【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策   作:タマヤ与太郎

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74話、前回の続きです。リンのターン。


転生ようじょ、渡米する。⑬

 

 

フロウリッシュ号頂上部。イズナとアズサが出撃した後、リンはその場に立ち尽くしたままで状況の推移を見守っていた。

 

「……ふむ。アイリス、どうだ」

 

『概ね想定通りに推移しています。ウェンディゴの数が多いので殲滅には時間がかかるでしょうが……

 イズナが突出していますね。アズサがカバーに向かってはいますが、どうされます?』

 

展開されたウィンドウに表示されているのは、戦場の全体図。画面の手前と奥に大きな青い丸と赤い丸で表示されるフロウリッシュ号とイタクァ。

その間に表示される赤青で表示されているのはリン達を含む人間勢力と無数のウェンディゴ。

その中で、イズナを示す青い丸が猛烈な勢いで画面奥へと向かい、アズサを示す丸がそれを追っているのが確認できる。

 

「まあ突出するだろうなとは思っていたがな。大方たくさん倒して沢山褒めてもらおう! と考えているのだろう。

 イズナにはもう少し危機感を持ってほしいが……いつも私が行っては教育にならんな。

 ……ふむ、キャナル、防衛状況はどうだ」

 

『あ、はいマスター! ノワールさん達が前線で頑張ってるので正直過剰戦力かなぁ、ってぐらいですね』

 

「そうか。狼王を引き抜いても大丈夫そうか?」

 

『えーっと……はい、大丈夫そうです!』

 

「よし、向こうには私から念話を飛ばしておく。タマ、結界の出力と範囲を上げろ。

 フロウリッシュ号のMAGバッテリーを使っても構わん、多少目減りはするだろうが後で充電しておく」

 

『その場の流れでいきなり負担増やさないでくれる!? イズナのことだからやるけど!』

 

ウカノミタマからの返答にリンは満足そうに頷き、イズナの現在位置を確認しながらも狼王へと念話を繋いだ。

 

 

 

「……あれ? アナライズ機能、おかしくないですよね?」

 

『イズナちゃんどうしたの? ―――自己診断機能正常、お使いのアナライズは正常ですって感じだけど』

 

同時刻。イズナは襲い来るウェンディゴを蹴散らしながら、感じた違和感に首を傾げていた。

強い。レベルは高くても30前後、悪路王異界の外周部に存在する連中と大差ないレベルや戦闘力であるはずなのに、

なぜか思う通りに行かない。倒せていないわけではない。が、妙に強い。

 

「なんか妙に強いなって……いえ(ちち)上に比べれば全然弱いんですけど、思ったより強いっていうか……

 強さの感じも大して変わらないはずなのに、妙に動きがかみ合ってて見た目以上に強いっていうか」

 

『あー……』

 

はてな、とイズナが首を傾げているところに、草薙を纏ったアズサが降りてきた。

周囲のウェンディゴを的確に除きながら、イズナと背中合わせになって迫りくるウェンディゴを迎撃し始める。

 

「イズナ、無事でよかった。リンに褒めてもらいたい気持ちは分かるけど、突出しすぎるのは危険。

 一度下がるよ、援護の届かない状況で戦うべきではない。イズナに何かあればリンが悲しむ。勿論、私も」

 

「アズサ……でも、そんなに強く無いんですよ? 確かに思ったよりは強いかなって思いますけど……」

 

うーん、となおも首を傾げるイズナであったが、不意に周囲のウェンディゴが散り、巨大な狼が2人の元へと現れた。

リンによってフロウリッシュ号の防衛から外されイズナのもとに派遣された狼王だ。

 

――――――無事なようだな、アズサもご苦労なことだ。

 

「あ、狼王殿! ありがとうございます!」

 

「狼王……リンの指示で?」

 

――――――そう言う事だ。イズナ、リンのために張り切るのは良い。だが、一人で突出するのは危険だ。

事実、倒せない程ではないが少々てこずっていたのではないか?

 

イズナの表情がはっとする。事実その事で首を傾げていたからだ。

その表情を見て狼王は軽く頷くと、周囲を威圧しながらも言葉を続ける。

 

――――――これが『群れ』の恐ろしさだ。このウェンディゴ共はそこらにいる無数の悪魔とはわけが違う。

イタクァだったか? 強大な長に統率されその指揮で動く無数の配下、そう考えて見ろ。

我々の群れの長がリンであり、その指示で我々が普段以上にうまく動き戦えるように。

イタクァという長の手足として動くウェンディゴ共は、額面通りには測れん強さを発揮するものだ。

……ミチルたちも来たな。お前たちからも何かを言ってやると良い。

 

狼王が首で示した方から、ミチルやツクヨたちが武装錬金で空を駆けてイズナの元へとやって来た。

いきなり話を振られて変な声を上げたが、イズナを見て、その瞳を正面から見据えて口を開く。

 

「うぇっ!? あ、じゃあ、言うけど……イズナ、群れってのを甘く見ちゃだめだよ。

 そりゃ一匹一匹はイズナ基準で雑魚だし十把一絡げにできるだろうけど……

 群れって言うのはたくさんいるだけの雑魚とは違うんだ。たぶん、こいつらもイタクァに指揮されてるはず。

 だから簡単に倒せなかったんだよ。今まで位の数ならともかく、もっと無数に一気にかかってこられたら……

 イズナだって危ないかもしれないんだよ? だから、他の皆のフォローが届く位置にいてほしいんだ。

 それにイズナだけの話じゃない。私達が危ない時にも、イズナに助けてほしいしさ」

 

「そ、そうです。私達はイズナよりずっと弱いですけど……それでも、心配してますからね」

 

「ミチル、ツクヨ……それは、そうですが……でも……うひゃっ、狼王殿?」

 

理解はしたもののなおも納得できないような声を上げるイズナであったが、狼王に顔を舐められ彼を見上げる。

狼そのものの顔であり表情は分かりづらいが、その瞳には、とても優しい、暖かな光を湛えているように見えた。

 

――――――お前は本当に皆に愛されているのだな、イズナ。だからこそ皆の役に立ちたいと発奮するのだろうが。

だが、気持ちは嬉しいが皆の心も汲んでやれ。万一の事があってはリンだけではない、我らが救おうとしている民に危険が及ぶ可能性もある。

それに、リンには私のような気持を味わってほしくはないのだ。シートン動物記の『狼王ロボ』だったか。読んだことはあるのだろう?

一人先を行った者がどうなったか、お前は知っているはずだ

 

「……! えっと、その、ブランカ殿、ですか」*1

 

――――――そうだ。お前を見ていると、あいつを思い出す。奔放で天真爛漫な、我が唯一愛した(おんな)をな。

あいつもお前のように俺の前を行き、そして人の罠にかかり殺された。

強きが己の理を通すために弱きを殺し生き延びるのが自然の掟、恨んではいないが……悔やんでもいるよ。

あの時あいつに前を歩かせず、我が先を行っていたのなら……あいつが死ぬことはなかったのではないか、とな

 

「……あ、う……わ、分かりました」

 

――――――それで良い。まあお前ほどに強ければ万一もそうはあるまいが……それでも、子を案ずるのが親と言うものだ。

リンは私に『イズナの元へ行け』としか言わなかったが……こういう事だろう。

戦うなとは言わん。少なくともあの鉄の船を守るために戦うことは禁じられてはいないのだから。

お前は幼い。リンも怒ってはいなかったし、こういう経験を通して学べと、そう言う事なのだろうよ。

お前はリンの最初の子なのだろう? ならば、いずれリンの群れを継ぎ、肉親や仲間を率いていかねばならぬのだから。

 

「分かり、ました。確かに、(ちち)上も常に言っておられました。

 お前はいずれ産まれてくる弟妹を守り導いて行かねばならん、だからこそいろいろなものを見て、知っていかなくてはならんと。

 目が覚めた気分です。皆、迷惑をかけてすいません! 下がりましょう!」

 

ようやく得心が行ったのか、張りのある声で皆に告げ、下がってゆくイズナ。

そんな彼女を見て残った一同は笑い合うと、彼らもまた下がり、防衛線へと加わってゆくのであった。

 

 

 

『イズナが後退を開始しました。説得は成功したようですね』

 

「実際レベル30クラス以上で群れてこられたら有利属性とはいえイズナも危ない可能性はあるからな。

 まずありえん事態ではあるが……何かあれば冷静でいられる自信がない。とみに最近テュポーンと繋がりやすくなっている気がするしな……」

 

イズナが後退を開始したとアイリスから告げられ、リンはほっと息を吐く。

イズナの社会勉強として海外遠征に連れて来ているが、リンは基本イズナや嫁達には過保護である。

何かあれば自分がカバーに入るという前提の上で、何かがある直前までは目立った行動を起こさず、静観に徹していた。

特にイズナに関しては実の娘と言う事もあり、一級の霊装フル装備に加え自我を持ちサポート可能な専用デモニカを与えているなど、リン基準でかなり甘く接している。

そして仮に何かがあってリンが激怒すれば街一つは軽く消し飛ぶだろう、という想定の元、アイリスもまたイズナの動向には気を配っていた。

 

『そう言う意味もあって下がってほしかったんですけどね……マスターが本気で怒れば比喩表現抜きで一国が滅びかねません。

 特にウェンディゴ……いえ、イタクァは、と言うべきでしょうか。アレは人を攫いウェンディゴとするだけではありませんから』

 

「ああ……何だったか。女を孕ませて混血を作るのだったか? 女所帯の私達は良い孕み袋に見えるのだろうなぁ。

 高レベルの悪魔(セリリ)神の高位分霊(タマ)、イズナに至っては(黒札)の子だし、アズサはそもそも孕み袋とするために今の体になった。

 ……気に入らんな。私の嫁や娘や私の庇護下にあるものに手をつけようなどとは不届き極まる。

 ノワール、聞こえているな。後退してキャナルとタマの結界内へ退避。防衛に専念しろ。私が出る。

 少々痛めつけて撃退するつもりだったが気が変わった」

 

リンの顔から感情が抜け落ち、顔に不自然な影がかかった上で赤い瞳がぎらりと輝く。

 

「殺す」

 

物理的な圧力すら伴う殺気と共に、リンの目の前に5つのヒトダマが浮く。

それはヌエ・セイテンタイセイ・キングフロスト・スサノオ・マーメイド、リンの宿す5体の悪魔。

それを魔晶変化の応用で一時的に体外に出した上で実体化させたものだ。そしてリンはさらに声を張り上げる。

 

天秤座(ライブラ)! 武装化(アーマメント)!」

 

声と共に呼び出されるのは黄金の天秤。リンの持つデモニカの1つ、天秤座(ライブラ)黄金聖衣(ゴールドクロス)。その待機形態だ。

現れるとともにリンの『武装化』の言葉と共に分解し、六種六対の武器へと姿を変える。

それらの武器はリンを取り囲むように浮遊し、同時にヒトダマたちが1つの巨大なヒトダマへと変わり、光を放つ。

 

O・S(オーバーソウル)……悪魔ヒトダマ、イン天秤座の聖衣――――――」

 

同時にイメージするのは、己にとっての最強の形。それ即ち、ショタおじの『黒雛』。*2

そして、己にとっての力の形。それ即ち、保有する中で最強のデモニカ、イカルガ。

ヒトダマが光となり、天秤座の武器へとまとわりつく。それはだんだんと骨に肉がついていくように何がしかの形状を取りはじめ、

一瞬の後、リンの胸元にイカルガの頭部を模した飾りが、背中にはバックパックが。

そのバックパックには小型化した銃装剣のような武装が1対、そして四本の腕が伸びる。

 

「――――――複霊甲縛式O・S(オーバーソウル)・斑鳩。さて、ついて来るなよ、お前たち。

 今の私は機嫌が悪い、巻き込んでも手加減なぞ出来んからな」

 

そう呟くとリンはふわりと浮き上がり―――直後、爆炎の尾を引いて前線へと飛んでゆくのであった。

 

 

 

「――――――邪魔だ」

 

ごう、と暴風の如き勢いで突っ込んできたリンが、『斑鳩』の四腕を振るう。

ただそれだけで群がるウェンディゴ達が肉片へと変わり、そしてMAGへと還っていく。

 

『複霊甲縛式O・S《オーバーソウル》*3・斑鳩』。それはリンが己に宿る悪魔のすべての力を解放し形成した魔晶変化(オーバーソウル)である。

ヌエをベースに他の悪魔を組み込み、宿す全ての悪魔の力を最大限行使することを前提に構築されている。

その為の媒介・骨格として天秤座の聖衣を用い、リンの抱く『最強の形』(ショタおじ)であり『力の形』(イカルガ)を具現化したのだ。

 

ヌエを核とし、セイテンタイセイとスサノオによる火炎(アギ)衝撃(ザン)の複合による推進。

かつては使えなかったヌエの空中歩行能力、雷雲に変化できる能力を応用しての機動力。*4

マーメイドの水面展開能力をも含めたその速度と機動力は、ペルソナ使いであるノワール達の全力機動すら凌駕する。

その上でヌエやキングフロスト・マーメイドで生み出した微細な氷の粒をぶつけることで発生した電荷を利用することである程度の自己回復を可能としている。*5

更にすべての悪魔を同時に行使しているが故の多彩な魔法に由来する戦術など、まさにミニサイズのイカルガのような強さを持っていた。

 

「……ふむ、まあ実戦でこの程度の消耗なら許容範囲か」

 

迫りくるウェンディゴ達が、あるものは風で吹き飛ばされ、またある者は雷電の壁にぶつかり瞬時に炭化していく。

『斑鳩』はリンにとっての最強の形であり、力の形。イカルガで出来る事の大半は可能であり、

その防御兵装である『雷霆防幕(サンダリングカタラクト)』『嵐の衣(ストームコート)』もまた限定的に可能としていた。

無人の野を行くがごとく進撃するリンの前に、これまた無数のウェンディゴが集結する。感じる威圧感からしてすべての個体がレベル30台のようだ。

 

「くだらん。数を揃えれば壁になるとでも思ったか? 背負式銃装剣(オーバーハング・ソーデッドカノン)、発射」

 

吐き捨てるように言うと、その背から伸びる1対の銃装剣が前に倒れ、あぎとを開くように展開し爆炎を放つ。

大半のウェンディゴが吹き飛びイタクァまでの道が開くが、リンはそれでは満足せずに四腕、その手首から先を撃ち漏らしに向け、射出した。

ワイヤー状のパーツで繋がれた手は瞬時に爆炎を纏い、針と糸で縫い留めるようにウェンディゴを貫通していく。

 

「『執月之手(ラーフフィスト)』及び……『烈炎之手(バーニングハンド)』。並びに……」

 

あらかたのウェンディゴを貫くと今度は急速に手を巻き戻し、それに従って貫かれたウェンディゴもまたリンの元へと引き寄せられていく。

そこに待つのは―――リン本体の手によって生み出された、リンの背丈ほどもある螺旋丸。

 

「――――――螺旋吸丸」*6

 

超高圧で乱回転するMAGの塊に叩きつけられ、ウェンディゴが微塵に粉砕され展開したままの『雷霆防幕』で塵へと還る。

その塵すらMAGへと還った時、その場にはイタクァ、そしてリンだけがいた。

リンがイタクァを睨み上げると、物理的な圧すら伴った意志(・・)が叩きつけられる。

そそしてリンはそこに込められた意味と感情を理解していた。

 

「敵意・驚愕・そして欲情か。いい女たちばかりだろう、あれらを孕ませればどれだけ強い混血が生まれるのか楽しみだろう?

 ――――――だが許さん。あれらは私のものだ。触れるのも、孕ませるのも、私だけの特権だ。

 お前は殺す。お前が何であれ、理由がどうであれ、お前は私のものに手をつけようとした。その罪を贖え。

 さあ、覚悟はできたか? 死刑執行の時間だ

 

 

 

「あれが(ちち)上の『おーばーそうる』ですか! かっこいいですね!」

 

「私達ペルソナ使いも頑張れば可能だそうだが……日本に戻ったら訓練をしないと」

 

リンがあらかたのウェンディゴを消し飛ばした後、後退してきたイズナはフロウリッシュ号の周囲を警戒しながらもリンの戦いを観戦していた。

当初は目の付いた霧の塊のようなものであったのが、今は10数メートルはある巨大な異形の人型を現わしている。

その周囲には吹雪が吹き荒れているが、リンは怯むことなく挑みかかり、真正面から殴り合っている。

その様子を心配そうに見守りながら、デモニカを脱いだノワールはアイリスに首を向けた。

 

「マスター……ご武運を。アイリス、イタクァのアナライズ結果は?」

 

「邪神イタクァ、レベル78。マスターよりは少しレベルが高いですね。相性は氷結吸収、衝撃耐性、火炎弱点。

 保有スキルは【狂乱の剛爪】【ブフーラ】【ブフダイン】【ブフバリオン】【マハブフバリオン】。

 まあ、レベルは少し上回っていますがマスターなら弱点を突いて勝てるでしょう、苦労はするでしょうが。

 イカルガに乗っていればもうすこし楽に勝てたとは思いますが……まあたられば論ですね。

 それより問題はこれが終わった後ですよ、ノワール?」

 

ため息を吐きながらノワールを半眼で見やるアイリス。ノワールはその意図を図りかねて首を傾げたが、

それに応え横から口をはさんできたのは紅蓮(マタドール)であった。

 

「アイリスから少し聞いたが、イタクァは我々を攫って孕み袋にするつもりだったのだろう?

 アレ(リン)の事だ、事が終わったら改めて臭い付け(マーキング)をしかねんな。

 リンが何より独占欲が強いのはノワール、お前が一番よく知っているだろう?

 ……今度は気絶するだけではすまんかもしれんな」

 

「独占欲を刺激されて、その上で大暴れして昂ったリンの相手かぁ……まあ、全員でかかれば何とかはなると思うけど」

 

「やめてよそういうこと言うの……大体いつもあたしかキャナルが真っ先に気絶する(トぶ)んだから!

 今度こそイズナに弟か妹出来ちゃうかもしれないわね……」

 

肩をすくめる紅蓮(マタドール)に、頬を赤らめながら頭を抱えるセリリ、自らを抱きしめるようにして叫ぶウカノミタマ。

三者三様のリアクションを横目にしながら、ノワールはなおも心底不思議そうに小首を傾げた。

 

「……何か問題が? 大丈夫ですよ、私が大半引き受けますので!」

 

そう言ってにっこりと笑い力こぶを作って見せるノワールに、処置なしとばかりにイズナ達(子供組)以外の者達は頭を抱えるのだった。

 

 

 

「――――――なるほど、確かに多少手強い。流石は私でも知っているメジャーな神格だな」

 

肌を刺す冷気に獰猛な笑みを浮かべ、リンは迫りくるイタクァの【狂乱の剛爪】を『斑鳩』の四腕で殴り返す。

かつてのアテルイとの戦いほどには脅威を感じないが、それでも生半に倒しうる相手でもない。

氷結属性に耐性を持つリンですら寒いと感じる程の冷気、恐らくは権能の領域に脚を突っ込んでいるレベルだろう。

面白い。戦いで愉悦を感じるなど久しぶりだ。出来れば多少長引かせて楽しみたいが――――――

 

「まあ、そんな事は日本に帰ってからでもできるしな。今は身の程知らずに身の程を教えてから殺すのが先決だ」

 

大気が震えるような乱打戦を行いながらも、リンは赤口葛葉を抜き放つと、内に秘められたフツヌシとヨシツネの力を呼び起こす。

燐光を放ち起動状態になった赤口葛葉にさらにMAGを注ぎ込み……その力を解放。見る間に赤口葛葉は赤い刀身を持つ両刃の巨剣へと変じ、吹き荒れる吹雪を吹戸ばしような威圧感を放った。

 

「O・S《オーバーソウル》・蜘蛛切丸。*7今の私の全力で殺してやる、誇ると良い。語る口が残っていれば―――な!」

 

リンは『蜘蛛切丸』を構えると弾かれたように急上昇し、一瞬でイタクァの頭上を取る。

イタクァがそれに対して腕を振り上げるも、リンはそれをするりとかわして降下。そして『蜘蛛切丸』の刀身にいくつもの光の輪が連なって浮かぶ。

直後イタクァの丸太のような巨腕が輪切りになり、絶叫を上げる間もなくMAGへと還った。

 

「――――――『星の杖(オルガノン)*8。ふふ、次に星杖ニキと手合わせするのが楽しみだな。さあ……まだまだ行くぞ!」

 

リンは降下しながら『斑鳩』の四腕に火を灯し、『烈炎之手(バーニングハンド)』の状態でイタクァの顔面から腹部までをなぞるように猛烈なラッシュを叩き込む。

弱点属性のラッシュに悶絶するイタクァ。自らが産み出した氷、そして『斑鳩』の熱気がぶつかり、蒸気となって立ち上り、上空に雲を作り渦巻いていった。

それを見るとリンは反転し、今度はイタクァの体を駆け上る様に上昇しながら打ち据え、今度は頭上を飛び越えさらに高く上る。

 

「キャナル! 上空はどうなっている!」

 

『え!? あ、はい! マスターの戦闘で発生した熱量で上空に雲が発達、積乱雲が生まれつつあります!』

 

「ならばよし! 総員対ショック対閃光防御! 結界出力最大! 全員結界の内に入れ!」

 

次いでとばかりに背負式銃装剣をぶちかまし、リンはさらに高く高く上る。

その頭上ではもくもくと雲が肥大化し、時折その間から雷光が走るのが見えた。

それが見えた瞬間リンは吼え、その身に宿るMAGを爆発的に燃焼させ、その上で闘気を解放する。

悪路王異界においてアテルイへのとどめに用いたMAG燃焼とマガツヒスキル「拡張:貫く闘気」の合わせ技だ。

そして『蜘蛛切丸』を掲げると上空の積乱雲から幾本もの落雷がその刀身に落ち、まばゆい光を放つ。

 

「『斑鳩』『蜘蛛切丸』による強化、それにMAG燃焼とマガツヒスキルの合わせ技だ……

 我が魂に根付くガイアの怒り(テュポーン)大神(ゼウス)より奪った雷霆の味を知るがいい!」

 

なおも降り注ぐ雷光を浴びながらも、輝く『蜘蛛切丸』を構え、降下しながらも振り抜く。

莫大な落雷とリン自身が宿す雷の魔力、そして剣圧と共に放たれたそれはイタクァが苦し紛れに放ったブフをかき消し、

その頭頂から股下までを消し飛ばしながらも貫き、イタクァの全身を吹き飛ばし、MAGへと還すのであった。

イタクァが消滅するのを確認してリンはMAG燃焼を解除し、大きく息を吐く。

 

「『雷霆剣』……とでも名付けておくか。そう乱打出来る様な技でもないが……やはり雷は良い。

 テュポーンの転生体である私が雷霆を操るというのも、あの下半神(ぜうす)に対する良い嫌がらせになろうよ」

 

にやりと悪そうな笑顔を浮かべ、ノワール達の元へと戻ってゆくリン。

その光景を見ていた何者かがいることなど、知る由もなく。

*1
狼王が唯一自分の先を行く事を許したのが妻ブランカだった

*2
ショタおじの外見モデル、シャーマンキングのラスボス『ハオ』のオーバーソウル。ショタおじも似たようなものを使用可能

*3
複数の霊を用いて構築した甲縛式オーバーソウル。似た技法にオーバーソウルしたものを持ち霊として扱いにさらにオーバーソウルさせたダブルオーバーソウルという技法もある

*4
『ファッション無惨様のごちゃサマライフ』主人公の無惨ニキがヌエで行使可能な能力。オーバーソウルの習得前同じヌエのシフターと言う事で教えを乞うていた

*5
雷雲の中で雷が生まれる原理

*6
『NARUTO』主人公ナルトの技。チャクラで作った副腕で敵を掴み本体が作った螺旋丸に引き寄せて粉砕する。『吸丸』とは言うが螺旋丸で吸い寄せているわけではない

*7
源義経の愛刀、薄緑(膝丸)の別名

*8
以前開発していた「ワールドトリガー」の黒トリガー「星の杖」の再現術




そんなわけで久しぶりのようじょの本気戦闘+オーバーソウルお披露目会でした。
そろそろアメリカ編も終わりに近づいている、はず。


■解説

・幼女ネキ
久々に全力で大暴れしたようじょ。だいぶ本霊の力を引き出せるようになってきている。
あのあと嫁全員を派手に食い散らかした。タマちゃんはトんだ。

基本的に悪魔の数(+赤口葛葉プラスワン)だけオーバーソウルを使えるが、疲労している紙幅があるかは怪しい。
天秤座の聖衣は普通に装着も出来るが、基本的に武器モードでオーバーソウルの媒介として使っている。

余談だが、戦闘でテュポーンの力を使うたびにミネルヴァの術式に反応するのでミネルヴァの肝が縮む。

・オーバーソウル『斑鳩』
武器モードの天秤座の聖衣を媒介に幼女ネキの全悪魔を喚起・連動させ構築する複霊甲縛式オーバーソウル。
構築に当たりショタおじの黒雛とイカルガをイメージしているためイカルガ版黒雛見たいな外見になっている。
背負式銃装剣は分離して手持ち武器としても普通に使える。
実は黒雛をイメージしているが実質的にリゼルグのマステマ・ドルキームに近い。
全悪魔をオーバーソウルさせたうえで緻密に連動させているのでクソみたいに疲れる。

↓ざっくりした外見。

【挿絵表示】

この絵で着ているのはライドウスタイル(黒焦げさんから貰ったあれみたいな感じ)の服だけど、媒介と宿した悪魔がいれば使用可能。

・オーバーソウル『蜘蛛切丸』
赤口葛葉に宿るフツヌシの力とヨシツネの力を持霊とし赤口葛葉にオーバーソウルさせたもの。
外見が古代の剣っぽいのはフツヌシの影響。赤口葛葉でできることを強化した性能を持つ。
こちらは甲縛式ではないのでそれ程疲れないが、今回は『斑鳩』起動中に同時使用してたので実は結構神経を使う。

↓ざっくりした外見

【挿絵表示】
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