魔王が娘で俺オカン、せめてオトンと呼んでくれ   作:幻月さくや

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本日は快晴でこっこちゃんが多くみられます。ギルドマスターとして戦略的一時撤退を許可する

 暗闇にぼんやりと光るアウローラが杖を斜めに構えたのを見ながら俺も銃口を再度向けなおす。

 

「今回も先行はくれてやるよ」

 

 ターン制といっても結構いい加減なんだけどな。

 試験を受ける奴が不意打ちしかけてきてもそれはそれだし、攻撃受ける側が反撃と称して攻撃しまくるのも可だ。

 さて、あいつらはどう出てくるか。

 赤い髪をさらりと揺らしたアウローラ。

 

「おはよっ、おはよっ、おはよ~、朝のあ、い、さ、つ~」

 

 杖を前に出しながら軽快な調子で朗々と唄い始めた。

 

「なにっ!?」

 

 暗かった夜空にアウローラの歌に呼応する形で空一面にオーロラが出現する。

 エンシェントマジック、しかもソングマジックだと?

 ティリアの領域だぞ、それは。

 レインが使えるのは知ってたがお前も使えるのかよ。

 

「みんな、おなじ、朝の~、幸せな光~」

 

 全身からの光がさらに増したアウローラはアホ丸出しの童謡を歌いながらそのまますすーっと空へと登りはじめた。

 

「飛ぶのかよっ! つーか鶏はそんな風には飛ばねーよっ!?」

『あれはどちらかというと吊っているのでは』

 

 何につってるんだよ、オーロラか!?

 本来なら先手必勝で攻撃行動に移る前に撃ち落とすのがセオリーなんだが、建前上あいつらに先手を譲った手前攻撃が始まるのを待たざるを得ない。

 

「歌のおねーさんじゃねーなアレは。どっちかというと昔、年末の歌唱番組で飛んでた奴だ」

『テラの文化は奥が深いですね』

 

 深いのは闇な気もするけどなっ!

 

『アキラ、半径二十キロ四方がアウローラの支配地域になりました』

 

 そうこうしているうちに空高い位置にぴたりと止まったアウローラが燦然と輝いた。

 

「昼に、なれば、みんなー、元気いっぱい~」

 

 ドンッ!

 

 腹の底に響く衝撃が周囲を駆け抜け一瞬だけ視界が消えた。

 次の瞬間、俺たちの視界に広がっていたのは燦々(さんさん)と輝く太陽と青い空に輝くオーロラ、それ以外はいつもと変わらない昼間の平野だった。

 

「うっそだろ、幻覚か?」

 

 目を剥いた俺の質問にパスカルが答える。

 

『いえ、時間が経っているようです。私の内部時刻で約十二時間が経過しています』

「はぁ!?」

 

 広範囲時間魔法とか創世の領域だぞ。

 

「パスカル、解析頼む」

『MPアナライザー、起動しました』

 

 相手の動きを注意しながらゆっくりと足を進める俺にパスカルが話しかけてくる。

 

『MPアナライザーによる解析完了。アキラ、前方左に未知の反応があります』

「敵か?」

『わかりません』

 

 そりゃそうだよな。

 

『アウローラが行った行動ですが王機(おうき)月華王(げっかおう)経由で周辺一帯のMPに干渉、挙動を半日凍結し結果として約半日を経過させたものと思われます』

「なんだそりゃ? 時間を止められるなら……いや時間は止めてないのか。つーか、そこまでできんなら俺だけ止めれば勝ちだったろ」

 

 俺がそういうと上空に浮かぶアウローラが唄いながらしまったという表情を見せた。

 

「おま、お前、今あって思ったろ! ははーん、お前馬鹿だな、つーか馬鹿だろっ!」

 

 頬を引きつらせるアウローラにパスカルの容赦ない評価が下る。

 

『猫馬鹿に仕事馬鹿を掛けても唄う馬鹿になるだけのようですね』

「言ってやんなよ」

 

 俺たちの声が聞こえていたのかアウローラのこめかみに青筋が出ているのが見えた。

 ぬっ、青筋?

 

「パスカル、ウィンディの状態を表示」

『表示しました』

 

 しれっと心臓が再稼働してやがる。

 こりゃサニーだな、やったのは。

 

『アキラ、爆撃が来ます』

「なぬっ!?」

 

 表示板から視線を上に戻すと横向きにすすーっと移動したアウローラの杖の先、丸い部分から次々と黒いこっこちゃんがふってきているのが見えた。

 

絨毯爆撃(じゅうたんばくげき)かよっ!」

 

 まじか、あの杖の先の丸い輪がシルクハットの代わりか。

 円形してればあんなのからでもこっこちゃん出せるのかよ。

 俺自身には堅牢鉄壁(けんろうてぺき)がかかっていることから爆撃程度では死なない。

 だが、パスカルの方はそうでもない、つーか俺が変身してもパスカルの強度は上がらない。

 

「一端回避だっ!」

 

 俺は爆撃を避けるために全力で走り始めた。

 

     *

 

 晴れ渡る空にオーロラ、響く意味不明な童謡、そして絨毯爆撃のように降り注ぐ黒い鶏たち。

 俺は爆発するこっこちゃんたちの間を潜り抜けつつ、まだ爆発してない接触直前のこっこちゃんを蹴って上空に飛ばす。

 蹴り飛ばしたこっこちゃんは降ってきていたこっこちゃんとぶつかり爆発を起こし俺とアウローラの間の視界を防いだ。

 

「加速限定解除」

『解除しました。アクセラレーション、起動』

 

 手元のパスカルの横にあるダイアルをかちりと一上げる。

 俺の周囲に降り注ぐこっこちゃんの速度が一段遅くなった。

 そのままかいくぐりながらさらにダイアルをかちりと引き上げる。

 ほぼ動きが止まったこっこちゃんの間を走り抜けながら俺は数発、こっこちゃん目掛けて光弾を発射。

 そのまま鶏の雨を抜けた俺は後方を振り返って上を見る。

 そこには俺が今いた方をまだ向いたままのアウローラの姿があった。

 

「パスカル、雷撃だ」

『セットしました』

 

 俺がアウローラに照準を合わせると視界内に浮かんだターゲットマーカーがぴたりと安定した。

 

『いけます』

 

 パスカルの声と共に俺は引き金を引く。

 轟音と共に先ほどよりも大きな雷がアウローラを直撃しその後方のオーロラも貫いた。

 

『タイムアウト、加速限界です』

 

 パスカルの横にあるダイアルがカチカチという音を立てて自動で(ゼロ)まで戻された。

 裏の手を二つも使う羽目になるとな。

 もう今日は使えねーな。

 上空を仰ぐ俺の視界には折角の新衣装が早速ぼろぼろになり始めたアウローラの姿が見えた。

 

「うううっ……なんで、どうしてそっちから……」

 

 俺は小さく肩をすくめた。

 

「女には秘密が多いんだよ、言わせんな」

『永遠の十三歳』

 

 やかましわ。

 会話している間にアウローラの傷は消え服装も元に戻っていくのが見えた。

 

「さて、今のはカウンターだから俺のターンはまだこれからなんだが……」

 

 どうにも加減が難しくてな。

 

「俺のターンもお前にくれてやるよ」

「えっ? いいのっ!?」

 

 いいもなにもこのまま続けてもな。

 

「ああ、そのかわり俺を驚かすような攻撃して見せろよ。忘れてるようだが試験だからな、これ」

「う、うん」

 

 気を取り直したのかアウローラは再び杖を自分の前に掲げた。

 俺はそっとパスカルに声をかける。

 

「なぁ、パスカル」

『なんですか、アキラ』

「アイツ、もしかして空に浮かぶこととフィールドの転換、それとこっこちゃんしか出せてなくね?」

『アキラ』

「なんだよ」

『空気読めないって言われたことありませんか』

 

 パスカルの指摘に俺はそっと視線をずらした。

 

「小学校の通信簿の先生からのメッセージ、もうちょっと場の空気を読みましょうだったんだ、俺。言わせんなよ……」

 

 戦闘中にもかかわらず俺が少ししょげていると、天高く晴れ渡る空に浮かんだ馬鹿がぐぬぬぬぬぬという気合の後で大きな声を出した。

 

「きてくださいっ、ちょうすっごいこっこちゃんっ!」

 

 結局こっこちゃんなのかよ。

 俺がそう思ったその時、不意に俺の前方、サニーがさっき爆撃を行った少し横の位置に急激な変化が起こった。

 

 ピシピシピシピシッ!

 

 ふいに発生した空のひび割れ。

 

「なっ!?」

『緊急速報、怪獣が顕現(けんげん)します』

 

 続いてパリーンというガラスが割れるような音を立て、まるで書き割りのように空間がひび割れ壊れていく。

 そこに出現したのは散々探した地下迷宮への入口。

 そう、ラルカンシェルの魔窟(まくつ)そのものだった。

 

「なんでこいつが今ここにあるっ!」

「えっ! 何でここにあるの?」

 

 お互いに驚きの声を上げた俺とアウローラの視線が絡み合う。

 二人がそろってそっと魔窟の入口に視線を向けると、まるでそれを待っていたかのように魔窟の入口が軋む音を立ててどんどんと広がっていった。

 

『ラルカンシェルの魔窟が緊急搬入出モードになりました。大怪獣トラップが強制解放されます』

 

 響くパスカルの解説の中、広がった黒い穴の中から聞きなれた獣の声が聞こえた。

 

「こっ、こっ、こっ、こっ……」

 

 ごくりと唾をのんだ俺とアウローラ。

 

『アキラ、第二ターン終了しました』

 

 俺よりも空気の読めないパスカルがターン終了のお知らせを告げたが俺たちはそれどころじゃなかった。

 

「うっそだろ……マジか」

 

 そんな俺たちの視線を受けて、深く暗い穴の奥から巨大な怪獣が勢いよく飛び出してきた。

 

「こっ、こけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

 その大きさは十階建てのビル以上。

 メタリックな青みがかったシルバーの躯体に赤い瞳。

 あの色はやべーな

 

「パスカル、あのシルバー多分あれだよな」

『はい、ミスリルです』

 

 地球(テラ)には存在しないMP含有率の高い銀の同素体。

 正確には魔化した銀。

 同じ炭素でも黒鉛とダイヤモンドみたいな性質の違いがMPによってもでる。

 その最たるものがミスリル銀だ。

 ミスリルは堅牢鉄壁より硬く、かつ魔法も通らない。

 

「アウローラ、ギルドマスターとして戦略的一時撤退を許可する。死ぬなよ」

「えっ、ちょ、ちょっとま、まってくださいっ!」

 

 俺たちが見つめる中、空気を振動させてその雌鶏は誕生の雄たけびを響かせた。

 

「こっけこっこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

 その鳴き方するのは本来雄鶏だけだっ!

 

『深度四大怪獣、メタルコッコ、認証しました』

 

 俺は上空にいるアウローラに向けて怒鳴る。

 

「逃げるぞっ!」

「え、ええーーーーーーーーーっ!?」

 

 メタルコッコちゃんに背を向けて逃げ出した俺の手元でパスカルが宣言をする。

 

『ファイナルターン』

「それっ、今言うことじゃないよなっ!」

 

 逃げてばっかりだなっ、俺っ!

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