魔王が娘で俺オカン、せめてオトンと呼んでくれ   作:幻月さくや

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夜間、白い月はありません。お前本当に魔王か?

 破壊された瓦礫の街、夕日が落ちたその廃墟は月明りが弱いこの世界では暗闇だけが支配する静謐な場所と化していた。

 その中でも一か所だけ、透明な窓から明るい光が外に漏れるその建物だけが破壊を免れ雨風をしのげる屋根と壁、そして玄関を照らす魔導(まどう)の光を持っていた。

 

「結局、ついたのは夜じゃねーか」

「あははっ。ごめんなさい、でもこんなに早く家に帰れたましたし、私はラッキーでした」

 

 俺はアンラッキーだよ。

 そういいたいのをぐっと飲みこんで俺はサニーとともに玄関先に立った。

 周囲を見渡してみると建物の周辺だけ緑の草が生え爆発の跡もないのがはっきりと見て取れた。

 

「ここだけ壊れてねーのな」

「はいっ! レインちゃんがママと暮らした()()()()()はしっかり守ってくれてますから。あの子は最高の自宅警備員さんなんですよ」

 

 なるほど、だから自宅しか守れないんだな。

 サニーの言葉を適当に聞きながら周囲を見渡すと隣の家との境界にうっすらと水色の光が立ち上っているのが見えた。

 

『この敷地には魔獣除けの結界が動作しています』

「パスカルさんそんなことまでわかっちゃうんですか」

『ええ、自分銃ですから』

「すごいですねっ! 私より頭いいんじゃないですか」

 

 銃に知性で負ける魔王がここにいる。

 

「とりあえず中に入れてもらっていいか」

「あ、はいっ……レインちゃーん。おねーちゃん帰ってきましたー。あーけーてーっ!」

 

 そういいながらどんどんと扉をたたくサニー。

 

『なんだか家を閉め出された酔いどれ亭主みたいですね』

「いや、どっちかというと悪さして外に出された子供じゃね?」

 

 俺たちの感想を物ともせずに扉をどんどんと叩くサニー。

 

「あーけーてー、あーけーてーよー」

 

 次第に半泣きになり始めたサニーを見ながら不安がよぎる。

 

「これ、大丈夫か」

『大丈夫だと思いますよ』

 

 パスカルがそういうなら大丈夫か。

 そんなことを考えてると騒音に耐えかねたか扉が少し開き、隙間からサニーと同じ銀色の髪と青い目をした少女が少しだけ顔を覗かせた。

 

「偽物?」

「本物だよぉ、ちゃんとあけてー」

 

 サニーが扉に手を差しこもうとするが隙間が狭いまま広がらない。

 

「レインの姉なら星になった」

「なってないからぁっ!」

 

 こいつはサニーの妹のレイン。

 姉とは対照的な青みがかった銀髪に青い瞳、サニーによく似た顔の作り、そして背の高さもほぼ同じままか。

 まぁ、胸とかについてはサニーが無駄に育ってるのに対して、こっちはだいぶストレートだがな。

 姉妹のやり取りを見ながら俺はパスカルに声をかける。

 

「あれ、わかってやってるよな」

『そうでしょうね』

 

 俺たちの方をちらりと見たレインがサニーに視線を戻した。

 

「姉ならこの質問に答えられるはず」

「うんうん、なんでも聞いてっ!」

 

 必死に食らいつくサニーにレインが問を投げかける。

 

「冒険者ギルド所属の魔王心得、その十四。魔窟内においてカロリーコントロールが不全となったために魔獣が餓死し始めた場合の対処法を答えよ」

 

 レインの言っているのは俺が言うとこの第三番目の魔王たちの心得だ。

 この場合の魔王は冒険者ギルドの職員としてのダンジョン運営者ってやつだ。

 冒険者ギルドによって創造された育成迷宮においては平時はいかに魔獣を増やし冒険者経由で街にカロリーを提供できるかが重要な仕事の一つとなってる。

 まぁ、この程度なら魔王を名乗るなら簡単に答えられるだろうな。

 そんな風に俺が考えていると、ここしばらくでさんざん見たどや顔と胸を張るしぐさを伴ってサニーの声が玄関先に響き渡った。

 

「全然わかりませんっ!」

「おい、魔王。お前本当に魔王か?」

 

 俺がそういうとサニーが心底心外だといったようなという表情をした。

 

「もちろんですよぉ」

 

 そんな俺たちのやり取りの傍で玄関口がゆっくりと開いた。

 

「姉で間違いなさそう。おかえり、姉」

「お前、いまどういう基準でこいつの真偽判定したっ!」

 

 俺の問いには一切答えずに扉を開いたサニーの妹、レインはサニーに飛びついた。

 

「うひゃっ! レ、レインちゃん、苦しいですよっ!」

「知ってる。本当に帰ってこないかと思った」

「だ、大丈夫ですよ、道が迷ったり家が迷ったり、爆発の嵐に巻き込まれたりワニに食われたりしましたが私は元気ですっ!」

 

 言葉の単語は多分正しいんだろうが、そうやって通されて言うと何言ってんだかわかんねーな。

 

「そちらのアキラちゃんと銃の人に助けてもらったんです」

「そう」

 

 サニーを離したレインが俺たちの方を向くと深く頭を下げた。

 

「姉、助けてくれてありがとう。なんとかできそうという馬鹿姉を信じたレインが馬鹿だった」

「ひどっ、レインちゃん、馬鹿に馬鹿って言っちゃダメなんですよ、傷つくじゃないですか」

「黙ってて。仕事馬鹿」

「あ、それならいいです」

 

 それでいいのか、お前は。

 

「それで、姉。何か食べるものは取れた?」

「ううん、食べられかけた」

 

 なんだ、この二人の会話。

 

「そっか。こっちは二匹とれた」

「すごい、レインちゃん」

「そうでもない」

 

 少しだけ自慢げなレインの頭をサニーが撫でた。

 

「ごめんね。それで……お姉ちゃんこの人たちに助けられちゃって」

「そう。なら、レインのとったのは贈呈でいい?」

「はいっ!」

 

 二人で何やら相談がまとまったのか俺の前まで出てきたレインが何かをつかんだ手を前に突き出した。

 

「これ、ささやかだけどお礼」

 

 お、サニーが言ってた魔王のお礼ってやつか。

 

「いいのか」

「んっ、今渡せるのはこれしかないから」

 

 まて、なんかいい予感がしないんだが。

 そのままレインが手を開くと俺の手の上に小さなヤモリっぽい動物がぽてりとのった。

 

「腐る前に食べて」

「お前らは猫かっ!」

 

 思わず突っ込んだ俺に姉妹がびっくりした顔を見せた。

 

「レインちゃん、もう一匹も出さないと」

「たしかに」

「たしかにじゃねぇっ!」

 

 どこの世界に助けられたお礼にヤモリを献上する魔王姉妹がいるって……いやいるな、ここに。

 

「冗談はさておいて」

「えっ? 冗談?」

 

 真顔でレインを見つめるサニーを一瞥した後でレインは再び俺の方を向いた。

 

「姉を助けてくれてありがとう。食べれるものはそれくらいしかないけど欲しいものがあれば譲る」

 

 そういうレインの瞳には真摯な感謝の色が浮かんでいた。

 

「まぁ、俺も用事があったからな。とりあえず中、入れてくれるか」

「んっ」

 

 レインは扉を大きく開け俺たちを招き入れる。

 そこには明るい魔導の光が照らす、シックな玄関口が広がっていた。

 

「あ、そうだ。レインちゃん、いつものあれしないんですか」

「忘れてた。ずっと来る人いなかったし」

「せっかくのお客様ですしやりましょうよ」

「確かに。どうせもう最後だろうしやるか」

 

 何かうきうきした様子のサニーにレインが小さく頷いた。

 再び俺に方を向いたポンコツ姉とその妹が後ろの赤みを帯びた屋敷の明りを背にする。

 そうしてサニーは満面の笑みで、レインは無表情のまま俺を見つめる。

 

「今はこの屋敷しか守れてないけど都市神のレイン、こっちの馬鹿姉が……」

「馬鹿って言わないで。都市付属の育成迷宮の魔王サニーです」

 

 二人はそれぞれに言葉を紡いだ後で俺の方にそれぞれの右手と左手を広げてこう言った。

 

「「虹の都市、ラルカンシェルにようこそっ!」」

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