艦隊これくしょん ─態度と乳と乗艦がクソデカいタイプの転生者─ 作:物凄く強い美少女×戦艦はいい文明
わたくしがこの世界に来て……即ち高坂基地に保護されて約半月。
その間、政府や自衛隊からの連絡は無く、高坂基地は2度空襲を受け、わたくしは高坂基地の工廠責任者だという妖精の華 りう二尉指導の下大和型戦艦の試験に付き合う日々を過ごしておりました。
妖精……大人でも身長150cmに満たない小柄な体型の種族でささやかながら超常の力を扱うことの出来る方達。
元々この世界とは違う異世界に住んでいたのだけれど、深海棲艦の侵略を受けて地球まで逃げて来たのだと言う。
妖精の世界は地球と比べ争い事が少ない世界であり、妖精も超常の力を有するが故に機械文明をそれほど発達させていなかったこともあって深海棲艦にろくに対抗出来なかったとのこと。
恐らくその完全に制圧された異世界が策源地となっている為に深海棲艦は無尽蔵に戦力を投入出来るのだろう、とりうさんは仰っていました。
閑話休題─
わたくしをどの程度隠蔽せねばならないのか計りかねている小鳥遊一佐は、りうさんと川内さん、金剛さん他数名の幹部にのみわたくしの存在を開示し、他の方とは出来る限り顔も合わせないようにと慎重な態度。
おかげで少々窮屈な生活となっています。
ほんの時たま護衛付きで町に出られることもありましたが、近場の町はほとんどが爆撃で瓦礫と化しておりとてもショッピングや食べ歩きを楽しめるような環境にありません。
そんな宛がわれた自室と戦艦を行き来するだけの生活でもある程度は情報を仕入れることが出来ました。
まずはこの世界の常識。
艦娘向けの現代知識や一般常識を学べる冊子や現代の義務教育受講者向けの教科書を頂いて、時代間ギャップを埋めるべくこの時代の知識を学びました。
次いで高坂基地の場所。
日本は関東地方にある商業港を改造した艦娘用の軍港で、横須賀基地の補助をする立場にあるということ。
今はその機能の大半を失い、艦娘含めて自衛官もほとんどが引き抜かれて居なくなってしまっているそう。
他には簡単な世界情勢や深海棲艦識別表、後は金剛さんからこの基地のカレーは最近少し薄くなってお肉が入らなくなったことも教えて頂きました。
「……虚しいですわ」
わたくしの呟きは戦闘指揮所の空気に融け、りうさんを振り向かせる。
「そう言うなィ。隠れるのも軍人の立派なお仕事サ」
未だ高坂基地に留め置かれているわたくしと戦艦は、空襲の度に外洋へと避難している。
都度、空襲を受ける高坂基地を遠目で眺めるだけとなっています。
本日は艦を調査していたりうさん他数名の妖精や人間の自衛官を乗せたまま出港することと相成った訳です。
「何、我らが高坂基地には地上にゃもうなんも残っちゃいねぇからな。敵の爆弾を無駄にさせていると考えりゃいいのサ」
「そうかもしれませんけれど……」
わたくしは釈然としない気持ちのまま、遠くで燃える港を見詰めていました。
対空砲も迎撃機も居ないのをいいことにDB-2と呼称される6発爆撃機だけでなく護衛の単発機までもが低空に降りて機銃掃射を仕掛けている。
いっそ港に戻って対空戦闘をすべきではないかと思ったのですが、小鳥遊一佐はわたくしの戦闘参加を頑として認めていません。
曰く『正式に自衛隊所属ではないのに戦闘に参加させられない』『無意味に性能をひけらかす必要は無い』とのこと。
事実、今日に至るまで本艦は攻撃されることなく無事で済んでいる。
日本政府…ひいては自衛隊がわたくしをどう扱うのか分からない以上敵味方関係なく秘匿したいというのも理解は出来るのですが、それでも無力感は募るばかりです。
全天候バース。
雨天でも荷物の積み降ろし作業を円滑に行えるよう建設された停泊所。
わたくしの時代では見ることの無くなった施設ですが、かつて商業港であった高坂基地には幾つかの全天候バースが存在しています。
空襲対策に装甲化され艦船用掩体壕となったそこには2010年代の技術で復元された松型駆逐艦の「ひまわり」他数隻の哨戒艇が停泊し、空襲を凌いでいる。
わたくしの大和型戦艦ではサイズ的に入ることが出来ないので恩恵に与ることは出来ないが、高坂基地唯一の稼働通常戦力である「ひまわり」が無事なのはこの全天候バース改造掩体壕あってのこと。
炎と煙が燻る中、数少ない健在な施設としてその姿をわたくし達に見せている。
「おーおー、好き勝手してくれちまってよぅ」
入港する戦艦の甲板でりうさんが、空襲も終わり廃墟ぶりに磨きのかかった高坂基地の様を見ながらぼやく。
彼女の隣に立つ妖精技官もどこか投げやりな表情を浮かべている。
「まぁ仕方ありませんよ。空自も人口密集地守るのに手一杯でこんなオンボロ基地まで戦闘機飛ばしてくれませんし」
「東京にすら爆撃機が飛んでくる有り様だからなァ、そりゃぁそうだ」
りうさんと妖精の会話を聞きながら、わたくしは改めて周囲の様子を窺いました。
視界を遮るもののほとんどない広大な港湾施設の跡。
そこにはかつての活気を思わせるようなものは何も残っておらず、ただ焼け野原が広がっているのみ。
かつてはこの埠頭にも大小様々な船舶が停泊していたのでしょうが、今やその影も形も無い。
わたくしもボンヤリとそれを眺めていると、戦艦の機器を経由して通信が脳内へと送られて来た。
『こちら高坂基地司令部、小鳥遊だ。ノイシュタット君、聞こえるか?』
「はい、ノイシュタットです」
『すまないが入港したらすぐ提督執務室に来て欲しい。……君の待遇がある程度決まった』
「分かりました!すぐに向かいますわね!」
『……ああ』
「?」
弾む声のわたくしに反して今一歯切れの悪い雰囲気の返答に疑念を抱く。
入港作業を完了させりうさん達の退艦を見届けた後執務室へ。
「姫乃・ノイシュタット、入ります」
「……うん」
気落ちしている。
入室してまず気付いたのは小鳥遊一佐が目に見えて沈んだ顔をしていることでした。
「あ…あの、どうかなさいましたの?何か問題でも……」
「ん、ああ…いや。まずは座ってくれ」
そう言って小鳥遊一佐はソファを示す。
わたくしが腰を下すと、盛大に溜息を吐き出した。
「まずは……君に今後もこの基地に居てもらうことになった」
「……?それはどういう……」
「言葉通りの意味だよ。…………自衛隊は君の存在を信じてくれなかった。『そんな妄想を報告するなら解任も考慮する』と言われてしまったよ」
「……」
自嘲気味に口角を歪め、肩を竦める小鳥遊一佐。
分からない話ではない。
この世界の常識を考えればわたくしの存在は相当なイレギュラーであるでしょう。
そして、恐らくこの基地は自衛隊でも重要視されてはいない。
そこの将官ですらない司令官が訳の分からないことを言い出しても聞耳持ちたくないというのも逼迫した戦況故仕方のない部分もあるかもしれません。
確認の1つもしないで否定するのもどうかと思いますが。
「結果として政府にも話は上がらない。君は完全に宙に浮いた存在になってしまった訳だ」
「つまり、小鳥遊一佐が自由に扱える戦艦が1隻出来たという訳ですわね」
「……心配した自分がバカだったよ」
わたくしの返答を聞いた小鳥遊一佐は苦笑を浮かべる。
失礼な。
やれやれと頭を振りながら立ち上がると、小鳥遊一佐はわたくしに頭を下げる。
「こんな扱いですまないが、我々に力を貸して欲しい」
「勿論!全力をもって協力させて頂きますわ!」
「ありがとう。頼りにさせて貰うよ」
小鳥遊一佐は顔を上げると微笑む。
これからは共に戦う仲間ということですわね。
「それでは早速だが……」
高坂基地 ブリーフィングルーム
「本日より第12艦隊でお世話になる姫乃・H・ノイシュタットと申します。一尉待遇での扱いとなります。皆さん、乗艦共々よろしくお願いいたしますわ!」
「Wow!よろしくデース!」
小鳥遊一佐の紹介の後、その隣で挨拶。
顔見知りの金剛さんは諸手を挙げて歓迎してくれる。
川内さんも苦笑しながら小さく手を振る。
他に数人海上で見た顔と全くの初対面が数名、空席の方が圧倒的に多い長机側に1つずつ空間を空けて着席している。
第12艦隊に所属する艦娘の皆さんだそうだ。
「結局行き場所無かった訳か。ま、仕方ないね。これからよろしく」
川内さんが代表するように手を差し出し握手を求めて来る。
それに応じていると川内さんの背後から訝し気な視線を感じる。
「こっちのメンバー紹介するね。左から叢雲、響、早霜、最上。んで、瑞鶴」
皆会釈しながらもわたくしを窺うような疑うような何とも言えない視線を向けて来ている。
叢雲さんと響さん、瑞鶴さんは海上でも見ましたが、最上さんと早霜さんは全くの初対面です。
まあ、海上組もその場で対面した訳ではないのであちらは初めてわたくしの顔を見た訳ですが。
「改めて初めまして、早霜です。突然入港して来た大和型……あれが貴女の乗艦…ということでしょうか?」
「ええ、あれがわたくしの乗艦になりますわ」
「つまり、貴方は艦娘では…ない?」
「確かにわたくしは艦娘ではありませんわ。それでも深海棲艦とは十分戦うことが出来ます、期待していてくださいましね!」
オーッホッホッホ!と哄笑を上げながら胸を張る。
その様子に、他の方々も戸惑うようにざわめき出す。
「えっと……大丈夫なんですか?普通の女の子ってことでしょ?戦えるのかな?」
最上さんが不安気に小鳥遊一佐を見る。
わたくしはその問いに笑顔を返す。
「勿論ですわ!わたくし、それなりに経験もありますもの」
「随分自信家なのね」
叢雲さんが何とも言えない表情を浮かべる。
隣の響さんも若干不安視している顔だ。
「人型相手は分からないけど……まー防空火力は間違いないからそこは頼っていいんじゃないかな」
フォローを入れてくれる川内さん。
しかし、実際にわたくしの戦闘を観察したのは川内さん……の水上偵察機のみなのですから皆さんが訝しむのも当然でしょう。
「オホン」
小鳥遊一佐が咳払いをすると流石に皆口を噤んで姿勢を正す。
「よし。では姫乃君も座りたまえ」
「はい」
艦娘側の……ほとんど全て空席の長机側に座り小鳥遊一佐の側を見る。
顔を引き締め真面目な雰囲気の彼を見ると初対面の時を思い出した。
「では作戦説明を始める。諸君も知っての通り現在日本はほぼ完全に包囲されており補給すらままならなくなりつつある。主力の第1艦隊は敵主力の来寇を迎撃するのに手一杯であり航路啓開にはとても間に合わない。そこで、我が艦隊が制海権奪還を目指そうと思う」
そこまで説明されると響さんが手を上げた。
「大丈夫なのかい?そんなことをすれば越権行為と見做されるんじゃないかな?」
「まあ…そうなんだが……」
「越権行為に対する考えは特に無いのですか……」
早霜さんが呆れたように首を振る。
「いや、全く無い訳じゃないぞ。まずは既成事実を積み重ねる。元々近海の防衛と制海権の維持は高坂基地と第12艦隊の任務ではあるんだ。何より石油燃料が不要な姫乃君の大和型……あー、名前とかは決まっているか?」
「艦娘さんに倣って艦の方も「姫乃」でいいですわ」
「分かった。……戦艦「姫乃」が運用出来るのは大きい。まずは近海で姫乃君と「姫乃」の実戦訓練も兼ねて偵察、通商破壊を続けている深海の潜水艦、駆逐艦、小艦隊を撃破し続ける」
「そんなことしたら敵の機動部隊が飛んで来るじゃない。勝算はあるの?」
瑞鶴さんの疑問に頷く小鳥遊一佐。
そこで部屋が暗くなり、彼の背後のスクリーンに画像が映る。
「そこでコイツだ。桐川飛行場を巻き込む」
僅かに内陸部にある航空自衛隊の基地が画面内で示された。
「戦艦「姫乃」の防空火力で敵の攻撃隊を迎撃、瑞鶴の戦闘機隊でファイタースイープを行い敵の対空迎撃網を損耗させる。ついでに桐川基地に救援を頼む。流石に近海で友軍艦隊が敵機動部隊と戦闘していたら他部隊も動かざるを得ないだろう?」
「提督、ワルイ顔してマース」
金剛さんの率直な言葉に小鳥遊一佐も若干顔を顰める。
不快だから……という訳ではなさそうですが。
「策士の顔と言ってくれよ。とにかく、瑞鶴は戦闘機をメインで装備。水雷戦隊チームは対潜をメイン、金剛と最上は最悪砲戦にまでもつれ込んだ場合を想定した装備とする」
「そんなこと言っても選ぶ程の装備無いじゃないの」
「せめてソナーくらいは…いい物を配備して貰えるようにしてください」
叢雲さんと早霜さんの言葉に最上さんと響さんもウンウンと頷き、それを見て川内さんが苦笑する。
小鳥遊一佐は苦み走った表情を浮かべながらも特に言い返す様子は無い。
「それで、夜戦はありそう?」
一転ウキウキしながら質問する川内さん。
「無い。あっても退がれ」
対して小鳥遊一佐の返答はにべも無い。
言葉にはしないけれど不満そうな川内さん。
彼女、夜間戦闘に一家言あるのでしょうか。
「友軍の航空隊が最大限動き易いように戦場設定をする。利用する以上最低限の礼儀は弁えなければならない」
「はーい」
「細かい行動は随時修正していく。では、解散!」
小鳥遊一佐の言葉に全員で立ち上がり敬礼した。
「初めまして、私は「ひまわり」艦長の日吉といいます。階級は三佐ですが……まあこんな小さな部隊で上下を言っても始まるものも始まりません。最低限の上意下達が守られていれば私は何も言いませんので」
優し気な壮年男性……に見えて目の奥に鋭い光を見せる日吉三佐はそう言うとわたくしに握手を求めてきた。
「よろしくお願いします」
応じると手を離し、彼は後ろの艦を示す。
改松型駆逐艦「ひまわり」。
第二次世界大戦型の兵器であれば深海棲艦に対してダメージを与えられると知った日本は旧帝国海軍時代の艦艇を出来る限り現代技術で強化して再建造する復元艦という兵器を開発。
航空機や車両、銃器もこの理屈で再設計され今や各国の主力兵器となっているらしい。
残念ながら日本では重巡以上の大型艦を建造することはドックや工業力の関係から出来なかったけれど、駆逐艦や海防艦は多数建造することに成功し一定の戦果を上げているそうだ。
「ひまわり」もそんな中の1隻だという。
「もうお聞きとは思いますが、「ひまわり」は第12艦隊において艦娘母艦として運用されております。いくら艦娘さんが抜錨状態だと1週間は飲まず食わずの寝ずで活動出来るとは言え疲労は溜まりますからな」
抜錨とは艦娘の巨大化状態を指すのだと言う。
海上─海水ではなく海上─でのみ可能な艦娘の巨大化は多くの恩恵を彼女達に与える。
日吉三佐の言う寝食が不要になるのもその1つだそうだ。
とは言え、近海ならともかく遠洋での活動は1週間程度では終わらない場合があり、また補給や休息も必要となる。
補給が潤沢な部隊なら強襲揚陸艦─日本ではドック型輸送揚陸艦─を改設計した艦娘母艦専任艦が配備されているそうだけど、第12艦隊のような小規模部隊には復元駆逐艦を改造したものくらいしか配備されていないと言う。
「ひまわり」も艦尾部分がスロープ状になっていて、艦娘を2人まで同時に離発着させられるようになっている。
「なので「ひまわり」も決して沈んでいいフネではありませんのでね。駆逐艦だからと安く見ないでください」
「勿論ですわ!寧ろ、わたくしの艦を存分に頼って下さいまし」
「頼もしい限りですな」
そう言いながらも日吉三佐は決して信用している様子ではありませんでした。
何にせよ今後はわたくしや「姫乃」と共に戦っていくのです。
信頼関係を築いていかなくては。
「今回の作戦では主に対潜作戦で共同戦線を張りますんでね。まぁよろしくお願いしますよ」
「撃沈、ですわぁ!」
オイルと破片混じりの派手な水柱が吹き上がり、思わず歓声を上げる。
水中用タキオンレーダーには真っ二つに折れて沈んでいく棲艦の潜水艦が映っている。
始まる前の皆さんの不安を余所にわたくしは作戦開始2日目で最初の潜水艦を撃沈。
1週間程経ち既に戦果は7隻となっていた。
……寧ろ日本近海太平洋側の狭い範囲をうろついただけで7隻も潜水艦と遭遇するのは非常にマズい戦況なのではと思わなくもないですが。
いくら相手から寄って来るとは言え……いえ、日本近海を遊弋したら敵潜がウヨウヨ寄って来るのが既にヤバいのでしょうけれど。
しかし!
「姫乃」で扱える対潜砲弾……磁気信管を備えたマラカス状もしくは柄を細くしたバットのような形状の爆雷を8発内蔵した主砲弾……は射程40kmを有するので、索敵範囲20kmの水中用レーダーに目標が捉えられれば既に射程圏内。
敵潜が束になってかかって来ようと20km以内まで近付けば爆雷の雨を降らせられるということです。
このまま日本周辺の潜水艦を1隻残らず沈めてやりますわぁ!!
などと一人気合を入れていると、モニターが接近する艦娘の姿を拡大して映し出しました。
金剛さんが叢雲さんと響さんを連れて手を振っている。
どうやら至近に展開していた敵艦隊の撃退に成功したようです。
『Hey!コッチは片付けたヨ!響のお手柄デース!』
『……хорошо』
艦の集音機能で肉声を拾う。
無線封鎖下においても艦娘同士は「喋る」ことで意思疎通が可能な訳ですが、普通の艦との連絡に用いるのは本来なら難しい。
ですが、我が艦の音声スクリーニングと集音機能を持ってすればスムーズな意思疎通が可能。
こちらからは直接相手の脳内に艦の機器で出力を増幅した念話を送れば無線機を使わずに相互連絡が出来る。
勿論、電波式の通信を全くしなくていい訳ではないのでそこは適材適所になりますが。
ところで何故響さんは露語なのでしょうか?
「戦果は上々のようですわね」
『潜水艦が恐くないから存分に戦えるのは大きいネ。ヒメノ様々デス』
『ま……認めてあげなくもないわ』
金剛さんに続いて叢雲さんからもお褒めの言葉を戴く。
「オーッホッホッホ!当然ですわぁ!もっとわたくしを頼ってもいいんですのよ!」
『この調子乗りさえ無ければもう少し素直に褒める気にもなるんだけど……』
『モッチロン!頼りにしてマス!』
『雷を思い出すね』
三者三様の反応を貰った所で高坂基地に通信を入れる。
小鳥遊一佐には逐一報告を入れ定期的に艦隊の位置を暴露するよう指示されている。
敵味方に居場所を誇示し、両方を引き寄せる布石としています。
「こちら「姫乃」、敵潜及び敵艦隊を撃破。詳細は追って通信しますわ」
『了解、ご苦労だった。引き続き哨戒任務に当たってくれ』
「了解しました」
通信を切るとわたくしは軽く溜息を吐いた。
後方では3人の艦娘が縮小して「ひまわり」に帰還するのが見える。
今日は海面が比較的穏やかなので特に凪を作る必要は無い。
以前の第12艦隊は「ひまわり」だけで狭い範囲を囲って凪を作っていた為艦娘の回収は酷く不安定だったそう。
今は排水量6万tの「姫乃」が居るので多少の時化でも「ひまわり」の周囲を走って無理矢理凪を作ってしまえるから着艦が楽だと最上さんが仰っていました。
「……これは」
周囲を警戒していると、対空レーダーに反応が現れた。
IFFに反応は無い。
幸いなことに超常的な手段で搭載する艦娘艦載機を含めて二次大戦型航空機は全て2010年代の技術によって強化されている。
技官達の努力によって艦娘にもターボプロップエンジンや現代型電子機器を搭載した機体が搭載可能になっているという。
輸送機や陸上哨戒機等は現役装備をそのまま使えるけれど、艦娘用の艦上機や実際に敵と戦う戦闘機や爆撃機は二次大戦型の機体を使わざるを得ない。
人類妖精連合軍にとって強化型航空機は命綱とも言える技術です。
当然IFF……敵味方識別装置も巧妙化したものが搭載されている為、判別は容易となっています。
接近して来る機体は間違いなく深海棲艦側の機体。
これまでも硫黄島から進出して来る大型の哨戒機は時折探知していましたが、このサイズは艦載機ですわね。
「とうとう来ましたわね……!」
レーダー上に次々と現れる、等間隔に広く横隊で展開する敵機の輝点を見てわたくしは拳を握る。
同時に瑞鶴さんが零戦五二型を射出し敵機を迎撃する……フリを始めた。
敵機の第12艦隊発見をもって作戦は第二段階へと進むことになりました。
巨大戦艦と艦娘母艦駆逐艦、空母艦娘で編成された艦隊を発見した棲艦索敵機は「零戦に追われながらも命辛々退避に成功」。
これで敵艦隊は脇目も振らず遮二無二第12艦隊へと攻撃してくる。
当然大型空母数隻を含む艦隊の接近は自衛隊主力でも確認され、桐川航空基地所属のE-1B(P-1対潜哨戒機の早期警戒型)が敵艦隊を捕捉して警告を発し始めた。
これに呼応して桐川基地の空自部隊が臨戦態勢へ。
対して我々は退避……に見せ掛けて目立つ欺瞞航路を取って敵艦隊の誘引を開始。
こうして舞台は整いつつありました。
北上を開始した第12艦隊に敵大編隊が接近したのは索敵機退避後1時間もしない内。
「姫乃」のレーダーが188個のIFFに反応の無い飛行体が接近してくるのを捕捉しました。
『よーし、全艦対空戦闘用意!言うまでもないけど私達の対空火力は「姫乃」とは比べらんないくらいショボいから、姫乃ちゃんよろしくね』
「お気になさらず。全ての敵機をわたくしに押し付けるつもりで構いませんわ」
『ちょっと!戦闘機隊舐めないでよ!?1機たりとも艦隊上空には来させないんだから!』
旗艦である川内さんとわたくしの言葉に対抗心が刺激されたのか、瑞鶴さんが捲し立てる。
『はいはい、五航戦も頼りにしてるよ。ただ、無理はしないこと。航空隊はこの作戦で使い潰していい訳じゃないんだからさ』
『…分かってる』
とは言え冷静さは失っていないようだ。
事実、瑞鶴さんは最大84機の艦載機を搭載可能なのだそうですが、今作戦においては零戦五二型37機、彗星一二型7機、天山一二型11機、合計55機を搭載するのみとなっている。
それでも戦闘機は搔き集められるだけ集めたそうで、ここ最近だと最大の搭載数とのこと。
当然全ての戦闘機を出撃させても200機の敵機を相手にするのは不可能です。
艦娘艦載機の搭乗員は装備に憑依した妖精で母艦である艦娘が沈まない限り死ぬことは無いけれど、だからといって撃墜されてもいいという訳でもない。
そもそも航空機の生産そのものが滞りつつある中で40機も戦闘機を失う訳にもいかない。
『直掩隊は戦闘機を切り離すだけで艦爆、艦攻への攻撃は基本しない』
『おっけー。後は「姫乃」の対空砲火と……桐川基地が味方を見捨てないことを祈るしかないかな』
今頃小鳥遊一佐が慌てふためいたように演技して桐川基地に救援を要請している頃。
上手く行けば1時間もしない内に空自の部隊がやって来るだろう。
瑞鶴さんを中心として右翼前後に金剛さんとわたくし、左翼に同じく最上さんと「ひまわり」、先頭に早霜さん、その後ろに川内さん、瑞鶴さんの後方左右に叢雲さんと響さんの輪形陣を組む。
各艦の距離は1から1.5km程。
恐らくこれで一番目立つわたくし……「姫乃」に攻撃が集中する筈。
艦隊が対空戦闘に備える間、直掩隊は「姫乃」から無理矢理割り込んだデータリンクで敵編隊の位置を把握し続け迎撃に最適な位置へと展開。
エンジン出力に物を言わせて駆け上がった上空から、逆落としに敵編隊へと突入して行った。
「直掩隊戦闘を開始。敵機11機撃墜を確認」
『よし!』
初撃が成功したことを淡々と伝えると、瑞鶴さんがガッツポーズをするのが見えた。
しかし、敵はまだ68機の戦闘機を有しているようであっと言う間に乱戦に持ち込まれてしまう。
それでも瑞鶴戦闘機隊は粘り強く回避機動と格闘戦で敵機と渡り合っている。
性能が僅かに上回っているだけなのに2倍の数に対して互角以上に戦うことが出来るのは熟練パイロットによる連携のお陰か。
それからすぐ空に黒点が多数目視された。
『敵機視認!真っ直ぐ突っ込んで来マス!』
『あんなにバラけてたら三式弾は意味無いわね……』
4から8機の小集団に分かれた艦爆、艦攻が真っすぐこちらへ向かって来るのを見て叢雲さんが呟く。
確かに、艦娘の時限信管式対空主砲弾ではあれを撃墜するのは困難でしょう。
「姫乃」の主砲弾には電波式近接信管で炸裂、撒き散らされた子弾まで炸裂する強化三式弾とでも言うべき砲弾が具現出来るのですが、これも散開した敵機との相性は最悪です。
無闇に撃つよりも敵機を確実に高角砲の射程に誘い込んだ方が有利です。
そうこうしている内にまず突入してきたのは8機の戦闘機。
艦隊直上に戦闘機が残っている可能性を考慮していたと思われる部隊。
戦闘機が居ないので艦隊を撹乱して来ようと接近して来ました。
まずは目立つわたくしを目指して来ましたがわざと無視して接近させ、機銃の射程に引き込む。
敵機が悠々と近付いて来たところに25mm機銃を猛射すれば文字通り一瞬で全滅させられる。
『うわ、えげつないなぁ』
『невероятно……!』
最上さんと響さんがドン引きといった様子で声を漏らす。
叢雲さんも信じられないものを見る目でわたくしを見ています。
何だか失礼ですわ。
『敵機……雷撃機来ます……!』
『撃ちます!fire!』
わたくしの対空砲火を見ても怯まず接近して来たのはDA-1Cと呼称される機体。
低空から雷撃機が接近するのに対して艦隊先頭の早霜さんと川内さん、右翼の金剛さん、響さんが主砲の射撃を開始。
とは言え命中率は悲惨なものです。
あくまで敵機の撃墜ではなく進路妨害を目的としていると知っていても、時代の違いというものを感じざるを得ません。
「撃ち方始め……!」
続いてわたくしも対空射撃を開始する。
副砲と高角砲が次々に火を噴いて、空を切り裂く無数の砲弾が一直線に雷撃機の鼻先に送り込まれる。
金剛さんとわたくしに攻撃しようとしていたのでしょう、凪の海上を高度30mあるかないかで飛行する雷撃機は目の前で炸裂する砲弾によって次々と散華していきました。
「敵機アルファからエコーまで撃墜。続いてフォックストロットからジュリエットに対し射撃開始。指標再指定」
副砲各1基と高角砲を2基1組で3群に分け敵機を1機ずつ割り当てての射撃は効果覿面で海図上から次々と輝点が消えていく。
真正面からわたくしに突っ込んで来た16機は瞬く間に壊滅。
次いで金剛さんを狙った16機もわたくしの主砲及び副砲射撃で編隊を崩され滅茶苦茶な姿勢から明後日の方向に魚雷を投射するか退避するかしか出来ない。
本来この36機が金剛さんとわたくしに回避を強要するなり被雷させるなりして陣形を崩し瑞鶴さんへの進路を抉じ開ける筈だったのでしょう。
まさかろくに攻撃も出来ない内に22機が撃墜されるなど思ってもいなかったことでしょう。
残った37機の雷撃隊に僅かに陣形の乱れが見え、すぐに立ち直った7機がわたくしへの雷撃コースを取ります。
最も目立ち、最も脅威度の高い艦への攻撃。
それ自体は間違っていない。
ですが、そう易々と攻撃を受けるつもりは無い。
「墜ちなさい……!」
主砲によって目の前に水柱を突き立てられ3機が瞬く間に海没。
次いで高角砲によって接近してくる敵機を粉砕していく。
7機、次いで8機が続けて突入し、更に残る16機は編隊も何も無くてんでバラバラに攻撃して来れば高角砲だけでは流石に手が足りなくなってしまう。
勿論、機銃による弾幕射撃を展開すれば十分殲滅可能ですが。
副砲はこの間に上空を突破しようとする艦爆隊……32機のDB-1Cに対して射撃を開始。
既に艦隊各艦の対空砲火─特に「ひまわり」の射撃によってそれなりに被害が発生している艦爆隊ですが、わたくしの副砲によって被害が激増していく。
とうとう瑞鶴さんへの攻撃を諦め手近な目標……わたくし目掛けて急降下を開始する。
『流石に止めきれないか……!』
『姫乃さん!』
響さんと最上さんが上空を睨めば、視線の先には高角砲の弾幕を抜けた5機。
わたくし目掛けて投弾体勢に移る。
ですが、艦娘のそれと違ってわたくしの機銃の精度は完璧。
全機急降下から墜落へと飛び方を変えて差し上げますわぁ!
31基93門の25mm機銃と1基2門の13mm機銃が5機程度の敵機を一瞬で引き裂いていく。
この攻撃を最後に上空に敵機は無く、這う這うの体で退避する7機のDB-1Cと11機のDA-1Cが遠くに見えるだけだった。
『対空戦闘辞め!……いやぁ、こりゃ圧倒的だわ』
川内さんの感嘆したような気の抜けたような言葉が聞こえてくる。
こちらの被害は無しで109機中70機以上を1隻で撃墜。
確かに圧倒的でしょう。
ですが、わたくしの知る航宙戦闘艦が1隻居ればあの程度の敵機1機残らず叩き落せるのです。
わたくしにとってはわたくしの性能の限界を浮き彫りにする結果となりました。
とは言え作戦は継続中であり落ち込んでいる暇はありません。
瑞鶴さんが生き残った33機の零戦を収容し再出撃の準備をしている間に敵機の2波目が来るであろうことは確実視されているのですから。
戦闘機隊は68機の敵戦闘機と戦って21機を撃墜し4機の損失のみで済ませたのですから、大戦果と言っていいでしょう。
弾も燃料も使うだけ使っての戦果です、すぐに再出撃出来ないからと責めるのは酷と言うもの。
とは言え悪いことばかりではありません。
桐川基地から戦闘機隊が援護にやって来たのです。
『こちら桐川基地航空隊、コールサインサンダー1。そこの艦隊、聞こえるか?』
『こちら第12艦隊、旗艦川内だよ。よーく聞こえる』
『全く、この数で機動部隊とやり合おうなんて海の連中はなんでこう無茶ばっかなんだ。とにかく上空支援はしてやる』
『ありがとう!もしよかったら敵艦隊への攻撃も手伝ってよ』
『そいつはウチの上と相談するんだな』
洋上迷彩の四式戦二型 疾風改が23機、艦隊上空をフライパスしていく。
現在の空自主力戦闘機として配備される機体の1つで主に一撃離脱戦法で戦う機体と記憶している。
『ところで海自は何時の間に戦艦なんて建造したんだ?』
「こちら戦艦「姫乃」、艦長の姫乃です。以後お見知りおきを」
『なんだ?女の子?しかも同じ名前なんてまるで艦娘みたいだな』
「似たようなものと思って貰って結構ですわ」
『OKお嬢様、ここからは我々が空の守りを引き受けるが出来たら空母から戦闘機を上げてくれ。我々だけじゃ流石に荷が重いだろうからな』
『川内了解。空母の尻を叩いておくよ』
『頼んだぜ』
サンダー1がバンクを振ると艦隊から離れて行く。
E-1Bの指示に従い迎撃戦に向かうようです。
接近する敵機は153機。
第1波よりもそれなりに少ない数になります。
E-1Bが捕捉した敵艦隊は搭載数80から100機の人型ヲ級空母1、通常型ヲ級3、40から50機の通常型ヌ級空母2を基幹としているとのことなので、直掩機に割く戦闘機を考慮すればこの攻撃隊でほぼ稼働作戦機全てを出し切ったことになるでしょう。
これを撃破出来れば敵は機動部隊として手足を捥がれることになる。
その後は煮るなり焼くなりご自由に、ということになります。
『よし、瑞鶴!出来る限りちょっぱやで戦闘機隊準備しちゃって!』
『分かってるってば!やってるから急かさないで!』
やはり空母の数が足りないというのが正直なところです。
たった1隻では航空隊もオーバーワークが常態化してしまう。
とは言え如何ともし難いのも事実。
パイロットの妖精方にはもう少し踏ん張って頂くしかありません。
サンダー隊の奮戦により敵編隊が崩れ40機以上の敵戦闘機を引き剥がすことに成功した頃、瑞鶴さんは再び直掩隊の発進を開始しました。
放たれた矢が航空機に変わる光景は何度見ても奇妙なものです。
『頼んだわよ、皆!』
30機の零戦が再び編隊を組んで飛んで行く。
しかも今度は護衛戦闘機が大きく減った攻撃隊に、です。
残る敵戦闘機は12機。
反応から見て他はDB-1Cが66機、DA-1Cが31機。
つまり、戦闘機の数で上回ったことになります。
棲艦側からしたら1次攻撃で空母を黙らせている筈なのだからこれで十分としたのでしょう。
事実、桐川基地の支援だけだったならばこの攻撃隊が丸々艦隊に突入して来れるのですから。
まさか艦隊に全くダメージを与えられないとは完全に想定外でしょう。
戦況が優位なのもあって零戦隊の士気も高く、勇んで敵編隊の上方を占位し攻撃を開始。
瞬く間にDA-1Cを撃滅すると、数の多い艦爆隊へと襲い掛かりました。
鈍重な機体を操りどうにか回避しようと飛び回るDB-1Cを次々と撃墜していく零戦隊。
それでも60機以上の艦爆を全滅とはいかない。
『流石に数が多すぎる……!』
『瑞鶴!無理させないで!まだ艦隊攻撃が残ってるんだから!』
『そう言う訳にもいかないでしょ!あと20機くらいは墜としてみせるわ!』
とは言え限界は限界。
27機のDB-1Cと無傷のDA-1Cが艦隊上空へと到達。
それなりの数が残ってはいるものの、39機も艦爆を撃墜したのだからやはり零戦隊の大戦果。
これ以上の追撃は不可能と判断した零戦隊はサンダー隊支援へと向い、後は我々の対空火器の番となります。
『頼りにしてるわよ、姫乃』
「お任せを!……と言いたいところですが、流石に今度は敵機もわたくしを避けると思われます。瑞鶴さんは特にご注意なさいませ」
『!…そうね。よし、やってやるわ!』
とは言えわたくしの上空をのうのうと突破させる気もありませんが。
今度は艦爆隊が先に攻撃を仕掛けるらしく艦隊上空を突破しようと突進して来るが、それに対して副砲と高角砲で阻止を図る。
再びわたくしの正確無比な対空射撃が猛威を振るい、艦爆隊は瑞鶴さん上空に達する前にほぼ壊滅してしまった。
100機単位の同時多方向飽和攻撃でもない限りわたくしの上空は突破させませんわ!
同時に低空から突破を図る雷撃隊には主砲によって作り出される水柱で着実に1機ずつ仕留めていく。
流石に敵機も第1波と同じ愚を犯す気は無いらしく、31機中半数の16機を艦隊左翼に振り分けています。
いくらわたくしの対空砲が優秀とは言えゾーンディフェンスは出来ない。
そちらは最上さんと「ひまわり」、叢雲さんに任せるしかありません。
当然、右翼から突入を目指す敵機は通すつもりありませんが。
金剛さんとわたくしの艦列を突破しようとした15機は文字通り全滅。
金剛さんも3機撃墜したのでわたくしは12機撃墜したことになります。
が、この間に左翼側から雷撃機が突入を開始。
「ひまわり」の対空火器は12.7cm連装高角砲2基、25mm3連装機銃4基、20mm単装機銃8基。
全て自動化、レーダー連動に改装され25mm機銃はCIWS化されているとは言え、16機全てを撃墜出来るほどの弾幕は展開出来ません。
それでも「ひまわり」の奮戦著しく、最初の小隊4機を全滅させました。
最上さんも2機のDA-1Cの撃墜に成功。
突破した2機のDA-1Cは瑞鶴さんへと接近し魚雷を投下するもこれは容易に回避に成功。
次いで突入した8機の内「ひまわり」が3機撃墜。
4機と1機の2編隊が瑞鶴さんに迫りますが、最上さんの上空を突破した機体の内2機は被弾により魚雷の投下に失敗。
もう1機は瑞鶴さんの対空砲を真正面から浴びて撃墜されました。
最終的に2本しか投雷されなかった為、人型故に高い機動力を誇る瑞鶴さんには全く命中しません。
つまり第12艦隊は300機を超える敵に攻撃されながら1発の被弾も無く切り抜けることに成功したのです。
『片側から攻撃が無いのは楽チンね』
退避する敵機を見送りながら瑞鶴さんがそう漏らしました。
1時間後。
第12艦隊は敵機動部隊に向け接近する航路を取っていました。
現在判明している敵艦隊の陣容はヲ級空母と思われる人型艦1、ル級戦艦と思われる人型艦1、リ級重巡と思われる人型艦1、ヲ級空母3、ヌ級空母2、戦艦クラス1、重巡クラス3、軽巡クラス3、駆逐艦クラス24とされている。
こちらが空母1、戦艦2、重巡1、軽巡1、駆逐艦3であることを考えると、5倍近い数の差があることになります。
何でもこれくらいなら深海棲艦の中規模艦隊だそう。
正面から戦えば特に充実している水雷戦隊によって揉み潰されてしまうでしょう。
そのままならば。
既に補給を終えた瑞鶴戦闘機隊24機が敵艦隊に向けて進出しており、それを追うように桐川基地の戦闘機隊オメガ隊の疾風38機が進撃しています。
これに加えて伊号一型丁対艦誘導弾……通称一一号丁対艦ミサイルを搭載した四式重爆撃機二型 飛龍改16機に護衛のサンダー隊を随伴させた桐川基地攻撃隊が出撃している。
敵艦隊上空の直掩機は43機。
この戦場において戦闘機の数は完全に我が方有利となりました。
敵の攻撃機をほぼ全て撃墜したからこその戦闘機全力出撃。
零戦隊はこれまでの鬱憤を晴らすかのように次々と敵機を撃墜していきます。
その光景をレーダー上に見ながら瑞鶴さんの発艦作業を護衛する。
瑞鶴さんの搭載する攻撃機は艦爆7、艦攻11と決して多くは無い数ですが、今出撃させれば対艦ミサイルによる攻撃を食らった敵艦隊を襲うことが出来ます。
戦闘機の無い艦隊ならば桐川基地航空隊による反復攻撃で幾らでも料理出来るのですからここで空母を叩かない理由は無いでしょう。
『発艦開始!』
艦爆へと変化する矢を弓に番え、次々と放つ瑞鶴さん。
戦闘は佳境を迎えつつありました。
伊号一型丁対艦誘導弾
名称こそイ号一型誘導弾系列のそれを継いでいるが、実態はケ号自動吸着弾の改設計型空対地/空対艦ミサイル。
形状こそケ号爆弾とほぼ同一だがロケットによる推進能力を持ち、遠距離からの攻撃が可能。
原始的ながらファイア・アンド・フォーゲット能力を有する。
とは言え現代対艦ミサイルと違い回避機動は取れず妨害に対しても非常に脆弱であり、また第2撃以降は火災を起こした艦に誘引されやすく同時複数への効果的な攻撃は難しい。
また深海棲艦の人型艦には全く無効。
しかしながら深海棲艦の主力高射砲の射程外から攻撃可能かつ通常の艦船型に対しては非常に有効であり、特に小型艦の駆逐や大型艦の対空火器破壊任務に投入される。
射程12000m、速度600km/h。
弾頭は720Kg。
運用機は主に一式陸攻もしくは飛龍。