理力系の技術を元にした戦闘指揮所なのです。
そして、わたくしがこの「空間」を生み出した張本人だと本能的に理解してしまう。
「……はぁ」
ため息を一つ吐いてから立ち上がり、浮遊して移動してとりあえず玉座に腰を下ろす。
この「艦」と自分がリンクしているのも分かる。
そのおかげで、突然軍艦が現れたことで撤退した所属不明の敵機のように、この艦もとても古めかしい姿をしていることが分かる。
何しろ、火薬で砲弾を撃ち出すタイプの大砲を主武装としているのです。
狭義での「戦艦」と呼ぶべきフネ。
こちらは明確に元となったフネを知っている。
「大和」─かつてわたくしの先祖の国が建造した戦艦。
大砲式の戦艦では世界最大級の……そしてわたくしから見れば400年以上前の遺物。
ただ、大和型戦艦のことは現代に残る資料でしか知らず仔細を把握している訳ではないのでこの「大和型戦艦模倣型幻想武器」が史実の「大和」にどれほど近いのかまでは分からない。
「ふぅ……」
もう一度、深くため息を吐く。
現状はある程度把握した。
当面の危機も去った。
だけれど、この先どうすれば良いかは分からないまま。
何はともあれ味方に連絡を取らねばなりません。
戦艦のレーダーと接続したからなのか飛躍的に拡大し半径300kmまで広がった探知範囲。
その中には、やはり友軍を探知することは出来ませんでした。
ただ、レーダー波こそタキオン波を使用しているものの生身の時と違って惑星の丸みに沿っての探知は出来ていない。
空中で退避する敵機の追跡は出来ているけれど、海上までは索敵出来ていないということ。
もし海上に友軍が……或いは敵が展開していたならば、発見することは出来ない。
こういう時に楽観論は禁物。
敵機が退避する方向には他の敵……恐らく母艦もしくは基地があると見て間違いない。
「……」
残念ながら幻想武器があの敵に効果があるかは未知数。
今のままだと防御力や探知能力は生身でいるより遥かに良さそうだけれど、どうやら速度は大分落ちる。
ならばこの幻想武器は早々に収納して敵機とは反対方向に逃げ……?
「これ……片付けられませんの……?」
どれだけやってもこの260mを超える艦体を他の武器のように収納することが出来ない。
それならとこれを捨てていくことも考えたけれど、防御力と広域探知能力を捨てるのも惜しい。
「……とにかく、三十六計逃げるに如かずですわ」
蒸気タービンにも似た機関を始動させ、艦尾の水中に備えられた原始的なスクリュープロペラを回転させると敵機が飛んで行った反対の方向へと舵を切り66km/hの速度で逃亡を開始しました。
海上で逃避行を続ける間、この戦艦の武装や性能を少し調べてみました。
まずこの部屋は背の高い艦橋の地下、艦内奥深くに設置されていることが分かった。
1900年代中頃の日本に戦闘指揮所を設置した艦艇は無かった筈なのでこの部屋は元の艦には存在しない部屋ということになる。
探知機器としてレーダーはタキオン波を利用したもので対空用の半径300kmを探知可能なものと低空監視兼対空対水上射撃管制用の半径80kmを探知可能なものを幾つか。
ただ、水上目標ともなれば惑星の丸みに合わせた距離しか探知出来ないためそちらは21km少し程度しか探知出来ません。
目視も同程度でしょうか。
水中用タキオンレーダーは20km程度しか索敵出来ず、非常に心許ない。
機関も形状こそ大昔の蒸気タービンに似ているものの、内部構造はもう少し無茶が利きそうになっている。
燃料は理力……わたくしの失われた理力を何処からか汲み上げて動いているようです。
推進方式は非常に原始的なスクリュープロペラが4つ……このサイズになるとスクリューとは呼ばないのだったか。
速力は最大で72km/h程度。
安定して航行するなら65km/hくらいになります。
甲板で目を引くのは艦首に2基、艦尾に1基搭載された46cm砲。
少々中途半端な45という口径で三連装砲塔にまとめられている。
内部は完全に自動化されていて、連射速度は毎分9発とこのサイズの砲としては少し遅い。
射程は52kmほど。
水平線の向こう側が探知出来ない以上友軍と協力しなければ最大射程を発揮することは出来ないでしょうけれど。
揚弾機の先には少数の砲弾を保管しておく4つの空間と砲弾を具現化する為の装置が置かれている。
理力で何種類かの砲弾を具現化して撃ち分けることが……何より理力がある限り無限に撃つことが可能ということです。
この他の武装も似たような構造を有していますが、恐らく実際の艦にこのような機能は搭載されていない筈。
主砲の他には副砲として15.5cm60口径三連装砲が艦上構造物前後の高所にある。
艦のサイズを考慮するならば仕方ないけれど2基という数は少し貧弱に思える。
発射速度も毎分21発とかなり心許ない。
射程は36km程で主砲と併用して敵艦を撃つ為のものだったのか、原型よりも高性能化しているのか判断に困る所。
舷側の甲板には所狭しと並べられた中小砲群。
まずは上下2段3基ずつに分けられた計12基の40口径12.7cm連装砲。
速射砲……ではなく高射砲と呼ぶのでしたか。
発射速度は毎分48発で射程は22km程。
やはり物足りない性能ですが、当時の連射火器ならこのくらいなのでしょうか?
そして艦体各所に散りばめられた25mmの三連装機関砲。
高射砲と違ってカバーに覆われているものと覆われていないものがあるけれど、特に性能の違いは無いようです。
1門につき毎分5000発とそれなりの連射速度ですが、当時の機関砲……しかもガトリング方式でないものがこれほどの性能を発揮出来るとは思えないので原型は恐らく毎分500発程度だったのでしょう。
射程も最大で17000m程で、所謂大気圏内での重力影響による弾丸の垂下を考慮しなくていい有効射程は6000m程度。
特徴的な背の高い艦橋の左右には13mmの連装機関銃が1挺ずつ備えられている。
25mm機関砲と比べて射程も威力も足りないけれど、艦橋の防衛用なのだろうか。
総じて、理力を持つ者向けの低性能水上艦といった様子。
性能も不安ではあるけれど、そもそも敵に効くのかどうかが最大の懸念事項である。
どれだけ砲弾を撃ち込んでも効かないのなら意味はありません。
というのも、敵機が去って行った方向の距離140km程度から大量の空中目標が現れ、こちらに向かって来たからです。
十中八九あの敵機の仲間でしょう。
速度は300km/hに少し足りないくらい。
30分もしない内に追い付かれてしまう。
この艦の武装が有効なら逃げながら戦い、駄目なら艦を捨てて逃げ出そう。
そう決めて、迎撃の為に各砲の操作を開始した。
艦の全ての機能がわたくしの意思で思いのまま動く。
まるで自分の身体を動かすように。
それだけならば十分戦える要素なのですが……。
そうこうしているうちに敵機集団がわたくしの上空に達する。
数は103機。
速度を400km/h超まで加速すると本艦後方から分散しながら突撃を開始した。
「効いてくださいましね……!」
面舵を取りながら主砲を回転させ、祈りを込めて敵機に狙いを定め発砲を開始。
派手な咆哮と共に放たれた46cm砲弾が空気を切り裂いて敵機の鼻面に直撃。
わたくしの祈りを聞き入れるかのように敵機は2.4トンの砲弾によってバラバラに吹き飛ばされました。
「やった……やりましたわっ!!」
この艦の武装なら敵と渡り合える。
その事実に思わず声を上げてしまう。
しかし喜ぶのも束の間、敵編隊は各々回避機動を開始。
主砲の命中率が劇的に低下してしまいました。
「この……っ!誘導兵器は積んでないんですの!?」
高機動迎撃ミサイル……1900年代ならSAMと呼ばれる対空用のミサイルが存在した筈ですが、この艦には積まれていないようです。
主砲を振り回してチマチマと敵機を狙い撃つのは非常に効率が悪いけれど、他に兵装が無いので致し方無し。
真っ直ぐ飛んでくれれば楽なのですが、敵もそこまで馬鹿ではなくコチラの発砲を確認すると変針して回避してしまう。
時折撃墜機も出るけれど、高々30機程度の撃墜では敵機を押し留めることは出来ない。
大まかに3種類の飛行経路に別れたプロペラ機の集団。
1つは緩降下でバラバラに接近して来るグループ。
もう1つは3から4機の集団に分かれて4000m程度の高度で艦後方から接近して来る。
最後に16機程度の編隊に分かれて低空から艦を左右から挟むように接近するグループ。
緩降下は恐らくミサイルと機関砲による攻撃。
中高度の集団は何故わざわざ後方に占位しようとするのか、左右の編隊は何故こんな低空まで降下して来るのか、そちらはさっぱり理解出来ない。
これなら1900年代の戦史をもう少し勉強しておくべきでしたわ。
どの兵装をどの集団に振り分ければよいかも分からず、とにかく指向可能な兵装を近い順に撃ちかける。
真っ先に接近して来たのは緩降下のグループで、四方八方から様々な高度で突入して来る。
副砲……は数が少な過ぎて効果的な迎撃は出来ず、高射砲、機関砲をメインに弾幕を展開。
幸運だったのは、この緩降下タイプは機関砲でしか攻撃を仕掛けて来なかったので被弾しても被害が無いことです。
しかも銃撃して来た敵機はこちらの機関砲によってほぼ全機が撃墜されている。
とは言え四方八方から銃撃され続けるのは非常に鬱陶しい。
ここでミサイルの近接信管の存在を思い出し、効果の低そうな機関砲以外の各砲の砲弾を近接信管式に変更。
そのおかげで艦の周囲が砲弾炸裂による黒煙に包まれ靄がかかる。
それに伴って劇的に撃墜率が向上し、緩降下集団は高射砲によって機関砲の射程外からほぼ撃退出来るようになりました。
大き過ぎて取り回しの悪い主砲はまだ距離のある後方と左右の敵機に振り分け、副砲や高射砲弾の炸裂で被弾しながらも突っ込んで来る敵機には機関砲を集中的に浴びせる。
問題はその間に中空と低空の敵機が距離を詰めて来ていることでしょう。
事ここに至り、緩降下グループが囮だったことに気が付きました。
銃撃担当の部隊が対空火器を引き付け、中高度と低高度から一斉に対艦ミサイルを発射して飽和攻撃を行う。
これが敵部隊の戦術なのでしょう。
そして、今頃気付いたところでもう手遅れ。
既に艦は複数の敵機に囲まれている。
特に中高度の集団が急速に接近。
降下角40度という急降下で艦に突っ込んで来る。
これは……ミサイル攻撃などではなく……!
「体当たり……!?」
まさか、そんな狂気じみた戦法を仕掛けて来るなんて!
慌てて取舵を切りながら高射砲と副砲を撃ちかける。
次々と被弾して炎や黒煙を引いて海面に突っ込む機体の間を縫って数機が高度600mまで接近、腹から何かを切り離した。
それが無誘導の爆弾だと認識した瞬間、息を呑んだ。
体当たりではなかった。
無誘導爆弾なんて一体何時の時代の代物なのか。
何故そんな遺物を持ち出しているのか。
そもそも敵は何者なのか。
種々の疑問は部屋を襲った鈍い衝撃で中断しました。
艦尾の何故かレールが備え付けられた甲板に1発、右舷の対空火器群に3発被弾。
派手に爆炎が上がり艦に衝撃が走りました。
甲板への被弾は弾き返したけれど、右舷の被弾で高射砲や機関砲が幾つか破壊されてしまう。
とは言え理力による修復で20秒もしない内に復帰して射撃を再開出来るけれど。
……今のわたくしでは生身で食らったら大怪我していただろうと思うと背筋に冷たいものが走る。
しかし、爆弾が降って来ると分かれば対処も冷静に行える。
接近する機には機関砲を浴びせ、投下される爆弾は左右に舵を切って回避する。
航宙艦とは比べるべくも無い鈍重な艦ではあるけれど、260mという小柄な艦体のおかげで思いの外スムーズな回避機動が可能だ。
5、6発程度であれば被弾してもこちらの修復能力が優るので問題も無い。
しかし、結果として7発被弾し高射砲や機関砲の幾つかが一時的に無力化されてしまいました。
「くっ!無誘導爆弾による急降下爆撃!なら低空の編隊は……!?」
のたうち回るように回避を続ける本艦に、這うように接近する低空の敵編隊。
高射砲を低空に向け発砲を始めるが、目の前で砲弾が炸裂しようと被弾して煙を吐こうと遮二無二突っ込んで来る。
低空……無誘導兵器……海上……魚雷!!
その考えに至り、再び背筋に悪寒が走る。
魚雷……特に航空機から投下されるものは現代では廃れた兵器ではありますが、300年前のものを模しているのなら使わない理由は無い。
今乗っているのは「フネ」なのです。
いくら堅固な艦艇であろうと船底に穴を開けられてしまっては沈むしかない。
今やこの艦は敵に対する唯一効果を発揮する武器。
全損から再生させられるか分からない以上容易に失う訳にはいかない。
低空からの雷撃機を迎撃すべくおよそ指向出来るあらゆる火器を発砲。
主砲でも海面を叩けば水柱で壁を作って敵機を阻むことが出来ます。
副砲と高射砲の炸裂弾によって海面近くは真っ黒に靄がかかり目視を……敵機が肉眼に頼っているならですが……困難にさせる。
何より僅かなスライド回避以外ほとんど直進しかしてこない雷撃機はこちらの薄い弾幕すら突破困難であり、次々に撃ち落とされていく。
更には機関砲も使用して敵機をズタズタに引き裂いていけば、ほとんどが魚雷投射以前に撃墜可能です。
それでも特に高射砲や機関砲の被害が大きく再生に時間が掛かった右舷側の敵機が距離700mにまで接近し次々と魚雷を投射して来た。
その数3本。
投下した3機と故障か被弾によって魚雷を投下出来なかった2機も退避する過程で機関砲で撃墜。
低空で接近して来た敵機はこれで文字通り全滅させました。
しかし、無誘導である魚雷は主が撃墜されたとしても機能を失うことはありません。
扇状に迫ってくる魚雷に対して面舵を切って回避を試みる。
当時の艦艇の回避方法が分からない以上とにかく当たらないように動くしかない。
魚雷同士の合間に艦を滑り込ませ、やり過ごそうと艦を操る。
その甲斐あってか2本は回避しましたが、右舷中央付近に1発命中。
ですが舷側に備わったバルジ部分のおかげで大きな被害は無さそうです。
空いた穴もすぐに再生可能であり、艦内に備わった排水機能で浸水も排除可能。
これなら今すぐ沈む心配はありませんわね。
敵機も攻撃を終えたことで三々五々離脱していく。
それを見届け、ようやく一息つく。
こんな古い戦い方を仕掛けて来るなんて完全に想定外。
想像以上に疲労してしまいました。
しかし、これで安堵することは出来ません。
距離を取ってこちらを観察していた機体もいたようなので、まだ安心は出来ないのです。
しかも、既に第2次攻撃隊と思われる編隊がこちらに向かいつつあるのがレーダーに捕捉されている。
60機程度ではあるものの、これで打ち止めとは限らない以上最大限の警戒が必要だ。
「ですがこれは……どうしたものでしょう」
先ほどの戦いを思い出しながら思わず呟く。
孤立無援かつ行先すら決まらないまま彷徨ってもいつか包囲されて撃沈されてしまう。
太陽の方向から方位こそ分かるものの、現在地が分からない以上どちらに向かえばいいか……陸地の位置すら不明。
幸いにも敵にミサイルやビーム兵器といった遠距離攻撃手段を確認出来ないので、距離があればある程度は余裕を持てる。
とにかく今は敵から離れると思われる方向に進み続けるしかないですね。
あれから20分程。
正直参ってしまいました。
後方から接近する60機程の編隊……これは先程と同じ母艦?基地?から発進したものでしょう。
それとは別に20機程の飛行体が左舷前方方向距離40km程度から出現しこちらに向かっています。
つまり、前後から挟まれたということ。
しかも前方のそれはかなり近いことになります。
退避しようにもあちらも300km/h近い速度で接近している為、接触まで8分しかないということになります。
以前のわたくしなら戦闘における8分は気の遠くなるような長い時間でしたが、今や貴重かつとても短い時間となってしまいました。
相手の方が遥かに高速である以上寧ろ前方の敵集団に突入撃破し、しかる後に後方の敵集団を迎撃する各個撃破を目指すべき。
そう判断して取舵を取って前進します。
焦れ続けること4分と少しが経過。
空に小さな黒点がポツポツと現れる。
前部に備えられた2基の主砲を空へと向ける。
今度は最初から近接信管式の炸裂弾頭……子弾が放出されそれが更に炸裂するタイプ……を装填している。
固まった20機程度なら主砲だけで全滅させるつもりで狙いを定めます。
しかし相手もそれくらいは想定済みなのでしょう、4機ずつの小隊に分かれ大きく分散して接近して来ます。
それでも出来る限り撃墜してやると意気込んでいる所でした。
先頭を進む機体がやけにフラフラとしている。
故障かと訝しんでいると、チカチカとコクピット辺りで何かが閃く。
最初は日の反射かと思いましたが、規則性を伴っていることに気付いて慌てて目を凝らす。
わ……分からない。
何を意味しているのかわたくしにはさっぱり理解出来ません。
それでも記憶を奥底まで浚っていくと、とうとう一つの回答を導き出す。
「モールス信号っ!!」
タキオン波による超光速通信が当たり前になった現代でこのような化石じみた通信手段を使われるとは。
過去の戦史を僅かにでも学んでいた自分を褒めたいくらいです。
「確かここに……!」
収納結界から趣味で購入したモールス解読用の教本を取り出し慌てて調べる。
「えーと…えーと……!わ……れ……」
われ にほん かいじょうじえいたい なり
きかん を しえん せんとす
ひつよう なりや
にほんかいじょう……海上自衛隊!?
自衛隊は知っている。
かつての日本の国防組織の名前です。
しかし200年程前、地球連邦設立と前後して日本国と共に解体された筈……。
混乱の極致に陥りながらも艦橋に設置されたライトで返答する。
ワレ キゲツインガクエン ショゾク ガーディアン ヒメノ ノイシュタット
ゲンジョウフメイ ナラビニ ショゾクフメイ ノ テッキ ニ シュウゲキ ヲ ウケツツアリ
シキュウ キュウエン ヲ コウ
すると相手も困惑したのか暫く返答が返って来ない。
もしここが200年以上前の地球だとするならば、吉月院学園も幻想衛士も存在しない。
そもそも艦艇が所属軍や艦名ではなく学校名や個人名を名乗れば困惑するのも当然でしょう。
それでも相手は返答を返してくれた。
わがたい これより きかん を えんご す
きかん は そのまま たいひ を つづけられたし
感謝する、と発光信号で返答。
これほど他者の支援をありがたく感じたことはありません。
灰色の塗装が施された20機の小さなプロペラ機が、今は信じられないほどに心強い。
後方からの敵機が接近して来ると、いち早く迎撃に向かって行く。
こちらは主砲による迎撃が出来なくなるが、それでも孤立無援より遥かに気持ちが軽い。
3倍以上の数である63機の敵編隊に上空から突っ込み、機関砲の射撃を始める友軍機達。
瞬く間に10機以上を撃墜すると、回避行動に移った敵機に2機ずつで食らい付き追い回し始める。
逃げ回るしか出来ない敵機達だが、やはり自衛隊機もミサイルを撃つ様子は無い。
自衛隊ならミサイルを装備していた時代の方が長い筈ですが、一体わたくしは何時の時代にタイムスリップしてしまったのでしょうか。
撃墜を免れた敵機は、我が艦に攻撃する余裕も無く爆弾や魚雷を投棄して這う這うの体で逃げ出して行く。
全くの被害無しで戦闘を終えたプロペラ機隊は編隊を組み直すと8機が残り、他は進行方向へと飛び去っていく。
40km先の母艦なり基地なりに帰投するのでしょう。
わたくしも上空の機体にエスコートされ、そこを目指して舵を切るのでした。