【ゴブリン・ロード】~人に焦がれて~(完結) 作:GR/フィルン
白く連なる骨の壁にゴブリンの軍勢が群がって行く。
鈍器を構えた者達が、骨を砕き、続く者がそれを乗り越えて、骨の後ろに控える人間の男達を刺し殺す。
戦場にはゴブリンメイジ達の火矢が降り注ぎ次々と骨の壁を爆破しながら、その後ろでスリコギを構えていた男を諸共吹き飛ばしていく。
戦う力などろくに持たない男達が殺戮されていく悲鳴の中で、かろうじて振りかざしたピッチフォークに刺さるゴブリンや、シャベルに頭部を打たれて倒れるゴブリンが数体出る。
壊された骨の壁は少しの時間を置くと、供給された魔力によって新たに立ち上がり、壁を乗り越えたゴブリンを前後に分断して孤立させ、壁の残骸に触れていたゴブリンを串刺しにすることで被害を生んでいた。
そうして数千人の人間とゴブリン達はお互いを磨り潰し合うようにして、急速にその数を減らしていった。
もしも、骨の壁が無ければ戦いはもっと一方的なものであっただろう。
訓練された兵士に対してであれば2対1で挑まなければ勝機の薄いゴブリンであっても、相手がただの街の人間であれば逆に二人かそれ以上を同時に相手取ることすら出来る。
それほどに初級であっても冒険者や、兵士といった者たちは侮ることの出来ない力であったが、この場の大多数を占める人間は、民兵というにもおこがましい程に何の戦闘能力も持たないような一般市民の群れに過ぎなかった。
ギギスが数に数えぬほどに侮っていた人間達は今、その命をゴブリン達と等価の如く投げ捨てながらもなんとか壁としての役目を果たそうと奮闘を続けていた。
そんなあっという間に始まった血みどろの戦場をギギスは飛ぶように駆けながら、骨壁の術師の元へと向かっていた。
ギギスにとってすれば、こんな骨の壁もシャベルを担いだだけの人間も走り抜ける合間に蹴飛ばすことが出来る程度の路傍の石に過ぎない。
だが、そんな雑魚でも子分達の数という力を削る障害にはなっていた。
一刻も早く骨壁の術師を探して殺し、戦局をゴブリン側により傾けるのが、今ギギスに最も必要な事であった。
戦場の広い範囲に渡って人間に有利な範囲を作りだしている骨の壁を潰すことが出来れば、ギギス達に匹敵する特級冒険者も同時に消すことが出来る一石二鳥の理であった。
ゆえにギギスは先程探査によって反応があった地点まで、近づく者全てを薙ぎ倒す嵐のようになって猛進した。
敵陣の奥まで大将が単独で行くような愚策に見えないことも無かったが、相手の中で脅威として数えられそうなのが特級冒険者2名程度であれば、この選択肢にも何ら不思議はなかった。
跳ねるように近づいていくと、十数人の兵士が固まっている場所がすぐに見つかる。
そこに骨壁を操る特級冒険者がいるだろうと見当をつけたギギスは、杖を構えて必殺の極太火矢を同時に幾条も出現させる。
「ギャアウッ!!」
そして火矢の雨が放たれるのと同時に彼自身も、火矢のすぐ後ろをほとんど変わらぬ速度で追いかける。
火矢に対処出来てもすぐ後ろに迫る自分自身で特級冒険者に一撃を加えられる必殺の流れだった。
降り注ぐ火矢に十数人いたと見られる初級冒険者程度の実力の兵士達が木っ端微塵に吹き飛ばされていく。
そして残った者に杖を振り抜こうとして力を溜めたギギスの振りかぶりは、残念ながら誰も捉えられなかった。
ギギスの火矢だけで、そこにいた者達は全て死に絶えていたからだった。
火矢だけで殺せたのかと一瞬安堵のため息を吐きかけるが、すぐにおかしいことに気付く。
骨の壁が健在なのだ。
仕留め損なっていた事は明白だった。
探知した場所と違う場所に来たかもとも思ったが、その間違いは今までの感覚から言ってもなさそうだった。
となれば、ギギスの襲来を事前に察知した相手が場所を変えて身を隠したと見た方が良さそうだった。
考えてみれば探索魔法では百人弱の反応を感じていたのだ。
十数人しかいなかったという事は、彼らは囮として使われたのだろう。
仕方なくギギスは周囲に豪風を巻き起こす嵐の魔法を唱えて、周囲から人間の雑魚どもを吹き飛ばして遠ざける。
遠ざけると言っても加減のない猛威は、風に巻き込まれた者を細切れの肉片に変えて周囲への散弾へと変えていたが、それは戦局的には小さな話だった。
敵の真っ只中に一時的な空白地点を作ったギギスはそこで再び探索魔法を使った。
「ギィヤッ!」
範囲を狭めて消費を抑えているので疲労の蓄積はそれほど多くはないが、単純に戦力差で押し勝てると思っていただけに、朝から連発していた大魔法の影響が少しづつギギスの動きを鈍らせつつあった。
だが、まだ十分に戦える範囲だ。
早く骨壁の術師を仕留めてみせると、周囲からの敵の情報を地に這ったまま確かめる。
辺りには今叩き潰したような十数人の初級・中級レベルの集団がいくつか出来上がっていた。
そして、その中の一つに極大な反応があった。
思った以上に距離を取られているが、ギギスならすぐに行ける範囲だ。
彼はすぐ様立ち上がって再び骨壁の術師を追おうとした。
だが、次の瞬間、彼の足元に散らばった兵士達の死体が突如不自然に膨れ上がっていったのだった。
「!!?」
危険な兆候を感じたギギスは咄嗟に死体から距離を取るべく飛び跳ねる。
しかし彼が逃げ切るより早く、膨れ上がった死体は内部から破裂するようにして激しく爆発したのだ。
「グガァッ!?」
驚くギギスに構わず爆風が彼へと吹き荒れる。
魔力を帯びて破壊力を持った骨片や臓腑が逃げ切れなかったギギスへと四方から襲いかかったのだ。
それは気付けば兵士達だけでなく、他の周囲に散らばる人垣だった者達の死体も同様であった。
「グァッ、ギイァッ!?」
ギギスが空白地帯を見つける迄の少しの間、彼は爆風に晒され続けた。
なんとか連続する爆発から逃れるも傷を負うことは避けられなかった。
とはいえ、ギギスからすれば決して重い攻撃とまではいえなかったが、意表を突かれた衝撃に思わず片膝をついてしまう。
『ガッ! クソ! まさか死体が破裂するトハ……ッ! 流石卑怯な人間ダ。卑劣な手を使ウ』
忌々しいほどの悪辣さにギギスは悪態を吐く。
ギギスは知らぬことであったが、これは<死体爆破>という呪術師ならばよく使う魔法であった。
通常は動物などの死骸に使用することで火力の補助と使われているものだ。
死骸という実際にそこにある物体を利用することにより、少ない消費で効率的な火力を得ることができ、場所を選びにくいことと単発使い捨てであることを除けば使い勝手の良い魔法である。
もちろん、通常は人間の死体に使うことなど想定していないので、この行いが勇敢に戦った者達の家族に遺骸を渡す事さえ許さぬ外道の所業であることは間違いなかった。
死体とエーデルとの距離が離れていてもこのような作戦を可能にしたのは、エーデルが街の者達に自身の魔導書から切り取って与えた護符によって、魔力的なパスをつなげることが出来たからであった。
そのような事実は分からずとも、すぐにギギスは相手の術中に嵌められた事に気付く。
とても良くない流れが見えていた。
それは傷を負わされた事自体も問題だったが、何より問題なのは、時間を稼がれたということだった。
先ほどの場所にいなかったことからして、相手は如何にしてかギギスが襲来することを予見していたのだろう。
だからこそ、ギギスが襲撃した後に死体が爆発するような小細工を準備出来ていたのだろうと彼は推測する。
であれば、ギギスが先程探知した場所にも、既に骨壁の術士はいないと考えるべきであった。
正確な場所を知る為には、もう一度探査の魔法を使うしかないが、この魔法は地に這いつくばって相手の位置を知るまでに無防備な時間がそれなりにある。
雑魚ばかりとはいえ敵地のど真ん中でこれ以上隙を晒すのは、予想がつかない危険を招いてしまいそうだった。
使うか、使わざるか迷った後で、想像のつかない手を繰り出してくる相手に対して無防備を晒すのは得策ではないとギギスは結論付けた。
で、あればどうするか。
(つづく)
今日も読んでいただきありがとうございます。
次回投稿は明日の今頃です。
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