剣の街から来た聖女のエロゲ地獄めぐり   作:アキ山

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みんな! デンズリはいいぞぅ!!

剣の街の異邦人も面白いから、VITAがあるなら新訳版をやるのもお勧め!!


テレポートの罠? ええ、三回ほど死にましたよ

 エルアラド聖王国の聖都を勇ましく出陣していく聖騎士団。

 

 セシリィ・エルアラドはその様子を王城の窓から憂い顔で見下ろしていた。

 

 エデンズリッターの中でも最上位といえるロード級リッター、リッター・ルシフェルである彼女は当初この遠征に参加する筈だった。

 

 しかしセシリィには国家元首である父が病に伏している以上、王女としてその責務を全うする義務がある。

 

 そんな彼女を戦場へ送るわけにはいかないと宮廷貴族やエルアラド教会幹部の反対があり、城に残る事を余儀なくされてしまった。

 

リッター・ルシフェルが参戦しない事は戦力的に大打撃であり、その負担を賄うのは容易ではない。

 

 死地へ赴く騎士達への胸の内で謝罪の意を示すセシリィだが、その中でも彼女の心を苛んでいる人物がいた。

 

「ごめんなさい、セシリアちゃん」

 

 それは馬上にいる賢者の後ろにしがみ付く小さな女の子だ。

 

 自らの命令によって戦場へ子供を送り込む。

 

 それがどれだけ非道なことなのかは、セシリィ自身も十分に理解している。

 

 しかし聖女と言われた自分を遥かに上回る卓越した癒しの奇跡、そしてゼノモンスでも破れない強固な障壁は遠征には必要不可欠だ。

 

 彼女の力があれば多くの騎士が生きて聖都へ帰ってくることができるに違いない。

 

 なによりセシリィが信じたのはセシリアの持つ心の強さだった。

 

「あれだけの聖術を扱えるという事は、セシリアちゃんはより強くセフィロト様を信じているのですね」

 

 セシリアを誘って行う昼食の中、セシリィは彼女へ問いを投げた事がある。

 

 ここは宗教国家だ。

 

 王も貴族も平民も神樹たるセフィロトを信仰している。

 

 それはセシリィにとって常識だった。

 

 しかし、かの少女はそれを真っ向から否定した。

 

「いいえ。私はセフィロト様を信仰していません」 

 

「え……!?」

 

「私達は生粋のエルアラド民ではありません。だから神樹セフィロトの加護を受けたことが無いのです」

 

 静かにそう語るセシリアに、セシリィは意外さで思わず言葉を失った。

 

 何故ならセフィロトを信じていないという人間と出会ったのは初めてだったからだ。

 

「で…では、セシリアちゃんは別の神を信じているのですか?」

 

 セシリィの問いかけにセシリアは少し思案した後、自分の胸に手を当てる。

 

「そうですね……私の信じる神があるとしたら、それはここにいます」

 

「むね?」

 

「悪い事をしたいと思った時に止めてくれる。困っている人を助ける時に背中を押してくれる。いつも私が胸を張って生きられるように見守ってくれている。そんな神様です」

 

「その神の名は?」

 

「良心です」

 

 笑顔でそう返すセシリアの答えにセシリィは完全に虚を突かれた。

 

「リョウシンって……良い心のあれですか?」

 

「はい。私が信じるのは私の良心です」

 

 まさかこんな答えが帰ってくるとは、セシリィは夢にも思っていなかったのだから仕方がない。

 

「セシリアちゃんは神を信じていないのですか?」

 

「……神様を信じる事は良い事だと思います。でも、神様の方にも都合や考えがあると思うんです。もし、神様が私達の望まない結果を選んだとしたら、信じていた人は裏切られたと神様を恨んだり絶望してしまう。───私はもう二度とそんな思いはしたくない」

 

 そんな事は無いとセシリィは言おうとした。

 

 神が人を裏切る事などありえないと。

 

 しかし少女の目に宿った光の剣呑さが王女の言葉を止めた。

 

「それにシグルド姉様は家が無くなってから私とクレセア姉様を育ててくれました。神に祈る事無く頼る事無く、自分の力だけで。私もそんな姉様の妹だって胸を張って言えるように強くなりたい。だから神様じゃなく自分を信じるんです」

 

 セシリィはそう断するセシリアに信仰とは別の強さを感じた。

 

 この世界に独力で立ち、己が腕で道を切り拓く。

 

 それは王女として生きてきたセシリィ・エルアラドには無い強さだった。

 

「賢者様とセシリアちゃんの強さはエルアラドの民には無いモノ。それはきっとこの遠征をより良きものにするでしょう」 

 

 だからこそ彼女は祈る。

 

 彼等の無事の帰還と、それがエルアラドへ平和をもたらす事を。

 

「頼みましたよ、ノエイン。勇敢なる者達にセフィロトの加護ぞあれ」

 

 

 

 

 どうも、8歳にして王国の尖兵とかしたキリングマシーン(笑)ことセシリア・アスフォディルです。

 

 あ、あくまでネタですよ。

 

 本気でこんな事を言ったらシグルド姉様がガチ泣きして、そこからエルアラドと敵対しちゃうんで。

 

 戯言はこの辺にして、聖都を出陣した私達は一路エルアラド王国内にあるゼノバイドの隠れ家へ向かっています。

 

 アジトの場所に関してはシグルド姉様の予測をレゾフュア先生が確かめて裏取りもバッチリなので、まず間違いはありません。

 

 姉様の元上司とかいうルドルフが反転攻勢に気が付いているかどうかは分かりませんが、上手くいけば相手の虚を突くことができるそうです。

 

 さて、民衆の声援を背に勇ましく攻め込むのもよいのですが、このままというのも芸がありません。

 

 勝ちを堅実にするには隠し玉の一つくらい開帳するべきでしょう。

 

「グランノーフィス団長、少しよろしいですか?」

 

「なにかな、セシリア嬢?」

 

 姉様の背中にしがみ付きながら私は隣を行くグランノーフィス団長へ声を掛けます。

 

「私は対象者の能力を向上させる支援魔法が使えます。実戦に先駆けて、騎士のどなたかに体験していただきたいのですが」

 

「治癒の他に障壁や聖属性の攻撃も出来ると聞いていたが、そんなものまで使えるのか。具体的にどのような効果があるのだ?」 

 

「動体視力と反射速度を向上させる事で、攻撃の命中力と回避速度を上げます」

 

「───いいだろう。進軍停止!」

 

「進軍停止! 総員、その場で停止せよ!!」

 

 グランノーフィス団長が後ろへ指示を出せば、騎士様達は一糸乱れぬ動きで即座に馬や自らの足を止めます。

 

 いやはや凄い練度ですね。

 

「これより貴様等には特級治癒術士セシリア嬢の能力向上魔法を体験してもらう! 効果如何では実戦に投入するので、真剣に取り組むように」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

「では被験者を任命する! ルンシャット、出ろ!」

 

「はいっ!!」

 

 グランノーフィス団長の声に一人の女性騎士様が隊列から出てきます。

 

 水色の髪をポニーテールにした剣と大きな盾を持った明るい雰囲気のお姉さん。

 

 彼女がルンシャット様なのでしょう。

 

「もう一人は……」

 

「ソイツは俺がやるぜ」

 

 団長の言葉を遮って馬から降りたのはシェラさんです。

 

「お前がか?」

 

「俺はおチビの護衛だからな。護る相手の手の内くらいは把握しとかないと駄目だろ」

 

 そう言っていただけるのは本当にありがたいです。

 

 でも孤児院のマーク君やルミナちゃんに申し訳が立たないので、無理だけはしないでほしいところですが。

 

「では、双方怪我をしない程度に一度打ち合ってください」

 

 そう私が告げた瞬間、シェラさんの姿が消えました。

 

 いえ、私の動体視力を振り切るほどの踏み込みでルンシャット様の懐へ飛び込んだのです。

 

「ほう……なかなかに速いな」

 

「あの女は魔剣士の異名を持つ傭兵だという。二つ名を名乗るだけの事はあるということか」

 

 アウローラ様と団長は先程のシェラさんの動きが見えていたようです。

 

 流石というべきでしょうか。

 

「シィッ!」

 

「クッ!」 

 

 そして両手に持った双剣から放たれる二連撃をルンシャット様は盾を掲げて防ぎます。

 

 いえ、防ぐだけではなく大きく前に出て体当たりのように盾をぶつけました。

 

 いわゆるシールドバッシュという奴です。

 

 ですが、シェラさんもそれを食らう程甘くはありません。

 

「甘ぇっ!」

 

 繰り出された盾に足を掛けると、それを踏み台に上へと跳んだのです。

 

「うそっ!?」

 

 こういう回避の仕方は想定していなかったのか、盾の向こうで驚きの声を上げるルンシャット様。

 

 そんな彼女の頭上ではトンボを切って天地を逆にしたシェラさんが双剣を交差させます。

 

「はぁっ!!」

 

「なんのっ!」

 

 両手を広げるようにして放たれた十字斬り、それはルンシャット様が斬り上げた騎士剣の刃によって弾かれます。

 

 鋼が噛み合う音を残して間合いを開く両者。

 

 時間にして一分も経っていない筈なのに、二人とも軽く肩で息をしていました。

 

「両者いったんやめ!」

 

 その様子を見てグランノーフィス団長が声を掛けます。

 

 さすが、いいタイミングです。

 

「セシリア嬢」

 

「では支援魔法を掛けさせてもらいます。マルチヒット! マルチアボイド!!」 

  

 私が呪と共にマナを放つと二人の体を淡い光が覆います。

 

 そして再度剣を交えた二人の動きは、先程より明らかに速度が増していました。

 

「すげえ! 身体が羽根になったみてぇだ!!」

 

「うわ、はやぁっ!? でも見える! 全部見切れる!!」

 

 先程とは倍する速度で双剣を振るうシェラさんと、焦りながらも降り注ぐ斬撃の雨を的確に盾で防いで合間に騎士剣を返すルンシャット様。

 

 いやはや本当に凄い。

 

 他人に掛けたのって今生では初めてだけど、エスカリオの時ってこんなに効果あったかな?

 

「凄まじいな。ここまでのものか」

 

「これならば、実戦での使用にも十分に耐えるだろう」

 

 シェラさん達の打ち合いを見て感心するアウローラ様たち。

 

 そんな中、シグルド姉様が私に声を掛けます。

 

「セシリア、これだけの人数に魔法を掛ける事になるが……大丈夫なのか?」

 

「ええ。少し使う魔力は増えますけど、複数人へ一度に掛ける事も出来ますから」

 

 これだけの大人数に掛けた経験はありませんが、とりあえず限界を確認してから調整する形にしましょうか。

 

 こうして全員に補助魔法の効果を体験してもらった後、行軍を続けていた私達は一面の荒野へとたどり着きました。

 

 でもって、ここでオークの大軍による迎撃を受けたのですが……

 

「オラオラ! ぶっ殺せェェェェ!!」

 

「ぎゃあっ!?」

 

「身体が軽いぜ! これなら何時もの3倍は殺れそうだ!!」

 

「ひでぶっ!?」

 

「よーし! 嬢ちゃんのエンチャントが効いている間に狩れるだけ狩るぞ!! 全員突っ込めェェェ!!」

 

「な、なんて脳き……あろっ!?」

 

 御覧の通り、殺意と戦意とその他諸々が天元突破した騎士達によって蹂躙されています。

 

 騎士団が取った行動は、敵の軍勢が見えたところでホーリーウエポンで聖属性を付与した矢の一斉射。

 

 それで相手の出鼻を挫いたところで、屈強な身体を重装備に包んだ騎士様達が突撃するという形です。

 

 元々聖騎士団は近隣諸国にまで勇名が轟くほどのエリート戦闘集団。

 

 普通でもオーク程度なら容易く蹴散らす実力があるのに、今回は各種バフ付きです。 

 

 こんな事を言うのはなんですが、戦況はただの虐殺にしか見えません。

 

「くらえ! 流星……ぐわぁっ!?」

 

 勿論全員が全員無双しているわけではなく、油断や慢心など様々な理由で怪我を負う騎士様もいます。

 

 例えば剣を大上段に構えて跳びあがったところを、カウンターで槍をくらった彼のように。

 

「やった…やった!! まずはテメエからだ!!」

 

 いくらエリート騎士でも腹のど真ん中を貫かれては簡単には立てません。

 

 そこへオークは逆手に持った槍を振り上げます。

 

「させません、キュア!」

 

 私はその騎士の方向へ手をかざすと素早く呪を紡ぎます。

 

 掲げた右手から飛んだ魔力は宙を駆ける中で治癒の力へと変化し、仰向けに地面へ落ちた騎士様へ吸い込まれると即座に傷を癒しました。

 

「うおおおおおおおっ! 何度でも立ち上がるぜぇぇ!!」

 

 すると無駄にキレッキレなヘッドスプリングで立ち上がる騎士様。

 

 これには止めを刺そうと槍を振り上げていたオークもビックリです。

 

「ちょっ!? ウソだろ!!」

 

「その首もらったぁ!!」

 

「ぎゃああああああっ!?」

 

 そして彼の放った横薙ぎの一閃は見事に敵の首を刎ね飛ばしました。

 

 さっきまで死にかけていたのに、テンション高いなぁ……。

 

 軽いツッコミは置いておくとして、私が張る探知結界の本来の用途は今しがた見せた通りです。

 

 負傷者がいる位置と負傷箇所、患部の状態を即座に解析する事で適切な処置を行えるのです。

 

 ヒーラーの役割とはパーティの命綱。

 

 敵の追撃が放たれる前に負傷した仲間を回復させる程度、易々と熟せなければ話になりません。

 

 なので、今のような不覚を取る騎士様のフォローは慣れたものです。

 

 そんな感じで戦局は大いに我々へ傾いているのですが、私には少々思う所がありました。

 

「やれる…やれるぜ! 今なら夢にまで見たあの必殺技が!!」

 

「ぎゃあああああああっ!?」

 

「激流に身を任せ同化する!」

 

「ゴメスが……ゴメスが八つ裂きに!?」

 

「ヒャッハーーーー! フィニッシュ・ヒィィィムッ!!」

 

「まったく容赦ねえ! コイツ等本当に騎士か!?」

 

「ふはははははっ!! 飛翔! Vの字斬りぃぃぃぃっ!!」

 

「なんだ、そのイカレた技ァァァァ!?」

 

 皆さん、実戦なんですからバフ効果を利用して怪しい技や奥義を練習するの止めてもらっていいですか?

  

「グランノーフィス団長」

 

「なんだ?」

 

「あれがエリート中のエリートと言われる聖騎士団の姿ですか?」

 

「…………」

 

 もはや、頭がおかしい蛮族の群れと化した騎士様達へ死ぬほど呆れた眼を向けるシグルド姉様。

 

 そんな問いに団長はそっと顔を背けます。

 

 あの様で『そうだ!』と頷くのは勇気がいるでしょう。

 

 しかし、そんな団長に加勢をする人物がいました。

 

「何処を見ているのだ、主。あれこそが正しい騎士の姿だろう」

 

「……なんだと?」

 

 それはテンションマックスで暴れ回る騎士様達の所為で、完全に出遅れてしまったアウローラ様でした。

 

 そんな彼女の弁に姉様はもちろん、私や護衛をしてくれているシェラさんも首を傾げます。

 

「主よ、騎士を志す者は須らく浪漫を追い求める。そして必殺技とは浪漫だ」

 

「つまり?」

 

「夢見た必殺技を遠慮なく試せる場に燃えぬ者は騎士ではない!!」

 

 ババーンッ! と効果音が鳴りそうなくらいに胸を張って断言するアウローラ様。

 

 なるほど? 分かりません。

 

「というワケで自由騎士である私もこの機を逃すわけにはいかん! シェラ、主達を頼んだぞ!!」

 

「おい」

 

「いいのかよ、セシリア?」

 

「ええまあ。本人が行きたいと言ってますし、シェラさんや団長もいますから」

 

 手を伸ばそうとした体勢で固まる姉様をよそに、何と言っていいのか分からないといった表情を浮かべるシェラさんへ私は頷いて見せます。

 

 しかしアウローラ様って割とポンコツだったんですね。

 

 家事が壊滅的にダメで、台所で爆発事故を起こしてからイルヴィナちゃんに家事禁止令を出された時点で片りんは見えていましたけど、実際に目の当たりにすると反応に困ります。

 

 その後、アウローラ様がガチ無双をブチかましたお陰でオーク達は無事全滅。

 

 騎士団側は死者どころか負傷者もゼロという輝かしい戦果を記録しました。

 

 グランノーフィス団長が頭を抱えていたのは、見なかった事にしましょう。

 

 

 

 

「デカブツの相手は私とアウローラ殿がする! 他の者は周りの雑魚を蹴散らせ!!」 

 

 薄暗い洞窟を切り抜いて作られた地下迷宮の中、巨体を不気味に震わせるナメクジのようなゼノモンス。

 

 エデンズリッターへと変身したグランノーフィス団長が、同じくリッターとなったアウローラ様と共に奴へと斬りかかります。

 

 こちらの周りには取り囲むようにオークや淫魔と化した植物が多数。

 

「チッ! セシリア、絶対に俺から離れるんじゃねえぞ!」

 

「ルン! 私達で賢者様と妹ちゃんを護るよ!」

 

「任せて、シャン!!」

 

 奴等が私達に牙を突き立てないのは、シェラさんやルンシャット様、シャンシャット様姉妹をはじめとする聖騎士団の皆さんが押さえ込んでいるからです。

 

「マルチヒット! マルチアボイド! マルチキュア!!」 

 

 もちろん私もただ守られているわけではありません。

 

 補助や治癒魔法を駆使して騎士団を支援しています。

 

「暴れ狂え、魔聖剣ジャギュレイターッ!! そして化け物を…切り刻めェェェ!!」

 

 団長が手にした剣を振るうと逆巻いた風と共に無数のカマイタチがゼノモンスの身体を切り刻みます。

 

「もらったっ!」

 

「ブシュルルルルッ!?」

 

 そこにアウローラ様のナイトランスが巨体の中央を穿ち、ゼノモンスは全身から赤黒い体液をまき散らして倒れ伏しました。

 

 聖騎士様十人がかりで押さえ込むのがやっとだった敵をたった二撃とは、やはりエデンズリッターの力は侮れません。

 

「オラオラオラァ!!」

 

「聖騎士団奥義! ヴァリアント・アタック!!」

 

「同じく! ヴァリアント・ピアース!!」

 

 大物をむこうに任せているのだから、こちらも怠けてはいられません。

 

 シェラさんが持ち前の速度を活かして周りの淫魔に切り込めば、それによって乱れた敵の部隊の傷を広げるようにルンシャット様の剛剣とシャンシャット様の槍が唸ります。

 

「ホーリーシャイン!!」

 

 そして三人を先鋒として他の聖騎士様達も敵の包囲を食い破る中、私は練り上げたマナを聖属性の光に変えて放ちました。

 

「ぎゃああああああっ!?」

 

「身体が…身体が崩れ……!!」

 

「ピキィィィィィッ!?」

 

 純白の魔力光が辺り一面を薙ぎ払うと、それを受けた淫魔達の身体は灰となって崩れていきます。

 

「大丈夫か、セシリア」

 

 探査魔法で討ち漏らしが無い事を確認して小さく息をつくと、シグルド姉様が声を掛けてくれました。

 

「はい。私は歩くことで大地のマナを吸い上げる事が出来ますから、余力は十分です」 

 

「魔力はよくても体力がもたないだろう。あまり無理はするなよ」

 

 自分も境界門の操作や部隊の補助で大変なのに、姉様は本当に優しいです。

 

 ですが、現在気遣いを向けるべきは私ではないんですよねぇ。

 

「はぁ…はぁ……おい、まだ首魁の所には着かないのか?」

 

 肩で息をしながらこちらへ歩いてくるグランノーフィス団長。

 

 紅潮した顔に尋常ではない汗の量と、その消耗は一目瞭然です。

 

 ですが、それも仕方がありません。

 

 荒野でオークの軍勢相手に初戦を制して数時間、ルドルフのアジトがあるこの地下迷宮に入ってからは連戦に次ぐ連戦です。 

 

 リッター・アシュタロスとして、ゼノモンス相手に最前線に立ち続ける彼女に掛かる負荷は相当なモノでしょう。 

 

「もう少しです。あと四階層下、そこから大きな魔力反応があります」

 

 そんな団長へ姉様は冷静に答えを返します。

 

 けれど、その眼は私やクレセア姉様に向ける暖かな視線ではなく、実験中の対象物を見るような冷たい光が宿っていました。 

 

「アウローラ様、あれが聖痕の疼きなのですか?」

 

「ああ、間違いない」

 

 頭に過った懸念を小声で問えばアウローラ様が頷いてくれました。 

 

 ああは言ってますが、団長自身もルドルフへ近づいている実感はある筈です。

 

 なにせ地下へと進む度にゼノモンスの投入など、防衛側の戦力はドンドン増しているのですから。

 

 ゼノモンスは受肉召喚という秘術を使わないと呼べないもの。

 

 ルドルフは受肉召喚の使い手ですが、姉様曰くその秘術で呼び出せる淫魔には限りがあるそうです。

 

 そう考えれば、虎の子の化け物が顔を出すのは確実に奴を追い詰めている証拠といえるでしょう。

 

 ですが、ゼノモンスは通常の淫魔を遥かに超える力を有しています。

 

 その強さは聖騎士相手でも、ホーリーウエポンの加護無くしては有効打を与えられない程です。

 

 なので、必然的にその相手はエデンズリッターが行う事になるのです。

 

 実は私の聖術でも倒せるんですが、前線に出てはダメって言われてますからね。

 

「なぁ、その聖痕の何たらってのはなんなんだ?」 

 

 私達の会話を耳にしたシェラさんがこちらへ声を掛けてきます。   

 

「えっと……エデンズリッターが力を使う際の副作用のようなものです」

 

「楽園の騎士となったものに刻まれる禁忌の力の代償だ。聖痕を刻まれた者は肉体の一部が過敏になり、性的な弱点となってしまう。そしてリッターの力を使えば使うほど聖痕は性的な疼きを齎し、戦闘中であっても理性を保つことさえ難しくなる」

 

「な……お前なぁ! ガキのいるところで何言ってんだ!!」 

 

「気にしなくていいですよ、シェラさん。こんなご時世ですし、淫魔達に暴行を受けた方の治療もしてますから」

 

 顔を赤くして抗議の声を上げるシェラさんを宥め、私はアウローラ様へ向き直ります。

 

「アウローラ様は大丈夫なのですか?」

 

「力の分配加減は弁えているし、主の境界門からエデンズエナジーの供給も受けている。だがノエイン団長はここに来るまで常に全力で剣を振るっていた。リッターとなって日が浅いのか、部下の手前力を抜けなかったか。どちらにせよ良くない傾向だ」

 

 アウローラ様の見解に私も頷きます。

 

 団長が退路の確保に男性騎士を迷宮の入口へ置いて、内部突入のメンバーを女性騎士にしたのは聖痕の疼きが強くなっている事に自覚があるからでしょう。

 

 現在、討伐隊のリッターは2人。

 

 その一人が使い物になら無くなれば、ルドルフ討伐は難しくなるのは必然です。

 

「───!? お待ちをッ!!」

 

 どうしようかと考えていると、姉様の鋭い声が洞窟に木霊しました。

 

 それと同時に私が張っていた探査結界に妙な反応が浮かび上がります。

 

「姉様、これは……」

 

「ああ、目の前の道は幻術だ。実態は……」

 

 そう言いながら姉様は空になったポーションの瓶を投げます。

 

 すると瓶は岩肌に跳ねる事無く床を突き抜けました。

 

「なっ!?」

 

 女性騎士の誰かが上げた驚愕の声、それを合図とするかのように歪んで消える洞窟の足場。

 

 代わりに現れたのは黒々とした口を開ける奈落でした。

 

 その底からは何かに締め付けられたかのように軋んで砕ける瓶の断末魔が返ってきます。

 

「幻術を利用した落とし穴ですね。底には触手型淫魔がびっしりと敷き詰められていましたよ」 

 

「このまま進めば落ちたところを奴等に絡めとられて、死ぬまで辱められていたな」

 

 姉様とアウローラ様の言葉を聞いて、私は深々とため息をつきます。

 

「シェラさん、どうして奴等は何でもエロスに結びつけるんでしょうね?」

 

「淫魔だからだろ。あと子供がエロスとか言うな」

 

 これだって針の山や溶岩か酸でも仕込んでおけば、簡単に敵を殺せるでしょうに。

 

 やはりこの世界の魔族は手緩い。

 

「私がもしも敵と通じており貴方達をハメる気だったなら、何も言わずにここを通らせていたでしょうね」 

 

「まあ、セシリアを連れている時点で主が裏切るという可能性はありえんのだがな。万が一そうなるとしても、それはゼノバイドの手先だからではなく妹を巻き込んだ事への怒りが原因だ」

 

 ああ、団長がシグルド姉様に当たりが強かった理由がようやく分かりました。

 

 姉様をゼノバイドの手の者と疑っていたのですね。

 

 その推測は外れではないのですが、残念なことに姉様はタッチの差で脱退しちゃいました。

 

 なので、今はスパイと疑うのは濡れ衣です。

 

「当たり前だ。妹を徴兵されてニコニコ笑っている姉がどこにいる。分かっているだろうが、万が一の時はここにいる全員が盾になってでもセシリアを無事に帰してもらうからな。そちらが引きずり出したんだ、嫌とは言わさん!」

 

 そして私がいる事で姉様はかなりストレスを溜めていたようですね。

 

 敬語が剥げて素が出てきてます。

 

「姉様、とりあえず先へ進みましょう。頭のおかしい宗教テロ組織がいては、クレセア姉様も安心して療養もできませんし」

 

「……そうだな。早くゴミを処分してクレセアの治療法を研究せねば」

 

 このまま行くと勢いのままに罵倒すると思った私は、姉様の思考を誘導しておきました。

 

 ええ、ガチ天才の姉様が繰り出す舌戦は理詰めと相手のコンプレックスを一瞬で見抜いて、そこを容赦なく責め立てますからね。

 

 味方に立ち直れないレベルのトラウマを植え付けるのは愚の骨頂ですから。

 

 ここから私達は罠を避けて迷宮を奥へと進んだわけですが、時間は通常よりも掛かってしまいました。

 

 仕掛けられた罠は多いうえに迂回路には淫魔が多数いるとなれば、そうなるのも仕方がありません。

 

「ぐ…はぁはぁ……まだ…辿り着かないのか?」

 

 その間、淫魔達の襲撃があった為にグランノーフィス団長の調子は最悪に近いレベルになってしまいました。

 

「だから言っているだろう、手当てを受けろと。そんな様では戦えんだろう」

 

 その様子にシグルド姉様が呆れ混じりに忠告を飛ばします。

 

 口調が砕けているのは道中で団長と和解できたからです。

 

 正確に言えば悪態を突こうとする度に私を徴兵したことを引き合いに出されて、ボロクソに言い負かされまくったのですが。

 

 ルンシャット様達から鬼の団長と呼ばれていたグランノーフィス様ですが、国家の命令とはいえ子供を戦場に連れて来ることには抵抗があったのでしょう。

 

 騎士道どころか人の道にもとる等々と罪悪感をザクザク責められた結果、向けていた牙を全て折られてスパイの疑いを掛ける事も止めたようです。

 

 そんなグランノーフィス団長ですが、姉様の言葉に紅潮した顔をさらに赤くして怒鳴りました。

 

「出来るわけないだろう! お前の治療とは聖痕に溜まった余剰なエナジーを抜き取る事で疼きを止めるのだろう!? セシリィ様の話ではその際には疼きは一層活性化するというじゃないか! こ…子供の目も前で…そんな……!!」

 

 どうやら治療拒否の原因は私だったようです。

 

 こちらが席を外せば団長も気兼ねが無くなるのでしょうが、ここは敵陣のど真ん中。

 

 姉様がそれを許可するとは思えません。

 

 となれば別のアプローチが必要でしょう。

 

 私は団長の所へ向かうと、その手をそっと握りました。

 

「セシリア嬢?」

 

「大丈夫です。気を楽にしてください」

 

 私は団長へそう告げると体内を循環する魔力を彼女へ注ぎ込みます。

 

 これはマナ譲渡という聖術の奥義の一つで、自分の魔力を他者へ分け与える事が出来ます。

 

 エスカリオでは魔力が枯渇したウィザード職のエルフさんによくシェアしたものです。

 

 クレリックはマナウォークで歩けば魔力が補充しますから、こういう形でもサポートしてたんですよね。

 

 魔力を譲渡といっても、こちらにある分をすべて渡すわけではありません。

 

 ルドルフの居場所はまだ先ですし、おすそ分けは残存量の半分くらいですかね。

 

 それでも人並み外れて魔力量が多い私なら、団長が問題なく動ける程度には賄えるでしょう。

 

 魔力の供給を止めて手を離すと、団長は信じられないといった顔で自分の身体を見ろしています。

 

「疼きが収まった。いったい…なにを……」

 

「私の魔力を少し分け与えました。これでも聖術の使い手ですから、リッターとの相性は良かったようです」

 

 口ではこう言ってますが、やる前に姉様とアウローラ様との魔力の流れを通して力の質は凡そ確認していたりします。

 

「やりましたよ、姉様」

 

「まったく……そういう事をする時は事前に私へ許可を取りなさい」

 

 笑顔でVサインを見せるとシグルド姉様は深々とため息をつきます。

 

 いやはや、申し訳ない。

 

 けれど、相談してダメって言われたら困りますからね。

 

 今の措置ですが、私が聖痕の疼きとその原理をこう捉えた為に行った事です。

 

 まずセシリィ様から聞いた話では、聖痕の疼きはエデンズリッターのエネルギーを使いすぎれば起こるそうです。

 

 そして姉様の治療とは、その聖痕を活性化させている余剰エネルギーを吸い取ること。

 

 つまりエデンズリッターのエネルギーは聖痕から生み出され、その消費量が増えるほどエネルギーを賄う為に聖痕は活性化する。

 

 その際に発生した余剰エネルギーが聖痕へ貯まる事で疼きが起こるわけですね。

 

 そこで私は考えました。

 

 エネルギーを別口で補充してやれば、聖痕の活動を抑えられて疼きも和らぐのではないかと。

 

 現に姉様から供給されているアウローラ様は聖痕が疼いている様子はないようです。

 

 そして姉様の魔力の流れを注視すると、境界門からアウローラ様へ注がれる力は聖術の魔力とよく似ています。

 

 エデンズリッターは神の力を振るう戦士らしいので、属性的には不思議はありません。

 

 そうして試してみた結果は大当たり。

 

 これも物事を多角的意見るというシグルド姉様の薫陶のお陰ですね。

 

 最大の問題も解決したことだし、奥へ進もうと思った時でした。

 

 私の探査魔術が魔力と共に空間の歪みを見つけたのです。

 

 こちらが捉えられたのが幸運というべき精度で放たれたそれが標的としたのは……姉様!

 

「危ないっ!」

 

「うわっ!?」

 

 それを見抜いた瞬間、私は姉様に体当たりをしていました。

 

 インドア派の姉様なら私の体でも少しは押し出す事は出来ます。

 

 そして正体不明の魔力が私を包み込むと、グニャリと探査魔法に連動した触覚が歪みます。

 

 この感覚は転移魔法ですかっ!

 

「ホーリーシールド!」

 

「セシリア!」

 

 私が障壁を展開するのと姉様の叫び、そして私が別の場所へ飛ばされるのは同時でした。

 

 数秒ほどブレてノイズが奔った視界が元に戻ると、映ったのは地下迷宮の一室。

 

「おいおい、ずいぶんとチビが来たなぁ」

 

 そして部屋の中にひしめくオーガやオークなどの淫魔達でした。

 

 パーティを分断して待ち伏せの敵で各個撃破、基本は押さえているようですね。

 

 戦闘能力の無い姉様が引っ掛かっていたらと思うとゾッとします。

 

 まあ、エスカリオの迷宮に比べたら足元が剣山や溶岩でないだけ甘いですが。

 

「こんなチビにブチ込んだら裂けちまうんじゃねえか?」

 

 ヘラヘラと笑うオーガを他所に私は冒険者用のバッグから一つの瓶を取り出すと、口に付いたボタンを押し込みます。

 

「いいじゃねえか! 入るんならオナ……ぼぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 

 それを耳が腐るような事をほざく馬鹿に投げつければ、砕けた瓶から純白の爆炎が噴き出してオーガを中心にして周りの淫魔どもを呑み込みます。

 

「な…なんだこりゃあ!?」

 

「このガキ、いったい何を持って……とにかく早く火を消せぇ!!」

 

 火だるまになってもだえ苦しむ淫魔達。

 

「アイス」

 

 私はそこへ初級の氷結魔法を放ちます。

 

 小さな手から放たれた氷柱の矢は白炎へ近づくと一瞬で溶けて水となります。

 

 そして水が火に触れた瞬間、白い炎は大きく弾けて周りへと降り注ぎました。

 

「うおおおおおっ!?」

 

「こ…これ聖属性の……あじゃぁぁぁぁっ!?」

 

 右往左往していた者や救護に当たろうとしていた輩が火だるまの仲間入りする間に、私は追加の薬瓶を奴等へ向けて放り込みます。

 

 そして逃げ場が無いように周囲へも。

 

 瓶が割れる音に次いで次々と響く爆音。

 

 部屋の中一面が白い火の海と化す中、全身に炎を纏い一部は炭化が始まったオーガがこちらへ突っ込んできます。

 

「この…このクソガキャァァァァァ!!」

 

 しかし奴の手が私に届く事はありません。

 

「ぐべぁっ!?」

 

 その前に眉間と人中を穿たれて火の海へと沈んで行ったからです。

 

「さて……懐かしい気分にさせてもらった事ですし、障害の排除と行きますか」

 

 こちらを包み込むように展開している聖障壁の中、私は炎の中で悶絶する淫魔達へ右手の人差し指を向けるのでした。

     

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