ハイスクールD×G   作:オンタイセウ

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今回からやっと停止教室のヴァンパイアに入ります。お待たせしました。


VS16  アーロン・ブロディ

駒王町の中を流れる一級河川。

こういった川の河口は、かなりいい釣りスポットだ。

そこに今、月の光に照らされながらイッセー、ダイスケ、そしてアゼルの三人が釣り糸を垂らしている。

 

「しかし、最近世話になっている悪魔くんの友人がお前さんだとはな。」

 

「いや、ほんと。世間って狭いっすね。」

 

最近、イッセーに常連の顧客ができた。それが何の偶然か、アゼルだった。

そして、今回の依頼が夜釣りに付き合うという内容だった。

イッセーは事前に知り合いも呼ぶとは聞いてはいたが、まさかそれがダイスケだとは思いもしなかった。

ダイスケも、イッセーになかなかいい上客ができたことは本人から聞いていたが、それがアゼルだとは知らなかった。

報酬に高価な絵画や貴金属類を渡すなんてどんな客なんだろう、とは思ってはいたが、アゼルならさもありなんとダイスケは思う。

 

「あれ?ビクってきたのについてないぞ?」

 

仕掛けを引き上げたイッセーが情けない声を出す。

 

「お前、当たってすぐに巻いたろ。そういう時はな、ちょっと待って追い食いを狙うんだよ。そんで、もうちょっとコマセを撒け。籠の中のアミも随時チェックだ。」

 

アドバイスするのはダイスケである。

当のダイスケはルアー釣りでシーバスを狙っている。それに対し、イッセーとアゼルはサビキでのアジ狙いだ。

 

「はっはっはっは、悪魔くん。こうやるんだ。」

 

そう言ってアゼルがリールを巻いて竿を上げると、サビキの針がアジで満員になっている。

 

「うわ、すっげぇ!!」

 

たまらずイッセーが驚いた声を上げる。

 

「あれ、腕上げた?」

 

「そりゃ、お前さんにあれだけケチョンケチョンに言われれば、嫌でも勉強するさ。」

 

ダイスケに答えながら、アゼルはアジを一匹ずつ針から離していく。

 

「そういうお前さんはどうだい?アタリがないんじゃないか?」

 

「うーん、今のところシンキングミノーで言ってるんだけど。やっぱ時期的にバチでも食っているのかな。ワームに変えて、匂いも追加する。」

 

そう言ってダイスケはタックルボックスから、柔らかい樹脂製のワームと呼ばれるルアーとジグヘッドという重り付きの針を取り出す。

ワームをジグヘッドに付けると、おもむろに小さな瓶を取り出す。

 

「何それ?」

 

イッセーが興味を惹かれ、ダイスケに聞く。

 

「魚って、視覚以外にも嗅覚で餌を探すんだよ。だから、もともと匂いのついているワームに目立つための臭いを重ねがけするんだ。」

 

言いながらダイスケはワームを小瓶の中の液体に漬ける。

 

「……どんな臭いしてんの?」

 

怖いもの見たさにイッセーが顔を近づけ、ダイスケがその鼻先に瓶の口を近づける。

 

「ぶぅエェ!!!ゲホッゲホッ!!なんじゃこりゃあ!!」

 

某ジーパン刑事のような叫び声を上げると、イッセーはたまらず嗚咽する。

 

「どうだ、匂いに重力があるだろ。」

 

そのダイスケの発言はある釣り番組のMCが言っていた事の受け売りだが、的を得ていた。

こうなる結果を予測していたアゼルは、たまらず笑い出す。

そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、終了の時間を迎える。

本当なら朝日が見えるまでやり続けたいところだが、イッセーとダイスケには学校があるのでもうお開きだ。

釣果はイッセーがアジを四匹釣り上げたのに対して、アゼルは十六匹。ダイスケは50cmのシーバスが一匹と黒鯛が一匹で、持ち帰るつもりではないのでリリースした。

 

「いやー、楽しかったよ。いつも彼と二人でやるんだがね、たまに違う人と一緒にやるのもいいもんだ。」

 

短時間ながら十分な釣果を得たアゼルは満足げだった。

既にイッセーも代価の宝石類を頂戴している。

 

「くっそー……結局四匹かよ……。」

 

イッセーが悔しそうに呟いたのをアゼルは聞き逃さない。

 

「お?だったら今度は勝負するかい?」

 

「もちろんすっよ!!」

 

イッセーは息巻くが、ダイスケはそれを見て呆れる。一朝一夕で釣りの技術は身につくようなものではないからだ。

 

「よし、それじゃあ今度呼ぶときは釣り対決ってことでいいかな?悪魔くん、ダイスケくん。……いや、赤龍帝と怪獣王。」

 

その一言で、イッセーとダイスケは咄嗟にアゼルと距離を取る。

 

「おお、いい反応だ。だが、俺が何者なのか気付けなかったのは残念だったな。」

 

両手を広げて「やれやれ」というジェスチャーをする。

そこでダイスケが一つの答えにたどり着く。

 

「なるほど……アゼルって名前は偽名だな。」

 

「その通り。いやぁ、結構直球な偽名だったからバレるんじゃないかって内心ヒヤヒヤしてたんだけどな。」

 

カラカラと笑う元アゼル。

その駆け引きめいた雰囲気に耐えかねたのか、ついにイッセーが直球の質問をする。

 

「あんた……一体何者だ!?」

 

その問いを待っていた、と言わんばかりに元アゼルは口の端を少し吊り上げる。

 

「―――アザゼル。堕天使どもの頭、総督をやっている。よろしくな、赤龍帝の兵藤一誠、そして怪獣王、宝田大助。」

 

その予想外の回答に、沈黙が訪れる。

 

「「は?」」

 

二人にはイマイチ現状がつかめていない。

堕天使の総督がなんでわざわざ?っていうか、自分から顔を見せるってなんなの?そんなに暇なの?と思っている。

 

「いや、だから堕天使の総督だって。」

 

「「……。」」

 

またも訪れる沈黙。

だが、それはイッセーとダイスケによって破られる。

 

「「痛い痛い、痛いよお母さーん!ここに頭怪我した人がいるよぉー!」」

 

「張り倒すぞ、お前ら。」

 

思わぬ反応に、ついカチッとなってしまうアザゼル。

言葉で納得しないなら、その目に焼き付かせるまでだ、とアザゼルは行動する。

 

「なんなら証拠を見せてやろう……。」

 

その途端、アザゼルの背中から12枚の漆黒の翼が現れる。

 

「どうだ、この12枚の漆黒の翼!まさに堕天使って感じだろう!!」

 

「「……。」」

 

「どうだ、びっくりしすぎて声も出ないってか?」

 

「「痛い痛い、痛いよお父さーん!絆創膏持ってきて、人ひとり包み込めるくらいのー!!しかもこの人自作の羽根とか付けてるよー!痛いにも程があるよー!!痛み止め早くー!!」」

 

「お前ら打ち合わせでもしたのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談じゃないわ。」

 

リアス・グレモリーは怒っていた。それはもう、なまら怒っていた。

隣にイッセーを侍らせ、頭を撫でている状態で。

 

「確かに、近々この町で三大勢力のトップ会談が行われるわ。でも、だからと言って堕天使の総督がなんの断りもなしに私の縄張りに無断侵入した挙句に正々堂々と営業妨害をしてただなんて……!」

 

全身を怒りで震わせながらも、イッセーの頭を撫でる手は止まらない。

 

「しかも私のイッセーにまでちょっかいを出すだなんて、万死に値するわ!!!」

 

「あの。俺も狙われてたんですけど、そこは無視ですか。」

 

撫でられているイッセーとは対照的に、リアスはダイスケに対して何の心配もしていない。

イッセーは猫のように可愛がられ、ダイスケは部室の隅で突っ立っているあたり、扱いの差が見える。

 

「あら、あなたは自衛できるじゃない。」

 

「明らかに依怙贔屓じゃね!?なに、この格差!?」

 

これが眷属とただの協力者の差なのだろうか。

他の眷属もイッセーのことを心配してはいたが、ダイスケに関しては誰も心配していなかった。

ダイスケが正体を知らないとはいえ、アザゼルと長い期間知り合いだったというのもあるのだろうが、正直この扱いの差は涙腺にクルものがあった。

 

「ダイスケ先輩、ドンマイ。」

 

身長が届かないため、背中を気休めに叩く小猫。これは励ましではなくただのおちょくりだ。

 

「人を励ます前に、お前はまず自分の発育の遅れのことを気にかけろよ。」

 

半ば怒り気味に言い放つダイスケに、すかさず小猫のレバーブローが入る。

内臓はやはり弱いのか、ダイスケは腹を押さえてうずくまる。

 

「セクハラ発言したら殴りますよ。」

 

「……宣戦布告前に攻撃するのは国際条約違反じゃね?」

 

そのコントを無視して、リアスはイッセーの可愛がりを続ける。

 

「アザゼルは神器に強い関心を示しているというわ。きっと、イッセーの赤龍帝の籠手を狙って接触してきたのね……。でも大丈夫よイッセー。あなたは絶対にこの私が守ってみせるわ。」

 

「……いや、だから俺は?眷属じゃないからどうなってもいいってか?マジで助けるべきじゃなかったんじゃねえのか、これ。」

 

腹部の痛みから脱したダイスケは、最近の口癖「助けるんじゃなかった」を呟く。

大抵、これを言えばグレモリー眷属には効くのだが、今日はイッセーのアザゼル接触事件があったので違った。

 

「まあまあ、ダイスケくん。ボヤかない、ボヤかない。」

 

木場がいつものイケメンスマイルで宥めるも、ダイスケの腹の虫が収まるわけがない。

 

「ボヤキの一つも出るだろうがよ!いい加減にしねぇとグレるぞ!?」

 

「えっ、ダイスケくんてとっくの昔にグレてるんじゃないの?」

 

「えっ。」

 

「えっ。」

 

最近、木場が結構乗ってくるようになってきている。これも抱えていた問題が解決したからであろうか。

 

「でもやっぱ、俺とダイスケにアザゼルが近づいてきたってことは、神器を狙ってきたってことっすよね?……やっぱり、命に関わる危険があるってことなのかな。」

 

話が進まない現状を流石に変えようとしたイッセーが言う。

そのイッセーの不安を聞き、木場が答える。

 

「確かにアザゼルは神器に対する造詣が深いとは聞くね。そして、有能な神器所有者を集めているとも聞く。でも、大丈夫だよ。……僕がイッセーくんを守るからね。」

 

その木場のセリフは、まさに騎士がお姫様を守る決意の様なもの。男が男に対して使う言葉と視線ではない。

 

「いや、あの……気持ちは嬉しいんだけどさ、それは真顔で男に向かって言う言葉じゃあないぞ……。」

 

「真顔で言うさ。君は僕を助けてくれた。大きなリスクを背負ってまで助けてくれた、僕の大切な仲間だ。その仲間の危機を救えないで、グレモリー眷属の騎士は名乗れない。」

 

言いたい事はわかる。だが、この言い方ではは学園に蔓延る腐女子グループからすれば格好のネタにされる。この態度が他の場で表に出なければいいのだが。

 

「きっと、禁手に至った僕の神器とイッセー君の赤龍帝の力があれば、どんな困難でも乗り越えられる。……ふふっ、ほんの少し前まで、こんな暑いセリフは吐かなかったんだけどね。キミと付き合っていると自分のキャラまで変わってしまう。でも、不思議と嫌じゃあないだ……。キミを見ていると、胸がすごく熱くなってくるんだ。」

 

熱っぽい視線でイッセーに訴える木場。

こんなのどこからどう見たってBでLな小説とかゲームのそれだ。

 

「き、木場……お前、キモイぞ……。いや、ちょ!近づくな!!」

 

尻をガードするように逃げるイッセー。

このままでは一部女子達の噂が現実のものとなってしまう。それだけは避けたい。

 

「そ、そんな……!イッセーくん、僕はただ……!」

 

まるで恋人に避けられたかのような木場の姿に、イッセーもダイスケも口をあんぐりと開けるしかない。

美少女が好きな男に縋り付く姿は中々クるものがあるが、それがイケメン男子なら話は別。それこそ一部の女子にしか需要はないだろう。

クールなイケメン木場くんがどこへやら。人間(悪魔だが)変われば変わるものだ。

 

「しかし、どうしたものかしら……。堕天使側の動きが見えない以上、迂闊に動くことはできないわ。しかも相手は堕天使の総督。下手な手は打てないし……。」

 

あくまで相手はちょっかいをかけてきただけ。これに過剰反応すれば、三隅の関係を崩すことうけあいだ。

そこのところ、リアスは意外と厳しい。

 

「アザゼルは昔からああいう男だよ、リアス。」

 

突如として、この場の誰でもない声がした。

その声の出処を全員が見つけた時、そこにはリアスそっくりの紅い長髪をした男がにこやかに立っている。

イッセーもダイスケもその顔には見覚えがあったが、誰だったか思い出せない。

すると、朱乃たちがその場で跪き、新人悪魔のイッセー、アーシア、ゼノヴィア、そしてダイスケがその様子を見てポカンとなる。

 

「お、お、お、お兄様!?」

 

その人物が何者なのか気付いたリアスが慌てたように立ち上がる。

リアスが「お兄様」と呼び人物はただ一人。現魔王『サーゼクス・ルシファー』その人だ。

サーゼクスが現れたとあって、新人悪魔三人が慌てて跪くが、ダイスケは空いたソファーにラッキーとばかりに座る。

 

「彼は先日のコカビエルのような早まったことはしないよ。悪戯好きではあるけどね。しかし、総督殿は意外と早い到着だったな。」

 

サーゼクスの後ろには銀髪のメイド、グレイフィアが控えている。サーゼクスの女王であるから当然か。

 

「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートで来ているのだから。」

 

畏まらなくていい、というその言葉に跪いていた眷属たちが立ち上がる。が、ダイスケは深々とソファーに腰掛けたまま。

時々イッセーは、こういう時にダイスケの心臓には豪毛が生えているのではないかと思う。相手が魔王だというのにこの態度。イッセーが先程から感じているサーゼクスが無意識に放つ圧倒的な魔王のオーラを感じていないのだろうか。

それともやはり、この態度はアザゼルが言ったという『怪獣王』に何か関係があるのだろうか。イッセーがいくら考えても答えは出ない。

対してダイスケは呑気だ。目の前でサーゼクスが話す内容を半分以上聞き流している。

その内容は、三大勢力の会談がこの学校で行われること、その前の授業参観にも参加することなど自身に全く関係ない話題だったからだ。

終いには退屈しすぎたのか、うたた寝を始める。

 

「……リアス、私も長いこと様々な人間を見たことがあるが、目の前で寝られたのは初めてだよ。」

 

「……申し訳ありませんわ、お兄様。」

 

「いや、リアスが謝ることはないよ。しかし、わざと少しだけ流した覇気に全く動じないというのは……やはりアザゼルが言っていた『怪獣王』が関係しているのか。会談の中で、彼にそこのところを深く聞いておいたほうがいいようだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーゼクス・ルシファー突然の訪問から数日後の休日。

ダイスケは市内の大型家電量販店にきていた。新作の特撮ヒーローグッズの発売日である。

普段なら、こういう時はイッセーや松田・元浜も一緒だが、今日は一人だった。

それにイッセーは、今頃他の眷属たちとプール掃除&その後のプールの独占使用の真っ最中だ。

本来であれば、同じくオカルト研究部員であるダイスケも参加するべきなのだろう。

だが、ダイスケは「プールは別に好きじゃない」と適当な理由をつけてフケてきた。

それと、「これを機会にイッセーとの距離を詰めておけ」とも言い残していた。

イッセーが女子達と一緒にいられるようにとのダイスケなりの配慮である。

恐らく今頃、女子勢の布一枚で隠された肢体をイッセーが堪能中だろう。木場もいるが、あれもどっちかというとイッセー狙いだ。

ダイスケはどこぞのライトノベルの主人公のように鈍感ではない。他人の好意・敵意・悪意には敏感な方だ。だからこそ、女子メンバーの全員がイッセーに対して好意を抱いているのにも既に気づいている。

まず、アーシアがイッセーに好意を抱いているのはすぐにわかった。イッセー自身は妹のように思っているようだが。

他の女子メンバーが好意を抱いたのは多分、フェニックスとの一戦の後ぐらいからだ。

リアスは、あの一件のあとにイッセーにファーストキスを捧げた事からもわかるように、イッセーにゾッコンだ。

朱乃や小猫もあの一件からイッセーに対して積極的に近づくようになっている。イッセーに男気を感じたのだろう。

ゼノヴィアも恐らく、イッセーを狙っているはずだ。なぜなら、彼女はイッセーに対するボディータッチが多い。「自分の欲望のままに生きてみる」と言っていたことと、これまで禁欲的な生活を送ってきた反動から男を、それも赤龍帝の強い子供を欲しがっているのではないか、とダイスケは踏んでいる。

そして、これは番外編だが木場もだ。これは言わずもがな、か。

だが、エロについてこれまで積極的だったイッセーが、これらの好意を素直に受け取れないのはレイナーレの件が関わっているだろう。

初めて好意を伝えられた異性に、初デートで殺される。しかもそのあと、イッセーはそのデートの内容を物笑いの種にされたらしい。

こんなことがあれば誰だって(そんな体験、ほぼ無いだろうが)異性からの好意に対して一歩引いてしまうどころか、恋愛ごとに対してトラウマを持ってしまうだろう。

そんなことがあるからこそ、イッセーが誰に対しても一歩踏み出した態度に出られないのは仕方がないのかもしれない。

だからこそ、こういう機会を最大限に利用してみんながイッセーにアプローチをかけられる環境を作り、イッセーもそのトラウマから脱するべきである、とダイスケは考えるのだ。

そのようなことを考えこんでいれば、自然と顔が険しくなるものである。

自然と幾人かはその険しい表情を見て思わず道を開けてしまうほどだった。

だが、その人ごみの先にダイスケを待ち構えている男がいる。

 

「やあ、この前ぶりだな。」

 

声の主はアーロン・ブロディだった。

以前見たようなエクソシストの装束ではなく、白いTシャツにジーパンといった非常にラフな格好だ。因みにTシャツには「アーメン」と胸にでかくカタカナで書いてある。

 

「……今、完全プライベートなんだけど。どっか行ってくれない?300円あげるから。」

 

「300円で動く人間がいるのか?……まあ、釣れない事を言うな。ここで会ったのも何かの縁。茶でも飲もう。奢るぞ?」

 

そう言ってアーロンは親指で某チェーン店のコーヒーショップを指す。

 

「ナンパなら女相手にやれ。イケメンがもったいない。それともお前ソッチ系か?」

 

「キリスト教では同性愛は禁止だ。産めよ、増やせよ、だ。」

 

「……そういや、そうだったな。」

 

その言葉に安心したのか、ダイスケはアーロンについていく。

「好きなものを頼んでいい」と言われたので、ダイスケは遠慮なしに一番高いメニューを複数のトッピング付きで頼んだ。

注文の品を受け取り、席に座る二人。

しばらくの間、沈黙が二人の間を支配する。

その沈黙を先に破ったのはアーロンだった。

 

「……黙りではつまらないぞ。」

 

「いや、俺らの共通の話題ってこんな人の多いところじゃ話せないだろ。」

 

「そうか。なら……。」

 

そう言ってアーロンは右手を軽くひと振り。

すると空間が一瞬揺らぎ、また元に戻る。

その動作の効果か、周りの人間の話し声が徐々に小さくなっていく。それに、周りの人間たちがまるでダイスケ達の席に誰もいないかのような素振りを見せ始める。

 

「これで、俺たちの会話は他人に聞かれる心配はない。何でも話せるぞ。」

 

人払いの術の応用らしい。あのフリードも悪魔を呼んだ人間を殺すときに人払いの術を施していたというが、ダイスケが実際に目にするのは初めてだった。

 

「まず、一つキミに聞きたいんだが、俺に対してあまりいい感情を持っていないようだな。何故だ?」

 

そのアーロンの問いに、ダイスケはストローから口を話して答える。

 

「あったりまえだろうがよ。面倒くさいことは人に押し付けておいて、人の手柄横取りしておいてよく言うぜ。」

 

ダイスケの答えに、アーロンはしまったとばかりに額に手を当てる。

 

「あー……、すまない。それには色々と事情があってな。まあ、あの状況ではそう思われても仕方がない。聞いてくれるか。」

 

「はい、言い訳どうぞ。」

 

人に高いメニューを奢ってもらっておいてこの態度はどうかと思うが、アーロンは答える。

 

「俺はあの時、難しい交渉事は紫藤やゼノヴィアたちに任せて、自分だけでも先に探索しようとしていた。その矢先に出会ったのが、同じくコカビエルを探していた白龍皇、ヴァーリだった。」

 

「へぇ、白龍皇の名前はヴァーリっていうのか。」

 

そうだ、と言ってアーロンはコーヒーを一口飲む。

 

「以前にアザゼルの直属に白龍皇がいると聞いていた俺は、すぐに彼がアザゼルの命令でコカビエルを探しているとわかった。だからこそ、共闘を持ちかけた。」

 

「共闘?相手は堕天使陣営だろ?」

 

「まあ、そうだが、目的が一緒の者同士で啀み合う必要はない。それに、相手は堕天使ではなくドラゴンだ。共に協力した方が効率がいい、と持ちかけたんだ。すると、ヴァーリの持ち出した条件がとんでもなくてな。なんだと思う?」

 

さあ、と首をかしげるダイスケ。

 

「『俺と戦って実力を見せてみろ。弱い奴とは組まない』だとさ。いきなり襲いかかってきたんで、適当にお茶を濁そうとしたらこれがまた強いのなんの。三日三晩ほど結界を張ってその中でずっと戦闘だ。いや、まいったまいった。お互い、奥の手は見せなかったんだがな。」

 

思わずダイスケは呆れてしまった。

あの白龍皇、一体どこまでのバトルジャンキーなのか。そして、目の前にいるコイツも、効率がいいとか言っておきながら三日三晩もよく付き合ったなと心底呆れる。

 

「そして彼がある程度満足して、協力を確約したあとにキミがド派手なオーラを放って覚醒してね。あとは君も知っての通り。別に、信じてくれなくてもいいが。」

 

人間とは、どうしても周りからいい人間だと思われたがる生き物だ。確かのアーロンの言い分は若干言い訳がましいが、彼がダイスケにいいかっこしい行動をとる必要はないはずだ。

 

「わかったわかった。奢ってくれたし、とりあえずその話は信じてやるよ。」

 

ありがとう、とアーロンが言う。

悪魔と堕天使の力を借りずにドラゴンの力を借りようとしたと言うあたり、頓智の効く男なのだろうか。

 

「それでどうだ。あれ以来、君の怪獣神器の調子は?一旦本格的な発現をしたら、自在に扱えるようになるものだが。」

 

「それだ。その怪獣神器ってなんだよ?普通の神器と何か違うのか?」

 

「ああ、かなり違うね。」

 

再びコーヒーを一口のみ、喉を潤すアーロン。

そして彼は、怪獣神器について語り始めた。

 

「普通の神器は、聖遺物や特殊能力が宿った器物、そして神話のモンスターや神格が封印されたものの二種類で、基本的に人間にのみ宿るモノだっていうのは分かるな。」

 

ダイスケのああ、という返事を聞いてアーロンは続ける。

 

「そして、神器は基本的に死んだ神が残したシステムによって生成され、各人間にランダムで与えられるものだ。だが、怪獣神器は出処が違う。」

 

「は?神器なんだからおんなじシステム内で作られるものなんだろ?」

 

「確かにシステムによって何らかの形で封印された怪獣が他の普通の神器に混ざって、人間の手に渡る場合があるにはある。だがな、怪獣神器は相対した相手を『怪獣が認めるかどうか』で発現する、しないが分かれるんだ。」

 

「怪獣が……認める?」

 

「その人間が強いかどうかさ。そして、人間でなくてもその力を得ることができるのが大きな違いだ。不思議な事に、封印されていない怪獣相手でも怪獣自ら神器になるケースもあるそうだ。なんでも、その人間のオーラとか魔力に反応してそういう風になるらしいんだが、詳しいことはわかっていない。」

 

「それじゃあ、フリードがカマキラスの神器を使っていたのは?」

 

「あれは堕天使が開発しているっていう、人工神器の技術を応用したものだ。その怪獣の体細胞を採取、培養して人為的に作ったものだ。無論、オリジナルには及ばないが量産性には優れるらしい。ヴァーリからの受け売りだが。」

 

「じゃあ、俺のは?アザゼルが言う通り、俺の神器に宿っているのは本当に怪獣王……“ゴジラ”なのか?」

 

「九割九部そうだろうな。白龍皇の半減の力を持ってしても殺しきれないあの力は、まさしくそうだ。だが、ゴジラが神器になっていることなど本当はあり得ないはずなんだ。」

 

「……ありえない?」

 

「ああ。これは各勢力のトップオブトップしか知らない話なんだが、まだ神器すら存在していない遥か昔にゴジラが出現したことがあったそうだ。」

 

その言葉に、ダイスケは非常に驚いた。

核実験によって生まれたはずのゴジラが、遥か昔、それこそ神代の時代に現れたというのだから。

 

「ちょっと待てよ!?ゴジラが誕生した切っ掛けはビキニ環礁の核実験だぞ!?それがなんでそんな大昔に現れるんだ!?」

 

ダイスケの大声に、アーロンが顔をしかめる。

 

「実際に出たんだからしょうがないだろ。俺だって、この前ミカエル様から聞いたばかりの話なんだから。詳しいことは知らん。」

 

ミカエル。

それは、“セラフ”と呼ばれる天使ヒエラルキーのトップにいる天使たちのリーダー。この男はそのような存在ともコネクションがあるのか、とダイスケは感心する。

 

「ミカエル様によると、ゴジラは突如として現れ、世界中で暴れまわったそうだ。それには各神話の主神どころか、我らの神ですら恐る“無限の龍神《オーフィス》”や“真なる赤龍神帝《グレート・レッド》”も恐れをなしたそうだ。」

 

これまで映画の一キャラクターとしか見ていなかった存在が、まさかそこまで大暴れしていようとは。しかも、それが今自分の中にあるという事実。頭が痛くなってくる。

 

「それで結構、我らが主の先導で各神話の主神たちとオーフィス、グレート・レッドも協力してゴジラを封印することに成功したそうだ。それがどうして神器の形で現世に現れたのか……各勢力のトップたちは、今頃そのことで頭を抱えているだろうさ。」

 

「……想像していた以上にとんでもないモンが俺の中にいるんだな。」

 

「まあ、俺も怪獣たちが映画という形で人間界に認知されているのは驚いたよ。生物の本能としてその存在を知っていた、ということかな。これは。」

 

アーロンが変なところで感心するが、ダイスケにはそこまで聞いて気になることが一つあった。

 

「なあ、ゴジラって各神話から恐れられたんだよな?だったら、いつか俺を暗殺しに来るってことも……?」

 

「それはないだろう。いくら、人間に宿っているとはいえ相手はあのゴジラだ。下手に手を出すより静観する方が賢明さ。よっぽどの馬鹿が相手じゃない限りな。」

 

アーロンの答えにダイスケはひとまず安堵する。

だが、別の疑問が浮かび上がる。

 

「なあ、なんでお前は怪獣神器についてそんなに詳しいんだ?ひょっとして、お前も……。」

 

「それはキミの想像に任せるよ。」

 

しれっとした顔で誤魔化されるも、アーロンも怪獣神器を宿しているはずだとダイスケは踏んだ。

ただ、それを拝むのはこの男と相対する時だろう。滅多なことで隙を見せそうにもない。

 

「ただ、怪獣の闘争本能には飲まれるなよ。」

 

とたんにアーロンの目が真剣なものへと変わる。

 

「怪獣というのはな、生物であると同時に恐怖の対象だ。そして闘争本能の塊でもある。それの赴くままにただ破壊の限りを尽くさんとする輩がいることも事実だ。平静でいながらに強大な力を操らなければならない。選んだわけでもないのに過酷な人生を歩まねばならん。だからこそ、誰とも付き合わずに一人で生きようとするものも多い。」

 

平静と激情の中に本当の強さがある、とある映画で言っていたがダイスケは修行をした超越者ではない。

だたの一高校生ができるような技ではない。

しかも、ダイスケが身に宿すのはあのゴジラである。

怒りと破壊衝動の塊のような存在をいかに卑小な一個人が制御せよというのか。

 

「だからと言って、それを苦にして自殺しようとしても無駄だぞ。宿している怪獣の生命がそのまま魂と直結しているから、怪獣人間……君の場合はゴジラ人間になっているのと同義だからな。よっぽどのことがない限り怪我も病気も死にもしないし、生命はほぼ無限だ。」

 

「転生もせずに悪魔並みの生命力を得たってことか……。」

 

「それで医療費を払わずに済むと考えればいい。なにも悪いことばかりではないさ。」

 

「なるほどね……そういや、『誰とも付き合わずに一人で生きようとするものも多い』って言ってたよな?それって、ひょっとして……。」

 

「うむ。怪獣神器持ちは基本的に独り身が多い。もし付き合ったとしても、パートナーを自分が傷付けてしまうかもしれないと危惧して自ら別れるものがほとんどだ。」

 

そのアーロンの言葉を聞いてダイスケは愕然となる。

元から異性に好かれない性格をしている分、ある程度は彼女ができないことは甘受してきた。

だが、そこへ望んだわけでもなく得てしまった力のために更なる自縄自縛に陥ることになろうとは思いもしなかった。

 

「まあ、結婚して子供を作ることが生きる上での全てではない。俺も逆に僧侶になった上でバチカンの、それもミカエル様直属のエクソシストにまでなったんだ。気の持ちようだよ。」

 

そう言ってアーロンは呑気にコーヒーを啜るが、ダイスケにとっては死刑宣告に等しい。

 

「そう言ったって、それは思春期真っ盛りの高校生にはキツすぎる現実だぞ……。」

 

「最悪、力ずくで女を手篭めにするっていうのはどうだ?」

 

「それやったら、即刻犯罪者だわ!!!」

 

「公権力など、所詮怪獣の力の前では無力さ。」

 

「お前、本当に聖職者!?」

 

「よく言われる。」

 

ゼノヴィア達を困らせていたフリーダムさとはこれか、とダイスケは納得する。

すると不意に、アーロンは立ち上がる。

 

「今日はキミと話せて良かった。次会うとしたら、三大勢力の会談の時かな?」

 

「やっぱ、俺も出席しなきゃならないのか……。」

 

「当然さ。キミは世界中で最高の危険物扱いなんだからな。……では、また会おう。」

 

「ああ、奢ってくれてありがとうな。あと、そのTシャツはダサすぎだ。」

 

「イエス様が地上にいらっしゃる際には、こういった姿だとある本に書いてあったからその真似をしてみたんだが……。」

 

「いや、それは立川限定だから。」

 

やがてアーロンは店から出て行った。それと同時に人払いの術も解除されたらしい。周りの喧騒が聞こえるようになってくる。

ダイスケは先ほどの会話の中身を反芻していた。

そして、今まで漠然としか感じていなかった自分の変容が強く意識されるようになった。

店を出たあとも、その意識の芽生えによる不安に歳悩まされ続ける。自分の力の正体を知った以上、その力の暴走が何よりも不安だった。

なにせ、相手はあのゴジラだ。

本当に自分ごときが使っていい力なのだろうか?

そして、それを自分は制御しきれるのか?

ただただ、不安だった。

 

「おい。」

 

そんなダイスケを呼び止める人物が一人。

アザゼルだった。




ということで、主人公にヒロイン無しの可能性が銀河レベルで存在なVS15でした。
さあ、果たしてダイスケにヒロインはできるのか!?
それだはまた次回!!いつになるかはわかりません!!
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