【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策   作:タマヤ与太郎

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そんなわけで50話です。
時間軸的には前話の後、「アビャゲイルの投下所」の「転生ようじょ、中華の地を行く。③ ~裏面~」と同時刻辺り。

総力戦で水着ハナコが大活躍でちょっと変な笑い出ながら猫(クロカゲ)に水ぶっかけてました。
多分運営の想定ではキキョウとかをメインで使って倒す想定されてたんだろうな……
「怪談には猥談ぶつけんだよ!」という某所のレスで大笑いしてました。





転生ようじょ、中華の地を行く。④

 

「【メギドラオン】!」

 

メシア教の研究所の上空に、万能魔法(メギドラオン)の華が咲く。

レベルにして53、ドミニオンへのハイレベルアップを果たしたラプンツェルの魔法だ。

日が昇り、早朝から朝へと移り変わった頃、研究所の真上にはムラクモが陣取り、増援を相手に熾烈な戦いを繰り広げていた。

地上はウカノミタマやミネルヴァ、オラシオニキとメイプル、サソリニキとその傀儡たち、

空中はラプンツェルと空中を泳げるようになったセリリ、起爆粘土で作った巨竜に乗って空を舞うデイダラニキ。

その合間を埋めるようにムラクモに搭載されていた歩行型、空中型のガーディアンが入り乱れ、襲い来るメシアンや天使達に抗っていた。

 

「【コンセントレイト】……【嵐からの歌声】!」

 

ラプンツェルが魔法で敵を薙ぎ払った隙に集中を済ませたセリリの歌声が周囲の敵を凍らせ、地に落ちていった天使達が無残に砕け散る。

そして空いたエアポケットのような僅かな合間に、セリリは大げさにため息をついた。

 

「あー、こんなバリバリ戦闘するの久しぶりよね。悪路王異界の時ぐらいかしら?」

 

「ふふ、そうですね。あのころと比べれば私達も随分強くなりましたけれど……

 流石は後方とは言え激戦区、けして油断はできませんね」

 

背中合わせに浮かびながら軽口をかわし合う二人。

そして同時に思うのは、主人であり伴侶でもある、一人の少女の姿。

 

「今頃はリンの奴何やってんのかしらね。イズナの社会勉強とか言ってたけど……

 まあ、心配はするだけ無駄だろうけど……無茶とか、してないと良いんだけど」

 

「マスター並みに強い人がいたら、割と躊躇なく全力出すんでしょうけど……

 なんというか、今回大分『遊ぶ』つもりみたいでしたよ? ほら、あの……ホビー部さんでしたっけ?

 あそこの奴*1を大量に持ってってましたけど……」

 

ラプンツェルの言葉を聞いて、セリリの顔が苦虫を噛み潰したような顔になる。

同時に頭を抱え、深々とため息をついた後、セリリは絞り出す様に口を開いた。

 

「あんの馬鹿……後で尻叩き100回ね。絶対反省はしないんだろうけど!」

 

 

 

「ぶぅえっくしゃい!」

 

「マスター、何処かお加減が?」

 

「いや、これは多分セリリかタマあたりがキレてる感じだな。ホビー部製のおもちゃを使ってメシアンで遊んでるのがバレたか」

 

『一応これ救出ミッションだって分かってますよねマスター?』

 

研究所、地下施設内。瓦礫をブチ抜いて強引に侵入したリン達は、イズナ達とは別行動をとり施設内を侵攻していた。

とは言うが、最前線で殴り合うならばともかく、ここは後方の生産拠点。詰めている戦力のレベルもそう高くはなく、

レベル73(リン)レベル62(ノワール)レベル54(鬼鮫ニキ)という高レベル覚醒者相手ではなすすべもない。

事実、ノワールと鬼鮫ニキを後ろに下げたリンが両手に持ったホビー部製対魔ヨーヨーの攻撃が飛ぶたび、重装甲のテンプルナイトが木の葉のように宙を舞っていた。

 

「そうは言うがなアイリス、今回の突入は主にイズナが主体だ。

 私らは陽動がてら侵攻してイズナの方で何かあった時に備える、と言うのは説明しただろう?

 ……で、システムの掌握はどんなもんだ」

 

『メインシステムの8割強は掌握出来ています。ただ中枢……という訳でもないんですが、施設の構造上、掌握しているシステムだと侵入できていない回線があります。

 こちらは非常に厳重で現状存在を把握しかできていません……また、どうやら最重要区画はスタンドアロンのシステムで動いているようで、

 メインシステムからではアクセスが不可能です。申し訳ありません』

 

リンの顔の横に小さくデフォルメされたアイリスの姿が浮かび、腕を組んで悩むような仕草を見せる。

今回の侵攻でアイリスはマシンボディを持つ電霊系シキガミであることを活用しボディをイカルガに接続、

そこからムラクモを経由してメシア教研究所のメインシステムにハッキングを仕掛けていた。

レベル56と、そろそろ60に迫りつつあるアイリスの能力の前に研究所のネットワーク内に巣食うワクチン系悪魔の大半もなすすべもなく掌握、屈服されていたが、

流石にアイリスと言えど物理的に繋がっていない回線にはアクセスが不可能であり、手をこまねいているというのが現状であった。

 

「……ふむ。臭うな、その最重要区画に切り札でも隠しているか? アイリス、ムラクモやイズナの方にもこの情報を流せ。

 ヨォーヨの身柄を確保でき次第イナバニキの転移でムラクモに保護。しかる後最深部にアタックをかける。

 物理的に繋がっていようがいまいが、こちらのCOMPを繋げてしまえばアクセスも出来よう」

 

『了解しました。情報を共有します――――――マスター』

 

「どうした?」

 

『各所のPCからデータが抜かれている形跡があります。我々以外の侵入者がいる可能性が……』

 

「……ふむ、他の抵抗勢力か?」

 

ヨーヨーを仕舞いグリップの付いたビー玉を撃つ玩具*2でメシアン達を押し留めつつも、怪訝な顔をするリン。

この拠点は早朝に地上部分を占拠して後リン一派が地上部分からの出入りを制限しており、感知できる範囲ではそれ以降の侵入者はなかったはずである。

それでなくともムラクモ(キャナル)やアイリスの感知を搔い潜れる相手もそうはいない。

第一、メシアンに敵する勢力、主に中華戦線サイドであれば、わざわざ誤射の危険を冒してまでリン達から身を隠す必要がないのだ。

――――――否、脳裏に、直接の面識こそないがそれらに該当する相手が思い浮かんだ。

メシア教と敵対し、卓越した隠密能力を持ち、そしてリンに見つかる(・・・・・・・)事を避けるであろう*3相手……『仮面の聖咎執行人』(マスクド・イクスキュレイター)が。

リンの顔がなんとも言い難い微妙な顔に歪む。*4

 

「……チッ、やられたな。まあ別口で攪乱してくれる分には構わんが」

 

「マスター?」

 

「ノワール、例の連中(仮面の聖咎執行人)がこの研究所にも介入しているようだ。

 こちらの作戦に支障はないだろうが覚えてはおけ。……イズナと出くわしてはいないだろうが心配だな、

 敵ではないがあいつの教育に悪すぎる」

 

その呟きに『マスター/幼女ネキの奔放すぎる性生活も大概では?』とノワールと鬼鮫ニキは思ったが、口には出さない優しさがあった。

――――――その直後、唐突に警告音が鳴る。

 

『マスター! 下層でエネルギー反応増大! 【自爆】と思しき魔力衝撃波、来ます!』

 

アイリスの絶叫と共に、地震のような衝撃が施設を貫く。

暫しの鳴動の後、その場には無傷のリン達……そして、戦闘をしていたメシアン達の残骸が散らばるのみであった。

 

「……アイリス、説明できるか」

 

『下層で発生した万能属性の衝撃波はこの施設全体を貫きました。しかし、解析の結果それらに『指向性が持たされていた』ようです。

 その直前、施設内を探知し何らかのマーキングを施しているような波動も感知しました。

 推測ですが、先の波動でメシアン『のみ』を探知、マーキングし……【自爆】の衝撃波がメシアンのみを対象とするように改造された術かと……』

 

「……決まりだな、そんなトンチキな真似が出来て私に見つかってはいけない理由があるのは連中しかおるまい。ヨォーヨは無事だな?」

 

『生体反応は健在……動揺はしているようですが』

 

「イズナやムラクモと情報を共有だけしておけ。こちらも回収できるものを回収しながら下層へと向かう」

 

魔法でメシアン達の残骸を吹き飛ばしながら歩を進めるリン。

一方、イズナたちはと言うと――――――

 

 

 

「うーん……」

 

時間は少し遡る。リン達と共に突入した後分かれたイズナたちは、リン達とは別のルートを通りヨォーヨの救出へと向かっていた。

陽動として大暴れしていたリンとは裏腹に、『敵の湧きがEDF』とされるこの世界のタルタロスで逃げ回れるイナバニキ、

そして「暁」の一員として幾多の修羅場をくぐっている大蛇丸ニキの先導もあり、不気味なほどに何もない道行であった。

途中事前調査で発見していた部屋で多くはない資料*5などを回収しつつ階を下っていく一行であったが、

ホルマリン漬けにされた人間丸ごとや臓器、改造途中の人間など、その他吐き気を催すような有様を見ていく中で、

イズナはいつしか首を傾げ、何事かをずっと考えているようだった。

 

「えーと、イズナちゃんだっけ、どうかした?」

 

「イナバニキ殿。私は今回『戦場を、そしていずれ相対するメシア教を見て、聞いて、感じるままを受け取り、思うままを問え』。

 そう、(ちち)上に言われてきたのですが……分からないのです。なぜメシア教はこのようなことをするのでしょうか?

 メシア教はメシアの到来により救われる、という教義であるのは分かるのですが……こんなことをして本当にメシアが現れるのでしょうか?

 あるいは本当にメシアが現れたとして、当のメシア教を悪しきものと断ずる可能性すらあるのでは?

 メシア教の天使は母上のように人よりずっと昔から生きて世を見ているはずです。そんな当たり前のことに気付かないわけがないと思うのですが……

 それに、(ちち)上が突入前に仰っていたように、メシアが現れないからからメシアを生み出す、などという行為も、そもそもの理念からすれば本末転倒では?

 メシアはいずれ到来するものであり、来ないから作っていいものではないですよね?」

 

「まあ、正論ではあるけど……うーん、まあ、一言で言ってしまうとそれが宗教だから、かなあ」

 

イナバニキはちらりと大蛇丸ニキの方を見るが、『アウトロー(傭兵業)にそういうこと聞く?』とでも言いたそうな視線を返されて『この野郎……!』と拳を握り締める。

 

「まあ、宗教がどういうものかについてはお母さん(タマちゃん)に聞いてね。あの人も一応神様だし。

 メシア教は今でこそ一神教系最大勢力だけど、元々は異端宗派だから数が少なかった、少なかったからこそ先鋭化していく……んだとおもうよ、多分」

 

「そういうものですか」

 

「そういうものじゃないかな、ボクはメシアンじゃないから知らないけど。

 まあそう言うのがずっと続いているから止まれなくなってるんじゃないの? 特に今のご時世モノホン(仮)の天使とかいるしね」

 

「なまじ実物があり力もあるからこそ信じ込んでしまい、先鋭化と暴走の果てが今である、と言う事でしょうか……

 分かったような分からないような……あとで(ちち)上に聞いてみます。ありがとうございましたイナバニキ殿!

 ジョーズマン殿もすいません、ジョーズマン殿の主殿を困らせてしまって」

 

ぺこりと頭を下げるイズナに、ええんやで、とでもいうように体を揺らすイナバニキのシキガミ、ジョーズマン。

深々と一礼し頭を上げるイズナだったが、ふとその耳がぴくりと動くと屈みこみ、床に手を当てて首を傾げた。

 

「イズナちゃん、どうかした?」

 

「……何か、強い気配を感じます。ずっと下……ヨォーヨ殿が捕らえられているらしい位置よりずっと下でしょうか?

 ラプンツェル殿に似た……うん、これは天使の気配です。でも……」

 

「でも?」

 

「人の気配も重なっているんです。言うなれば私のような……悪魔と人の間というか……でも、私よりは歪、でしょうか?

 それに、メシア教の天使に感じる嫌な感じはないんです。近い感じを上げれば(ちち)上のような……強く気高い、そんな気配です」

 

そう言って首を傾げるイズナ。それが『行くべきでしょうか?』という問いだと察したイナバニキは再び大蛇丸ニキを見る。

メシア教から分捕った資料を眺めていたニキだったが、視線に気づくと咳払いをし、イズナに向けて軽くウィンクする。

 

「イズナちゃんがそうしたいと思ったなら、私達は『えっボクも?』従うわよ。

 ……でも不思議ね、事前調査だとヨォーヨちゃんのいる辺りが最下層のはずなんだけど……

 ま、メシア教の基地だし、隠し部屋ぐらいあるわよね。具体的な位置は分かる?」

 

イズナと何事かを話し合っている大蛇丸ニキに巻き込まれないように遠巻きに見ていたイナバニキであったが、

やがて顔を上げた大蛇丸ニキがこちらを向けてとてもにこやかに笑っているのを見て、猛烈に嫌な予感を感じた。

具体的に言うとハムネキに無茶振りをされる直前ぐらいの嫌な予感を。

 

「イナバニキ、確か転移先に行ってなくても距離どのぐらいとかでトラポート出来たわよね?

 今いる場所から縦400m、横10mで転移してちょうだい?」

 

「それ下手すると『いしのなかにいる』案件なんだけどぉ!?」

 

「だってあなた月まで行けるじゃない、距離的に問題はないはずよ?」

 

「何もない宇宙空間に転移するのとはわけが違うんだけど……はぁ、仕方ないな……

 ほら寄って寄って、えーっと転移先……うん、障害物はなさそうかな、ペルソナ、【トラポート】!」

 

 

 

転移した先は、何かしらの研究室のような場所だった。

周囲にはいかにもな配線や機材、奥には壁の一面を覆う巨大な水槽のような区画。

機材の前には白衣の人間たちが、水槽の中には手術着を着せられた、白い羽を持った(・・・・・・・)白髪の少女。

その首と両腕は鎖と頑丈な枷で繋がれており、さながら聖者の磔刑のごとく壁に磔にされていた。

一瞬の沈黙の後、手元のボタンを押そうとした研究者だったが、その額に手裏剣が突き刺さり、絶命。

他の者達も同様に即座に手裏剣が突き刺さり、屍となって地面に崩れ落ちる。

 

「事情聴取とか……尋問とか……なされない?」

 

「情報抜くだけなら【穢土転生の術(改良版ネクロマ)】があるもの。どっちにしろ生かして返す気はないわよ」

 

「ワオ、クレバー……」

 

「大蛇丸ニキ殿、並べておきました! 【穢土転生の術】、どうぞ!」

 

研究者たちの死体に【穢土転生の術】をかけ、尋問、そして研究データを抜き取る。

その結果、ここで行われていた、水槽の少女に施されていた処置が判明する。

 

「つまり……この少女は大天使を降ろす器だったということですか?」

 

「そうね。肉体を天使に近づける……言うなれば悪魔人間化させることで降ろすべき大天使との適合率を上げる。

 そして天使を降ろし、子供を作らせることで高レベルの素養を持った赤子を作り、戦力や素材として……

 あるいはメシアを産むための母体にしようと考えていたらしいわ」

 

「うーん……ザ・メシア教っていうか……倫理観とかお持ちでない感じだなぁ」

 

「倫理観があると新術開発にははっきり言って邪魔になるからちょっと気持ちはわかるわ」「分かっちゃうんだ……」

 

その時、ずずん、と言う揺れと共にまだ【穢土転生の術】で縛っていたメシアンの死体が潰れた。

突然の事態に唖然とする一同だったが、直後アイリスからの通信で事態を把握する。

研究所下層、ヨォーヨのいる辺りの区画から放たれた万能属性の衝撃波により、研究所内のメシアンがすべて死んだという事を。

そして、ここでリンとイズナの時間が同期した。

 

「アイリス殿、ヨォーヨ殿は無事なのですか?」

 

『動揺はしているようですが無事です。……イズナ、あなたは目的地よりずいぶん下方にいるようですが』

 

「はい! 隠し部屋があったようなので転移して制圧していました! 女の子を一人保護するところです!」

 

溌溂としたイズナの返答にアイリスは深々とため息を吐き、『マスターにお伝えしておきます』とやや温度低めに呟いて通信が切れた。

それを見てジト眼で大蛇丸ニキの方を見るイナバニキ、そして当の大蛇丸ニキはさっと視線を逸らす。

 

「……ボクはありのままを伝えるからね?」

 

「ヨォーヨちゃんは無事だったし結果オーライよ、大丈夫大丈夫……多分ね」

 

そして水槽の少女を外へと出し、ヨォーヨを救出したリン達と合流すべくトラポートしようとした一行だったが、

イズナだけがその輪から離れ先へ行くように促した。

 

「イナバニキ殿、大蛇丸ニキ殿、私は少しだけやることがあるので先に(ちち)上の所に向かって下さい!

 私は(ちち)上に預けている飛雷神マーキングに向けて転移しますので!」

 

「いや、一応ボクら君の護衛と避難のために来てるんだけど……ただでさえ救出対象スルーしてカチ込んだし、三人一緒にアイリスちゃんに怒られよう?」

 

「あんまり賛成できないけれど……何か理由があるのね?」

 

その問いに、イズナは真剣な顔で頷く。

 

「……分かったわ。幼女ネキには私から言って置くから、用事が済んだらすぐに戻るのよ?

 時間は私とイナバニキが稼いでおくから」「大蛇丸ニキってナチュラルに人を巻き込むよね」

 

「はい! それ程にはかからないはずです!」

 

2人を見送り、研究室にはイズナのみが残される。途端、イズナの体から、物理的な圧を伴う程の殺気交じりの魔力が放たれた。

その圧で周囲の残骸は吹き飛び、少女を閉じ込めていた頑丈であろう水槽のガラスにすらひびが入る。

 

「どうしてでしょう……とても、もやもやします。私は、怒っている?

 何に対して? メシア教の行いに? ならなぜメシア教の行いに怒りを抱くのでしょう?

 それに、私はこの怒りを前にも抱いたことがあります」

 

怒り。今のイズナの心中には、当人でも由来の分からない、怒りの感情が渦巻いていた。

それを収めねばリンの前には戻れない、と一人残ったが、イズナは正直その感情を持て余していた。

メシア教の行いをつぶさに眺め、そして、メシア教にとっての戦力や資源を生み出すために恐らくは当人の意思と関係なく体を弄ばれた少女を見て、

イズナの心の中には怒りが渦巻いていた。そして、イズナはその怒りを前にも(・・・)抱いたことがある。

 

「ラプンツェル殿を見て嫌そうな顔をした方を見た時……日向殿にいちゃもんをつけていた方を見た時……私は同じように怒りを抱いたことがある。

 その時は(ちち)上が殴り倒していましたけど……その時は、大好きな人たちに悪感情を向けられた怒りかと思っていました。

 でも、今の怒りはそうではない。見ず知らずの人達への所業に、私は怒りを抱いている……」

 

「それは『理不尽』に怒る心だよ、幼い少女よ」

 

不意にかけられた声にイズナがそちらをむけば、そこにはがっしりとした体格に目の部分にだけ穴の開いた覆面を被った男がいた。

先程までは絶対にいなかったはずの男が、壁にもたれかかり、腕すら組んでイズナを見つめている。

 

「……どちら様ですか?」

 

イズナの本能が瞬時に体を警戒態勢に移行させる。数百メートル下の隠し部屋にいる少女の気配すら感じ取ったイズナの感覚で、全く察知できなかった相手。

こうして相対している今でさえ、本当にそこにいるのか怪しいほどに気配がなく、実力も感じ取れない。

少なくとも隠形に関しては自分、いや、リンや暁メンバーすら凌駕するだろう。

 

「『純愛』仮面の聖咎執行人(マスクド・イクスキュレイター)・レイプと名乗って置こう。*6

 やるべきことをやったので撤退するところだったんだが……君のその言葉があまりにも眩しくてな。つい口を挟んでしまった。

 ともあれ、君のその理不尽に対する怒りは、人としてとても正しい。どうかその正しさを失わぬように育ってほしい……

 ああ、それと。俺は君の、そして君の父親の敵ではない。向こうからは大分嫌われているようだが……まあ、それは仕方がない。

 だが、俺達はそれが正しいと、違えてはいけない正義だと信じて行動している。そう伝えてほしいものだ。

 ……最初に名乗ったあの名(仮面ライダーレイプ)は俺達も少し後悔している*7という事もついでに伝えてくれると助かる。

 それでは、退散させてもらおう。これ以上居残ると君の父親が殺しに来そうなんでね*8

 

そして、男は消えた。感覚を研ぎ澄ましてみても影も追えないような、完璧な隠形であった。

イズナは男がもたれかかっていた壁を見つめ、そして己の掌を見つめ、ぎゅっと強く握る。

 

「理不尽に……怒る、心。

 ……っと、いけない、そろそろ父上が痺れを切らしている頃です、戻らねば! 【飛雷神の術!】」

 

はっと我に返ったイズナは、どうかお説教が短く済んで欲しい、と祈りながらもリンの元へと飛んだ。

イズナの心中の怒りは、未だ消えることはない。しかし、イズナは目の前の道が開けたような、そんな感覚を覚えていた。

 

 

 

「――――――という事があったのです、(ちち)上」

 

「……ふむ、なるほどな。おおよそ事情は分かった。ご苦労だったな」

 

撤退後、ロボ部や穏健派と合流するために寄港地へと向けて移動中、イズナはリンに基地を探索する中で感じた事、研究室で起こったことを話していた。

 

「やっぱりあいつらだったか……一発ぶん殴ってやろうと思ったが、一枚上手を行かれたな。

 それに……借りも出来たか。ヨォーヨを守り、イズナの迷いを晴らしてくれた、そこについては礼を言わねばなるまい」

 

「はい。あの方には私もお礼を言いたいです! 私も為すべきことが見えて来た、そんな気がしますから。

 私の戦う理由……(ちち)上に褒めていただきたいという思いはまずありますが……

 理不尽に泣く人を増やさぬように、理不尽に怒りそれをうち砕くために戦う。それが、私が戦う理由です!」

 

「その意気や良し! そのために、日々たゆまぬ精進を重ね、程ほどに遊び己を高めるのだ、いいな!」

 

「はい!」

 

「――――――で、親子の会話は終わった?」

 

「ひぇっ」「……ぬぅ、誤魔化せなんだか」

 

親子の会話が終わった途端、叩きつけられる冷気を伴った怒気。

2人が恐る恐るそちらを向けば、そこにはにっこりと笑うセリリがいた。ただしこめかみには青筋が浮き、その目は笑っていない。

 

「まずリン! 人の命がかかってる状況で遊び倒してくるなんていい度胸ね? 何か申し開きは?」

 

「うむ、無い! そもそも私は陽動のつもりだからな! 殲滅しても良かったが」「開き直るなーっ!」

 

リンの顔面に割と容赦のないグーパンが入る。

流石にちょっと痛かったのか鼻をさするリンの首根っこを押さえながら、セリリはイズナをじろりと睨む。

その眼力にイズナの耳がぺたりと伏せ、その尻尾も股の間に挟み込まれ、その先端をイズナはぎゅっと握っていた。

 

「次にイズナ。報連相って知ってるわよね?」

 

「は、はい! 報告・連絡・相談の頭文字です!」「だったら実行しなさーいっ!」「す、すいませーんっ!」

 

イズナの脳天にセリリの手加減した拳骨が叩き込まれる。

頭を押さえうずくまるイズナを見てセリリは深々とため息を吐き、リンの引き摺りながらその場を離れていく。

 

「おいセリリどこへ行く」

 

「ピン婆さんとヨォーヨちゃんに頭下げに行くのよ! あんたが今回の最高責任者なんだからあんたが謝るのが筋でしょ!

 ……イズナはほら、あんたが助けてきた子のとこ行って来なさい。あんたが拾ったんだからさ」

 

「はぁい、分かりましたぁ……」

 

 

 

「うう、セリリ殿に怒られるのは未だに慣れません……」

 

「今回は割と真面目に姫さんが悪いと思うっぺよ……」

 

「返す言葉もありません……」

 

ムラクモ内の通路をとぼとぼと歩くイズナとお目付け役のナマズオ。

ヨォーヨは仮面の聖咎執行人の介入によって無事では済んだが、一歩間違えば何をされていたか分からない。

あの時は研究室へすぐに踏み込むべきだと思ったゆえの行動ではあったが、確かに報連相を怠ってはいけなかった。

後で自分も謝らなければならないなぁ……と思いつつも、その足はある部屋で止まる。

あの時救出した天使人間の少女を収容した部屋だ。軽く深呼吸、頬を張って気合を入れ、ノックをする。

 

「すいません! 入ってもよろしいでしょうか!」

 

「一応軽く説明はしてあるっぺ、敵でないと分かってはもらえてるはずだっぺが……」

 

『……構わない、入って』

 

返答を確認し入室する。そこには背中から純白の羽を生やした白髪の少女……イズナが助けたあの少女がベッドに座っていた。

顔色は良く、強い意志を秘めた、どこかリンを思わせる瞳がイズナを見据えている。

 

「失礼いたします! お加減は如何ですか? ええと……その……天使の方!*9

 

「ああ、そうか、名乗っていなかった。あの女の子……幼女ネキだったか。彼女に名前を付けてもらったんだ。

 私の名前は――――――」

 

そして少女は一瞬考え込み、改めてイズナを見つめると、言葉を紡ぐ。

 

「――――――アズサ。白洲アズサ。助けてもらってありがとう……で、いいのかな」

 

「あ、申し遅れました、私は鵺原イズナと申します! よろしくおねがいします、アズサ殿!」

 

そう言ってにっこりと笑うイズナ。後に親友となる二人の、これがその出会いであった。

 

 

 

*1
ホビー部の対魔玩具

*2
ビーダマン

*3
改名する前に「仮面ライダーレイプ」を名乗っていたのでリンを始めとするライダー系特撮俺達に嫌われている

*4
リン的には名乗ったことについては怒っているが改名したしメシアン以外に被害は出ていないのでケジメさえつけたら許したろう、と思っている

*5
すでにKSJ研究所が回収済みだったのであまり残っていない

*6
Q:レイプまで名乗る必要ある? A:ある

*7
実際酒に酔ったノリである

*8
きちんと説明すれば分かっては貰える(ケジメに殴られないとは言わない

*9
人によってはブチキレ案件なので気をつけよう




そんなわけで50話でした。中華戦線編完!
なんかもう1話ぐらいかかるかなと思ったら4話で収まりました。アビャゲイルさんからの素敵な打球を受けて原案を整理したら案外スッキリ収まりました。

個人的にはカズフサニキ(仮面の聖咎執行人)とイズナを話させて見たかったので最後の方あんな感じにしました。彼的にもイズナの心中に関しては思う所ありそうだなあ、と思って……

・2023/12/11
アズサの命名が幼女ネキ、と言うように記述を修正しました。


■解説

・幼女ネキ
陽動ついでにヨーヨーとビーダマンで遊んでいたようじょ。
その間にちょっと救出対象がヤバいことになりかけたので怒られたが、その後全力で土下座したので許してもらえた。
なお研究所襲撃で予定されてたほど戦闘で暴れられなかったので、帰り際にイカルガで戦闘区域突っ込んでひと暴れしてこれまたセリリに怒られた。
アイリスも振り回された鬱憤をベッドで晴らそうとしたが返り討ちに合った。
仮面の聖咎執行人らに関しては今回の件もあり大分悪感情は薄れている。礼を言いたいんだがカズフサニキ、伝手ないか? と問われてカズフサニキは肝が冷えたそうです。

・イズナ
「メシア教なんでこんなことしてんの? アホなん???」と理解不能状態だった0歳児。
基本的に強きを挫いて弱きを救うというリン譲りの行動理念なので、理不尽には素直に怒れる子。
今回の件でそれを自分でも自覚し理解することで一皮むけた。
あとお友達ができた。

・ヨォーヨ
救出対象。仮面の聖咎執行人のファインプレーにより奇跡的に無傷で済んだ。
仮面の聖咎執行人に関しては「なんでレイプ????」と思っている。
救出後リンあたりから色々話を聞いて後で改めてお礼が言えればなあ、と思っている。

・アズサ
外見は『ブルーアーカイブ』のアズサ。
メシア教の実験により天使人間化しているので羽が生えている。白髪は元々。
彼女に関しては次回以降書ければなあ。

・セリリ
幼女ネキとイズナで明らかに態度が違う人魚。ガチめのグーパンをリンにかましたけど中指の骨が折れた。(治療はした
尻叩き百回もした。肉体的にはノーダメージだったけど。
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