まだまだ続きますが!
「――――――はい、おばちゃんの猛特訓はおしまい。皆お疲れさん」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ――――――ッ!」」」」」
あれから異界内時間で一か月後。スカアハの言葉に、一同は歓声を上げる。
リンを除いた突入班一同は、あれからスカアハの指導の下、
スカサハがお堂の中に疑似的に作り上げた影の国できついという言葉も生ぬるい猛特訓を行っていた。
それはスカアハに師事した数多の英傑たちが潜り抜けた試練を課せられる、というもので、
それを達成したらしたで今度はスカアハを筆頭としたこの異界に住む悪魔達と、
死の物狂いの
その様は歴戦のダークサマナーである先生ネキも「死ぬのでは?」とドン引くほどであった。
その甲斐あっておおよそ5から10程のレベルアップを成し遂げてはいたのだが。
そしてリンはと言うと――――――
「え、お前らそんな楽しそうな事してたのか!? 私もやる! スカアハ準備しろ!」
「いやお前は俺と一か月みっちり殴り合ってたろうがよ」
「やーだー! 私ももっと修行するー! お前らだけそんな楽しそうな修行するのずるいー!」
「……お嬢ちゃん、この異界に何しに来たか忘れとるやろ?」
床に転がり駄々っ子モードで暴れるリン。
リンはリンでこの一か月スサノオとマンツーマンの
おかげでレベルにして66に到達し、切り札としてMAGの爆発的な燃焼による強化を体得。
そして己に宿すスサノオの力として
その他にもいくつかのスキルを覚えるに至った。
「……もちろん忘れてないぞ。忘れてないが修行できるならするだろ」
(((((忘れてたなこいつ)))))
「それにあれやろ、今外ではお仲間が必死に戦ってるんやろ?
さっさとアテルイいてこましたったらその負担も減るんやで?」
「それもそうか。まあニキ達がどうなろうと蘇生させればノーカンだろうが、
文やポチとマシロに何かあると嫌だな。仕方ないが終わった後でまた来るとしよう」
(((((諦めてねえ)))))
二度、一同の心が一つになったのだという。
後々修行をする気満々のリンにため息を吐きつつも、スカアハは一同を見回す。
「……まあ、ええわ。どっちにせよアテルイ倒さな始まらんし。
ほんで、準備はええん? 打合せ通りなら、まずはお堂から外に引き摺り出すんやろ?」
「そうだな、アテルイは私が相手をする。他の奴らはドアマースを相手にすることになる。
最初に殴りこんだ時は大変だったな……アテルイは雄たけびまくるわタフだわ、ドアマースはマカラるわ。
おまけにあの部屋の中でだけ低レベルドアマース無限増殖とか何の冗談かと」
リンが最初にボス部屋に踏み込んだ時、攻めあぐねた理由がそれだ。
アテルイは物理スキルと【雄叫び】*1を繰り返し、ドアマースは【マカラカーン】*2を使いながらも仲間を呼ぶ。
格上相手であったのもあるが、【雄叫び】による物理攻撃力の大幅上昇、
【マカラカーン】による魔法反射に加えレベル30台のドアマースを延々と召喚し、
それらによる【スクカジャ】*3や【バインドボイス】*4、衝撃系魔法などの一斉砲火を放ってきた。
またボス属性もあったのか基本的なバッドステータスは無効、その上アテルイは異様にタフであり、
最終的にリンが殿になり撤退を余儀なくされたのだという。
「一応あそこはあいつらの隔離部屋であると同時に、
あいつらが最大限の実力を発揮できる祭壇みたいなもんやからなぁ……
まあ無限召喚自体は止められへんけど、いくらかパワーダウンはできるはずやで」
「それに外に出してしまえば外で雑魚散らししてる連中も戦力に組み込めるだろうしな。
そんなわけでその辺の指揮はノワールと先生ネキに任せる。ドアマースは外に追い出して、外の連中と一緒に殲滅。
アテルイは私が引き受ける。アイリス、トイボックスの調整は終わっているな?」
リンの視線にアイリスが力強く頷く。リンのパワーアップにも対応した細かな調整や、
ディアなどをかけて損傷や装備の修復・整備などは完了済み。
アイリスはこのままリンに付き従い、アテルイとの決戦に臨む事となる。
「よし、では解散! 1時間後に突入する、撤収準備を済ませておけ!」
「「「「「了解!」」」」」
「……幼女ネキ、良いか?」
少し後、撤収準備と最終チェックを進めている中、リンに話しかけてきたのは少佐ニキだった。
その手には刀……赤口葛葉と、ライドウのものらしい学帽を持っている。
「スサノオから、これを渡してくれと」
「……私にか?」
「ああ。君が持つべきだと、そう言っていたよ。
アテルイやドアマースと相対するのならば、その
こちらの学帽にはスカアハの協力の元私の術を込めて置いた、然るべき時になれば起動するだろう。
やれやれ、私のテレパスやサイコメトリーがこんなところで役に立つとはな」
苦笑する少佐ニキ。この一か月少佐ニキも何もしていなかったわけではなく、
ヒトハやパワー・ジャック兄弟の協力の事資料の閲覧・捜索を行い、
アテルイやドアマースの『説得』を行うに足る情報を集めていたのだ。
「まあ、アテルイやドアマースを殺すわけにはいかんからな……
最悪スカアハやスサノオを主に据えるしかないが。とりあえず動けない程度に叩きのめして、
少佐ニキのサイコメトリーで引き出したライドウの記憶をテレパスで叩きつけて鎮静化させる、だったか」
「ドアマースの方は私が直接仕掛けるが、分断する関係上アテルイはそちらに任せる形になるからな。
無理はしないでくれよ、以前のような馬鹿をしないのであれば、
私としても天使部の仲間として仲良くしたいとは思っているのだからね」
「まあ、二度同じ馬鹿はやらんよ」
「また別ベクトルの馬鹿をやらんとも限らんがね……」
「少佐ニキがメンタル小市民なのが悪い」
「開き直るな馬鹿。……ともあれ、こちらは数がいるがそちらは実質タイマンだろう? 無茶はするんじゃないぞ」
そう言い、さらに二言三言かわしてから離れていく少佐ニキ。その背中を目で追いながら、リンは手の中の赤口葛葉と学帽をじっと眺める。
そして一言、ぽつりと呟いた。
「……せめて、
「たのもう!」
玄関ホールの大扉を蹴り開け、内部に乗り込むリン一行。
そこにいたのは、白黒の毛皮を纏った雌の獣人、ケルト神話の冥府の番犬ドアマース。
3mを越える隆々とした肉体を埴輪にも似た鎧で包んだ偉丈夫、北方の魔人アテルイ。
その視線がリンの背負う赤口葛葉、そして頭に被る学帽を捉える。
瞬間、ボス部屋内部に満ちる怒りと憎しみの空気を塗り替えるような、濃密な殺意が溢れ出た。
「この糞餓鬼ぃ、気安くそれに触れるんじゃぁないよっ!」
真っ先に飛び出したのはドアマース。
電光石火の爪撃をリンはセイテンタイセイの【物理無効】で受け止め、
その腕を掴んで真後ろに向け――――――投げる。
「扉開けろぉーっ!」
「「了解ッ!」」
そのまま【デスカウンター】*5を乗せた勢いの投げでドアマースをボス部屋から引き摺り出す。
それに合わせて待機していた面々がお堂入口の大扉を開け、ドアマースが吹っ飛んでいったのに合わせ出ていく。
そうしてお堂内部に残ったのはリンとトイボックスに乗ったアイリス、
戦いを見届けるべくその場に残ったスカアハのみとなった。
アテルイの熾火のごとく燃える瞳がリンを捉える。しかしそこにリンは映っていない。
そこに映るのは怒り、憎しみ、そして、数十年を経てなお色褪せぬ悲しみの色だった。
「さてアテルイ、リターンマッチだ。今回こそお前を叩きのめしてやる」
「……ラーイド*6」
アテルイがぽつりと呟く。学帽を、赤口葛葉を見つめ、その顔が歪む。
「ラーイド、なぜ死んだ。何故置いていった。お前は帝都を守るのではなかったのか。
ああ、なぜだ、なぜだ、なぜ……なぜラーイドが死なねばならなかった!」
一言紡ぐたびに、アテルイから発せられる圧が増していく。
一言紡ぐたびに、周囲のMAGを吸いアテルイの体が物理的に大きくなってゆく。*7
それは、怒り狂い、この部屋に閉じ込められてもなお消えることのなかった、怒りの発露のようで。
「許さぬ……許さぬぞ……おめおめと死んだラーイドも、ラーイドを死なせた不甲斐なき者達も!
メシア教も、帝都の民も、のうのうと生きている者達も、全て許せぬ!
滅ぼしてやる、殺してやる、最後の一人になったとて許さぬ、皆殺しだ!」
トイボックスに迫るほどに巨大化したアテルイが立ち上がる。
明王の如き憤怒の相、物理的な圧力すら感じる怒気を一身に受けてなお、
リンは表情を変えずにアイリスに声をかけた。
「トイボックス、ハッチ開放。搭乗と同時にリミッター解除だ、新システムも使う。
壊すつもりで行くぞ、覚悟を決めろ」
『了解!』
「どきなぁ小娘ぇ! あのガキを八つ裂きにしてやるぅっ!」
「させません! 貴女はここで私達が止めます!」
同時刻、お堂の外では、リンを殺すべくお堂に戻ろうとするドアマースと、
それを止めようとするノワール達による攻防が繰り広げられていた。
ドアマースの呼び出す下位のドアマース達やもとより外部に出現する悪魔は他の面々に任せ、
ノワール・ラプンツェル・セリリの3人はドアマース本体の足止めにかかっていた。
飛躍的にレベルを上げた今でさえレベルでは一回りほども上とはいえ、
息の合った連携でレベル差を埋め、ドアマースの猛攻を凌いでいた。
(パワーダウンしてこの勢い……他の皆さんが本体以外を相手にしてくれていなければ危なかったですね……)
ノワールは内心冷や汗を垂らす。通常総出で戦う時はリンが切り込んで蹴散らし、
アイリスがアナライズや補助に徹し、そして自分達はその穴を埋めるように立ち回っている。
しかし現在、最大火力であるリンと最も補助能力に優れたアイリスはアテルイとの決戦の最中。
幾分か力が落ちたとはいえ憤怒と憎悪でかすり傷程度はものともせず攻め立ててくるドアマースを、
ノワールは悲しみの宿った目で見つめていた。
(彼女の抱く憎しみ、怒り、他人とは思えない……私達シキガミは主人が死ねば機能停止するように作られている。
でも、もしマスターを守り切れず失い、そして自分が自害を選べない状況だったとするなら……)
彼女らを使役した十四代ライドウも、こうなる事は予想はしていても望んではいなかったろう。
主人であるリンも、自分が怒りに狂い復讐鬼になる事は望まないだろう。
しかし、そういう状況になれば、自分は間違いなく
アイリスは、悲しむだろうが立ち直り、受け入れるだろう。
ラプンツェルはせめても敵を討とうと剣を取るのかもしれないが、それを果たせば主人の遺志を受け継ぐだろう。
シキガミではないが、セリリであれば泣き、怒り、文が残されていれば彼女と契約し、守るだろう。
総じて、リンが死んだ後があるのならば、自分以外の者達は悲しみこそするが立ち直れるはず。
(……私はきっと、狂ってしまう。マスターを殺したものを憎み、死なせた者を憎み。
自分を置いて死んだマスターをも憎み、何の関係もないがマスターが死んだのに生きている者達を憎み。
憎み、怒り、狂って目につく全てを殺し尽くす。その命が尽きるその瞬間まで。
そんな確信が、私にはある)
目の前の
だからこそ、彼女はこれほどまでに怒り狂っている。
愛した男の遺品を身に着けた
自分ならばそうなるだろう、ノワールはそう確信する。
「――――――でも、だからこそ。私はここで止めねばならない。
ドアマースさん、貴女にこれ以上、
「何をぅ……ッ!?」
銃を収め、周囲にいたモムノフから二本の槍を奪い、構える。
この一か月の特訓の中、ノワールは通常の銃を用いた戦い方の他、スカアハ直伝の槍術を叩きこまれた。
大分簡略化されてこそいたが、それはかつて影の国へとやってきた英傑たちが叩き込まれた技。
ペルソナとしてスカアハを持つノワールには、不思議なほどによく馴染んだ。
そしてその極地、貫き穿つ絶死の槍をも、不完全であるものの会得するに至る。
「―――絶技、発動」
小さく呟くと同時に、ペルソナを起動。そしてノワールから爆発的にMAGが立ち上る。
リンも会得した、爆発的なMAGの燃焼による一時的な強化だ。
長くはもたない。だが、もたせる必要もない。この一撃で決める。
立ち上るMAGに脅威を覚えたか、ドアマースが渾身の一撃を放つ。
その一撃を紙一重で避けて懐に潜り込み、ノワールはまず右の槍を閃かせた。
「刺し穿つ………突き、穿つ!」
複雑な軌道を描く槍がドアマースの真芯を捉え、突き刺さった槍ごと空中に跳ね上げる。
そして残った左の槍を大きく振りかぶり、ノワールは満身の力を籠め、右の槍に重ねるように左の槍を投げた。
「
一か月の突貫工事で叩きこまれた槍術では、完全再現は敵わない。
一の槍で空中に跳ね上げて縫い留め、二の槍でとどめ。本来そのような技であるものを、
空中に跳ね上げた所をを狙い撃つ、そんな不完全な形でしか放つことができない。
おまけにそこらの悪魔が持っているような粗雑な槍で放ったその技は、本来のそれと比べれば見る影もない。
だが、その槍は今のノワールが放てる最大の技。だからこそ今放つ価値も、意味もある。
放たれた二の槍がドアマースに直撃し、技の威力に耐えきれず槍が砕け散る。
それにより技の威力は幾分か減衰するが、それでいい。自分はドアマースを殺したいわけではないのだから。
吹っ飛び、地に落ちるドアマース。そこに駆け寄る霊視ニキと少佐ニキ。
少佐ニキの手には黒い外套が握られており、気を失ったのか動かないドアマースに手を翳し、念じている。
かねてよりの作戦通り、ライドウの遺品から汲み上げたその遺志をドアマースへと送り込み、沈静化を図っているのだ。
ノワールはへたり込みながらも、背後の大扉にちらりと視線を向ける。
「……これで、ひと段落でしょうか。マスター達も上手くやれていると良いのですが……」
呟くノワール。駆け寄ってくるラプンツェルとセリリに力なく笑いかけながらも、その心はリンを案じていた。
そして、時間は少々巻き戻る。
「ウオオオォォォォォォッ!!!」
スカアハにより極限まで拡張されたボス部屋に、アテルイの【雄叫び】が轟く。
続く【雄渾撃】を紙一重で避けながら、リンはトイボックスを操りその後ろに回る。
「チッ……ライドウ仕様の雄叫びは面倒だな……掠っただけでも機体が軋む!
アイリス、エネルギーの流れは!?」
「地脈エネルギー、外部のドアマースと目前のアテルイに集中しています!
アテルイはそれにより強化・巨大化しているものと……
具体的に言えばステータス上昇、持続回復、技のコストの踏み倒し!
マスターやノワールの会得したMAG燃焼と原理的には同様です!
ただこちらは強大なエネルギー源から無限に供給を受けている状態、
長期戦になればこちらが不利です!」
「無線給電とは厄介極まりないな! まあいい、伝承通りなら攻撃魔法はあるまい。
一応射撃には気を付けておけ、【ヤブサメショット】ぐらいはあるかもしれん!
言いながら【大暴れ】を後ろに飛んで躱す。
サイズは正義、明らかに力偏重型のステータスであろうアテルイが、
アナライズが進み、ある程度の情報が見えてくる。
猛将アテルイ、レベル72。耐性は物理耐性、精神無効。
所持スキルは【雄叫び】【大暴れ】【雄渾撃】*8【地獄突き】*9【ヤブサメショット】*10。
ライドウに登場しないスキルがあるのは地脈から力を吸い上げたからか。
それ以前に相性を無視して貫通するスキルがあるだけで厄介極まりない。
(アテルイの攻撃は物理オンリー、【雄叫び】は厄介だが、もっとも厄介なのは全体強化だったことだ。
ドアマースの無限召喚する下位ドアマースも強化されるからこそ攻めあぐねたものだと思ったが……
やれやれ、さっきやり合った時はまだ大人しかったようだな。藪蛇だったか。
近接は怖いが離れて【ヤブサメショット】が飛んでくるのも辛い、殴り合う他ないか)
リンは嘆息し、自分の中の悪魔、スサノオの力を呼び起こす。
スサノオとの
人のまま
それが、今のリンが最大限の力で殴り合いをする最適解であった。
「【セイテンタイセイ】の【物理無効】は便利だが、どっちにしろ貫通が飛んでくるならヌエかスサノオの方が良かろう。
キングフロストはヒーホーに寄るから嫌だし……アイリス、【マテリアライズシステム】起動!」
「了解!」
アイリスの応答と同時に、リンの目の前に立体映像が浮かぶ。それはリンが所持しトイボックスに持ち込んだ武器の一覧。
この異界に突入する前にトイボックスに組み込んだ新システムを行使するための触媒でもある。
【マテリアライズシステム】。それは銃装剣以外の武装を用い戦闘の幅を広げるために開発・実装された機能である。
リンが立体映像の1つ、ドラゴンロッドに触れるとシステムが作動。
両手とサブアームに持たせていた内両手の銃装剣をトイボックスのストレージCOMPに収納、
代わりにドラゴンロッドを召喚し……それを核として、MAGがトイボックスサイズの巨大なドラゴンロッドを形作る。
これは展開型デモニカが初期型シキガミの『MAGによる物体形成』を応用し、
変身アイテム型COMPから武器型シキガミに近づけたデモニカスーツを召喚・形成することにヒントを得た機構である。
そも、G1用の武装は厳密に言えば武器型シキガミであり、非使用時はG1のストレージCOMPに収納している。
これを応用し、トイボックスから召喚した武装を中心にMAGを纏わせて形成し、トイボックス用の武装を展開する。
それが【マテリアライズシステム】である。
展開されたドラゴンロッドを構え、リンは矢継ぎ早に繰り出されるアテルイの攻撃を弾き、いなし、着実に当てていく。
しかしアテルイの猛攻は止まらず、リンは思わず顔を歪めて舌打ちをした。
「チッ……やはりただ当てるだけでは止まらんな、アイリス、スラスター全開!
銃装剣も放射型で固定! スラスターに使え! 姿勢制御は任せたぞ!」
「アギダインを推進力に使いながら近接戦とかすっごい神経使うんですけど!」
「安心しろ私もそこそこ神経使う! どっちにしろ喰らったら終わりだ、短期決戦で行く!」
一瞬でも足を止めれば攻撃が当たる。そして攻撃が当たれば僅かにでも硬直し、そこから崩される。
そもそもがこちらも上がったとはいえレベルでは負けている。MAG燃焼で一時的に差は詰められるとは言え、
倒し切れなければ反撃を喰らう。ギリギリまで取っておくべきだろう。
(トイボックスは私が全開でブン回す前提の
MAG燃焼をすれば各機能にガタが来るだろう。おかげで現状G1も使い物にならなくなったしな……
一撃当たればそこから崩れるとはいえ、前にやり合った時ほどの力量差はないはずだ。
どうにかして
【雄渾撃】と【地獄突き】の連打を必死にいなし、隙を伺う。
怒り狂っているとはいえかつては
その技の冴えにはいかほどの乱れもなく、かすっただけでも装甲が悲鳴を上げているのを感じる。
その猛攻に辛うじて追従出来ているのはこの一か月ひたすら殴り合ったスサノオとの経験、
そしてトイボックスを十全に制御するアイリスの能力あってこそだろう。
だが、元々力量差があるうえ相手は異界の主、分はあちらにある。
「――――――アイリス、トイボックスの残存MAGを私と同調させろ、仕掛ける」
「……! は、はいっ!」
同時に、トイボックスと自分が深くつながる感覚を得る。
トイボックスに使われているのは【妖獣ヌエ】をベースにした人工筋肉。
そして機体を駆動するために使われているMAGバッテリーに充填されているのは全てリンのMAGである。
そこで普段以上に同調率を上げ、普段のような鎧ではなく、巨大化した自分の肉体である、という拡大解釈を成立させる。
こうすることでどうしても発生するラグを極限まで減らし、アテルイとの実力差を少しでも埋めんとする。
「オオオオオォォォォォォッ!!!」
「こな、くそ……【蛮力の結界】*11! からの……【鷹円弾】*12ッ!」
【大暴れ】を結界で防ぎ、勢いに任せて後方に跳躍。
【ヤブサメショット】を撃たれる前にドラゴンロッドを投擲し、アテルイがそれを避けた先を予測し、スラスターをふかして踏み込む。
そして両手首を掴み、サブアームの銃装剣を捨ててさらに両腕を抑え、組み合う。
素の膂力で上回られている以上、足を止めての殴り合いは不利。故に手首や腕の支点を抑え、その力を十全に発揮できないようにする。
ぎしり、と腕が嫌な音を立てる。その音を聞いて舌打ちしながらも、リンは声を張り上げた。
「アイリス! スラスター全開! 壊れても構わん、吹っ飛ばすぞ!」
直後、トイボックスのスラスターが凄まじい爆風を噴き出し、アテルイを押し始める。
アイリスにより完全にリミッターを外され、後先考えない超出力を発揮しているのだ。
「ヌ……グゥ……ッ!」
トイボックスの勢いにアテルイの足が一歩下がる。しかし地力ではアテルイの方が上。
もう1歩下がってがっしりと床を踏みしめ、アテルイが押し返そうとするが――――――
「グアアァァッ!?」
――――――アテルイの背に衝撃。先程リンの放った【鷹円弾】だ。
ブーメランの様な軌道で戻って来たドラゴンロッドがアテルイの背をしたたかに打ち据え、その驚きからか力が一瞬緩む。
それを見逃すリンではなかった。即座に全力でアテルイを押し、突き飛ばすような形で吹き飛ばした。
アテルイの体が空中にあるわずかな間、リンはドラゴンロッドをストレージに収納。
【マテリアライズシステム】を起動し、ストレージ内に収納した武器を表す立体映像、その1つに触れる。
トイボックスサイズに拡大され、具現化するのは太極模様を象った鍔の、黒鞘の日本刀。
十四代葛葉ライドウの愛刀、赤口葛葉。その冴え冴えと光る刀身を抜き放ち、八双に構える。
「……なるほど、なんとなく分かったぞ。あの時少佐ニキが言った事、そして、私に
戦いの直前、少佐ニキに赤口葛葉を託された時、彼は『抜くべきと思った時にそれを抜け、どう斬るべきかは刀が導く』と言った。
今ならその意味が分かる。刀の意思とでもいうようなものが、リンを導いている、そんな感覚を覚えた。
そこでリンは、ふと修行中にスサノオがこぼした言葉を思い出す。
――――――
その力は、かつての戦いで何度もあいつを助けた。お前が握ることになるその時があるなら……
お前が
(……私は、かの葛葉ライドウには未だ遠く及ばない。だが、事実刀は私を導いている。
これは……
アテルイを、ドアマースを救えと。愛ゆえに、友情ゆえに狂った悪魔達の……
すまない、少しだけ、お前たちの力を貸してもらう)
リンが刀を振れば、アテルイを囲むように無数の光の剣が産み出される。
かつて十四代葛葉ライドウがコドクノマレビトとの決戦で使ったという、フツヌシの力だ。
「アテルイ、悪いがこれでとどめにさせてもらう!」
言葉と共に、爆発的にMAGを燃焼させ……それに重なる様に、闘気が立ち上る。
リンがこの異界での修行中に開眼した幾つかのスキルの一つ、その中でも特異な性質を持つ【貫く闘気】だ。
これは【マガツヒスキル】と呼ばれるスキルで、女神転生シリーズにおいては真Vで実装されたシステム。
戦闘中に溜まる「マガツヒゲージ」と呼ばれるゲージが溜まる事によって使える、一種の必殺技を指す。
確定クリティカル、万能ダメージなどの強力な効果を持つスキルが並ぶ中、【貫く闘気】の効果はと言うと、『味方全体にチャージ+貫通効果(1回)』。
今使うにはまさにうってつけのスキルであった。
そして、アテルイの背が地面に触れるかどうかの所で――――――トイボックスが、跳ぶ。
「行くぞ……
光の剣が雨霰と降り注ぐ中、それらを踏み台にして縦横無尽に跳ねるトイボックスが、七度アテルイを斬り付ける。
全ての光剣が降り、空中にあるのはただ一人。高々と赤口葛葉を掲げ、リンは吼える。
「魔を祓え――――――赤口葛葉!」
一閃。最後の一太刀を放ったところで、リンの被っていたライドウの学帽が光を放つ。
少佐ニキ曰くの『然るべき時』が来たのだろう。リンはアイリスが止めるのも構わずハッチを開け放ち、
倒れたまま動かないアテルイに向け学帽を投げる。学帽はアテルイの胸辺りに落着し、
先程よりもまばゆく、周囲を塗りつぶすほどの光を放った。
目を覚ました時、アテルイは光の中にいた。
意識はあるが、体が動かない。そしてその眼には、懐かしいものが飛び込んできた。
黒い学帽に学生服、外套に悪魔召喚用の管や刀を隠し、帝都をさすらう男。
アテルイが契約したサマナー、十四代葛葉ライドウ。そのライドウが、一心不乱に何かを食べていた。
あれはそう、確か芋に蜜をかけた料理だったはずだ。ライドウはそれを特に好んでいた記憶がある。
――――――ラーイド、それはなんだ?
――――――大学芋という。芋に蜜をかけた……まあ、菓子だ。
――――――そうか。美味いのか?
――――――…………ああ。
自分から出たものではない声が、ライドウと会話をしている。
覚えている。あれは、まだライドウが若かった頃の事だ。依頼の礼にと貰ったらしい
珍しく鉄面皮をほころばせているライドウを不思議に思い、聞いた時の記憶だ。
結局あの後ライドウは自分が謡うのを聞きながら黙々と大学芋を食べ続けていた。
あれはどんな味だったのだろうか。あのライドウの鉄面皮を崩すほどの美味だったのだろうか。
もしライドウと共に食べることができていれば、それはどれほどの美味だったのだろうか。
この数十年、怒りと憎しみに支配されていた心に、悲しみが湧き出てくる。
いつもならば湧いてくる怒りも憎しみも、この時は不思議と湧いてくることは無かった。
故に、アテルイの心を、純粋に悲しみのみが満たす。
もうライドウと言い合いをすることもない。もうライドウと共に戦う事も出来ない。
そんな悲しみばかりが心を満たし、我知らず、涙がこぼれ出る。
「おお……ラーイド……お前はもう……死んだのだな……」
すとんと、腑に落ちた。今まで、理解はしていても受け入れられなかったライドウの死を、アテルイは今初めて受け入れた。
同時に、自分が封印されていた部屋に仰向けになっている事に気付く。
周囲には、スカアハを始めとするライドウと共に戦った仲魔達。ドアマースが、悲し気な様子で俯ているのが印象に残った。
そしてもう一組、先程まで自分と戦っていた
アテルイが視線を向けると、
「……起きたな。どうだ、調子は」
「……悪くはない。そうか……
その様子では、ドアマースの奴も鎮まったようだな」
「そうだねぇ……ほんと、不思議な気分だよ。ようやく腑に落ちたっていうか……
やっと、受け入れられそうだよ。ライドウが死んだって事をさ」
「落ち着いたようだな。ならいい。私の仕事はここまでだ。あとは上の奴らと話し合え」
「ま、待て!」
いうだけ言って踵を返したリンをアテルイは引き留める。
……が、何を言うべきか数瞬迷い、アテルイはゆっくりと口を開いた。
「ま、まずだな……お前の名前を、教えてくれ。
「幼女ネキ……いや、リンだ。鵺原リン。それが私の名前だ」
「……そうか、良い名だ。では、もう一つだけ教えてくれ。芋に蜜をかけた料理を、知っているか」
「芋に、蜜? ……スイートポテト、違うな、そんなハイカラなもんではないだろう。
となると、大学芋か。知っているが、それがどうした?」
「それを……今から用意することはできるか。ラーイドが、かつてそれを特に好んでいた。
出来れば……それを食べてみたい」
その言葉を受けてリンは首を傾げるが、ふむ、と息をついてノワール達の方を見る。
彼女らがこくりと頷くのを確認し、リンはアテルイに向き直った。
「材料があればできるだろう。少し待て、用意させる。
外も落ち着いたようだしな、何より暴れて腹が減った。飯にするか」
さも当然のように言い放つリンに、少佐ニキが呆れ顔で口を開く。
「私が言うのも何だが、あれだけ暴れて良く飯が食えるな……」
「暴れたから飯が食えるんだ。ほれいくぞ、宴会の準備だ。
文も呼んでこなければな、アイリス、トラポートで探求ネキ*14のとこに飛んで食材を買ってこい。
財布も持っていけ、買えるだけ全部だ。いいな!」
そう言い付け、ばたばたと出ていくリン、そしてリンを追うように出ていく面々。
その場に残されたのは、アテルイとドアマース、そしてスカアハ達、ライドウの仲魔達。
アテルイがスカアハを見れば、苦笑し、肩をすくめる。
「アテルイ、ドアマース、どうやら頭も冷えたみたいやな。なら……あとは、分かるやろ?」
「ああ、そうだな。怒りも、憎しみも、完全に消えたわけではないが……
ラーイドの遺志を守り、そして……
そう言う事だろう、スカアハ」
その言葉に、スカアハは大きく頷く。
悪路王異界――――――攻略完了。
そんなわけで悪路王異界編、これにて終了。次回あたり後始末的な話を書いて暫くはのんびり日常話を書いていく感じです。
■解説
・幼女ネキ
ライドウ版スサノオのスキル+マガツヒスキル+αに開眼した幼女。
なお完全にリミッター解除して限界以上にブン回したのでトイボックスは戦闘後大破した。
G1は修行の間ひたすら酷使したのでこれまた大破している。
・ノワール
実はゲイボルグを習得していたむちむちバニー。
とは言え1か月の突貫工事だったのでるろ剣でいうと見様見真似龍墜閃ぐらいの精度。
ちゃんとした槍を使えばもっと威力は上がる。
・アテルイ&ドアマース
殴り倒されたうえでライドウの記憶を見せられ、頭が冷えた2人。
アテルイは幼女ネキを、ドアマースはノワールをそれぞれ認めた感じ。
・マテリアライズシステム
だいたい作中で説明した通り。展開型デモニカの要領で武器式神をサイズアップしてトイボックスでも使えるようにするシステム。
性質上武器式神でないとサイズアップはできないが、赤口葛葉の場合刀に宿るフツヌシとヨシツネの残滓がその代わりとなっている。