剣の街から来た聖女のエロゲ地獄めぐり   作:アキ山

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 エデンズリッターで一番気に入っているキャラ?

 セシリィ? ノエイン?

 馬鹿を言うな、『岩』だよ 『岩』!!

 星2キャラだけど完凸、スキルマ、好感度MAXまで全部やったぜ!!


 キャラ説明『岩』(ガルべリアの町にある鉱山の中で鉱脈に続く洞窟を塞いでいた岩盤の欠片。とあるイベントで配布キャラとして加入する。本当に正真正銘の岩、CVも無し)


街中に罠が仕掛けられている? え、常識でしょう

 エルアラド王城にある一室、そこでは王女セシリィを筆頭に国の首脳陣達が集まっていた。

 

 議題の内容は過日に起こった聖都襲撃と、その黒幕である秘密結社『ゼノバイド教団』への対策だ。

 

「ではエルアラド聖王国はゼノバイドという新たな脅威に対し、周辺諸国との同盟の締結。すでに結んでいる国に対しては再確認と警告を行う……という対応でよろしいですね?」

 

 決定した事項を読み上げるのは聖騎士団団長であるノエイン・グランノーフィス。

 

「はい、結構です」

 

 彼女の言葉に現状の最高権力者たる王女セシリィ。エルアラドは満足げに頷いた。

 

 国の中枢である聖都へ奇襲を受けたにも拘わらず、被害を最小限に抑えて反転攻勢を行う。

 

 その行動力から分かるようにエルアラドは近隣諸国の中でも抜きんでた大国だ。

 

 国土の大半が肥沃な大地であり、そこで取れる多種多様の農作物が国民の生活と王国の経済を支えている。

 

 近隣の国々でもエルアラドからの食料輸入に頼っている者も多く、それ故に産業の中心地として経済も大いに回っている。

 

 しかしエルアラドが大陸中央の盟主の座に就いている理由はそれだけではない。

 

「今こそ我々人類は、神樹セフィロトの傘の元で一つとなるべきなのです」

 

 セシリィが告げた神樹セフィロト、この古の神々が遺した聖遺物こそがこの国の地位を確固たるものにしている一番の要因だ。

 

 エルアラドの周辺には、この樹を御神体と崇めるエルアラド聖教を国教とする国が多い。

 

 それゆえ、セフィロトを所有し聖教の総本山たるエルアラドを宗主国と認めているのである。

 

 そしてセシリィはそれらの国々と強固な同盟関係を結び情報と兵を統合することで、ゼノバイドへの対抗策とする腹積もりだった。

 

 この案は事前に詰められていたモノであり、閣議決定は予定調和だ。

 

 本来であれば、他に議題も上がる事無く会議はこのまま終わる筈だった。

 

「しかし……会議が始まってから賢者殿は一度も口を開いていないな。他に腹案でも?」

 

 だが、それを良しとしない者がこの会議室に一人いた。

 

「いえ。王女殿下のお考えは素晴らしく、私が意見を添える必要を見いだせなかっただけでございます。……もっとも、ここまではの話ですが。」

 

 それは一連のゼノバイドによる襲撃の件によって英雄の地位まで上り詰めた女傑、シグルド・アスフォディルだ。

 

「賢者様、何か良き考えがお有りなのですね」 

 

「はい。よろしければ発言の許可を頂きたく存じます」

 

「もちろんです。その為に出席いただいたのですから」

 

「ありがとうございます。では、私の考えを述べさせていただきます」

 

 そう告げるとシグルドは腰を下ろしていた席から立ちあがり、列席していた貴族たちを睥睨する。 

 

「さきほど王女殿下はおっしゃいました。今こそ人類は一丸となって脅威に対処するべきだと。しかし、その為には何よりも先に目を向けねばならぬ場所があるはず」

 

「その場所とは?」

 

「ガルべリア皇国です」

 

 シグルドの発言に会議場の空気が凍った。

 

 セシリィも含めて誰もが息を呑む中、貴族の一人が失笑を漏らす。

 

 まるで出来の悪い生徒の的外れな答えを聞いた教師のように。

 

 そして嘲りの声が時間を追うごとに大きくなり、やがてほとんどの貴族は声を上げて笑いだす。

 

「いやはや、いったい賢者殿は何処との同盟を考えているのかと思えば……」

 

「よりにもよってガルべリアとは……世界を回ったとの触れ込みだが、大陸の北には足を踏み入れたことが無いらしい」

 

 次々と馬鹿にしたように話し出す貴族達だが、シグルドはそんな彼等の言葉など歯牙にもかけない。

 

「エルアラドとガルべリアの確執は知っています、戦火を交えて双方に多大な犠牲が出た事も。しかし事態はそれを理由に足を止める事を許しません。敵は淫魔を使役し数多の国に陰から手を伸ばす秘密結社。ガルべリアが落とされない保証はないでしょう」

 

「認めたくはないが、ガルべリアは軍事力では我が国に拮抗する大国ですぞ。狂信者共程度にどうこうできるものではありますまい。賢者殿は軍事には明るくないように見える。そうは思いませぬか、ブンドゥス大司教?」

 

 貴族の一人が声を掛けると一人の初老の男が立ち上がる。

 

 肥え太った身体を高位の僧が着る法衣に押し込み、禿げあがった頭と白くなった顎髭が特徴的な男。

 

 己の貯えた財力でエルアラドの中枢に食い込んだ豪商上がりの大司教ブンドゥスだ。

 

「所詮は余所者という事だろう。我が国民の感情も両国間の事情や力関係も分かっておらん。そんな輩が賢者などとは笑わせる!!」

 

 シグルドへ悪意を隠そうともしないブンドゥス。

 

「ブンドゥス大司教のおっしゃる通りだ!」

 

「賢者など眉唾で、王女殿下を惑わす山師ではないのか!!」

 

 そして、それはこの場に集まる貴族達も胸の内に抱いているモノだった。

 

 フラリと現れた風来坊が王女のお気に入りとなり、一連の襲撃事件で英雄の座へと収まったのだ。

 

 より強い権力を求めて日夜王宮で政争に耽る彼等にしてみれば面白い訳が無い。

 

 しかし、そんな言葉や敵意もシグルドは取るに足らないと一蹴する。

 

「そうでしょうか? 現にエルアラドはゼノバイドによって首都へ攻撃を受けました。奴等は街の内部に設置された召喚陣から現れた。つまり、この街に協力者が紛れ込んでいたという事です」   

 

 そう告げるとシグルドは鋭い視線で貴族達やブンドゥスを射抜く。

 

 そこに込められた意味は明白だ。

 

「け…賢者殿は我々を疑っておられるのか!?」

 

「実行犯が捕らえられていないのです。この街にいる全ての人間に疑いの目が向けられるのは当然でしょう。私も王女殿下も含めて、ね」

 

「たしかにその通りですね」 

 

「…ぐっ……」

 

 不敬を咎めようとしたが、セシリィにこう言われては貴族達も口を噤まざるを得ない。

 

「エルアラドは首都の内部で済みましたが、ガルべリアもそうであるとは限らない。王城や兵舎など国の中枢に転移陣が仕掛けられる可能性もある。心臓や脳に害虫が巣食うとなれば、いくら彼の大国でもひとたまりもない」

 

 シグルドは一度言葉を切るとノエインへ視線を向ける。

 

「そしてガルべリアを堕とせば、奴等はその戦力をエルアラドに矛先を向けるでしょう。なにせ淫魔王を復活させ、世界を淫魔のモノにするなんて掲げている連中ですからね。グランノーフィス団長、ガルべリアとゼノバイドを相手に二面戦争をして勝算はありますか?」

 

「……勝てる、と言いたいところだが難しいな」

 

 シグルドの問いかけにノエインは自嘲を浮かべながら答える。

 

 過去にガルべリアの侵略を跳ね除けられたのは、彼の国が大陸制覇の野望から全方面に喧嘩を売りまくっていたからだ。

 

 エルアラドと一対一では飛龍騎士という航空戦力を持つ彼等を止められたかどうか……。

 

 そこに神出鬼没で淫魔を従えるゼノバイドが絡めば、如何に聖騎士団を擁するとしても勝ち目は薄いと言わざるを得ない。

 

 そんなノエインを弱腰と罵る貴族達はいない。

 

 彼等も過去の戦争でガルべリアの力を味わった身だ。

 

 それ故にシグルドの懸念する事態の恐ろしさを肌で理解したのだ。

 

「ガルべリアとの同盟が必要なのは理解した。しかし、どうされるのですかな? 我々とて今まで彼の国を無視してきたわけではない。現皇帝のヒルデガルド陛下へ代替わりした事を機に、何度か特使を送っている」

 

「しかし、色よい返答が返って来た事など一度もないのだ」

 

 困り果てた顔で話すブンドゥス派閥ではない貴族達。

 

 そんな彼等にシグルドは自信ありげに持論を返す。 

 

「これまであればそうでしょう。ですが今は違います」

 

「というと?」

 

「エルアラドがそうであるように、ガルべリアもこの国に諜報の為の人員を送り込んでいるはずです。だからこそ、彼の国は今回の聖都襲撃も掴んでいるとみて間違いない。その首謀者がゼノバイドであることもね。だからこそ、同盟に応える可能性がゼロではないのです」

 

「なるほど。一秘密結社に大国の屋台骨を揺るがしかねない力があると知れば、余程愚鈍でもない限り何かしら対策を考える」

 

「そこに我々からの同盟の申し込みがあれば、乗らぬはずが無いという事ですな」

 

 シグルドの主張に議場の多くの貴族は納得する。

 

「貴様の言い分は分かった。では、どうやって同盟を結ぶ気だ? 国家の威信とは絶対に他者に舐められてはならぬモノ。頭を下げるのはもちろん、申し込んでダメでしたでは通らんのだぞ」 

 

「それでしたら私が特使としてガルべリアへ参りましょう」

 

「馬鹿を言うな! 貴様は他所からの流れ者だろうが! そんな輩が国の代表など片腹痛い!!」

 

「ならば私の名代として行ってもらう事にしよう。これでも近隣諸国では名が売れている、ガルべリアも無碍にはできんだろう」

 

 シグルドの言葉にブンドゥスが反発するが、それをすかさずノエインがフォローする。

 

 彼女の言う通りグランノーフィス家はエルアラドでも有数の名門貴族、それに聖騎士団長という地位が付けば正式な特使としては十分だ。

 

「私も支援させていただく。賢者殿とその妹君には先の遠征で娘が世話になったからな」

 

「必要な物資があれば遠慮なくいってくだされ。腹に穴をあけられた息子を救ってくれた恩人なのだ、助力は惜しまんよ」

 

 ノエインが助力を確約すれば、軍部を始めとする貴族たちは挙ってシグルドへ協力を申し出る。

 

 彼等の師弟は騎士団や聖騎士に属しており、アスフォディル姉妹には恩義を感じていたからだ。

 

 こうしてシグルドは特使としてガルべリアへ赴くことが決まった。

 

(ガルべリアには『神骸リリス』という聖遺物があると聞く。それを調べる事が出来れば、境界門の仕組みを解き明かす一助になるかもしれん。それにクレセアの身体を治すヒントが隠されている可能性もある)

 

 シグルドが最愛の妹達を置いて外国へ向かうのはこれが理由だった。

 

 自身の思惑通りに事を運んだ稀代の天才錬金術師は誰にも見えぬようにほくそ笑むのだった。

 

 

 

 

 どうも、ようやく国家に強いられた労働から解放されてホッとしているセシリアです。

 

 聖都の復興も一段落したことで臨時診療所も閉鎖となり、私もようやくお役御免になりました。

 

 あ、しっかりとお給金はいただきましたよ。

 

 スラムでの医療行為と違って国の命令だったんだから当然じゃないですか。

 

 さて、今日は久々にスラムへ来ています。

 

 診療所勤めの時は時間が取れなくて、治療途中の人はわざわざ足を運んでもらってましたからね。

 

「よう、路地裏の聖女様。久しぶりだな」

 

 そんな事を考えながら歩いていると、早速道端の瓦礫に座る見知った男性と出会いました。

 

「お久しぶりです、カインズさん。その腕はどうしたんですか?」

 

 彼はここ一帯で本職ではない荒くれ者のまとめ役になっているカインズさん。

 

 普段なら男手を色々と仕切っている彼ですが、今は右手を三角巾で吊って大人しくしています。

 

「石工の日雇いに行った時に腕を石の間挟まれちまってな……」

 

「なるほど……。」

 

 三角巾と巻かれた包帯を外してみると、患部である右の前腕部は赤黒く腫れています。

 

 傷を刺激しないように彼の手の甲を指先で触れて魔力を流すと、その反響から症状を掴むことが出来ました。

 

 前腕部にある二股に分かれた骨、橈骨と尺骨のちょうど中間。

 

 骨間縁の部分がニ本とも圧壊している。

 

 それに筋肉や血管も圧し潰されて損傷していますね。

 

 このまま放置すれば骨が歪に癒着して後遺症を残す恐れがあります。

 

「慈悲深き御手よ、彼の者を苦痛から解き放ちたまえ。───ヒール」

 

 雰囲気づくりの枕言葉を添えて治癒魔法を発動させると、淡い光に包まれたカインズさんの右腕は見る見るうちに腫れが引いて元の形へ戻っていきます。

 

「おお! 痛みが消えた! 指を動かしても響かねえ!! ありがとよ、嬢ちゃん!!」

 

「いえいえ。このくらいお安い御用です」

 

 喜ぶカインズさんをしり目に、私は自分の手を見つめます。

 

 損傷度が高めの骨折を治癒するのに3秒か……。

 

 前よりはタイムが縮みましたが、まだまだ未熟ですね。

 

「セシリア。また、あそこが痒くなってさ……」

 

「あぁ……(カンジタと梅毒の初期症状ですね)。ヴァレリアさんは職業が職業だから仕方ないですけど、こまめに来てくださいね。この手の病気は放っておくと取り返しの付かない事になりますから」

 

「あの聖女様。赤ちゃんの元気が無くて熱もあるみたいなんです」

 

「(発疹に高熱……麻疹で間違いないようです)幼き命に忍び寄る病魔の手を祓いたまえ、ヘルス・キュア。───処置は行いましたので、もう少しすれば熱は下がるでしょう。そうすれば数日で発疹も収まる筈です」

 

「ありがとうございます!」

 

「ですが、この病は大人も罹る可能性があります。お母様の病魔も祓っておきますね」

 

「セシリアー! パンくれよ! パン!!」

 

「わかりました。皆で分けるんですよ」

 

「ヒャッハー! パンだぁぁ!! シェラ姉ちゃんには俺等が来た事を言うなよな!!」

 

 久々に来ましたが相変わらずにぎやかですねぇ、ここは。

 

「凄いですね、セシリアちゃんは」

 

 パンを満載したカゴを手に去っていく孤児院の子供達を見送っていると、本日護衛を買って出てくれたリッター・イブリーズことセレナ様が感心したように声を掛けてくれます。

 

「そうですか?」

 

「はい。治癒魔法の腕もそうですが、社会からあぶれた方々を無償で癒すなど聖職者でもそうはできません」

 

「別に慈善事業でやっているわけじゃないです。聖術の腕が上がればクレセア姉様の助けになれる、だからですよ」

 

 そう、これはあくまで私の為にやっていることです

 

 だからこそ無償でプラマイゼロ。

 

 誰かに褒められる理由はありません。

 

 そんな事を話しながら次の患者を求めてスラムを歩いていた私は、えらくファンキーなモノを見つけてしまいました。

 

 それは胸と股間丸出しの夜の営み用としか思えない服装を着た女性の方。

 

 俯いて荒い息を吐いていますが、背中の半ばまである金色の髪と整った顔つきから相当な美人なのは容易に想像がつきます。

 

 それ以上に目を惹くのはたわわに実った山脈の先端にハメられた金属でできた金色の輪と下腹部に刻まれた妙な形の入れ墨でしょうか。

 

 娼館から逃げてきた女性というのはスラムでは珍しくありません。

 

 私もこの活動を始めてから何度か助けたこともあります。

 

 ですが、彼女はそういった類とは別に見えます。

 

 なんというか……一般人には無い気品のようなものを感じるんですよね。

 

「……酷いですね」

 

「ええ。とにかく手当てをしましょう」

 

 不快感を隠そうとしないセレナ様の言葉に頷いた私は、すぐに女性へと駆け寄ります。

 

「お…お前……は……?」

 

「通りすがりの治癒師ですよ。無理に動かないで」

 

 意識が朦朧としているのでしょう、焦点がイマイチ合っていない目を彼女は向けてきます。

 

 彼女へそう言葉を掛けて頸動脈から脈を図りつつ、体内へ精査の魔力を流す。

 

 そうして返ってきたのは予想以上に悲惨な結果でした。

 

(神経を強制的に活性化させた痕跡がある。それに過度の興奮作用で脳の毛細血管にもダメージが。投与されたのは媚薬の類か。他には肝臓や腎臓にも機能低下が見られる。過度の薬物投与に対する成分ろ過のダメージが蓄積したのだろう。外傷はピアスが付いている乳頭部への穿孔痕、それと背面表皮への複数の裂傷。これは鞭による殴打が原因か。あと……耳を切られている? もしかしてこの人はエルフなのか?)

 

 医療に関わる端くれとして、頭が痛くなるような状態です。

 

 ですが今は驚いている場合じゃありません。

 

 このままでは彼女は長く生きられません、早急に治療をしなくては。

 

「病める人へ慈悲の……以下略! ハイ・キュア! ヘルス・キュア!!」

 

 治癒と状態異常の修復、二つの効果を込めた聖術が彼女の体を包み込ます。

 

 すると背中の傷や下腹部の入れ墨は巻き戻るように消え、胸の先に付けられてた輪も再生した肉に押し出されるように外れて地面で甲高い音を立てる。

 

 凌辱を受けてあまり間もないのが幸いしたのでしょう、性病やデリケートな部分に付いた傷を治癒した際に純潔も元に戻ったようです。

 

 最後に半ばから斬り落とされて人のモノのような形になっていた耳は、失った部分の全てを再生して記憶にあるエルフと同じようにピンと鋭角な姿を取り戻しました。

 

「息苦しさが消えた……? それに身体のダルさも感じない……」

 

「貴方に打たれた薬の効果と副作用、それによる体の損傷を治癒しました。もう大丈夫ですよ」

 

 私は魔法で内部空間を拡張したバッグから毛布を取り出して、彼女へと掛けてあげます。

 

 今、身に着けている衣装はあまりにも酷い代物ですから。

 

 この辺は乙女の情けです。

 

「斬り落とされた耳まで……。ありがとう…ありがとう!」

 

 耳が回復しているのを自分で触って確かめたエルフさんは、感極まって私に抱き着いて涙します。

 

 けれどフードに込められた認識阻害の魔法で誤魔化していても、この体は8歳児のモノ。

 

「ぐえっ!?」

 

 彼女の身体を支える事は出来ず、後ろへひっくり返る事になってしまいました。

 

「えぇっ!? こんなに小さい子だったなんて!」  

 

「セシリアちゃん、大丈夫ですか?」

 

「だ…大丈夫です」

 

 やれやれ、ひっくり返った拍子にフードが取れてしまったようですね。

 

 私の顔を見たエルフさんが随分と驚いています。

 

 なんとかセレナ様の手を借りて立ち上がった私は改めて彼女に向き合います。

 

「名乗りが遅れましたね。私はセシリア・アスフォディルと申します」

 

「この子の護衛をしているセレナ・スラフニールです」

 

 私達が自己紹介をすると彼女は居住まいを正してこう返しました。

 

「こちらこそ、助けてもらったのに名乗りもせず失礼を。私はエミリー。『シルマリル』で副将軍をしています」

 

 彼女の名乗りを聞いた瞬間、私の背中を嫌な汗が流れました。

 

 シルマリルが何処かは知りませんが、エミリーさんは副将軍を務める傑物らしいです。

 

 そんな彼女がどう見てもアレな奴隷になっていた?

 

 どういう事だってばよ!?

 

「あの……『シルマリル』というのは?」

 

「ああ、貴方のような子供では知らなくても無理はないですね。シルマリルはガルべリアに隣接する森に囲まれた緑豊かなエルフの国です」

 

 ガルべリアってたしかこの国の仮想敵国筆頭でしたよね?

 

 これって凄くヤバいのでは……。

 

 エミリーさんが言うには、狂帝ガルベロスという一代前の皇帝時代にはガルべリアはシルマリルに侵略戦争を仕掛けていたそうです。

 

 そしてガルべリアの軍や貴族は資金集めやアレな目的の為に、捕らえたシルマリルの民を奴隷として売買を行っていたのだとか。

 

 しかし代が変わって今の皇帝になるとガルべリアはシルマリルと同盟を結び、エルフはもちろん人間の奴隷の所持や売買が一切禁止になりました。

 

 それでもエルフは裏社会では高価で取引される為、かつて奴隷売買に手を染めていた貴族達は秘密裏にシルマリルの民を捕らえては奴隷として売り出していたそうです。

 

 馬鹿は死んでも治らないという典型例ですね。

 

 もちろん現皇帝はそんな事を許しておらず、彼女の許可を得てエミリーさん達は密売の元締めである貴族を倒そうとしました。

 

 しかし敵の罠に嵌って彼女は部下共々捕らえられてしまいます。

 

 そうして奴隷に落とされた彼女は裏の奴隷売買へ売りに出され、エルアラドの貴族が彼女を購入。

 

 いいように弄ばれながらも一瞬のスキを突いて逃げ出した彼女は、このスラムで力尽きていたそうです。

 

「セレナ様。国政を担っていたモノから見て、これってヤバいですか?」

 

「……はい。シルマリルやガルべリアに知られれば、宣戦布告の理由にされてもおかしくはないかと」

 

 シィィィィィィィットッッ!!

 

 なんてこった! 爆弾なんてレベルじゃねえ!!

 

 つーか、エルアラドも奴隷はアウトなのに、馬鹿貴族は何やってんですか!!

 

「こんな所まで逃げるとは、往生際の悪いメスだ」

 

 思わず頭を抱えそうになっていると、少し遠くから下卑た声が聞こえてきました。 

 

 声がした方へ目を向けるとチンピラ丸出しのガラが悪い輩を連れた、身なりだけはいい肥えたオッサンがこちらへ歩いてきています。

 

「あの男です! あの男が私を買った貴族です」

 

「ですよね」

 

 一目見たら、すぐに分かりましたよ。

 

 すごいなー、下種な本性って顔に出るんだなー。

 

 我ながら死ぬほど白けた眼を違法貴族様とやらに向けてしまいましたが、ぶっちゃけ仕方が無いと思います。

 

 ええ、民の規範となるべき人間が率先して法を破っているのですから。

 

 権力者は得てしてそういうモノなんでしょうが、実際に目の前に来られると……ねぇ。

 

「何時までも図に乗るなよ! もう卑劣な薬の効果はない! 今までのように好き勝手出来ると思うな!!」

 

 怒りに燃えて立ち上がるエミリーさん。

 

 今まで受けた責め苦で失った体力が回復しきっていない為に足元が少々覚束ないですが、彼女の覇気は副将軍を務めるだけあって常人なら震え上がるほどです。

 

 しかしそんなエミリーさんの睨みを受けても貴族は余裕を崩しません。

 

「馬鹿め。貴様等エルフなど、いくら粋がった所で無力なのだ」

 

 そう言うと奴は懐から小さな小瓶を取り出しました。

 

「そ…それは!?」

 

「このボルラッドの滴の前ではな!!」

 

 男が瓶の栓を開けて薄桃色の液体を地面に少量垂らすと、次の瞬間エミリーさんの身体が崩れ落ちました。

 

「エミリーさん!」

 

「ぐ…ぅ……おのれぇ……」

 

 汚れた路地にうつ伏せになりながらも必死に顔を上げようとするエミリーさん。

 

 ですが、その体は痙攣するだけで彼女の意思に応えようとしません。

 

「貴方は彼女に何をしたのです!」

 

 私が倒れたエミリーさんに寄り添うと、セレナ様が私達を守る様に貴族達の前に立ち塞がってレイピアを突き付けます。

 

「これはガルべリア貴族に伝わるエルフ殺しの秘薬だ! この薬の匂いを嗅げばどんなエルフだろうと、見た通り無様に這いつくばるのだよ!!」

 

 馬鹿貴族は自慢げに語っていますが、匂いなど全く感じませんでした。

 

 その用途を考えれば、あの薬品は恐らく無味無臭。

 

 しかも揮発した少量の薬で効果が出る強力なモノです。

 

「チッ!」

 

 私は舌打ちをしながらエミリーさんやセレナ様を囲うように聖障壁を張ると、すぐに彼女の診断を行います。

 

(運動系の神経に異常あり。薬品が原因の麻痺と思われるが、別の成分が意識と感覚の喪失を阻止している? しかも各臓器や自律神経にまったく影響が出ていない)

 

 魔力の反響を通してエミリーさんの状態を確認した私は、ボルラッドの滴とやらのあまりの悪辣さに絶句しました。

 

 この毒はエルフにのみ通用するように調合されており、その効果は生命維持や意識、さらには五感に影響を全く及ぼさずに運動能力の身を麻痺させる代物です。

 

 普通全身の動きが不能になるほどの神経毒なら、内臓などを動かす自律神経や脳に悪影響を及ぼして相手が死に至ってもおかしくありません。

 

 ですがこの毒は調合された他の毒効によって命に係わるような影響を阻害、もしくは中和してのけているのです。

 

 生きたままエルフを捕らえるという執念が懲り固まったような毒薬。

 

 これを解析して解毒薬を作成できる者がいるとすれば、シグルド姉様のような天才くらいのモノでしょう。

 

「慈愛と共に差し伸べられし御手よ、身を犯せし悪意からこの者を救う力とならん」

 

 ですが、私には聖術があります。

 

「汝が背負いし罪穢れを祓い給い清め給う、───ヘルス・キュア!!」

 

 かつては闇の大神や魔神の与えた悪影響すらも治癒できたのです。

 

 患部と影響さえ分かれば如何に天才が作った毒だろうと、治せない道理がどこにあるでしょうか!

 

 全力全開で放った治癒の光がエミリーさんの体内に染み込むと、次の瞬間には彼女はさっきまでの様子がウソのように立ち上がります。

 

「身体に力が入る。信じられない、ボルラッドの滴を解毒できるなんて……」

 

 驚きの顔で指を開閉する自分の両手を見るエミリーさん。

 

「ば…馬鹿な! この薬は大戦時はエルフの王にも通用したと言われているんだぞ……!」

 

 一方の貴族は私が解毒した事が信じられないのか、ショックのあまり数歩後ずさりをしています。

 

 ですが、この程度で諦めるほど聞き分けの良い輩ではないようです。

 

「ならば実力行使だ! お前達、エルフを捕えろ! ついでにあのガキと女もだ!!」

 

 背後に控えていた荒くれ者達に命令を下す馬鹿貴族。

 

 しかし、その怒声に返ってきたのは白目を向いて倒れる部下達の身体が地面を叩く音でした。

 

「おいおい、いったい誰を捕まえるって?」

 

「お前さん、知らないのか? ここでお嬢に手を出すのは『殺してください』って言ってるも同然なんだぜ」

 

 代わりに現れたのは大きな一本角を持ち頑丈な灰色の甲皮を持ったサイに似た獣人さん、そしてウナギを人型にしたような獣人さんでした。

 

「ダーゼルブさん! エレゲンさん!」

 

 私は見知った顔が現れたことに思わず歓声をあげました。

 

 そんな私にセレナ様が小声で問いを投げてきます

 

「あの…セシリアちゃん。あの方々と知り合いですか?」

 

「はい。彼等はこのスラムを取り仕切る『五人衆』のメンバーなんです」

 

「淫魔…ではないのですね」

 

「ええ。獣人さんですよ」

 

 そんな私達の話を聞いてか聞かずか、ダーゼルブさん達は気さくに声を掛けてくれます。

 

「相変わらず災難に好かれているな、聖女様」

 

「今日はミャーの嬢ちゃんと一緒じゃないのか?」

 

「はい。ミャーマオちゃんはどこかに遊びに行ってるみたいです」

 

 軽く世間話をしながらも、馬鹿貴族の首にはエレゲンさんの背中から生える触手が絡みついています。

 

「事情は詳しく知らんが、状況を見れば大方の予想はつく」

 

「そこのエルフを買った奴隷商について吐いてもらおうか。俺達の縄張りで腐った真似をされるのは気に入らないんでな」

 

「ぐげぇぇぇっ!?」

 

 馬鹿貴族の肥え太った身体を吊り上げながら、脂肪に塗れた首へ触手を食い込ませるエレゲンさん。

 

「ぎ…ぎざま! ごの…うずぎだない獣人ぶぜいがぁ!! ぎぞぐたるわだじを……しげいにしでやる!!」 

 

 酸欠で顔を蒼ざめながらも貴族はダミ声で必死に叫びました。

 

 この状況であれだけ悪態を付けるのは、ある意味感心の自尊心です。

 

「笑わせんな。奴隷に手を出した時点で死刑台に登るのはテメエだよ。なんなら───」

 

 そんな馬鹿貴族の言葉を嘲笑するエレゲンさん。

 

 彼が4本ある触手の一つを廃屋から飛び出た柱に巻き付けると、次の瞬間には紫電が目に見えるほどの強烈な電撃によって柱は粉々に弾けて燃え上がりました。

 

「エレゲン様特製の電撃刑で今すぐあの世に送ってやってもいいんだぜ?」

 

 これには馬鹿貴族の虚勢混じりのプライドもあっさりと吹っ飛んだようです。

 

「あの女はガルべリアで買ったんだ! ボルロイって貴族が闇オークションを開いていて、私の所にも招待状が来たから……本当だ! このスラムで買ったんじゃない!!」

 

 涙と鼻水、下からは汚水を流しながら必死に説明を並べる馬鹿貴族。

 

「そうか。ご苦労だったな」

 

 それを聞いたダーゼルブさんは人差し指の先で馬鹿貴族の脳天を軽く叩きます。

 

「けぺっ!?」

 

 するとそれだけで貴族は白目を向いて失神してしまいました。

 

 よく見ると叩かれた部分が軽く凹んでいるように見えるのは気のせいでしょうか?

 

「セシリアの嬢ちゃん、コイツを官警に突き出してくれ」

 

「いいんですか?」

 

「こんな奴でも貴族だ、俺達が消しちまうと色々カドが立つ。そこのエルフの件を説明するのにも必要だろうしな」

 

 気を失った馬鹿貴族の後ろ襟を持ってぶら下げるダーゼルブさんにそう問いかけると、エレゲンさんがこう答えてくれました。

 

 それからダーゼルブさんにスラムの入り口まで馬鹿貴族を運んでもらった私達は、巡回の兵士さんへ事情を説明しました。

 

 兵士さんは犯罪者が貴族という事で逮捕の為に聖騎士様を呼んでくれたんですが、私の名前を出した所為か来たのは副団長のドゥークロイ様でした。

 

「例の遠征以来ですな、聖女様。しかしガルべリア主導の奴隷の闇売買に、被害者はシルマリルのエルフとは……これはまた厄介な事に関わったモノだ」

 

「お手数を掛けます」

 

「いやいや、腐敗貴族の犯罪を暴いてくれただけ我々としては感謝ですよ。では詳しい事情を伺いたいので、皆さん聖騎士団の詰め所までご同行願いますかな」

 

 そんな訳で私達は聖騎士団の詰め所へと向かう事になりました。

 

  

 

 

「エミリー副将軍閣下。此度の無礼、エルアラドを代表してお詫び申し上げます」

 

 謝罪の言葉と共に、セシリィ王女殿下は苦渋に満ちた顔でエミリーさんへ頭を下げました。

 

 詰め所へ着いた私達はドゥークロイ様に事の次第を報告しました。

 

 ちなみに馬鹿貴族は騎士様達によって地下牢へ放り込まれたそうです。

 

 全ての事情を聴き終えたドゥークロイ様は、すぐに王城へ連絡しました。

 

 曰く「いやぁ、政治的問題過ぎて一介の騎士の手に余ります。かと言って宮廷雀共を呼ぶとややこしくなるので、トップにまずは事情を知ってもらおうと思ったんです」とのこと。

 

 そうしてやってきたのはセシリィ様とグランノーフィス団長でした。

 

 さて、説明も終わったし王女様達も来たことで後は政治的な話となるでしょう。

 

 つまり私達パンピーはいる必要がありません。

 

「あの、ドゥークロイ様。私達、もう帰っていいですよね?」

 

「そうですな。あとは上が判断する事だけですし、大丈夫だと思いますよ」

 

 ドゥークロイ様からの許可も出たので、部屋を出る為に席を立った時でした。

 

「ちょっと待ってください!」

 

 私達は何故かエミリーさんに呼び止められたのです。

 

 ふむ、あれでしょうか?

 

 もう会う機会も無いでしょうから、最後に改めて礼を言う的な。

 

 そんな事を考えながら気楽に振り返ると、エミリーさんは真剣な顔でセシリィ様へ語り始めました。

 

「此度の件、シルマリルとしても大変遺憾に思います。原因はガルべリアの腐敗貴族にあるとはいえ、貴国の領主たる者が奴隷売買に手を出して我等を貶めたのは事実。本来であれば大きな国際問題へと発展する事件であると愚慮します」

 

「……おっしゃる通りです」

 

「ですが我々シルマリルが動けば、同盟国であるガルべリアもエルアラドと敵対する事になりかねません。大陸の政情が不安な現在において、それは避けねばならない最悪の事態。故に一つ条件を呑んでくださるなら、この件はエルアラドとシルマリル間の内々で処理したいと考えております」

 

「その条件とは?」

 

「そちらの聖女、セシリア・アスフォディル嬢をシルマリルへ派遣していただく事です」

 

 ……なんやて?          

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