ウマ娘達が俺のことを無視しようとしている?   作:R.T

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後編です。


ウマ娘達が俺のことを無視しようとしている?「トウカイテイオー 後編」

 

 

 

「来るな!!!!」

 

 

俺はもう全力で、ポケットに忍ばせておいたスイッチのことなんて全て忘れて思い切り机を蹴飛ばした。

 

 

「痛!!……ぇ?」

 

 

その机はテイオーにあたり、僅かに怯んだ。その隙にテイオーが近寄ってきた分距離を取る。

 

 

「…え、え?なに、なんで…トレーナー?」

 

 

何があったのか分からない様子のテイオーを見て、俺はさらに恐ろしくなった。

 

 

「さっきからなんなんだよ!!お前!言いたいことがあるならとっとと言えばいいだろうが!」

 

 

「…ピ、エ…ト、トレーナー…?」

 

 

俺が蹴飛ばした机と、俺の顔を交互にテイオーは見る。

 

 

「そりゃお前みたいな奴したらさ、俺なんざどこにでもいるトレーナーだろうよ。でも俺だって必死に頑張ってきたんだよ!それがこの仕打ちかよ!!なぁ!?」

 

 

俺の中で、これがテイオーのためだなんてことは全て消え去っていた。今はただ、ただこいつが怖い。俺が今まで一緒にいたこいつは一体なんだったんだ。

 

 

「エ、ア、ア…ちが、トレーナー…」

 

 

 

「俺のことを見るな!!俺を見て喋るな!!」

 

 

もう、俺の目にはこいつに対する敵意と恐怖しかない。それほどまでに、俺はこいつのことを恐れてしまった。

 

 

「…そんなに俺のことが嫌いだったんなら、ずっと無視してろよ。お前が、俺たちが一緒に目指してきた帝王ってのは、結局その程度のものだったんだろ」

 

 

そう言い捨てると、俺は部室を出る為にドアへと歩き出す。もう正直泣きそうだった。机を蹴り飛ばしたからか、脚がひどく痛む。赤黒く滲んでいるところをみると、皮膚が裂けているのかもしれない。

 

けど、そんなことはもうどうでもいい。今はただ、この場から逃げたい。こいつの前から消えたかった。

 

 

「ま、待って!これは、ち、違くて…え、トレーナー…血が!……ぁ…え?」

 

 

急いで俺の元に駆け寄り、血を拭こうとするテイオー、しかし俺はそのテイオーの手を跳ね除ける。

 

 

「何が違うんだ。俺の今までのお前に対する接し方が違ったのか?もっとお前の言うことを聞く利口な奴隷にでもなってたほうがよかったか?」

 

 

「こ、れは…その…ド、ドッキ…リで」

 

 

「ドッキリ?……あぁそういうことか」

 

 

「ト、トレーナー分かってくれたの!?そ、そうだよ!これは全部嘘で」

 

 

「わざわざ言わなくても分かってるよ。今までの俺に対する行動が全部嘘だったんだな」

 

 

「…え?」

 

 

「最初から全部、俺をこうやってバカにするためだけに計画してたのか。すごいなお前、確かにそういった意味では帝王だよ」

 

 

「ち、ちがう!まってよ!お願いだから話を」

 

 

「…次のトレーナーには、こんなタチの悪いことはしないほうがいいぞ」

 

 

「え、…え、??ト、トレーナー?今、なんて」

 

 

「お前が俺のことをどう思ってたのかはよく分かったよ。でもな、少なくとも俺はお前と一緒にいて楽しかったよ。だからお前がそんな奴だったなんてことは口外しない。まぁ、したところでテイオーのひっつき虫な俺の言うことなんざ誰も聞かないだろうけど」

 

 

「い、いやだ、待って、待ってよぉ…お願いだから」

 

 

「でもな、みんな俺のようなバカじゃないんだ。こんなことを続けてたらいつかは必ず後悔する日が来る。だから、もうこんなことは俺で最後にしとけよ。お前も十分に楽しんだろ、俺をコケにして」

 

 

「ヒ、グ…う、ウゥ…まっで、おねがぃ゛まっでくだざい゛」

 

 

「……じゃあな、テイオー、お前の走ってる姿は多くの人に元気を与えるんだ。だから、これからも走れよ、新しいトレーナーと一緒に」

 

 

泣きながら服の裾を掴むテイオーの腕を再度振り払い、俺は今度こそ扉を開けて外に出た。そして、何も考えることなく、理事長室に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒ、グ…あぁあ、トレーナー…まっで、まっでよぉ」

 

 

止めどなく溢れる涙を拭いながら、ボクはトレーナーのことを呼び続けた。もうこの場にはいないトレーナーを呼び続けた。 

 

 

「あ、あぁああ…違う、違うの、ごめんなざい゛こ、こんなことになるなんて…お、思わなくで、いやだ、いやだ、トレーナー…助げで、苦じいよ…トレーナー」

 

 

誰もいない部屋でボクの嗚咽と必死な弁明が響く。けれど、助けてくれるトレーナーはもういない。他でもない、ボク自身がトレーナーを悲しませ、出て行かせてしまった。いつもボクたちのことを考えて、どんな時でも優しく寄り添い、質問に答えてくれた大好きなトレーナーはもういない。返ってくるのは、取り返しのつかないことをしたんだいう、どうしようもない現実だけだった。

 

 

 

 

「……………」

 

 

呆然としながら歩いていると、俺はふと、冷静になってきた。やっぱり、テイオーのあの発言は嘘なんじゃないだろうか。

 

そう考える理由を確固たるものにするべく、今までのテイオーのことを思い返してみる。

 

あいつは俺と出会った時からずっと、良くも悪くも自分を貫く強い奴だった。

 

たまに調子に乗る時もあるけど、芯は強く、相手のことを思いやれるウマ娘だ。そんなあいつが、こんなことをするだろうか?だから、あれは、俺をからかうためのタチの悪い、本当にタチの悪い、嘘なんじゃないのか。

 

たまたま、あの調子に乗る癖が、あそこで出てしまっただけなんじゃないのか?一度、そう考えてしまうと、人間の脳は単純なものだ。きっとそうだと、テイオーはあんなこと思っていないと、勝手に作り替えてしまう。

 

こんなことを考えてしまっている時点で、俺はたづなさんに言われた通り、救いようのないお人好しなのかもしれない。いや、違う。許すとか許さないとか、そういうのではなく、自分がこの、今にも吐きそうな状況から少しでも逃げ出そうとしているだけだ。

 

あれが全て嘘なら、俺は本当に、本当に嬉しい。

 

テイオーのあの顔を、言葉を思い返せば、そんな可能性、砂漠の中に落ちた米粒ほどにもないのかもしれない。けど、一度希望を抱いたらダメだった。

 

やっぱり俺はテイオーのことを信じたい。たとえもし、あいつのあの発言が本当のことなんだとしても、今までの俺とあいつの頑張りがなくなったわけじゃないんだ。

 

 

そう思い込むと、なんだか気持ちが少し腫れたような気がする。理事長室へと帰る足も、不思議と軽いような、あ、いてぇ普通に痛い。皮膚裂けてる。え、血止まんない。やば。

 

 

 

 

 

 

 

理事長室に帰るなり、俺は違う意味で恐怖した。

 

 

「本当に…申し訳ありませんでした」

 

 

なんと、たずなさんが土下座をしていたのだ。

 

「いや、いやいやいや、ちょっとなにやってるんですか!頭を上げて!…あぁ力入らねぇ…。こんな光景見られたら絶対殺されるぞ俺」

 

 

足の痛みに耐えながら、なんとかたずなさんを引き上げる。

 

 

「本当に…本当に、申し訳ありません…」

 

 

たづなさんを起こすことに成功はしたもののそれでも顔を手で覆い、こちらを見ない。

 

 

「どうしたんですか、俺が少しテイオーに会っていた間に何が」

 

 

「そのテイオーさんとの件です。あのようなことを引き起こしてしまったのは全て私の責任です。謝って済むようなことではありませんが、本当に申し訳ありませんでした!!」

 

 

そういうと、またもや頭を下げる。

 

 

「下げないでください!お願いしますから!ちょっと、1回話しましょう!ね!?いやほんとに頭上げねぇなこの人!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…グス、う、うぅ」

 

 

泣き止まないたづなさんから、何とかこんなにも謝罪する理由を聞き出すことはできた。

 

テイオーのあの変貌はたづなさんにも予想できなかったものらしく、全て自分の責任だと思っている。

 

 

「雰囲気が悪くなった時に、すぐにそちらに行こうかと思ったのですが、あの状況のテイオーさんは恐らく、いえ、間違いなく、自分を見失っていました。そんな時に私が割り込んだらもっと悲惨なことになってしまう可能性が高いと判断したんです。そう思うと、どうしても助けに行くことができませんでした…」

 

 

まぁ、確かに暴れてる犯人とかを無理やり抑えようとするのは非常に危険な行為だ。たづなさんのその行動を俺は咎める気はないし、たづなさん自身も反省する必要はないと思う。

 

強いていうならテイオーを暴れてる犯人に結びつけた俺が責められるべきだと思う。

 

 

「…て、ちょっと待ってください!さっきなんていいました?」

 

 

「…?さっきですか?…ええと、…先ほど言った通りです。あなたの担当しているウマ娘さん達が貴方のことを無視する」

 

 

「いや遡りすぎです。たづなさんの初セリフですそれは。次元を越えないでください。そこじゃなくて、テイオーが、その、自分を見失ってるって」

 

 

「は、はい、間違いなくあれは混乱していました。自分でも何を言っているのかよく分かっていない状態だったと考えられます」

 

 

「そう、ですか…そっか、そっか…よかった、やっぱり混乱してるだけだったんだな。テイオーは、本心であんなこといったんじゃないんですよね?」

 

 

「それは間違いありません。理由は分かりませんが、なんらかのきっかけがトリガーとなり、自分を制御できなくなったのではないかと思います」

 

 

制御て、あいつなんなんだよ、ウマンゲリオンかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええと、とにかく話をまとめると、俺のなんらかの行動があいつの琴線に触れ、その結果、思ってもいないことを言ってしまった。ということでいいんですね?」

 

 

「その通りです。ですがトウカイテイオーさんはまだ」

 

 

「それだけ聞ければ十分です。今からテイオーのところに行ってきますね」

 

 

「…え?ちょ、ちょっと待ってください!いくらなんでもトレーナーさんが行くのは危険です。1度私が話しをして安全だと分かれば」

 

 

さっきに比べたら多少はマシになっているが、たづなさんは、やはり責任を感じている。きっと彼女の性格上、俺が何を言っても責任から逃げようとしないだろう。いや、逃げられないんだ。

 

だったら俺が、その責任を根本を引きちぎらなければならない。たづなさんが抱えている不安を、悲しみを、後悔を、他でもない俺が払拭しないと、そしてたづなさんの目の前で笑わないと、たづなさんはずっと俺に負い目を感じることになる。

 

そんなことはさせない。そもそも今回の件は俺が元凶なんだ。元を正せば、たづなさんもテイオーも、悲しむ必要なんかなかった。

 

 

 

 

「たづなさん、大丈夫ですよ。あれが本心じゃないって分かれば俺はもう折れません。タチの悪いことを言ったことも踏まえて、しっかり怒ってきますから。安心して、ここで待っててください」

 

 

たづなさんにそう告げると、応急処置だけした足を引きずりながら、俺はテイオーの元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんなんですか、本当に…。いつもいつも怪我をして…それでまた、何も言わずに私を助けるんですか?…これ以上、好きにさせないでくださいよ……。見ていることしかできないのはとても辛いんですよ…?」

 

 

 

トレーナーの後ろで駿川たづなは何かを呟いたが、それがトレーナーの耳に届くことは決してなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うう、グスっ…」

 

 

身体中の水分を全て出し切ったのではないのかと思うほど泣き、ボクはようやく少しだけ落ち着いた。拭った袖なんかはもう涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃだ。

 

 

「トレー…ナァ…」

 

 

なんで、こんなことになったんだろう。…いや、そんなこと決まってる。ボクのせいだ。冷静に考えればこんなことしていいはずがなかった。ボクだってこんなことされたらとても悲しいし、怒る。それに…ボクは

 

 

「ト、トレーナーに酷いこといっぱい言って…ひ、ひっつき…虫って…新しい…トレーナー…って、あ、うあぁああ!!」

 

 

思い返せば返すほど自分のしたことがどれほど酷いことだったのかを理解する。たとえ冗談だろうと、決して言ってはいけないことをボクは言った。誰よりもボクのことを考えてくれていたトレーナーのことをボク自身が裏切った。

 

 

「う、うぅうああぁあ…あぁああ」

 

 

全て出し切ったと思ったのに、また涙が溢れ出す。目はすでに腫れきっており、頭はガンガンと痛む。けれど、きっとトレーナーは、こんなのの非にならないくらい悲しかったはずだ。

 

 

「…とにかく…謝らないと…謝って…謝る…?」

 

 

謝る。それは何に対してだろうか。トレーナーを無視したこと?ひどい言葉を投げつけたこと?そもそもこんなことを考えて、実行したこと?

 

 

「…謝って…済む…のかな、?あれ…?あれ?」

 

 

ボクはまだ、心の中では自惚れていたのかもしれない。例え何があろうと、決してトレーナーはボクのことを見捨てない。絶対に寄り添ってくれる。そんな風に、この期に及んでそんな考えをしている。何を言っているんだ、ボクは、もう全部終わってしまったんだ。これまでのことも、そしてこれからのことも。

 

 

「あ、あは、ははは…そ、そっか…もう、ボク駄目なんだ」

 

 

今まで一緒に頑張ってきたトレーナーはもういない。トレーナーの言う通り、きっとすぐに他のトレーナーは着くだろう。だけど、ボクはもう走らない、いや走れない…。

 

 

「…あ、でも…トレーナーには走ってくれって言われたっけ…あはは、いやだなぁ…きっともう入着どころか、完走すらできないや。そんな姿、トレーナーには絶対見られたくないなぁ」

 

 

いつからだろうか、ボクの走る目的がトレーナーの為なんだと自覚したのは。最初は会長のようにかっこいいウマ娘に、強いウマ娘になりたいと思ってた。勿論今だってそう考えてる。だけど、それ以上にトレーナーの為に、トレーナーの為だけに走りたいということに、ボクは最近になって気付いたんだ。

 

 

「もう、無理なんだなぁ…会長みたいにかっこよく走るのも…トレーナーのために走るのも…」

 

 

走者として終わったウマ娘に、未来はない。ボクには実績があるから、きっと退学にはならないだろう。けど、もう…いいや。

 

 

「…あ、みんなにも謝らないと…。ボ、ボクのせいでトレーナー…辞めちゃったって。み、みんなすごく怒るだろうなぁ。マックイーンなんか、口も聞いてくれないかも…」

 

 

ポタリポタリと涙が落ちる。もう手で拭うことすらもできない。そもそもボクは今どうなってるんだろう。倒れているのか、座っているのか、立っているのか、もう分からない。

 

 

「…ごめんね、トレーナー…ほんとに、ほんとに…ごめんね」

 

 

 

 

 

「テイオオオオオ!!!!」

 

ドアを蹴り飛ばしながら俺は中に飛び込む。今ならブルース・リーも驚きのアクションスターになれるはずだ。

 

 

「…とれぇなぁ?」

 

 

「テイオー…」

 

 

なんだ、この構図は…どこかで見覚えがあるぞ。床に可愛らしく座っているテイオーに対して、立った状態で背中で光を浴びる俺。

 

 

「と、問おう。あなたがわたしのウマ娘か」

 

 

「…何言ってるの?トレーナー?」

 

 

「いや、違うごめん、間違えた。ほんとにごめん」

 

 

「…ボクはトレーナーの…ウマ娘なのかな」

 

 

え、なに?哲学の話?テイオーが突然哲学の話を始めたぞ。

 

 

「トレーナー…謝っても許されないのは分かってるし、許してもらうつもりもないんだ。でもね、ほんとにごめんなさい。トレーナーのことを…ひ、ひっつき虫とか言って…新しいトレーナーが、こ、来ないかなぁとか言って、ごめんなさい。ちっともそんなこと思ってないんだ。信じられないと思うけど、ほんとなんだ」

 

 

「テ、テイオー?」

 

 

なんだ、これは?あのテイオーが物憂げな表情でこっちを見ている。いつもはびっくりチキンかの如く叫んでるテイオーが、落ち着いた様子で話している。少なくともその様子を見るだけで、さっきの、俺が恐怖を抱いたテイオーはいないんだということが分かった。

 

 

「あと、トレーナーのことを無視したのはボクだけだから…。みんなは関係ないんだ。だから、みんなのトレーナーは続けてあげてください」

 

 

目は真っ赤に腫れ上がり、体もプルプルと震え、今にも倒れそうなテイオー。それでも必死に顔を下げず、俺から視線を外さない。

 

 

「それと、さっきの…これからも走ってくれってお願い…叶えてあげられないや、ごめんね…ボクもう走れな」

 

 

「テイオー」

 

 

俺はもう何も言えなかった。こんなにも頑張っているテイオーを見て、俺はもう怒ることどころか、何も考えられなかった。ただ、ただ、その小さな体を抱きしめた。

 

 

「トレー…ナー…なんで」

 

 

「ごめんなぁ、ごめんなぁテイオー…流石にこれはやり過ぎたよなぁ…」

 

 

「なんで、トレーナーが謝るの?謝るのは全部ボクなのに…トレーナー…う、ああ…トレー…ナー…」

 

 

テイオーの服は全てがぐちゃぐちゃだった。だが、そんなものは関係ない。ひたすらに俺はテイオーに謝り、そしてテイオーも泣きながら俺に謝る。だけど、決してお互いが抱きしめる力を緩めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうことなんだ」

 

 

「……そう、なんだ」

 

 

その後、テイオーを連れて理事長室に向かい、そこで全ての顛末を話した。

 

 

「重ね重ね、申し訳ありませんでした。トレーナーさん、そしてトウカイテイオーさん。私がトレーナーさんにこんなことを言わなければ」

 

 

 

「ううん、ボクが初めから無視なんてしなかったらよかっただけのことだから。それに、たづなさんが、トレーナーに全部言ってくれてなかったらきっと、本当に取り返しのつかないことになってたと思う。だから、たづなさんもトレーナーも悪くないよ…ボクが全部」

 

 

「テイオー、俺からも謝る。今にして思えば、もっと穏便なやり方はあったはずだ。なのに、俺はお前を泣かせてしまった。本当に悪かった」

 

 

「だ、だから2人は悪くないってば。ボクがこんなこと考えなかったら2人もこんなことする必要もなかったんだから」

 

 

「テイオー、ありがとうな…それで、だな」

 

 

「…?どうしたの?」

 

 

テイオーはキョトンとした顔で俺の言葉を待つ。恐らく、俺たちの今の状況を分かっていないんだろう。具体的にいうと第3者からどのように見られているのかということだ。テイオーは今、さっきまで抱き合っていた影響なのか、俺とガッシリと手を繋いでいる。しかも絡める奴だ。恋人のやつだ。

 

 

「手、をだな。そろそろ…離した方が」

 

 

「…手?…あぁそっか、繋いでたんだっけ」

 

 

気付いた瞬間に、いつものように小さく叫び距離を取るかと思ったが、繋がれた手を一瞥だけして、意にも介さない。

 

 

「…1回、離すぞ」

 

 

このまま繋いでいるわけにもいかないので、1度手を離そうとした瞬間。

 

 

「!!!やだ!!やめて!離さないで!!!」

 

 

とんでもない勢いで繋ぎ直された。

 

 

「テイオー?大丈夫か?ひょっとしてどこか体を痛めたのか?」

 

 

俺の手を支えにしなければ立てないほど傷付いているのか?もしそうなら今すぐに救急車を呼ばなければならない。俺は慌ててテイオーに怪我がないかを確認するが。

 

 

「ち、ちがうよ、どこも怪我なんかしてないから。大丈夫」

 

 

…?どういうことだ?とにかくもう1度、ゆっくりと手を離そうとするが。

 

 

「…!!やめてっていってるじゃん!!!なんで離そうとするの!!!??ヤダヤダヤダ!!!」

 

 

間髪入れずに捕まってしまう。

 

 

「なるほど、これは…恐らくトラウマになってしまってますね」

 

 

「トラウマ、ですか?」

 

 

トラウマと俺と手を繋ぐことに関係があるとは思えないが、たづなさんの話を聞くことにする。

 

 

「はい、今回の一件でトウカイテイオーさんは、トレーナーさんを失うという怖さを心で理解してしまったんです。ですので、もし今手を離してしまったら、また失ってしまうかもしれない、そう無意識のうちに思ってしまっているんです」

 

 

どこぞのマンモーニみたいな覚悟を決め込んでしまったようだ。そんなことあるんだろうか。繋がれた手を見てみると、もう決して離さないといわんばかりにがっしりと握られていた。

 

 

「トレーナー、ボク分かったんだ。今は隣にいてくれてるけど、ふとしたことでトレーナーがいなくなっちゃうかもしれないってことに。でもね、ボクがずっとこうしてればトレーナーはどこにもいかないし、ボクもどこにもいけない。これこそが、ボクの本当に欲しかったものなんだ」

 

 

それは分かるべきことじゃないと思うんだが。それにそんなもの欲しがるんじゃないよ。怖いよ目が。

 

 

「あー、テイオー、俺はどこにも行ったりしないからさ、1回手を離さないか。正直痛いんだ」

 

 

「……ヤダ」

 

 

何という聞かん坊。プイッと顔を背けて、より一層手を硬く結んできた。俺の手が折れるのが先か、テイオーの意思が折れるのが先か。地獄のチキンレースが始まったようだ。

 

 

「テイオー、やっぱ怒ってないか?」

 

 

「……だって、本当に怖かったんだもん!思い出すだけでもう…あ、ああやだ、ヤダヤダヤダ!!」

 

 

「痛い痛い痛い痛い」

 

 

へし折れる。これはへし折れるぞ。

 

 

「…ふむ。トウカイテイオーさん、トレーナーさん嫌がってますよ?」

 

 

「え!?ごめんね!トレーナー!大丈夫!?死なないで!」

 

 

たづなさんの言葉で、テイオーはあれほど硬く繋いでいた手を離した。繋がれていた手がようやく解放されて外気に触れる。涼しい。あとこの程度で死ぬほど日本男児は弱くはないぞ。

 

 

「い、痛かった?怪我はしてない?死なない?生きてる?」

 

 

「いや死なねぇよ、マンボウか俺は」

 

 

「…なるほど」

 

 

何かを納得したかのようなたづなさん。こちらとしては分からないことばかりなんだが。

 

 

「トレーナーさん、少しこちらに」

 

 

「あ、はい」

 

 

「ボ、ボクも」

 

 

当然のようについてくるテイオー、今までこんなに後をついてきていただろうか?

 

 

「…トウカイテイオーさん、トレーナーさんはいい子で待つことが出来るウマ娘が好きだと、以前おっしゃってましたよ?」

 

 

本人が知らないことをカミングアウトされている。存在しない記憶がたづなさんの脳内を駆け巡っているようだ。

 

 

「わ、分かった。待ってるから、早く帰ってきてねトレーナー」

 

 

「あぁ、うん」

 

 

とりあえずテイオーから離れることのできた俺はたづなさんのところに向かう。

 

 

「それで、どうしたんですか?」

 

 

「トウカイテイオーさん、完全に犬になってしまっています」

 

 

犬、ウマ娘なのに犬とは。

 

 

「恐らくトレーナーさんとはもう片時も離れたくないんでしょう。後ろを見てみてください」

 

 

言われた通りに後ろを振り返ると、俺のことをジッと見ている。必死に耐えているのか、体は小刻みに震えている。昔あんなおもちゃあったな。

 

 

「先程もあれだけ離したがらなかったトレーナーさんの手も、トレーナーさんが嫌がっているという言葉だけで離しました。嫌われたくない、という想いからでしょう」

 

 

「なんか、簡単に言ってますけど、それ結構やばくないですか?」

 

 

「かなりやばいですね、当初の目的であったはずのトレーナーさんに依存してもらうという計画が、完全に裏返ってます。自分がこれ以上ないほどに依存しきってしまっています」

 

 

策士策に溺れるってやつだろうか、少し意味が違うような気がする。

 

 

「とにかく、今日は1日中付き合ってあげてください。最悪、同衾までしないといけない状況になるかもしれません」

 

 

最悪が過ぎるでしょ。俺の理性が終わるか男としてのプライドが終わるかの2択じゃないですか。今日何回チキンレースするんですか。

 

 

「それより、トウカイテイオーさんのところに戻った方がいいかもしれません」

 

 

言われてまた後ろを振り返る。

 

 

「…トレーナー…はやく…ナデナデしてよ…アァ…トレーナー…アァ…トレーナー」

 

 

ファービーかお前は。

 

 

 

 

 




後おまけがあります。
夜頃投稿します。
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