魔王が娘で俺オカン、せめてオトンと呼んでくれ   作:幻月さくや

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激しい雨だったそうです。選ばせてやるよ、死ぬか、結婚するか

 俺が扉を開くと部屋の中で蓬莱人(ほうらいじん)の作った宝貝(パオペエ)を分解していたソータさんと目が合った。

 赤いフレームの眼鏡の下からソータさんの不機嫌そうな瞳が俺を睨みつける。

 テーブルの上に置かれたソータさんの相棒、なっちゃんが入った魔導機が点滅する。

 

『怪我をしているじゃないですか』

 

 なっちゃんの心配する声が耳に届いたが、それに反応している余裕はなかった。

 外では豪雨が降り注ぐ中、俺は手に握りしめたものをソータさんたちに向けて突き出す。

 

「ソータさん、あったぞ」

 

 凄惨な大怪獣(レビィアタン)との戦争の跡地でヘドロと海水、そして文字通り砕かれた数多のモノたちの残骸の中から拾い出してきた一枚の冒険者カード。

 

「くせーな。とりあえず脱げ」

『ソータさん、もう少しいいようってものが』

 

 俺はお色直しを使って全部の衣装を外し全裸になった。

 叩きつける激しい雨と風がむき出しの肌に当たる。

 手に持ったものを探すために残骸が混じる海岸をさらったのもあって全身に傷もあったが、そんなことはどうでもよかった。

 

「これでいいか?」

『女の子なんですからもう少し恥じらった方がいいですよ』

「わるい」

 

 あいつが怪獣戦で死んでから七十時間近くが経っていた。

 

「けどな、時間がねーんだよ、言わせんな」

 

 俺が入口に立ち尽くしているとソータさんが自分が着ていた上着をかけてきた。

 

「入れ、雨が部屋に入る」

「わかった」

 

 俺が部屋に入るとソータさんは机の上のなっちゃんが入った魔導機を手に取り身に着けた。

 それは剣と魔法の異世界(アスティリア)には不釣り合いな腕に装着するタイプのキーボードが付いた魔導演算装置。

 ソータさんは地下に続く扉に手をかけてからぎろりとした視線を俺に向けてきた。

 

「一度手を出したら戻れねえぞ」

「知ってる」

 

 時間が迫る中、ワザとなのか諦めさせようとしているのかソータさんの相棒のなっちゃんの声も装置から聞こえる。

 

『あなたが行おうとしていることは親友の魂を悪魔に売る行為です。本当に良いのですか?』

 

 なっちゃんの言葉に少しだけ緊張が解けた俺は口元に皮肉な笑みが出ることを抑えられなかった。

 

「それ、ソータさんのこと悪魔だって言ってるようなもんだぞ」

『実際そういわれてますから』

 

 睡眠が明らかに足りてないくまの目立つソータさんが俺を睨みつけながら再び口を開く。

 

「お前は悪魔と契約する覚悟はできてるか」

 

 俺はこう答えた。

 

「できてるよ、言わせんな」

 

     *

 

 その地下は異常な空間だった。

 ソータさんが各地からかき集めた古代遺跡から抜いてきた謎の部品群が点滅し、中心にはどこから持ち込んだのか自動演奏機能が付いていると思われるパイプオルガンもどきが時報のような、心音のような音をリズミカルに鳴らしていた。

 

『ソータさん、起動許可を』

「おう。やれ」

『ImpersonateSGM、起動』

 

 なっちゃんの言葉と同時にまるで古代遺跡のような、それでいて狂科学者のラボのような、そんな両方の雰囲気をたたえた機器だらけの地下室が一斉に点滅を始めた。

 同時にパイプオルガンもどきの楽器が音楽を鳴らし始める。

 その機構の奥の方には三つの透明な円柱の柱が存在し奥の柱の中にはソータさんが俺のために作り上げてくれた新しい神銃(しんじゅう)とファイアーラットが既にセットされていた。

 

「時間がない、よこせ」

 

 手を出したソータさんに俺はアイツの冒険者カードを手渡した。

 

「確かにMPが回収されてるな。レビィアタンにかなり食われたみたいだがこれならいけるか」

 

 冒険者カードには使用者が死去した時にカードの端の三角の部分、通称死亡確認タグにMPを回収する機能が付いている。

 MP(ムーンピース)、それは肉体の持つ命とは別なもう一つの魂、ティリアから分魂されたこの世界の住民としての魂そのものだ。

 ソータさんはアイツの冒険者カードの端の死亡確認タグをパキリと割ると無造作に手前右側の円柱に空いている穴の中に放り込んだ。

 

『対象把握しました。ミスティア・サルガタナス・メイザーのゴーストを掌握。時間が足りませんので先行で分解開始します』

 

 タグが入ると同時に空いていた穴が自動で閉じる。

 

『アキラ、不足分のMPは貴方が出すということでよいのですね』

「ああ、どーせドサンコは半分星神(ほしがみ)だからな。それにあいつに関する記憶なら嫌って程ある。もってけ」

 

 俺はソータさんがかけてくれた上着を適当に脱ぐ。

 手前左側の円柱の中に入ろうと視線を向けるとそこには俺のために用意したのか木製の階段が設置されていた。

 

「あんた、こういう気遣いをもうちょっと他に見せればもてると思うぞ」

「うるせぇ、さっさと入れ」

 

 円柱に入るとすぐに入口が閉まり中に液体が満たされる。

 

『アキラのゴーストを掌握』

 

 特撮お約束の息が出来る上に声も出せる液体から俺はソータさんに話しかけた。

 

「そのなんだ。わりーな、ソータさん」

 

 ソータさんはため息をひとつつくと俺にこう答える。

 

「俺は実験ができればそれでいい」

 

 会話が切れた俺たちの代わりになっちゃんの声が響いた。

 

王機(おうき)メビウスイーグルのハッキングに成功しました。ゴーストを大霊界(エーリュシオン)経由でデータ化します』

 

 俺は奥のシリンダーの中に眠る小さな赤いネズミにも小さく詫びる。

 悪いな、巻き込んじまって。

 

『主転移先は神銃(しんじゅう)パスカル。対応する封印解除用のキーをファイアーラットに挿入します』

 

 ゆっくりと沈んでいく意識の中、響き渡る音楽の中なっちゃんの声が聞こえてきた。

 

『これよりゴーストの再生を開始します。それではよい夢を』

 

 悪夢しかみなさそーだがな。

 

     *

 

『おかえりなさい、アキラ』

 

 耳に入ったパスカルの声。

 悪夢の先、じゃなさそーだな。

 痛む全身を押さえつけつつ起き上がるとそこには丸く展開されたエアロシールドと次々と爆発していく黒いこっこちゃんの姿があった。

 

「いって。悪い、何分落ちてた?」

『二分四十秒です』

 

 結構落ちてたな。

 

『いい夢は見られましたか』

「悪夢だったよ」

 

 お前との始まりだけどな、パスカル。

 

『アキラ、バッドエンド予報です』

「今かよ。俺が死ぬってか」

『いいえ。あの子たちのどちらかが死にます。確度八十パーセント、バッドエンドです』

 

 だろうな。

 少なくともサニーはウィンディが来てからこの方、消耗が蓄積を上回っている。

 だから今回の賭けに出たんだが。

 

「サニーの奴、ホント頑固なのな。誰に似たんだろうな」

『双子を(つく)る際のサンプリングに協力したミラージュでしょう』

 

 しれっと弟子のせいにしたな、この馬鹿師匠(ミスティ)の燃え残しは。

 

「半端に手加減した俺も悪かった。こい、チューティアっ!」

 

 俺の声に反応したチューティアがチュチュっと鳴きながら神銃から外に出る。

 俺はチューティアを手に持つと同時にお色直しを行い白いレオタード姿になった。

 掴んでいた手元を開くとチューティアが掻き消え一発の銃弾が残されていた。

 カシュっという音を立て開いたパスカルの横部分に銃弾を込めて閉じる。

 

『認証確認、封印解除』

 

 パスカル全体が激しく明滅する。

 そのまま銃を頭上に掲げ、引き金を引くと同時に宣言をする。

 

「変身」

 

 ソータさんの趣味で言わないと動作しないキーワードと共に発射された銃弾が頭上で分散し光となって俺に降り注ぐ。

 エアロシールドが解除されると同時にドサンコの能力であるお色直しがパスカルによって強制的に動かされフリルの多い白い服が俺を包み込んだ。

 白い衣装の上に部位ごとのアーマーが装着されていき、胸元を抑える防具の上には赤龍機構(せきりゅうきこう)の紋章である赤龍紋(せきりゅうもん)がついていた。

 

『純白の花嫁衣裳』

 

 変身完了時の無敵状態を利用して降ってきていた黒いこっこちゃんを一掃する。

 

「なにそれっ!?」

「えっ、可愛いんですけどっ!」

 

 なぜか歓声を上げた二人に俺はこういった。

 

「お色直しって言えば結婚披露宴に決まってんだろうが、言わせんな」

 

 星神と怪獣の共生関係を結婚って言い出したのって誰なんだろうな。

 かつて神と怪は同根だった。

 古代怪獣とも呼ばれる星と獣の融合体を赤龍機構(せきりゅうきこう)では星獣(せいじゅう)と呼ぶ。

 お前らも参列させてやるよ、この道に。

 

「選ばせてやるよ、死ぬか、結婚するか」

「「えっ!?」」

 

 共生関係さえ成立すれば星神側の摩耗が止まる。

 そうでなけりゃサニーはウィンディの寿命が切れるよりずっと早く消える。

 あいつのやらかしを考えるとそう長くはないだろうな。

 

「死にたくなけりゃお前らもこれを着て俺を超えろ。それからな、お前ら……」

 

 こいつだけは荒療治が過ぎるから、やりたくなかったんだがな。

 

「これから勇者検定をする。お前らには怪獣と戦ってもらう」

 

 俺がそういうとウィンディが青い顔をさらに青くした。

 

「いや無理、無理ですっ! 死ぬってっ!」

「だから死ぬかって聞いただろうが」

「あの、アキラちゃん」

 

 その隣で少しひきつった笑いを浮かべたサニーが恐る恐るといった感じで聞いてきた。

 

「なんだ」

「相手の怪獣は?」

 

 一呼吸吸った後で俺はこう答えた。

 

「俺」

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