原作が双方ともに超マイナー!
デンズリはともかく、剣の街の異邦人を知っている貴方はゲーマーだと思います。
気が向けば続けるかも
アローアロー、どなたか聞こえていますか?
私、現在地獄のような状況の中で発信しております。
いやまあ、地獄は今まで何度も見ているので精神的にはあんまりキテないんですけどね。
それでも半身不随で車椅子生活な我が家の次姉を庇って、家の中に侵入してきた全身赤ピンク色なマッチョオーガやエロゲの竿役で有名なオーク兵に囲まれている状況は流石に辛いです。
ここって記憶が正しければ、エルアラド聖王国って神に愛された宗教国家のはずなんですが。
この有様に『ゴッドよ、あなたは今も寝ているのですか!』なんてセリフが頭を過った私を誰が責められるでしょうか?
「おいおい。人間に尻尾を振るザコ一匹だけかと思ったら、いるじゃねえか上玉が!」
「車椅子の方はいいとして、ガキの方は大丈夫か? ブチ込んだら裂けちまいそうだぜ!!」
女性を見れば、下卑た表情を浮かべてセクハラ大爆発な発言をする化け物たち。
淫魔なんて名前が付いた種族だけあって、デリカシーという文字は存在しません。
同じ化け物でも徹頭徹尾タマを取りに来ていたエスカリオのモンスターとはえらい違いですね、まったく。
「ダメです! お二人とも家の中へ避難してください!!」
そんな私達の前で盾となるべく槍と盾を構えるのはイルヴィナちゃん。
ウチの長女であるシグルド姉様が魔界から呼び出した使い魔にして我が家のメイド様です。
とはいえ、多勢に無勢な事に加えて上の姉が言うには彼女は淫魔の中でも最弱クラスとのこと。
なので彼女一人残したところで打倒されて終わるでしょう。
そもそも三年以上一緒に暮らしている家族を犠牲に生き残ろうなんて、間違っても思ったりしませんが。
「逃がすと思ってんか! テメエ等はまとめて俺達のオ●ホだぁぁぁぁっ!!」
そんなイルヴィナちゃんのセリフが癇に障ったのか、オーガが手にしたこん棒を振り上げて襲いかかってきます。
一歩ごとに床に震動が奔る重量感あふれる突進、しかしその速度はお世辞にも速いとは言えません。
だからこそ、前衛がイルヴィナちゃん一人という窮状でも私は冷静にこう唱えるのです。
「ホーリーシールド」
力ある言葉と共に体内で練られたマナは私達の眼前に虹色の障壁を作り出します。
そしてそれは悪鬼の剛腕が繰り出した棍棒の一撃を小揺るぎもせずに受け止めました。
「な…なんだこりゃあ!?」
「せ…セシリア?」
驚きから奇声を上げるオーガと戸惑いがちにこちらを見るクレセア姉様。
早まって股間を膨らませた下種はともかく、クレセア姉様の方は治癒以外の能力は伝えてなかったので当然ですね。
「まさかヒビ一つ入ってないなんて。そこの赤ピンク、大きい図体は飾りか何かなのですか?」
こちらは鈍った聖術の腕を鍛え直している最中。
当然障壁を生み出す結界秘術、ホーリーシールドの耐久力だって大きく減衰しています。
全盛期には魔王や精霊神の分霊が放つ攻撃すら一発なら防げたバリアも今は見る影もなく、この程度なら『長しえの箱舟』に出現したグレーターデーモンだって叩き割れるでしょう。
早急にあと三段階は防御力を上げたいところなんですが、やはり体の成長が伴わないと上達しないのでしょうか?
私の感想は兎も角として、子供に煽られたオーガはピンク色だった肌を登った血で赤紫に変えて激昂します。
「ふざけんなよぉ! クソガキがァァァァ!!」
そして今度こそはと大きく棍棒を振りかぶります。
しかし二発目を許すほど私は悠長ではありません。
「ホーリーライト」
「へべえっっ!?」
詠唱によって右手から放たれた聖なる光弾は、障壁をすり抜けてオーガの頭部を粉砕しました。
今のは聖術系の最弱攻撃魔法なんですけど、それで一撃死とか本当にザコだったんですね。
「な…なんだ あのガキ!?」
「オーガを一撃で…!? まさか、あのナリでリッターなのか!」
「と…とにかくここは撤退だ! 逃げて───」
「いや、逃がす訳ないでしょう。レクイエム」
「あっばぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ああ…光が……」
即座に転進するオークたちですが、一歩を踏み出す前に私の力ある言葉で天から降り注いだ光に包まれます。
そして奴等の薄汚れた身体は聖なる力で浄化され、光が途切れた後には陰すら残すことなく消滅してしまいました。
これで私の家を襲った窮地は解決された訳なんですが……まだ一つ大きな問題がありました。
「セシリア、今の力はなんなの?」
「セシリアちゃん、イルヴィナちゃんもちょっと治癒魔法が使えるくらいしか聞いてないんですけど?」
それは素敵な家族から向けられた追及の目をどう躱すか、です。
「追い詰められて、秘められていた力が目覚めた……的な事でどうでしょう?」
「セシリア!!」
「ヒィッ!? ごめんなさい!」
クレセア姉様が本気で怒るとシグルド姉様ですら半泣きになるくらいに怖いんです!
年齢一けたな末っ子の私が抗うのはむりゲーですよ!!
そんな訳で家に入った私は床に正座でクレセア姉様の説教を食らう羽目になってしまいました。
さて、この更なる地獄から少しでも現実逃避する為に自己紹介をしておきましょう。
私はセシリア・アスフォディル。
没落した錬金術の大家アスフォディル家の三女にして、前世では聖女と呼ばれていた御年8歳の女の子です。
◆
私の来歴というのは自分でも笑ってしまう程に奇妙なモノです。
前世の私はとある世界の極東に存在する日本という島国で生まれました。
そこは魔法が存在しない代わりに、ここヴィ・ラ・エデンとは比較にならないレベルで文明が発達していたのです。
自動車という馬の要らない車が何千台も舗装された道を通り、空には飛行機と呼ばれる巨大な鋼の鳥が人々を乗せて海を渡る。
都市部に行けば王城ですらチンケに見えるような摩天楼がそこら中に建ち並んでいました。
そんな世界で庶民として生きていた私は、バスと呼ばれる乗り合い車両で事故に遭ってしまいました。
普通であれば、そこで私は命を落とす筈でした。
ですが偶然開いた時空の門に飲み込まれた事で、私の運命は大きく変化したのです。
死んだと思っていた私が次に目を覚ました時、この身は極夜の世界たる剣の街エスカリオにありました。
体を起こせば夜闇の中に見えるのは、どこまでも続く砂地の上に列車や飛行機の残骸が無造作に転がる荒野。
ですが、このエスカリオが私の生きてきた世界とは別物だという事はすぐに分かりました。
何故なら日本では存在しない魔物が跋扈し、それに対する武器も剣や弓などの前時代的なモノ。
さらには魔法が存在するうえに、私のようにこの世界へ導かれた人間は生命点と呼ばれるものが、尽きない限り、死から生還可能な力が宿っていたからです。
そんな奇妙な世界だからか、私の姿も日本にいた時とは大きく変わっていました。
髪は金髪で目は碧眼となって身体は小学生くらいに幼く縮み、さらには側頭部から生えているのは犬のようなたれ耳。
この世界でミグミィ族と呼ばれる人種へ変わっていたのです。
後で聞いた話ですが、この変化は日本からエスカリオへ導いた次元の門と魂の強さが関係していたそうです。
あの門を潜る際に本来の私の身体は分解されて魂だけになり、エスカリオに降り立つ時にその魂の強度に相応しい種族として再誕するのだとか。
実際、私が保護された現世からの転移者達が結成した組織『異邦人ギルド』には人間やエルフ、ドワーフにネイ族といった半獣人の種族がいました。
それから私は日本へ帰るという目的の為に『異邦人ギルド』の皆と共に様々な苦難を乗り越えて行くことになりました。
ミグミィ族の特性である信心深さを活かしてクレリックとなった私は、治療や退魔など仲間達の命綱として最前線に立つ事が何度もありました。
その中には魔物や禁忌の薬物を取り扱う犯罪者との戦いもあって、何度も死にかけたし実際に死んだことだって両手では数えられません。
ギルドに生命点を回復する手段が無ければ、私はとうに魂まで砕かれていた事でしょう。
多くの同胞が生命点を枯渇させて朽ちていく中、聖術を極めた私は気が付けば聖女という異名とそれに相応しい程の力を手にしていました。
そしてエスカリオを三分する力を得た私達に、日本へ帰還する為のチャンスが訪れます。
あの世界に古くから存在する『長しえの箱舟』という遺跡の中に次元を渡る回廊があると言うのです。
一縷の望みを掛けて遺跡の中へ乗り込んだ私達は、他の勢力の妨害や凶悪なモンスターを蹴散らして必死に進みました。
激戦に次ぐ激戦で何人もの同胞が力尽きる中、私達はついに故郷へ続く回廊へ足を踏み入れます。
しかし世界を渡るという奇跡は容易く手には入りませんでした。
そこで私達の前に立ち塞がったのは、敵対する2勢力の長にて神の分霊だったのです。
闇の神オル・オーマの分霊たる魔王アルムメデル、そして光の精霊神フェニックスの分け身であるカリオンマァリン。
この二柱の力は今まで戦ってきた敵とは桁が違いました。
血で血を洗う死闘の末にアルムメデルを打倒す事に成功しましたが、その直後に私はカリオンマァリンの神槍によって心臓を貫かれてしまいました。
日本へ帰る為に拠点を捨てた我々に生命点を回復させる手立てはなく、槍を受けた時の私の生命点は最後の一つ。
もう助からないと悟った私は体に残った聖力全てを暴走させて自爆しました。
後に残った同胞たちが日本へ帰還できることを祈りながら。
本来なら私の生はここで終わりを迎えたのでしょう。
何故ならエスカリオで生命点の尽きた異邦人の肉体と魂は蝶の形へと分解されて、その存在は完全に消滅するからです。
ですが、そうはなりませんでした。
その原因は恐らく私が聖術の最秘奥へと至ったからだと思います。
聖術を極めし者の魂魄は神魔ですら干渉できない無垢なるモノとなると言われていました。
それ故に生命点の喪失による消滅から魂だけは免れたのでしょう。
そうして私は気が付けばこのヴィ・ラ・エデンに転生していました。
セシリア・アスフォディルとして。
現世の実家であるアスフォディル家は私が物心つく前に没落していました。
聞いた話だと、その原因は当時の内弟子が協会で『この世界には、すでに神などいない』と暴言を吐いたことだといいます。
錬金術はもとより神の御業とされる多くの事象を人間の知恵で解き明かそうという異端の学問。
その大家の弟子が神を否定したのなら、国や教会から敵視されるのは当然です。
これによって家は取り潰しとなり、父母は子供を残して蒸発。
私達も教会の異端審問から逃れる為に家財を全て棄てざるを得ませんでした。
当時の私はまだ赤ん坊でクレセア姉様だって今よりもっと身体が弱く不自由な部分が多かったと聞きます。
そんな足手まといを二人も成人も迎えていない身で見捨てずにいてくれたシグルド姉様には感謝しかありません。
ちなみに原因となった内弟子ですが現在は生死不明だそうです。
シグルド姉様曰く『あのクズがそう簡単に死ぬはずがない』とのことなので、もし見つけたら二度と馬鹿な発言ができないように聖魔法でブレインウオッシュしてやろうと思います。
こうして私達姉妹は流浪の錬金術師として、5年近くも各地を転々とする生活を送りました。
その中で知ったのは、ここは神々が去った地であり淫魔と呼ばれる化け物が跋扈する世界だという事です。
彼等は人間を餌か繁殖や性欲を満たす為の道具にしか思っておらず、男性ならば嬲り殺されるか餌にされて女性は凌辱を受けた上に苗床扱いと一部の例外を除いて邪悪極まりない生物でした。
何処へ行こうと奴等に因る被害の話は耳に入ってきましたし、私達も何度か襲撃にあった事はあります。
その際にはシグルド姉様の知り合いという冒険者の方に助けてもらったので、未だに清い身体のままでいます。
旅の中でシグルド姉様は私の世話をしながらクレセア姉様の為に古今東西の医学書を読み漁っては錬金術と合わせて治療法を確立しようと努力しました。
私の方も転生の影響で鈍った聖術を磨き直すなど、姉さまたちの助けになるよう微力を尽くしたつもりです。
しかし私達をあざ笑うかのようにクレセア姉様が全快する事はありませんでした。
徒労の繰り返しの中で焦っていたシグルド姉様は、とある方からクレセア姉様の不調は体に刻まれた聖痕が原因と教えられます。
聖痕は神に選ばれた証であり、同時に呪いでもある。
その影響から脱する為には神を越える存在の力が必要だと。
それ知ったシグルド姉様は、藁をも縋る思いで神々の遺産である聖遺物を探し求めました。
そうして3年前にエルアラド聖王国の近郊にある遺跡で念願の聖遺物『境界門』を見つけ、その研究の為にこの国に留まる事になったのです。
「聞いているの! セシリア!!」
「はい、すみません!!」
それは兎も角として、そろそろ開放してもらえないでしょうか。
もう足がしびれて……ああ!
「反省しましたか~?」
今は足の裏は触らないでください、イルヴィナちゃん!!
足が…足がぞわぞわするぅぅぅぅっ!?
クレセア姉様がガチ説教が続き、そこにイルヴィナちゃんがちょっかいを掛けてきて、気が逸れるとクレセア姉様がまた怒る。
なんという無限ループ!
こんな責め苦を受けるほど私は罪深いのでしょうか!?
まさに生き地獄という状況の中、私に救いの手が舞い降りました。
「……これはどういう状況なんだ?」
そう、お仕事で王城へ行っていたシグルド姉様が帰ってきたのです!
「助けて、シグルド姉様!」
「甘やかしちゃダメだからね! お姉様!!」
私の心からの救助要請を即座に潰すクレセア姉様。
ひどいや!
「鬼! 悪魔! クレセア!!」
「誰が鬼で悪魔かなぁ?」
「いひゃい! ひひゃい! ほっへふぁ、ひっぱりゃないへ~!!」
こちらの暴言に頬の肉を伸ばすという体罰で応じる我が次姉。
毎度ながら怒れるクレセア姉様は恐ろしい……!
「く…クレセア。何があったかは知らないが、その辺で……」
「お姉様は黙ってて!!」
なんとか助け舟を出そうとするシグルド姉様ですが、その言葉はクレセア姉様に一刀両断されてしまいました。
何時もなら私が泣くまでお説教は続くのですが、今回は勝手が違いました。
シグルド姉様が押し黙った瞬間、突然虹色の光が溢れだしたのです。
その出所は細い手首に嵌った腕輪。
シグルド姉様が『境界門』と呼ぶ聖遺物です。
「まさか…コイツが起動したのか!? 今までどうやっても動かなかったのに!」
突然のことに私達三人はポカン。
「お姉様…私…なにかしちゃった?」
「それとも私ですか?」
「おっと! イルヴィナちゃんの可能性もお忘れなく!!」
何が起こったか分からないので全員でエントリーしたのですが、シグルド姉様の目は境界門に釘付けでスルーされてしまいました。
「そうか…やはりっ、正しかった!! 私の知識は、私の錬金術はっ、正しかった!! やはりカギはエデンズエナジー! クレセアの発したモノを取り込んで、さび付いた門が開こうとしているのだ!!」
喜色を隠し切れない声で説明をするシグルド姉様。
天才錬金術師を名乗るだけあって、原因究明の速さは流石の一言です。
そして姉様は一度大きく息をついて興奮を収めると聖遺物を付けた腕を横薙ぎに振るいました。
すると腕輪に付属していたリングが外れて宙に浮かんだそれは巨大化していきます。
宙に浮かぶ金属の輪、それはまるでトンネルの入り口のように見えました。
「宛転たる
自身の背後で起こる奇妙な事象を気にも止めずに姉様の唇は力ある言葉を紡ぎます。
「そこに在ってそこに無く、何者でもあり、何者でもない界神ネメシスよッ!」
その詠唱に合わせて姉様の背後に浮かぶリングの中央に強大な魔力が宿っていきます。
私はその光景に足の痺れを忘れるほどに背筋に冷たいものを感じました。
何故ならリングの奥から感じる気配に覚えがあったからです。
それは世界と異なる世界を結ぶ次元の門、あの遺跡で足を踏み入れた回廊と同じモノでした。
「有り得ざる
それに気づいた瞬間、私はシグルド姉様を止めようか迷いました。
いきなり違う世界に呼び出された人間の苦労と悲哀は嫌という程知っています。
ですが、生まれつき刻まれた神の気紛れの為に不自由な体だったクレセア姉様を救うには、この聖遺物に頼るしかないと言います。
別の世界からクレセア姉様に聖痕を刻んだモノ以上の力ある存在を呼び出し、その呪縛から解き放ってもらうしか。
それを実現するためにシグルド姉様はずっと苦労を重ねてきました。
姉様の努力を、苦悩を一番身近で見てきた私がどうして止められるでしょうか?
「かくてっ……汝よ現れ出でよっ!」
異なる世界と本格的に繋がったのでしょう、リングの奥の景色が大きく歪み虹色の光と共に見た事も無い何処かの景色へと入れ替わります。
「汝……時と世界の狭間に揺蕩う者よ! 境界門ネメシスとの契約に基づき、我が盾となれ!!」
一際強大な力を放ちながら遂につながる二つの世界、そして光が勢いを陰らせると聞き覚えの無い声がリビングに響きます。
「……長く、あやふやなままだった。夢なのか、現実なのか……って、何があった?」
光を失った境界門がシグルド姉様のブレスレッドに戻ると、その横に盾とスピアで武装し光り輝く純白の鎧を纏った翡翠色の髪が特徴的な女性騎士が境界門の前に立っていました。
私達の様子を見て明らかに困惑する彼女。
別の世界から呼び出された途端にこんな光景を見せられたら、そりゃあ意味が分からないですよね。
あと、口上を中断させてごめんなさい。
◆
あの後、グダグダになってしまったけれど謎の騎士さんとはコミュニケーションが取れました。
彼女の名はアウローラといって、リッター・アルシエルというエデンズリッターだそうです。
エデンズリッターというのは神の加護と力を受けた戦士の事で、並の人間とは比較にならない戦力を誇ると説明を受けました。
なるほど、彼女から感じる歴戦の気配はエスカリオでの最終決戦で前衛を張り続けたナイト職の彼とよく似ています。
共に戦場に立ったとしたら凄く頼りになるでしょう。
彼女はこことはとてもよく似ているけど異なる世界……いわゆる並行世界の住人だそうです。
そしてアウローラさん本人が呼び出されたのは無く、彼女の同位体…つまり境界門が作り出したコピーがこの世界に降り立ったとか何とか。
その辺は専門用語が飛び交っていて、いまいちわかりませんでした。
まあ、許可も無しに本人を拉致したとかではないのなら私としても一安心です。
幸いなことにお説教も中断され、力の事も有耶無耶にできました。
あとは家の防備を固めて先程のような事は無いようにと思っていたのですが……
「エルアラド聖都で淫魔が侵攻中ですか?」
「ああ、私も街中で何匹かと遭遇してな。心配になって急いで帰ってきたんだ」
私はシグルド姉様に治癒魔法を掛けながら現在起きている事を確認します。
なるほど、それは困りました。
私もシグルドお姉様も3年の間にこの国で築き上げた様々な基盤が存在します。
それは生活の為でもあり、クレセア姉様の治療の為のものでもある。
その際にお世話になった人もいるので座して見過ごすわけにはいかないでしょう。
某盗賊なニャンコ様もうるさいでしょうし。
「シグルド姉様はアウローラ様と共に、事態の解決へ向かうのですね?」
「ああ」
「仮に主が残ると言うなら一人でも向かうつもりだ。私はこの世界でもエデンズリッターだ。この剣を必要とする者がいるならば、振るうのが使命だからな」
ふむ、これは好都合です。
絶望的に運動音痴なシグルド姉様はともかくとして、アウローラ様が前衛を張ってくれるなら私も十全に力を発揮できるでしょうから。
「では私も連れて行ってください」
「な……!?」
私の言葉に場にいた全員が絶句します。
「馬鹿な事を言うな! お前はまだ子供なんだぞ! 少し治癒魔法が得意だからと言って戦場になど連れて行けるか!!」
「主の言うとおりだ。戦場は君の考えるような甘い場所ではない。大人しくこの家で待っているがいい」
シグルド姉様は烈火のごとく怒り、アウローラ様は諭すように私を止めようとします。
あとクレセア姉様、床を指さしてもう一度正座というのは止めてください!
また同じことをしたら今日一日私は立てなくなりますよ!?
「無茶は百も承知です。ですが私にも友人やお世話になった人がいます。その人達が不幸になるのを黙ってみていられません」
真剣な顔で反論するとシグルド姉様は思わずと言った感じで息をのみます。
まあ、私は今まで聞き分けの良い妹でしたからね。
こんな場面で反抗してくるとは思わなかったのでしょう。
「それに私が治癒の他に結界や破魔魔法も使えます。ここに襲い掛かってきた淫魔達を倒したのは私ですよ。ねえ、イルヴィナちゃん」
「はい! いきなり白い魔法をバンバン撃って凄かったんですよ!!」
私が話を振るとイルヴィナちゃんは我が事のようにドヤってくれました。
彼女は基本的に嘘や隠し事が出来ませんからね、こういう時は本当に助かります。
そして私は彼女の言葉を証明するためにシグルド姉様と私達の間にホーリーシールドを展開します。
「驚いたな、かなり強固な聖属性の障壁だ。これ程の物を張れる術者は教会でもそう多くないぞ」
「なんだこれは……? 私の知る結界魔法にこんなものは無いぞ」
感嘆の声を上げるアウローラ様と目を見開いて驚くシグルド姉様。
「アウローラ様、この障壁に全力で打ち込んでください」
「なに?」
「アウローラ様が歴戦の騎士なのはわかります。そんな貴方の槍を防ぐことができれば、足手まといになる事はないですよね?」
我ながら安い挑発だと思いますが、実力を示すにはこれくらいしか思いつきません。
「───いいだろう。だが、私の槍はそう簡単に防げるほど軽いモノではないぞ」
「覚悟の上です」
「おい───」
私が頷くとシグルド姉様が止める間もなく、アウローラ様は手にしたナイトランスを振るいます。
一瞬にしてこちらの動体視力を振り切る穂先が、私の作り出した障壁へ牙を打ち立てると甲高い音が家の中に響き渡りました。
「……見事だ」
果たして障壁は蜘蛛の巣状の亀裂を全体に刻まれて崩壊寸前ではあるものの、彼女の槍をしっかりと防ぎきっていました。
いやはや、流石にカリオンマァリンには及ばないとはいえ、トンでもない槍捌きです。
正直なところ、本気でビビりましたよ。
「主よ、私は彼女を連れて行く事に賛成だ」
「なにを……」
「私の一撃を防げるのならドラゴンの攻撃も凌ぐことができるだろう。その障壁で貴方を護れば私も自由に動くことができる。聖都へ侵攻している敵を駆逐するには、そのやり方がもっとも効果的だ」
そう真剣な顔で言うアウローラ様。
その眼の奥にあるのは如何に効率よく敵に勝つかを求める戦人の光、戦えるとなれば年齢など問題ないとする合理性が見えました。
そして合理は天才錬金術師たるシグルド姉様も通ずるものがあります。
「……分かった。その代わり、絶対に無茶はするな。私から離れる事も許さん」
「はい!」
心配そうな顔を隠さずに私にそう声を掛けたあと、シグルド姉様はアウローラ様を私に向けたモノとは打って変わった厳しい視線で刺しました。
「お前はセシリアは絶対に守れ! この子を連れていけと言ったのはお前なんだ、傷一つでも付いたら許さんからな!!」
「分かっている。だが、主が想っているほど、この子はひ弱ではないと思うがな」
そう不敵な笑みを浮かべながらこちらを見るアウローラ様。
どうやら彼女の目には私がそれなりに使える事が見抜かれているようです。
ともかく、これで聖都に行く許可が取れました。
帰ってきたらクレセア姉様が超怖いけど、『これはこれ、それはそれ』です!
今までせっせと育てた実験場兼練習場を守る為にも、今生初の戦場へレッツゴーです!
セシリア・アスフォディル
・クラス
クレリックLv26
ウィザードLv6
・スキル
ホーリーウェポン:味方全体の武器に破魔の特攻を付与する
マナ回復:歩くことで大地からマナを吸収し魔力を回復する
マナ交換:他者へ自らの魔力を与える事が出来る
ホーリーシールド:聖なる障壁を形成する
聖術の達人:クレリックスペルの効果を常時強化する
聖なる魂:気絶を除く全状態異常と致命・魔法致命に対する完全耐性を得る
マジックウェポン:味方全体の武器に対精霊特攻を付与する
魔力強化:自身のスペルの効果が強化される