小説オンリーというのもあったけど、裏で久々のお絵描きもしてたのでちょっと遅くなりました。
30kb前後で負えるつもりが膨れに膨れて40kbぐらいになってて我ながら笑いましたw
京都市内。京都タワーの展望台の上に、一つの影あり。金髪の女性を象った簡易シキガミ「プロダクト23」系列の統括個体の1人、エイブだ。
本来技術屋ではあるがある程度の戦闘能力は持たされており、助手として与えられた変形型デモニカ『クロスボーン・ガンダムX-2』を装着し、高所からの索敵などを行っていた。
「こちら第1観測班、エイブ。本部、マスターが戦闘を開始。結界外への漏出MAG許容値。引き続き観測を続ける。介入はしなくてもいいのか?」
『本部了解。介入は不要です。マスターが本気で
「了解。観測範囲での大気中のMAG許容値、不要ではあろうがMAGバッテリーへの充電で回収を試みる」
『お願いします。大気中のMAG濃度にも注意を払ってください。各観測班、異常ありませんか?』
『第1観測班、ピナです! 壬生寺以外での戦闘も現状二か所、近藤さんや大蛇丸ニキさんからも手出し無用と報告を受けているので現状周辺警戒に留めています』
『第3観測班、異常ないっぺ』『
キャナルの問いに、エイブのX-2の同型機『クロスボーン・ガンダムX-1』を装着した戦闘タイプの統括個体『ピナ』を始めとする観測班からの報告を受け、キャナルは大きく安堵の溜息を漏らす。
『本部了解。各観測班、引き続き市街全域の索敵とモニタリングを続けてください。エイブさんは壬生寺のディバイディングフィールド内の観測に注力を。何か異常あればすぐに私に教えてください』
「了解。文化財が壊れるか否かの瀬戸際だからな、*1その程度はちゃんとするさ。戦闘タイプのピナはともかく、技術屋の私が引っ張り出されていることに思うところはあるが」
本音である。エイブ自身デモニカであるX-2を加え相応の戦闘力自体はあるが、その専門は技術屋である。
それが戦場に駆り出され、安全圏からとは言え最前線の監視をさせられているという状況には、彼女としては『もっと適材がいるのでは?』と思わずにはいられなかった。
『それ私やアイリスさんに言えます?』*2
「それを引っ張り出すのはルールで禁止だろう」
『マスター関連はルール無用なんですよ。ともあれ、エイブさんの感覚器は繊細で微細なデータまで拾えますから。
結界内とは言え、京都市街地でマスターの全力という状況での細かな環境変化まで余さず感知し記録するという役目としては
「……はぁ。まあ、褒められて悪い気はせんがな」
エイブはそう言うと苦笑し、大きなため息を吐いた。
京都某所。グリセルダ率いる獣化兵軍団対悪霊オキタソウジの戦いは、以外にも沖田が圧倒という程ではないものの優勢であった。
これは沖田がレベル60台ほどに対してリベルタスが40程、グリセルダが50程、しかし直接戦闘能力は高くないためであったのに加え、リベルタスの最大の特徴である形態変化が封じられているというのも大きい。
リベルタスは肉弾戦メインのモードA、射撃戦ベースのモードBを切り替えつつ戦うというのがコンセプトなのだが、ここは京都。リンではないが、壊していけないものなどそこら中にある。
その為リベルタスは肉弾戦のみで戦う事を強いられているのであった。
「ふむ、シンプルに早く、正確に急所を狙ってくるのね。流石は『最強の剣』*3という事かしら」
そう寸評する大蛇丸ニキであったが、優勢ではあるものの、沖田もまた攻めあぐねていた。
速度で翻弄し確実に急所を貫いているが、リベルタスが傷つけばグリセルダが癒し、グリセルダを狙えばリベルタスがその身を挺して攻撃を阻止する。
リベルタスたちの連携そのものも練れており、
レベルや基本性能で劣る獣化兵達をもって最強と名高い沖田総司を苦戦させる。それを成しえているのは、意外にもお互いに対する揺るぎない信頼と忠義である。
リベルタスはグリセルダに魂レベルで服従するように作られているが、それを選び、獣化兵への改造を志願したのは
彼らはかつて、リンのけして踏み込んではならない場所へ土足で踏み込んだ。そしてそれを知り、悔い、そしてその身を投げうち実験体になる事を志願した。
自分達は決して許されないことをしてしまった。この身を擲つ事で許されるとは思わない。だが、謝罪が受け入れられないとしても、自分達は死すら許されずに苦しみ続けねばならない。
そう誓い、ヒトとしての尊厳すら投げ捨てて実験体となり、人造デビルシフター『
与えられた獣化兵という強靭な肉体、そして共に戦う仲間への信頼、そしてそれを与えてくれたガイア連合への忠義。この二つの柱をもって、リベルタスは現行の量産型獣化兵の中で最強の性能を持つに至ったのだ。
「皆、まだ動けるな!」
「無論だ! 負傷はグリセルダが癒して下さる。動きが早いが……相手は単騎! 霊格で負けているにせよ、勝てぬ戦いではない!」
「そうだ。斬られ、貫かれ、それでも死ねぬ苦しみとはいえ……この程度の痛み、何するものぞ! 我々のかつての過ちに比べれば……!」
「幼女ネキ様への事だけでもない。今目の前にいる彼……ソウジ・オキタを、シンセングミという英霊たちを。これ以上悪霊として彷徨わせるなど、あってはならん」
「彼らシンセングミは、かつてこの地を守り、正しき義の下に剣を振るった誇り高き戦士……それを、生者を恨む悪しき霊として、これ以上罪を重ねさせてはいかんのだ!」
彼ら【軍勢シンセングミ】は、この京都の地に眠る怨念、そして『負けた者達なのだから無念や恨みがあってしかるべき』という思いと結びついて生まれた悪魔だ。
メシアンでなくなったとはいえ、彼らもまた人を守るために剣を取った者達。そんな誇り高き戦士たちを、一刻も早く眠らせてやりたい。その思いが、今リベルタスたちの闘志を支えている根幹であった。
その為の力が、今の自分達にはある。死すら許されぬ、それは、死を恐れる必要はないともいう事。ならば今は死力を尽くし、目の前の悪霊の『闇を払う』。それが、我々のやる事だ。
「知った風な口を聞くな、異人共が!」
激昂する沖田。怒りに染まってもなおその白刃は狙い過たず急所を貫く。しかし、そこから先が動かない。
リベルタスが突き刺さった刃を筋肉で締め上げる事で固定し、それに戸惑った瞬間リベルタス全員が組み付き、その動きを封じる。
「ならば知っているか、ソウジ・オキタ! お前たちシンセングミは、今の時代様々な物語で語られていることを! 今の時代、お前たちは『侍が終わる時代に侍の道を貫いた者達』として親しまれていることを!
お前たちは、その生き様で今を生きる者達に光を、希望を与えているのだ! 私達にはできなかった! 10にもならぬ幼子の心すら慮れない私達では、お前たちのようにはできなかったのだ!
だから、お前たちがそんな憎しみや、怒りや、恨みに濁った眼差しをしていいはずがないのだ! ――――――グリセルダ!」
「ええ。ナンバー1から3、モードB」
グリセルダの言葉と当時に、沖田に組み付いたリベルタスの内、突き刺されている1体を含めた3体の肩が膨れ、水晶と複眼を合わせたような器官を有した形に変形する。これは先述したリベルタスの特色、モードチェンジだ。
調整を施された【聖獣キマイラ】の悪魔カードを埋め込まれ悪魔変身者となったのがリベルタスであるが、レベル不相応な戦闘能力を持たせるため、肉弾戦ならモードA、射撃(魔法)戦ならモードBにならないといけないという『縛り』が施されている。
本来周囲への被害を抑えるために禁じられていたが、この至近距離であれば―――
「今は眠れ……これからお前たちが、救って行く者達のために!」
直後、爆発。極小範囲で至近距離から放たれた放射型の【ジオダイン】は、リベルタス達もろとも沖田を焼き尽くす。
爆炎が収まった後、そこに残ったのは黒く炭化した、しかし今だ息のあるリベルタスと、リベルタスが押さえ込んでいたために焼け残った沖田の腕の一部であったのだという。
『近藤さん、悪霊オキタソウジ、討伐完了しました。残るはマスターとそちらですが……応援を向かわせますか?』
「……そうか。いや、大丈夫だ、キャナルさんはマスターの方に注力してほしい」
通信を切り、近藤は目の前の相手を改めて見遣る。憎しみに歪んだ自分と同じ顔、悪霊の『近藤勇』。
「総司が逝ったそうだ。マスターが本気になった今、芹沢さんもじきに祓われるだろう。……我々も片を付けようか」
「舐めるな……ッ!」
激しく打ち合う2人の近藤勇。沖田同様に怒りと憎しみに溢れながらも、黒の悪霊の太刀筋には聊かの狂いもない。
それを油断なく受け流し、浅葱の英傑もまた全力でその怒りと憎しみに応える。幾合か撃ちあった後2人は同時に飛び退り、黒の悪霊が負の感情に満ちた口を開いた。
「何故だ……何故だ、
生まれた理由は違えど、お前も『近藤勇』であるのなら! 仲間を置いてむざむざ首を切られた事に、何も感じてはいないはずだ……
その言葉に浅葱の英傑は一瞬目を見開き……しかし直後、悲しげに微笑む。
「違わんさ。何も違わない……恨んでいない訳でもない。己をふがいない負け犬だと思っていない訳でもない。
ただ、違いがあるとするなら……そうだな、私はお前より、ほんの少しばかり知っていることが、持っている物が多い。ただそれだけの話だよ」
「何を知っていると……?」
「知っているか。
そして、『私』は会津の地に永倉が音頭を取って作られた墓よりこの世に現れた。こんな私でも、皆は慕ってくれていた。それを知れたことは、私にとってどれほどの救いだったろう。
だからこそ、私は誓ったのだ。今度こそ、掲げた『誠』は揺るがせないと。ふがいない私だからこそ、私を信じてくれる者達に嘘はつかぬと。
さあ、行くぞ『近藤勇』。全てを出し切れ! お前の恨みの血、この虎徹で余さず吸い尽くしてやろう!」
そこからは、もはや言葉は不要であった。近藤勇と近藤勇、お互いの手の内を知り尽くしている同士であるが故、その実力は伯仲。
激しくぶつかり合い、お互いに手傷を負いながらも、深手を負うことなく猛然と斬り合い、その血を流し続けていた。
その様子はさながら、身の内に秘めた恨みも憎しみも、全ての感情を吐き出さんとしているかのように。
そして斬り合う中、黒の悪霊は違和感を覚えた。僅かに
だが、それを差し置いても相手の方が僅かに上。恨みに狂いながらそこだけは冷静に表しながらも、黒の悪霊はそんな不可解な違和感に戸惑いを覚えていた。
(なんだ……? 俺と奴では力において互角、いや、地力においては俺が上のはず……ならば、何故?)
違和感に眉を顰めながらも、黒の悪霊は油断なく英傑を観察し、気付く。刀が違う。悪魔として生まれ落ちた時から持っている刀ではない、凄まじい業物。
そしてそれを振るう動きの中、不自然に火花が……いや、雷光が走り、己の動きに浅葱の英傑が追随して来る。それが違和感の正体だと。
「その『虎徹』、我らが生まれ落ちた時から持っている物ではないな? そして何か……他にもあるはずだ。その動き、天然理心流ではない」
「気付いたか。この『銘刀虎徹』はガイア連合…私の属している組織、その秘術をもって作り出した刀だ。そして―――」
近藤はそう言って、虎徹と共にさしているもう脇差を抜く。それは鍔に見事な鵺の浮彫りが施された脇差で、刀身には時折雷光が散っている。
そして発せられる気配。虎徹に勝るとも劣らないその刀身を軽く揺らし、近藤は脇差を改めて鞘に収めた。
「我が主君が手ずから打ち、下賜して頂いた脇差『雲切丸』。これが宿す加護により、私はお前と互する力を得ているのだ」
『雲切丸』。この脇差は福島支部から『銘刀虎徹』を預けられたことを受け、リンが自分の方からも何かを、と思いリンクニキやカジオーネキの指導の元手ずから打った脇差である。
メインで使うものが虎徹として、その補助をするため、リンの最も得意なジオ系を用いた戦闘支援の可能な能力を宿してある。
「―――行くぞ」
『雲切丸』から発した雷光が、近藤の全身を包み込む。瞬間、その動きが加速した。
地力で勝る黒の悪霊の斬撃を
その一撃は黒の悪霊の体を袈裟懸けに浅く切る程度にとどまったが、完全にその知覚の一歩上を行く速さであった。
雲切丸の宿す能力は、大別して2つ。リンの込めたジオ系魔法を源泉とした、電気による肉体強化、そして磁力による戦闘補助。
前者はリンが漫画「HUNTER×HUNTER」の再現技術として開発した『
先程の神速の斬撃は能動的な強化を行う『電光石火』で攻撃を回避し、あらかじめプログラミングされた行動を行う『疾風迅雷』で斬る、そんな連携技だ。
明らかに先程とはキレの違う動きに、黒の悪霊は思わず大きく飛び退る。しかし、それは近藤に一撃のチャンスを与える行動に等しかった。
「―――
虎徹を鞘に納めた近藤がそう呟くと同時に、雲切丸を中心に強力な磁場が近藤を包むように展開する。
これこそが雲切丸に宿されているもう1つの力、ブシ子のデモニカ『初代村正』と同じ『磁力操作』だ。
『
そして、そこから繰り出されるのは、天然理心流に非ず。リンに刀と共に授けられた剣技『吉野御流合戦礼法』の術理で放たれる、雷速の居合。
「吉野御流合戦礼法“
無論、黒の悪霊も何もせず見ていたわけではない。阻止しようと動いたが、一手遅かった。
先の打ち込みをも超える速度で放たれた居合は、とっさに刀を盾に防ごうとした黒の悪霊を刀もろとも両断し、MAGへと返すのであった。
直後、近藤はがくりと脱力し膝をつく。
「くっ……やはり、“
本来、今の近藤では“
本来はレベルにして60を越えていなければ危険だ、とは伝授された当時から言われてはいた。それでも打てば、良くて剣も触れない程に消耗、悪ければ死ぬ。
それでも伝授して貰えたのは、今の様に、どうしても放たねばならない、全力でやる必要がある場面が来ると見越していたからだろう。
肉体への負荷と急激なMAG減少による眩暈に眉を顰めつつも、その顔は何処か満足そうであった。
それはきっと、己の全力を、死力を尽くして『誠』を貫き、己の陰ともいえる黒の悪霊を討ち払った、そんな達成感から来るものであったのだろう。
ごう、と円状のフィールドに暴風が吹き荒れる。リンが、芹沢が剣を振るう度、剣風が逆巻き、空気すら割れるような轟音が響いていた。
「ふはははははは! 良いな、実に良い! 本気で
浅葱の羽織をはためかせ、哄笑を上げるリン。ここ暫く依頼行脚であちこちを飛び回ったが、本気で殴り合う機会などそうそうなかった。
それまでのあれこれが楽しくなかったわけではない。だが、戦いで沸き立つ心は別腹だ。それはそれ、これはこれという奴だとリンは思っている。
「興が乗って来た! キャナル! 『システム・トイボックス』、『バビロン・プロトコル』で起動だ!」
『ほんとにやるんですか!? ……ああもう、知りませんよ!』
半ギレ気味のキャナルの叫びと共に、リンの周囲に金色の波紋が広がる。そして波紋から顔を出すのは、リンの所有する様々な武器だ。
『システム・トイボックス』。それはイカルガ改修に当たって組み込まれたシステムであり、搭載されていた『マテリアライズシステム』の発展型だ。
初期型シキガミや展開型デモニカのシステムをベースにリンの所有する武器を拡大しロボで使うのがマテリアライズシステム。
それを発展させ、リンの保有する武器、そしてデモニカの能力をイカルガやロボで再現するのがシステム・トイボックス。
そしてそれを拡大せずリン自身に反映させるのがバビロン・プロトコルである。
本来このシステムは機体のストレージCOMPに収納されている装備を拡大召喚し使うが、『バビロン・プロトコル』の際は孔雀明王を介してリンとイカルガをリンク。
ストレージの出口をリンの周囲に限定して適宜召喚・送還を繰り返し戦闘するものだ。その際にキャナルによるフルサポートで諸所の問題をクリアしている。
リンが周囲に広がる波紋から引き抜いたのは紫の刀身に鍔に宝玉の填まった片手剣。リンの一番のお気に入りデモニカ、G1専用装備『タイタンソード』だ。
「キャナル!!」
『了解しました! 『アークル』*4限定起動……タイタンソード、リミッター解除可能です!』
「行くぞ斎藤! ええい私の背後で遺書をしたためようとするな! 大概器用だなお前も!」
『さっき1回死にましたんでねぇ!』
背後霊状態で何やらしたため始めた斎藤にツッコミを入れつつリンがタイタンソードを強く握れば、その意志に応じてその刀身が半ばほどから伸びる。
タイタンソードを始めとするG1専用装備、そして一部デモニカ専用の霊装には内蔵ストーンやフォルマの暴走防止のためのリミッターが施されており、デモニカ装着時に限りそれが外れ、その力を最大限に引き出すことを可能にする。
キャナルの言う『限定起動』はこのシステムに介入し、デモニカの始動キーになるCOMPを起動はしてもデモニカそのものを生成させない事でリミッターだけを解除する裏技であった。
タイタンソードと赤光葛葉の二刀流で躍りかかるリン、そしてそれを防ぐ芹沢。芹沢はその剣撃に言いようのない既視感と違和感を覚えた。太刀筋ではない。威力でもない。自分が覚えているそれとはまるで違うが、どうしようもなくそれを想起させる。
「気味の悪い……斎藤とはまるで違う太刀筋の癖に、この絡みつくような気持ち悪さ、届かぬはずの間合いから斬り込んでくる無形の太刀……どうしようもなく『斎藤一』と思わせる剣! なるほど、『背負う』とは、『鬼纏』とはそう言う業かよ。面白い!」
『マスターちゃん、なんか術理見抜かれちゃってますけど?』
「だが、太刀筋を見切られたわけではない。技の理屈が分かったところで、技そのものは見切れはすまい。それがお前の『
間断なく攻め立てつつも、リンはそう斎藤へと返す。
事実、太刀筋を見切られているわけではない。『鬼纏』の理屈を理解はしても、リンが鬼纏う『斎藤一』の『畏』そのものを攻略できているわけではない。
『畏』、それは端的に言えば『妖怪(悪魔)の力』を総称したものである。リンの持つ力で近いものを上げるならば、権能が一番近い。
妖怪の根源に根差す、存在そのものと言える力。リンに鬼纏を伝授した半妖、鯉半は『畏』をそう表現していた。それを背負い、纏って力とするのが『鬼纏』であると。
例えば雪女ならば氷の力、河童ならば水の力。ならば幕末のの剣客であった斎藤一の『畏』とは? それが『無敵の剣』である。
元々斎藤一は、自身も相当の剣腕を持つ永倉新八に『沖田の剣は猛者の剣、斎藤の剣は無敵の剣』と称されたほどの腕前。数々の戦いで仲間が傷を負う中、己は無傷だったという逸話もあるという。
その出自に関しては諸説あるものの、老齢に際しても『吊るした缶を竹刀で貫いた』とも伝えられるほどなのだから、その剣腕に疑いはないだろう。
特徴的な能力でこそないが、そう言った逸話が昇華した『敵を
それを鬼纏ったリンは今、斎藤の経験や技能を集約した『
「私はお前のようなものが一番怖い。お前は私より弱い。だが、お前は私を殺しうる。この『無敵の剣』、研ぎすませば私にすら届きうる刃だと、そう確信している。
だからこそ私はお前を頼りにしている。友人の守る地である福島を任せるに足る『剣』である、そう信じているのだ。……行くぞ」
号砲とばかりに、リンの周囲に浮かぶ金色の波紋から無数の武具が射出される。バビロン・プロトコルの元ネタ『Fate』の宝具『
多くは数打ちの量産品だが、そこは黒札級の使用を前提とした一級品の装備。リンと同格にまで上昇した芹沢に回避や防御を選ばせる程度には厄介な攻撃であった。
物理的な意味での剣林弾雨が降り注ぐ中、芹沢が致命打になりうる1本を切り払った所に、ぬるりと滑り込むように現れたリン。振り終わりを狙って一撃入れ、反撃の一閃をタイタンソードで受け止めてはその衝撃で飛び退る。
「チィ、厄介だな……斎藤の剣を繰り出す土方のような童女というだけで面倒だが、振るう武器だけでなく雨あられと打ち放つ武器ですら一級品。
折角の機会、楽しむ気でいたが……殺す気でやらねばこちらが殺られる、か」
ぶわり、と芹沢からマガツヒが吹き上がる。自らのうちに収めた京都中のマガツヒを全開で放出、後先を考えずに己の強化に回し始めたのだ。
そこからは、言葉はいらぬとばかりの殺し合いが始まった。
打ち放たれた武具を噴き上がるマガツヒで弾き、斬り込んできたリンの太刀を皮一枚で避け、迸るマガツヒと共に真っ向からの唐竹割。
リンがそれを剣をクロスさせて受け止めれば、一瞬の硬直を狙っての突き蹴りで吹き飛ばす。
しかしリンもやられてばかりではいない。吹き飛んだ自分に向けて放たれた追い打ちのマガツヒの塊を自分もまたMAGを噴出させて弾き、金色の波紋の中から取り出したのは金色の武具。
リンがよくO.S.の媒介にする武器形態の天秤座の聖衣だ。直後、リンが纏うのは四つ腕の鎧。リンの本気の本気である複霊甲縛式O.S.『斑鳩』。
一瞬だけブーストをふかして飛ばされた衝撃を消し、さらに爆炎の尾を引いて一瞬で開いた間を詰め、先程の意趣返しとでも言うように斑鳩の腕で思い切り殴り飛ばす。
「ははははは! 良いな良いな! 殴っても死なん、殴り返してくる相手! 私がここまでやった甲斐があるというものだ!」
『ほんと今まで手加減してたんだなぁマスターちゃん……』
背後で黄昏る斎藤をよそに、戦いはなおもヒートアップしていく。
激しさを増す芹沢からの攻撃を、近藤にも使用した『
結界の外からでも分かる明らかにレベルの違う戦いに、結界を維持しているキャナル、観測しているエイブ、そして間近でそれを見せられている斎藤の肝は大層縮んだのだという。
それから少しの後。ディバイディングフィールド内は展開当初の状況からその様相を大きく変えていた。
地面はめくれ上がり、一部は砕け、高熱でガラス状になっている場所すらある。そんな惨状の中で、リンと芹沢は睨み合っていた。
芹沢は京都中から集めたマガツヒを結集させたこの身体でも倒し切れない相手がいることに内心驚愕しつつも、不敵な笑みを浮かべ。
リンもまた、全力でやり合える相手という得難い相手との戦いに、獰猛な、そして満足げな笑みを浮かべ。
無論、リンも疲労していない訳ではない。同格の相手との殴り合い、フィールド・O.S.・鬼纏の維持、そして本来イカルガで行うべき『システム・トイボックス』を生身で行う負荷。
消耗は尋常なものではなく、現在は消耗からくる疲労より思い切り暴れている満足感が上回っているに過ぎない。それ故に、リンの選択もまた自明であった。
「……決めに行くぞ、斎藤」
『大丈夫? 楽しそうだけどかなーり消耗してるでしょ、マスターちゃん』
「思い切り遊べば疲れもするというだけだ。だがまあ……お前への負荷もあるからな。次の一撃で決める。堪えろ」
『お優しいご主人様で嬉しいですねえ!』
赤口葛葉を鞘に収め、タイタンソードを右手に持ち替え、両手持ちで担ぐ。その上でリンは腹の底から絞り出すように、呟いた。
「―――
蒐窮一刀の構え。その言葉と共に、先程の近藤のそれのようにリンを中心として強力な磁場が展開する。
しかしその出力は近藤の時の比ではなく、大きく間合いの離れた芹沢にすらその尋常ではない気配が察知できるほど。
肩に担いだタイタンソードは斑鳩の四腕で包むように構えられ、四腕と刀の間で磁場が反発、増大してゆく。
「
当然、それを見過ごす敵ではない。大技とみて攻め手を強めるが、遠間からの攻撃は全て『神速』による雷速の回避で空振りに終わる。
ならばとマガツヒを結集させた刀を大上段に振りかぶり、技を打ち放つだろう一瞬の停止にあわせ振り下ろすが―――
「吉野御流合戦礼法“
「打たせるかぁっ!」
空気を断ち割るような一閃がぶつかり合う。芹沢の渾身の一撃は、果たして放たれた『穿』とぶつかり合い、相殺。そのまま鍔迫り合いが始まる……はずであった。
リンが、芹沢を睨みつけながらもぽつりと呟く。
「―――
「『ッ!?』」
驚愕する斎藤と芹沢。再び、磁場が展開する。そして先程の『穿』同様、磁力が増大してゆく。
リンからの圧が増す。鍔迫り合いの力は緩まぬまま、リンは右手だけを離し、腰の赤口葛葉の柄を握りしめる。
「吉野御流合戦礼法“
瞬間、芹沢は胸への衝撃と、自分が宙に投げ出されていることに気付いた。胸元を見れば、そこには先程リンが握りしめた赤口葛葉。
否、根元まで突き刺さっているが、その柄と鍔の拵えには覚えがある。これは―――
「―――
そのリンの言葉と共に、先程まで斎藤一の愛刀『鬼神丸国重』に見えていた刀が元の赤口葛葉へと戻る。その傍らに立つのは斎藤。鬼纏とやらは解除されているようだ。
芹沢の体が、動く事すらできずに地面に叩き付けられる。霊核を貫かれている。その上、集めたマガツヒも残らず消え果ている。指一本すら動かない。
「……何が、起きた?」
口をついたのは、問いであった。もはや勝ちの目はなく、己は負けた。霊核が貫かれている以上、このまま自分は
ならば、せめて何が起こったのかぐらいは知っておきたい。自分がどう負けたのか、そして……なぜあの一瞬、リンの刀が鬼神丸国重に見えたのかを。
「……ふむ、冥途の土産という奴に教えてやるのも良かろう。端的に言えば、私の方が強かったで終わる話だからな、それでは気になって浮かばれまい」
「ハッ、ぬかしやがる……」
そうして、リンは何が起こったのかを語る。先程リンの放った『
まず『
無論、容易な技ではない。まず単純に大技二連発という消耗の大きさ、『
そして、まず放つためには『
「そして、お前に『
鬼纏。信頼関係を結んだ相手の『畏』を背負うこの技には、2通りの使用法が存在する。
まず、最初に見せていた鬼纏、2人の畏を衣の様にまとう『
そしてもう1つがリンが最後に見せた『
畏襲ではリンの服装が変わったように、畏砲ではリンの武器、この場合赤口葛葉の姿が変わる。鬼神丸国重に見えていたのも、斎藤の『畏』が乗っていたため。
「本来は『
「――――――そうかい」
そう一言呟いて芹沢の肉体がMAGへと還り、その場にはフォルマであろう芹沢のものらしい鉄扇が残される。
リンはふう、とため息をつくと力を抜き、ぺたりと座り込んだ。
「斎藤、疲れた。後疲れすぎて動けん。連れ出せ。フィールドの維持も切ったからじきに空間も閉じる」
「変な意地張るから……まあ、やりますけどね?」
足の裏に地鳴りを感じながら、斎藤は鉄扇を回収し、リンを抱え上げる。
実際の所、リンは珍しく極度に消耗していた。同格相手の本気の殺し合いをした上、『
そのくせ芹沢が消えるまではそれをおくびにも出さずに立っていたのは、せめてもの意地だったのだろうか。
「マスターちゃん、寝てていいよ? どうせすぐノワールさん達回収に来るだろうし」
「まかせた……」
抱え上げられたまま、リンは目を閉じ、そのまま寝息を立て始める。そこらで昼寝をする程度ならともかく、普段であればノワール達嫁や人魚ネキなどのごく一部以外の腕の中で眠るなどありえない事だ。
恐らく何かあればすぐ飛び起きて臨戦態勢に入る程度の、リンにすれば『浅い』眠りであろうが、それでもその身を預け即座に眠りにつく程度には、あちらからも信頼されていたのだろうか?
そう考えながらもフィールドから脱出する斎藤は、険が抜け年相応の寝顔を見せるリンを見て苦笑する。それが、魔王ネキを筆頭に多数の人間の胃と頭を痛め精神を削った『京都新撰組討伐戦』の終わりであった。
なお。
「…………斎藤さん、どういうことです、これ」
「いや、ノワールさんこれ不可抗力だし……ちょっとマスターちゃん? お嫁さん説得して? ね?」
「気持ちよく寝てるマスターを起こさないで下さい!」
「普段真面目なのになんで変な所でモンペになるかなぁ!? ちょ、他の人ー!?」
いざノワール達に引き渡す段になり引き渡そうとしたが、いつしかガチ寝していたリンは斎藤の服をしっかりとつかんで離さず、その事にノワールが嫉妬。
リンを起こさない程度にノワールに詰められた斎藤は周囲に助けを求めるも、モンペと化したノワールに関わりたくないので皆に見捨てられ、暫く(リンが目を覚ますまで)胃を痛める事となったのだという。
どっとはらい。
そんなわけで134話でした。おっかしいなー、本来長くて前後編で終るはずだったのに不思議だ。でもやりたい放題やれたので楽しかった!
□解説
・ようじょ
久々に遊び疲れるまで遊んだ8歳女児。
ただでさえ神経使う斑鳩+消耗する鬼纏+必殺技級の大技二連発+畏砲なので、割と尋常でないレベルで疲れた。
なお斎藤がガン詰めされた事は寝てたので知らない。
この後滅茶苦茶大暴れして負担のかかる技連発しまくった事が救護ネキに露見して救護されたが誰も助けてくれなかった。
・近藤さん
自分の闇を払った人。福島から虎徹貰ったんならようじょも何もしないわけねえよな……と電気と磁力を使えるようになる武器と吉野御流合戦礼法を伝授してた。
もうちょっとレベルが上がれば負担なく打てるようになる。
・はじめちゃん
ようじょのお守り役。はじめちゃんを連れてったのはそこにいたから半分、芹沢鴨暗殺に関わったという事で、芹沢特攻を狙っての起用。
自分もけっこう疲れてたけど、それはそれとして幼女を気遣う出来る男。
救護ネキの件に関しては『1回ちゃんと見てもらった方がいいよ』と仕返し半分で見捨てた。
・ノワール
疲れておねむなマスターを抱っこできるなんてずるい! それに私もまだ鬼纏してもらってないのにしてもらったのもずるい! と珍しくジェラシー爆発したむちむちでかでかバニー。
ようじょが起きてからもちょっと拗ねてたが、後日鬼纏の練習するからなと言われて機嫌を直した。
・リベルタス
勝てたのは数と相性。沖田が物理スキルオンリーだったおかげ。
自分の行いを本気で悔いているので、英傑と謳われた新選組が恨みに濁った刃を振るう事が許せなかった。
実はようじょからは既に許されているが、自分達で自分達を許していない。
・シンセングミ
この後ネームドは英傑シキガミとして製作され福島の防衛に回される事となる。
モブ新選組はデモノイドとして製作され、各々の部下として配備された。