魔王が娘で俺オカン、せめてオトンと呼んでくれ   作:幻月さくや

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夜間は雲が出てきます。何とかするさ

 それなりに片づけたミスティの執務室。

 適当な夏用の薄着を着た俺の前にはワンピースを着こなした先生がどこからともなく取り出した紅茶がはいったティーカップを傾けていた。

 俺は複数の情報が表示された魔導装置の表示を開いたまま先生に話しかける。

 

「いや、マジで悪いな先生。とりあえず今日の買い取り分はこんな感じで」

 

 俺が収納から出した鶏肉や燻製肉を一瞥してから自分の収納内にしまった先生は長く伸びたダークグレイの髪をさらりと揺らして赤い目で俺を軽く睨みつけてきた。

 気が付くとカップはいつの間にか消えていた。

 まぁこの人の場合はモノの移動は結構自由だからな、今更だ。

 

「君は僕のことをなんだと思ってるんだい」

 

 何って言われてもなぁ。

 俺よりは高いが明らかに低くなってる身長に相応に出てる胸と腰、ワンピースが似合うお嬢様風の先生を見ながら俺はこういった。

 

「中身男なのにな、先生」

「君には言われたくないよ。ハニーの食い付きが全然違うからこの姿をとってるだけだからね」

 

 そういう先生が少しだけ拗ねた表情を見せたのを見て俺は自然と苦笑するしかなかった。

 

「付き合いのいいとこは変わらねーけど他は変わったな、先生も」

「そうかい?」

 

 首を傾げたワンピースのお嬢さんに俺は頷く。

 

「付き合いはいいけど一定以上深く踏み込ませないのがあんただったからな。相手の趣味に合わせて化身するってのは丸くなったと思うぜ」

「そういう君も変わったじゃないか」

「そうか?」

「君が結婚したのもだけど子持ちになるとはね」

 

 子持ちというより死んだ親友のペット押し付けられた気分なんだが。

 

「結婚したって言っても書面の上だけだし双子だって元からの知り合いだしなぁ」

 

 俺がそういって頭をかくと先生はふわりと笑いながら近くにあった椅子に座った。

 

「それでそろそろ本題に入ろうか」

「だな」

 

 毎晩の取引を終えた後で俺は表情を引き締めると先生の目に視線を合わせて向き合った。

 

「先生、今日の報告だ。パスカル、先生に検証データを渡してくれ」

『了解しました』

 

 パスカルのランプの点滅と共に先生が一瞬目を閉じた。

 

「改善は見込める、けれどその速度は変わらずか」

「そうだな」

 

 部屋に沈黙が流れた。

 気取られないように視線の端だけを廊下に向ける。

 さて、この先どうすっかだよな。

 

「パスカル、今日もかわらずか」

『はい』

 

 そりゃ気にもなるよな。

 俺たちが気が付いてるってことは先生も気が付いてるだろうな。

 前打ち合わせなしだがこの人なら合わせてくれるだろう。

 よし、やるか。

 

「ヒドラフォッグ、赤龍機構(せきりゅうきこう)ではどう考えている?」

「大変遺憾(いかん)に思っているよ」

 

 超事務的だな。

 

「そうか。ところでこれに見覚えは?」

 

 俺が収納からあるものを取り出すと先生は目を細めた。

 それはまるで圧力容器のような丸みを帯びた上下の金属部に上にだけ付けられた圧力計のような表示器、そして中心部分は透明なガラスのような円筒状の筒になっており上下の金属部分を四本の金属柱がつないでいた。

 その円筒状の筒の中には完全な球の姿をしたヒドラフォッグの分体の姿があった。

 円柱中心にも一本縦に通すようにパイプのようなものがありヒドラフォッグを貫いて上下部とつながっている。

 

「それはどこにあったんだい?」

 

 ごく自然なしぐさで口に手を寄せた先生。

 

「それ、シャルマーのおっさんがわざと見せてる悪癖だぞ。長く一緒にいすぎてうつったんじゃないか、先生」

 

 俺がそういうと先生にしては珍しい照れ笑いを見せた。

 

「そうかもしれないね」

 

 先生が次に動く前に俺は取り出したものを再び収納内にしまった。

 まぁ、先生が本気出したら収納の中からとか出せるのはわかってるんだが一応建前があるからな。

 赤龍機構の上位のメンツが自分たちが決めたルールを破るのは本当にやばい時だけだと俺は思ってる。

 

「さっきの奴はこの部屋のガラクタに埋もれてた」

 

 俺がそういうと先生は額に手を当てて頭を振った。

 

「あの子らしいといえばらしい」

 

 まぁ、普通あんなやばそうなものを執務室のガラクタの下に転がしてるとは思わねーよな。

 

「先生、頼みがあるんだが」

「なんだい?」

 

 少し首を傾げたワンピースの少女。

 

「ラルカンシェルの都市としての封印指定外せないか」

「それは厳しいかな」

 

 そういうと思ったよ。

 俺はギルド所属員のリストを見ながら、ミラが送ってきた画像を開いた。

 画像そのものには意味はないが、ちょっとした画像なら送れるという事実の確認だ。

 その状態で再度先生にお願いする。

 

「そこをなんとか頼む」

 

 俺がそういうと先生は少しの沈黙の後で肩をすくめた。

 

「仕方がない。僕の権限で許可しよう」

 

 渋々認めてくれた先生に俺は頭を下げた。

 

「ありがとう、先生。わるいな」

 

 本気になれば俺の権限の封鎖もできるんだが、こういうとこは律儀というか融通が利かないというか。

 俺としては信頼ができるとこでもあるけどな。

 

「君たちが無茶を言うのは今更だからね」

 

 シャルマーのおっさんやソータさんと同じ扱いかよ。

 俺が内心ぼやいていると開いていたラルカンシェルの都市情報が表示された表示板から封印指定の文字が消えた。

 

「さて先生、お願いついでにもう一つ質問がある」

「なんだい」

「赤龍機構はヒドラフォッグをどうするつもりだ?」

 

 前のギルマスのミスティの部屋に転がっていたやばそうな魔導機(まどうき)

 俺とあった最後の時にミスティが教えてくれた対宇宙怪獣用の魔導式の話。

 まるでなかったことにするかのように封印され放置されたままだったこのラルカンシェル。

 

「実に遺憾(いかん)だね」

 

 少しだけイラっとしたがこの人の立場じゃこれしか言えねーしな。

 そして俺はこの状況を利用する。

 

「王機でヒドラフォッグを都市や魔窟もろとも消し去るって意見は当然出てるよな」

「でてるね」

 

 不死(ふし)超越(ちょうえつ)、クラウドには嘘がつけないという縛りがある。

 だから嘘はつけない。

 答えないという返答をすることは多いんだが今回は空気を読んでくれたみてーだな。

 

「答えてくれ。早ければいつだ」

 

 この質問には条件が抜けてるんだが先生がそこをスルーしてくれるかどうか。

 

「明日だよ」

 

 廊下でガタリという音がした。

 そのまま足音が遠くに消えるのを待ってから俺は先生に続けて聞いた。

 

「それで、遅いときは千年後とかなんだよな」

「よくわかってるじゃないか」

 

 これでも冒険者も長いからな。

 冒険者ギルドを運営する赤龍機構に日本的な先送りが多いのは嫌って程見てきている。

 

「あの子、どうするんだい」

 

 再びどこからともなく取り出したティーカップを傾けた先生に俺はこういった。

 

「何とかするさ、あいつと約束したからな」

 

 俺がそういうと先生が肩をすくめた。

 

「愛は人を変えるっていうけど変わりすぎじゃないかい、君は」

 

 ワンピース着たお嬢さんになったあんたには言われたくねーよ。

 

「好きでやってるだけだっての」

「君、アルバートの悪いとこがうつったね。未練と執着は違うし冒険は無謀とも違う」

 

 久々の先生モードか、こりゃシャルマーのおっさんの方でもなんかあったな。

 

「勝算はある。ただ、全チップ乗せるしかねーだけだ」

 

 サニーを助けるならな。

 俺は部屋の隅でずっと黙っていたレインと目を合わせた。

 

「レイン、お前ものるか?」

「んっ」

『アキラ、バッドエンド予報です。暴風と鶏。ラッキーアイテムは水色の弾丸です』

 

 そうか、なら条件は満たした。

 今の俺には娘がいるからな。

 

「引く気はないんだね」

「わかってんだろ、先生」

 

 深くため息をついた先生は俺にこう言った。

 

「他の説得は僕が何とかしよう。現場は君が何とかしなよ」

 

 悪いな、言わせちまって。

 

「ああ、まかせろ」

 

 細かいとこは成り行き任せだが何とかなるだろ。

 俺がそんなことを考えてると先生がぽつりとつぶやいた。

 

「それにしても娘か。それも悪くないね」

 

 おい、ちょっとまて。

 

「先生、それってどういう……」

「君が生き残れたら続きを話そうか」

 

 そういいながら先生は部屋の隅の影に同化し消えた。

 

「気になんだろうが」

 

 俺がそうぼやくと襟首のあたりから出てきたチューティアがチュチュっと鳴いた。

 

『今のはどちらのフラグですか』

 

 死亡、生存、いや違うな。

 

「小姑じゃねーか? マジで俺もわかんねーよ」

 

 左右から変な圧かけんのやめろよ。

 

「それと鼠と銃相手に子供作る気はねーからな、言わせんな」

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