【ゴブリン・ロード】~人に焦がれて~(完結)   作:GR/フィルン

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9-2 他方、南進の策により有利を取ることが出来ていたギギス達だが

 他方、南進の策により有利を取ることが出来ていたギギス達だが、対策を取られたことには直ぐに気付いていた。

 西へと移動を続けながらも毎朝行っていた探索魔法には、特級冒険者達がグレインへと向かって動いていく様が示されていたからだ。

 

 だが、ギギスはその動きを知りながらも指を咥えて見ていることしか出来なかった。

 日毎に送られてくる特級冒険者二つの反応からおおよその移動の予測を立てる事は出来た。

 しかし、ゴブリンの進軍速度を圧倒的に上回るその飛び跳ねるかのような動きは、とても先回り出来るようなものではなかったのだ。

 

 もちろん、ギギスとグーギ二人だけで向かえば先回りすることが出来ただろう。

 だがそれは、彼らに比肩しうるような相手に対して、折角有している数の有利を捨ててまでして立ち向かうバクチのような作戦に違いなかった。

 格下の冒険者に対して圧倒的な戦力差から戦いを挑むことが出来るようになったギギスではあるが、冒険者への恐怖がなくなったわけでは無い。

 つまり、今手元にある数の力という安心感を捨ててまで、勝てるかどうか分からぬ相手に挑むだけの勇気を持つことは、ギギスには到底選べる事ではなかったのであった。

 

 加えて、二人が不在の間の子分達の統括に大いに不安が残ることも、ギギスの判断を後押しした。

 

 点の動きから特級冒険者達がグレインに向かっていることは明白であった。

 恐らくはゴブリン達の動きにようやく気付いたのであろう。

 それ故に、討伐軍全体としては間に合わないと分かりながら、足止めとして特級冒険者達を飛ばして来た人間達の判断力に驚きながらも、ギギスはギギスなりにこれを勝機と捉えたのであった。

 

 それは単純な戦力差を見たものだった。

 

 探索魔法はグレインに現存する戦力を既にギギスに知らせていた。

 その数は初級中級合わせて百人弱程しかいないというもの。

 

 それであれば、子分達の中にいるメイジやそれに準ずるもの達でも十分に相手取ることが出来る戦力だった。

 他は探査にもかからぬ程の数にもならぬ雑魚ばかりである。

 となれば、余った子分達の力は特級冒険者へと注ぐ事が出来る。

 

 最も恐れていたギギス達に比肩するであろう特級冒険者達が、厄介な人間の軍隊から離れ、弱敵しかいない中で防御を固めるのであろう。

 ハッキリ言ってチャンスであった。

 少なくともギギスにはそう感じられた。

 

 今無理をして、自分の命を危険に晒しながら2対2の戦いを挑むよりも、五千対百弱の戦いの方が間違いなく有利である。

 

 そうしてギギスは、楽にこなせると思っていた穀倉都市グレインの攻略に、面倒な手間が増えたことを苦々しく感じながらも勝利への高い可能性を胸に、グレインで待ち受けているであろう決戦へと気を高めていくのであった。

 

 

 ~ 〇 ~

 

 

 ギギス達がもう少しでグレインの街まで到着するという頃になって、先頭を走っていたあるゴブリン達は前方に不可思議な物を発見した。

 

 それは、ゴブリンよりも少し高い背丈の白で、横一直線にどこまでも続いていた。

 

「ギギャッ!? ギャッグ、ギィヤギャギャッ!!」

『骨の壁、ダト? 何の事ダ?』

 

 伝言形式でその報告はすぐにギギスに伝えられたが、それだけ言われてもギギスには何のことか理解できなかった。

 だが、油断してはならぬという思いから全軍を止める号令を出し、前線へと何が起こっているのか確認をしにいった。

 

 そこに並び立つのは延々と続くかのように見える、人骨で出来た白く不気味な壁であった。

 

 ギギスは叫んだ。

 

『ギ、ギャ──ッ!? ア、アンデッドカ!?』

 

 ギギスが驚くのも無理はない。

 忌々しい不死の力がそこに顕現しているかのようであった。

 

 ゾンビやスケルトン、グールやレイス類、そして頂点に立つ不死の王であるリッチー。

 これらは殺した者を生者を憎む彼らと同じような不死者へと貶める不死の力によって、人間のみならず魔物からも忌み嫌われている存在であった。

 うごうごと僅かに動く尖った骨の切っ先はゴブリン達の方を向いており、刺さった者を仲間へと引き込むような恐ろしげな禍々しさを持っていた。

 

 そしてその後ろには人間の男達が、悲壮にも青ざめた表情の中、ピッチフォークやシャベルなどの農具を持ってずらりと並んでいた。

 彼らはどういう理屈か蠢く骨の壁を味方につけているようで、骨の隙間から長柄の得物を突き出せそうな近距離にいながらも、それらに傷つけられることなくゴブリン達の方を向いて待ち構えているのであった。

 

 ほんの暫しの膠着状態。

 

 侵略する側のゴブリン達は北へと僅かな広がり具合を見せながら、得体の知れない骨の壁に対して動きを止めてしまっていた。

 そしてメイジ達から次々と指示を求める連絡が入ってくる。

 

『ギギス様! アレハ一体!?』

『アンデッドが何故人間の味方ヲ!?』

『攻メテ良イノカ!? コノ先ドウシタラ!?』

 

 普段は下位のゴブリン達を使役する立場にいるゴブリンメイジ達も、見慣れぬ不気味さに怯えきってしまっているようであった。

 ギギスはメイジ達の叫びを聞きながら冷静に状況を把握しようと努める。

 

 見れば骨で出来た壁は僅かに蠢いてはいるがこちらに向かってくる様子はない。

 恐ろしい風貌をしているが、どうやらアンデッドそのものでは無い様だった。

 であれば、どこかにこの不可思議な術を使っているものがいるはず。

 

 その判断からギギスが行ったのはいつものような探索魔法だった。

 

「ギィヤッ!」

 

 それほど広い範囲を探るつもりがないので、周囲が分かる程度の弱い力で魔力を打ち出し、すぐに這いつくばって地の返しにその右耳で耳を澄ます。

 欲していた答えはすぐに返ってきた。

 

 骨の壁の少し後方に特級冒険者が二人と、その周囲を固めるように低級・中級の者達が集まっているようだった。

 そして一人の特級冒険者からじわじわと流れ続けている魔力の流れが周囲一帯に広がる骨の壁へと注がれていることが分かった。

 ギギスは骨の壁に注がれている魔力の反射具合から大よその性質を読み取ることが出来た。

 

 分かったことは二つ。

 地に眠っていた死者の骨を呼びだしているが、アンデッド由来の不死の力は持っていないであろう事。

 骨の壁への魔力は一人の特級冒険者から注がれ続けている事、だった。

 

 ギギス自身、術者だけを探せればいいはずが思わず得られた情報の多さに驚きながらも、起き上がってそれらの事実を周囲に伝えようとした。

 つまり、骨は確かに厄介だがそれに傷つけられてもアンデッドになる可能性が無さそうな事、そして、術者を殺せば骨の壁を消せそうなことだった。

 

 だが、ギギスがそれを叫ぶよりも早く、グーギが彼を慌てて呼ぶ声が辺りに響いた。

 

『ッッッ!! ギギス!!!!』

 

 直後、ギギスの頭上で鳴り響く剣戟の音。

 

 人間側では、ギギスの探索魔法を逆探知したことで、相手の居場所を知った呪術士エーデルが傍らに控えていた特級剣士レンに刈り取るべき首の場所を告げていたのだった。

 ギギスが這いつくばりながら魔法の返しから得られた結果を吟味している間に陣地を飛びだしたレンは、人を、壁を、ゴブリンを越えて一足飛びに地に伏せるゴブリンロードの元まで赴き、強靭なる無慈悲な一撃を、およそ前兆など感じさせぬ唐突さで振り下ろしていたのだった。

 それに対して、ギギスが無防備な間、辺りを警戒していたグーギが砲弾の如く飛んで来たレンへと咄嗟に気付き、腰に佩いていた肉切り包丁を振り抜いて、凶刃からギギスを守ってみせたのであった。

 

「ちぃっ! 仕留めそこなったか!」

 

 必殺のチャンスとばかりに繰り出された特級剣士レンの渾身の一振りであったが、ゴブリンジェネラルに防がれたのを確認すると、長居はせずにマントを翻して骨の壁の向こうへと逃げようと特級剣士は離れていった。

 

 更なる追撃を警戒して周囲を固めようとするグーギに対して、ギギスが鋭く吠える。

 

『グーギ! 今の奴を殺セ! 危険な冒険者の片割レダ! 少なくトモ、自由にさせルナ!』

『!! 分カッタ!』

『俺ハ、骨の術者を狩りに行ク! 子分共で骨の壁の向こうにいる雑魚共を殺す様に命令シロ! 邪魔ダ!! 骨に不死の呪いは無イ! 見かけ倒シダ!』

『メイジ共分カッタナ! 骨の後ろに隠れる臆病共ヲ、殺セ!!』

『『オオッ!!』』

 

 ギギスの命令にグーギが、ゴブリンメイジが、動き出す。

 見慣れぬ骨の壁と特級冒険者の襲撃によって動揺を晒してしまったが、戦力差は圧倒的なのだ。

 骨の壁の後ろには多数の男達が武器を構えており、数だけはそこそこいるように見える。

 実際ギギスが単独で骨の壁の術士を殺しに行くのならば多少の邪魔程度にはなるだろう。

 

 だが、それらに抗する為の数という力を持たせてきたのが、ギギス自慢の子分達だ。

 戦いに持ち込めば例え骨の壁があったとしてもゴブリン達の方が圧倒的に有利に戦えるだろう。

 数は減るかもしれないが、勝てばその後で幾らでも増やせるのだ。

 

 今は目の前の勝利こそが肝心だった。

 

 グーギが既に離れつつある剣士の背中を追って飛び出していく中、ギギスは渾身の雄叫びで持って全ゴブリンに勅命を下した。

 

「グギャァァァッ!!!」

 

 シンプルに人間への死を命じる咆哮は、戦場を駆け巡る轟音となって、決戦の開幕をここに告げたのだった。

 

(つづく)

 




今日も読んでいただきありがとうございます。
次回投稿は明日の今頃です。
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