【ゴブリン・ロード】~人に焦がれて~(完結)   作:GR/フィルン

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6-1 怒り狂いながらもギギスは

 

 怒り狂いながらもギギスは冷静に状況を分析しようと自らを出来る限り律した。

 生憎、ギギスの持っている情報は人間達に輪を掛けて少ない。

 

 西の麓で冒険者に執拗に襲われ、決死の思いで撃退したと思って谷底に帰って来た時には街を焼かれていた。

 それだけだ。

 

 だが、分からない中でも分かる事はある。

 拠点を焼くという行為に出られるほど、自分達の存在は知られてしまっており、監視されているということだ。

 そして留守を狙って焼かれるほどに計画的に動かれている。

 留守を狙われたのが偶然、という可能性もあるが、人間をより警戒するならば普通のゴブリンとは隔絶した力を持つ自分達は避けられたと見た方がより慎重であろう。

 

 ギギスがこの谷底を拠点として暮らしていた理由は、人から自分達の存在を隠す為であった。

 それが気付けば監視されていた。

 

 セアラ達の仕業だとは思えない。

 そんな隙を与えるほど自由にさせた覚えはなかったし、彼女達にもそんな様子は見られなかった。

 であれば、人間は、冒険者はギギスの警戒よりもずっともっと恐ろしいものに違いない。

 ゴブリン達を怨敵と忌み嫌う人間に確実に狙われている。

 

 それはきっと疑いようもない事実だろう。

 

『事態は思ったよりも深刻かもしれなイナ』

 

 ボソリとギギスが呟く。

 

『どういう事ダ?』

『今この瞬間も監視されている可能性が高イ』

『なンダト?』

 

 ギギスの確信めいた呟きにグーギの表情が驚きに変わる。

 ギギスは少し思案した後、杖を持って立ち上がり、大きめの手頃な石を拾って足元に置くと、高く杖を掲げた。

 

『少し下がってイロ』

『アア』

 

 グーギを下がらせるとギギスは気合を込めて杖を石に打ち付けた。

 

「ギィッ!!」

 

 打ち付けられた杖の先端は石を通して地を抉る程の強さで大地を打ち、不可視の魔力の波動を周囲一帯へと均一に響かせる。

 

 そしてギギスはすぐさま地に這い蹲り右耳を当てて目を伏せ、魔力の返しに耳を研ぎ澄ませる。

 実際に音で聴いているわけではないが、感覚的にこの方がより敏感に魔力を感じ取れそうな気がする為、これはある種の行動までが魔法の一環となる儀式魔法であるとも言えた。

 しばらくじっと耳を伏せていた後に、ギギスがゆっくりと起き上がり頭を振る。

 

『どうダッタ?』

『近場には、いないよウダ。ダガ、嫌な予感がスル。もう一度今度はさっきより強く打ツ』

『分カッタ』

 

 普段より広めに調べたつもりであったが、特に近場で反応は無かった。

 一瞬、いないのでは、ともギギスは考えたが、人間をより警戒すべきという更新された人間に対する危機感が、嫌な予感となって警告を発している。

 

 ギギスは己の中の危機感に従って再び杖を高く掲げると、精神を集中し力を溜め、渾身の力を込めて杖先で地を打った。

 

「ググゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!! ギィァッ!!!」

 

 杖が石ごと地にめり込むほどに力強く込められた魔力は勢いよく周囲へと拡散していく。

 それは山脈のそう狭くない範囲を覆う程の広範囲の索敵であった。

 杖は刺したままで地に伏せると、また同じように耳を当てて魔力を聴いている。

 強力な魔力放出となった為、額には脂汗が浮かんでいた。

 

 さきほどよりもより長く、待っている他のゴブリン達が少し飽きそうになるぐらい長い間ギギスは地に伏せたままであったが、たっぷりと時間を置いた後、突如ギギスは何かに気付くようにハッと目を見開くと、勢いよく起き上がった。

 

『ギギス兄?』

『いタゾ。やはりイタ! 冒険者ダ!! 距離は歩けば丸一日分もあるほど離れていルナ。数は15。ダガ、4人程随分強いのが混じってイル』

 

 果たしてギギスの読み通り、彼は自分達を見張っている上級冒険者達の存在に気付いてみせた。

 返ってくる魔力の僅かな差からそこに強者が含まれていることも読み取った。

 

 少し興奮気味にギギスがまくしたてる。

 

『やはり俺達を監視していたノカ! という事ハ、人間共はまだ何かしてくるに違いナイ! 慎重にやらネバ。ダガ、のんびりしていては後手に回ル。人間ヲ。冒険者の居場所。俺一人なラバ……』

 

 地面に刺さっていた杖を引き抜き、ブツブツとギギスが思案を巡らせていく。

 

 ギギスは無知ではあったが、決して愚かではない。

 人に害され、人を害し、人に憧れ、人を恐れ、常に人というものを意識し続けていた。

 どうすれば人に狙われていると判明した中で群れの数を失わず、かつ人間に報復することが出来るのか。

 

 彼は必死になって考え続けた。

 

 そして彼は幾つかの方針を自分の中で立てる。

 

『ヨシ。まずは監視の冒険者共を殺ス。メイジ共。足の速い連中を三百程集メロ。逃がさないように囲んで殺ス』

『分カッタ、ギギス様』

『場所は大体南の向こうの方ダ。目印になる洞窟と樹があっただロウ。ゴブリンメイジ共ハ、五十匹ずつ子分を指揮さセテ、囲むようにシロ。俺とグーギは反対側に回り込ンデ、強襲をカケル』

「グギャッ!」

『山脈の深い所ニハ、他の冒険者共はいなさそウダ。そいつらを殺しタラ、一度戻ッテ、次の行動に移ル。食い物が無いかラナ。時間との勝負ダ。残りの子分共には出来る限り食料を集メテ、干して保存しておけと伝エロ』

「グギャッ!」

『ヨシ! お前達、聞いていタカ! 全員働かセロ! すぐニダ! 人間に殺されたくなけレバ、動ケ! 総力戦ダ!』

「ギギーッ!!」

 

 腕を振り上げて子分達に号令を送る。

 

 そして、ギギスとグーギの二人はゴブリンメイジ達の出発を待たずに谷を出た。

 

 

 ~ 〇 ~

 

 

 自分達と相手の力量差がどれだけあるのか。

 それはこの前の中級冒険者との戦いで大体見えていた。

 

 こないだは8人。

 今度は15人。

 ほぼ倍の数に、実力が明らかに他より数段上な相手が4人も混じっている。

 しかも今度の相手が油断しているということは無いだろう。

 十分に警戒をしているはずだ。

 三百匹の子分達だけでも見込みがないわけではない、それでも当り方が悪ければ被害は相当でてしまうだろう。

 

 だが、ギギスに不安はなかった。

 8人の冒険者達を潰した時の手応えがまだ残っていた。

 ギギスはあの時、直接的な魔法など一つも使わず、杖で殴っただけで3人殺してしまったのだ。

 牽制の魔法は魔力に気付かれては襲撃の意味が無くなると思い、忍び寄って直接殴った、それだけだ。

 グーギも剣を抜いてはいたが、振るう前に放った拳や足だけで気付けば冒険者達はバラバラになっていた。

 それほどの差があるなどと思いもしなかったので驚いたが、自分達にそれだけの力があり、冒険者との差がそれほどあるならば、気を付けるべきは4人の上級だけだと素直に思うことが出来た。

 

 ギギスとグーギの二人は歩けば一日はかかる距離を数時間もしないうちに駆け抜ける。

 

 そして休むこともなく冒険者達に襲い掛かった。

 

「ギャアゥッ!!」

「ギギャァァァウッ!!」

「き、来たぞっ! なんっ、はやっ……っ、ぎゅぶっ!」「ぐぇっ!」「げべっ!」「う……、が……っ」

 

 上級冒険者達は二匹の接近に気付いていたのか、態勢を整えて待ち構えていたが、滑るような速さで集団の中へ飛び込んでいき乱戦状態に持ち込むとたちまち中級冒険者達はミンチへとなっていった。

 接敵するまでの間に図太い火槍が飛んで来たが、ギギスが「ギィィィッ、ギャッ!」と強めに溜めた後に唱えるだけで同じ太さの火槍が発生し、それらは打ち消し合って消滅し、火花となった。

 

 ギギスが撒き散らすように放つ火矢や豪風は容赦なく冒険者達に遅いかかり、抗えいきれぬ者達を屍に変えていく。

 他方では、剣を抜いたグーギが上級と思われる剣士と槍使いから手傷をもらいながらも、杖と魔導書を構えたこちらも上級と見られる魔法使いを大ナタの横ぶりで二つに切り分ける。

 

 少しの間に残る冒険者達は剣士と槍使い、そして最後の上級女魔法使い、たった三人だけとなっていた。

 

『(やはりこの程度カ)』

 

 ギギスは自分に向かってきた槍使いと自身の杖を交えながら内心で見定めていた。

 技術はある。

 こちらの動きもよく見ていて、ギギスの短い詠唱を遮るように細かい突きが絶え間なく襲ってくる。

 一気に不利になった戦況でも諦めずに抗っている。

 だが、二対三であっても十分に自分達の方が余裕があった。

 まぁ、元々二対十五だったのを、既に上級一人も含めて十二人も潰しているのだから、当然といえば当然である。

 

 とはいえ相手の槍捌きは守勢に入られていることもあって中々の面倒くさい堅牢さを持っていた。

 多少の傷を覚悟で強引に切り崩せば倒せそうではあったが、今後の為に出来るだけ負傷は避けたかった。

 

 なのでギギスは足元に転がる道具を使って意表を突いてみることにした。

 

 牽制でありつつも鋭く突かれた槍を屈むように避けながら、ギギスは足元に転がった中級冒険者の死体の足を掴むと、身体を起こすバネの力と共に死体を槍使いへと上段から勢いよく叩きつける。

 魔法が彼の主体ではあるが、肉体的な強度も十二分に高いのがゴブリンロードである彼の強みであった。

 人間一人分の重さを振り回すぐらい大した問題でもない。

 そしてそれは想定外の攻撃だったのか、槍使いはかつての仲間が身体ごと飛びかかってくる質量攻撃を槍でいなしきる事も出来ず、脳天から死体をぶつけられてしまう。

 

 ヘルムを被っていたお陰か意識を失うまではいかなかったようだが、槍使いがかなりバランスを崩している間に、ギギスは火矢をごく短い詠唱で女魔法使いへと放つ。

 仲間達の必死の護りを盾に、ゴブリンロードにも抗することの出来る魔法を用意していたのであろう女魔法使いは、火矢を左腕で受けてしまい、その威力の凄まじさに彼女の片腕が弾け飛ぶ。

 だが、詠唱は止まない。

 とっさのこととはいえ、腕を犠牲にすることは覚悟の上だったようだ。

 息も荒く、千切れた腕からはビシャビシャと激しく血をこぼしながらも、女魔法使いは最後の詠唱を完遂させようと地に落ちた魔導書に向かって屈み込み、言葉と残った指で呪文を紡いでいく。

 

 後、一動作、二動作程度なのだろう。

 ギギスからの距離ではゴブリン魔法でももう間に合わない。

 

 魔法使いが相討ち決死の勝利を確信しほくそ笑む。

 

 それを見てギギスもまたギシリとした笑みを浮かべた。

 

(つづく)




今日も読んでいただきありがとうございます。
次回投稿は明日の今頃です。
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