魔王が娘で俺オカン、せめてオトンと呼んでくれ   作:幻月さくや

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これは何エンドですか。普通がいいんだよ、言わせんな

「やべーな、マジで金がねえ」

 

 あの後、しれっと都市に合流してきたミラが有り余る個人資産をちらつかせてパーティホームの設置を申請。

 そうはいってもまともに工作や作業ができるのが俺とミラだけという今の状態で大したことはできない。

 都市に残っていた廃材やミラが持ち出してきた魔窟(まくつ)内にあった資材などを利用して、俺たちが住んでる屋敷の横にギルド掲示板付きの食事ができる簡易カフェをパーティホームとして拡張したのがつい先日の話。

 今俺がいるカフェ奥のテーブルカウンターも他の家に残っていた家財を拝借して削りなおしてテーブルカウンターにしたものだ。

 

GP(ギルドポイント)なら十分な額供出したはずですが。アイスコーヒーお代わりください」

 

 カフェの奥にあるカウンターで全員分の昼飯の仕込みと事務作業を並行でこなしている俺に額に石のついた魔獣の猫をブラッシングするミラがコップを返してきた。

 

「はいよ、ちょっとまってろな」

 

 アイスコーヒーのお代わりをミラに出すと今度はその横に座っていたワンピース姿の先生がティーカップを差し出してきたので受け取る。

 ついでにカウンターで寝ていたチューティアをそっと横によける。

 

「アキラが言っているのはギルド支部としての話だよ」

「そりゃ先生は知ってるよな」

 

 俺は先生のカップを受け取りお代わりを入れてから返す。

 赤龍機構(せきりゅうきこう)の冒険者ギルドは支部独立会計を採用してる。

 複数の都市を束ねる国としてなら本部集中会計も使えるんだが、色々あってロマーニという国は実質潰れてるからな。

 そして今、ラルカンシェル支部にはお金がない。

 それもあって都市所属の冒険者のパーティホームに冒険者ギルドのクエストカウンターとしての機能を置かせてもらってるわけだ。

 

『アキラのメイド服が見られるのでずっとこのままでもよいですが』

「俺はよくねーよっ!」

 

 大体にして壊れすぎなんだよ、この都市。

 ちょっとしたインフラ用の魔導機を取り寄せるのにも嫌な額の金がかかる。

 

「ホームが借りてる分の土地代は払ってますしアキラへのバイト代も払っています。他まではさすがに知りませんよ」

「そこんとこはマジで助かってる」

 

 数年、魔窟に引きこもっていたミラだが死亡したわけでもなく冒険者として抹消されたわけでもなかったことから以前に開発した猫用魔導具のパテント収入が資産として計上されていた。

 額でいうならちょっとした小都市なら買える水準の金持ちになっていたミラだが酔狂なところは変わっておらず、凍結されていたこのラルカンシェルにべったりと張りつき真っ先にパーティホームを建てさせた。

 主にギルドマスターである俺に。

 

「僕は運び屋(ぎるどびん)じゃないんだ。そろそろ定期経路を回復してくれないかな」

「悪いとは思ってるんだがな。人手がたりねーんだよ」

 

 じっとりとした視線で見てきた先生に俺は詫びる。

 そんな中、勢いよくカフェの入口が開き娘たちが中へと飛び込んできた。

 

「「ただいま」」

「おかえり、まずは手洗いうがいな。ウィンディ、報告は後でいいから手を洗わせて着替えて来い」

「うん。サニー、レイン、こっちおいでー」

「んっ」

「はーい」

 

 あの激戦を経て星神(メイザー)姉妹は小さくなった。

 見た目的な年齢でいうなら八歳あたりか。

 サニーの方は星獣(せいじゅう)化した時点で摩耗は止まったがその前に消費していた分、レインは俺の賭けに付き合って大規模な広範囲奇積(きせき)を実施した結果だ。

 見た目が完全に同じ大きさにそろってるのはレインがサニーに合わせてるからで実際のところをいうとレインはまだそこそこ余裕があるはずだ。

 まぁ、レインは姉好きを拗らせてる奴なのでウィンディとの関係も含めて皆で生ぬるく見守っている。

 そんな二人を奥へと連れていくウィンディはあの一件で完全に痣が消えた。

 狸の耳と尻尾は融合した時のピンクのまま固定され、緑だった髪の色もサニーに引きずられてピンクへと変わった。

 青い狸からピンクの狸になりあがったというべきか。

 

「わひゃっ」

 

 二人を奥へと誘導していたウィンディが盛大にすっころぶ。

 今はスカートじゃなかったから丸見えになってないがカフェの手伝いをするときには完全にちらりじゃなくてもろ要素へと変化している。

 今は客もいないカフェだからいいが本格的に人が来るようになるならちょっと考えた方がいいだろうな。

 

「大丈夫ですか、ウィンディ」

「んっ」

 

 姉妹がそれぞれの手を差し出すと少しばつが悪そうにしながらもウィンディが二人の手を取って立ち上がった。

 そういうといい光景っぽいが姉妹の方が幼女だからな、いろんな意味で締まらねーな。

 三人が俺が作ったカフェから屋敷へと入れるドアの先に消えると先生が口を開いた。

 

「それで、進捗はどうなんだい」

「大体、八割強ってとこだな」

 

 あの大規模な戦闘の後、自己診断魔導(セルフチェック)を走らせたラルカンシェル付属魔窟の診断結果は()()ヒドラフォッグの除去が終わり運用だけでいうならやってできなくもないというものだった。

 とはいえヒドラフォッグの破壊に加えミスティが指示した下層への海水放出、レインの奇積による強制水没もあって育成迷宮としての機能は壊滅状態。

 ミラが立てこもっていたという養鶏、植物栽培ゾーンは何とか無事だったが他は使い物になるめどは立たっていない。

 俺やミラが護衛する形でアウローラに化身させたサニーとウィンディに残留しているヒドラフォッグの分体を随時こっこちゃんに変換させているが、完全完了までには多分年単位で時間がかかるだろうな。

 進むにしても壊れた魔窟の魔導機を修理するか撤去しないと進めないとこも多い。

 おかげで出費が痛い、というかさっき言った通り金がない。

 

「結局、元素転換機能は動かずか」

 

 魔窟の中でも育成迷宮と呼ばれる代物には周辺の土を採取して錬金ができる魔導機を通して必要な金属原料を生み出す機能が標準搭載されている。

 あれが使えればかなり楽になると読んでいたんだが……

 

『メタルコッコちゃんを形成する際に強制的に稼働させられた痕跡がありました。現在、元素転換モジュールが全損しています。修繕は困難と思われます』

「だよなぁ」

 

 ミスリルの鶏の形成とか星獣単体の能力にしては無茶すぎだとは思ったが魔窟の残機能をフルで使った結果だったらしい。

 おかげで鉱物生成系の機能がパスカルの言う通り全損、専門業者(まどうし)の点検と全交換が必要な状態だ。

 そこまで考えた俺はみんなの昼飯を準備しながら再びため息をついた。

 

「金がな、ないんだよ」

 

 そんな俺の前で猫を磨くミラとカップを手に持った先生の視線が絡んだ。

 

「何とかなりませんか?」

「これ以上はさすがにね。君だってそうだろう」

「はい」

 

 考え込んだ二人に俺は苦笑しながら詫びを入れる。

 

「二人には十分良くしてもらってる。借りてもいいが返せるめどが立たねーうちはちょっとな」

『アキラのメイド姿をギルドで販売してもらえば足しになるのでは』

「お前が(しち)に入ってくれるならやってもいいぞ」

『……冗談です』

「なんだ、今の間は」

 

 俺とパスカルがじゃれていると奥から俺と同じカフェの制服であるジャパニーズメイド服に着替えた双子とウィンディが戻ってきた。

 

「うー、やっぱりこの服恥ずかしいよ」

「あきらめろ。俺はもうあきらめた」

 

 頬を赤らめて恥じらうウィンディに対して恥という気配も見せない双子が向き合って会話している。

 

「レインちゃん、パンツも変えたんですか」

「んっ、見る?」

「はいっ!」

「わ、ちょ、ちょっと、まって、二人ともそういうことしちゃだめっ!」

 

 慌てて割り込むウィンディに双子がそろって解せぬという顔をした。

 解せぬはこっちの方だよ。

 なんでこいつらは一般常識から先に忘れてくのか。

 大体、普通の猫カフェは店員の服装はカジュアルな長袖だ。

 猫相手だとどこで怪我するかわかんないからな。

 メイド服とか完全にミラの趣味だろ。

 そんなことを考えているとカフェの入口に付けたカウベルがカランカランと音を立て、開いた扉から複数の足音が中へと入ってきた。

 

「えっと、ギルドってここであって……ってマジでアキラさんじゃん」

「お、双子も生きてたか」

「わー、ミラ久しぶりっ! すっかり大きく……なってないわね」

 

 入ってきたのは五人組の冒険者パーティ。

 そいつらは以前に俺が登録を更新したラルカンシェル所属のパーティだった。

 あの悪路の中、わざわざ来てくれたのか。

 世の中モノ好きってのは結構いるもんなんだな。

 

「姉、やらねば」

「そうですねっ!」

 

 急にテンションが駄々あがりした双子が入ってきた冒険者たちを前に両手を広げ宣言する。

 

「「(にじ)の都市、ラルカンシェルにようこそっ!」」

 

 そんな双子の懐かしい掛け合いと言葉に到着した冒険者たちが懐かしんでるとこに俺が声をかける。

 

「サニー、レイン。言葉間違ってるぞ。ここはミラたちのパーティホームでギルドが間借り中だ」

「あっ、そうでした」

「んっ、ならやり直し」

 

 話についていけずに呆然とする冒険者たちの目の前で双子が手を繋いだ状態で出迎えをする。

 

「「いらっしゃいませ。猫カフェ、フライングキャットへようこそ」」

 

 数秒の沈黙の後、そのパーティのリーダーが口を開いた。

 

「えっと……猫は?」

 

 全員の視線がカウンターの上に置いた名誉副店長であるガストの遺影の前でくつろぐ一匹の猫へと集まった。

 いるだけましだろ、マジで。

 どういう願掛けなのかは知らないがミラが作った金属製の鈴が付いた赤い首輪がぽつんと遺影の横に置いてあるのが猫が少ない猫カフェの切なさを倍増させる。

 そんないたたまれない空気が広がる中、俺は予定通りこう言った。

 

「少数精鋭なんだよ、言わせんな」

 

 キジ白で尻尾が縞々模様のミラの猫は客を一瞥してから小さく欠伸をした。

 

『接客する気がなさそうですが』

「猫カフェは客が猫をもてなす店なんだよ。頭数そろうまでは双子が猫代理な」

 

 俺がそういうとサニーがびしっと敬礼しレインも小さく頷いた後で入ってきた連中の方に向き合ってこういった。

 

「猫ですっ! よろしくお願いしますっ!」

「んっ、遊んで」

 

 乾燥地帯の一角、ラルカンシェルにはこの幻想世界(アスティリア)でも珍しい猫カフェがある。

 そこにはふてぶてしいキジ白猫と銀髪の猫代理が待っている。

 客が店に入ると双子はきっとこういうだろう。

 

「「ご飯は?」」

「今出すからちょっと待ってろっ! つーかお前らも突っ立ってないでどっか座れ、飯食わせてやる」

 

 今のとこ鶏に芋、それと野菜とかしかとれてねーから出せる飯のバリエーションも限りがあるんだけどな。

 

『アキラ』

「なんだよ」

 

 いつか、この店の席が埋まるといいな、相棒。

 

『昼ご飯は何ですか』

「肉じゃが」

『アキラはいつまでたってもオカンですね』

 

 全員がぬるい目で見る中、俺は溜息をつく。

 ギルマスは保護者じゃねーんだがな。

 

「せめてオトンと呼んでくれ」




お読みいただき本当にありがとうございました。

これにて「魔王が娘で俺オカン、せめてオトンと呼んでくれ」完結です。

ご感想等いただければ幸いです。

※誤字脱字訂正については随時行いたいと思います。
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