【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策   作:タマヤ与太郎

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77話です。
は、半月経っている……!? まあ別作品も書いててそれ交互に出してる関係もありますが。そして主な主原因は「Hydroneer」というゲーム買ったからです。
めっちゃ面白かった……気が付くと3時間ぐらい飛んでるの久しぶり。
ともあれある程度落ち着いてきたのでどうにか六月半ばぐらいまでにはアメリカ編を終えたい所……帰り道のイギリス支部回含めてあと2・3話ぐらいって所でしょうか。


転生ようじょ、渡米する。⑯

 

アーカムシティ郊外。アーカムとそれ以外を隔てる境にて、リンが座すイカルガはクトゥルー迎撃部隊の最前列に立っていた。

視線の先、アーカムシティ市街地の方には、何かが蠢き、迫ってくるのが見える。拡大してみればそれは夥しい数のゾンビ、そして魚人たち。

アーカムに降臨した邪神クトゥルーの眷属と、その影響で呼び起こされた死鬼(ゾンビ)達、そしてクトゥルーに汚染されたメシア教の天使達だ。

人間大のそれらの後方にはイカルガ並みのサイズを持つ巨大な魚人の群れ、

そして氏のさらに後方には、100m級の巨体を持つクトゥルーがゆっくりとこちらへと歩を進めていた。

 

「――――――では、開幕と行くか」

 

リンはぽつりと呟くと、イカルガに指令を送る。

アイリスと言う特級の制御装置を介して電光をも超える速度で伝えられたそれは、何よりも迅速にイカルガを駆動させる。

イカルガの六腕が抱えているのは主武装である銃装剣、それが六丁。がっしりと大地を踏みしめ、銃装剣を正面へと向け砲撃態勢に。

砲口に火球が生まれ、瞬時に膨れ上がり――――――爆音、そして爆炎。

轟炎の槍(ファルコネット)』・多連装法撃(マルチプルショット)*1

瞬間火力で言えばムラクモの竜炎撃咆(インシニレイトフレイム)に匹敵するイカルガ最大の攻撃である。*2

推進器を全開にしなければ反動で吹き飛ぶほどの圧力が、一直線に邪神の眷属たちを薙ぎ払う。

爆炎が収まった時、そこには消し炭になった眷属たちでぽっかりと穴が開き、その向こうの無傷(・・)のクトゥルーが見えていた。

その穴も、上下左右から押し寄せる別の眷属たちによってすぐに埋められてしまったが。

 

「やはり火炎吸収か……しかし眷属どもには有効と。アイリス、アナライズは?」

 

「レベル不明、推定100以上はあるものかと。魔法は万能以外吸収か無効。テトラカーンは所持していないタイプのようです。

 物理属性、あるいは螺旋丸などの無属性、そして万能属性……でしょうか?」

 

「そうなるな。やれやれ、面倒だな。だが、物理が効くのは良い。殴れば効くということだからな」

 

サブアームの銃装剣を収納し、コクピット内で拳を打ち合わせ、リンは声を張り上げる。

 

「聞いての通りだ! クトゥルーはイカルガで引き受ける!

 細かい指揮はレン子ニキに任せた! お前ら、作戦は何かあるか!?」

 

『ハスキーです、意見具申。クトゥルーはアーカムの地脈と接続した存在―――

 既存のデータからすれば悪路王異界のアテルイに類似した状況かと。

 ならばアーカムの地脈から引き離してはどうでしょうか?

 そのうえで相手にの消耗を強いればある程度のパワーダウンは望めるかと……』

 

『幼女ちゃん、今回、クトゥルーを倒すことまでは想定されていないわ。

 あくまで活動期に入ったクトゥルーを止めることが本旨……なら、消耗を強いて休眠期に陥らせれば……

 無論、あまり長時間クトゥルーのMAGにさらされた地脈の悪影響も考慮しないといけないけれど』

 

ムラクモから送られてくるアーカムシティ近辺の地脈分布を確認する。

クトゥルーの侵攻を防ぐことこそこの作戦の本旨ではあるが、あえてアーカムから離れるように誘い込み、消耗を強いる。

幸いにして強力な物理攻撃そのものはイカルガの力を用いれば可能だろう。

リンは少し考え込み―――力強く頷く。

 

「よし、それで行く! ……そうだハスキー、お前、ムラクモでバレルロールはできるな?」

 

『え゛? ……いやまあ、出来ないとは言いませんが……あの、リンさん?』

 

『ちょっと幼女ちゃん!? また何か変なこと考えてるわね!?』

 

震える声で問いかけるハスキー、何かを察したレン子ニキの反応をさらりと流し、

リンはアイリスを介してムラクモのハスキーにデータを送る。それを見たらしいハスキーの顔が、笑顔のままひきつった。

 

「ムラクモにも前線に出てもらう。その質量を持って、格闘戦でクトゥルーを殴れ。

 バレルロールからの『格闘用竜脚(ドラゴニッククロー)』ならば蹴り飛ばすぐらいはできるだろう。

 それでなくともその質量をもっての体当たりも有効だろうな」

 

『そんなアクロバットできませんよぉ!?』

 

悲鳴を上げるハスキー。格闘用竜脚(ドラゴニッククロー)。それはムラクモが有する唯一の格闘武装である。*3

船底に存在し、普段は戦闘機のランディングギアのように折り畳まれているが、

使用時は展開しその莫大な質量と膂力を持って相手を吹き飛ばす。

幸か不幸か今まで使われる事こそなかったが、それを今使えと、そう言っていた。

 

「出来るかどうかではない、やれ。最大の体躯を持つイカルガですら奴の1/10だ。

 120mほどはあるムラクモならパワーで押すこともできよう。レン子ニキ、かまわんな?」

 

『……そうね。ハスキーさん、大分無理をさせるわ。でも、ここが大一番。

 相手のサイズを考えるとムラクモで殴った方が効果的ではあるのよ……お願い、出来るかしら』

 

『ああもう……分かりました! 今回だけ……何て言ってる場合じゃないのは私でも理解できますし。

 どうなっても知りませんよ!?』

 

ハスキーのヤケクソ気味の絶叫を背にイカルガは飛び立ち、一直線にクトゥルーへと向かう。

そうして、戦いが始まった。

 

 

 

「おっし、そんじゃあぶわぁ~っと行ってみようか!」

 

「了解です、先生。総員射撃開始! 先生には当てないように!

 ……いえ、いっそ何発か当てた方が頭のネジも締まるでしょうか」

 

「ちょっとヒトハちゃん不穏な発言はよしてほしいなーっ!?」

 

ヒトハの指揮の元、フタバ以下救急医学部達による一糸乱れぬ支援射撃や支援魔法を受け、先生ネキが切り込む。

先生ネキが纏う蒼のデモニカ、ヴァーダント。その機体はかつて悪路王異界で用いた時と様相を異にしていた。

かつてのヴァーダントは無数の刀を収納したバインダーを背負っていたが、

現在のその姿は背にバインダーの代わりにスラスターを背負い、前腕部にマウントした左右4本の刀、

そして両手に持った2本の計6本を持った、『近接戦使用』と呼ばれる姿だった。*4

 

「ま、当たんないけどねー……っと! いいねえこの感じ! 悪路王異界を思い出すよ!」

 

一刀、二刀、指で挟んで四刀、六刀。一振りごとに悪魔が散り、推進器の光がジグザグの尾を引いて不可思議な模様を描く。

 

「あー、やっぱ運動しないと身体鈍るね! しっかし雑魚多いな……奥の大物狙いてーんだけど。

 ミツバちゃんからコノハちゃん、【子守歌】」

 

「「「「「「「了解です!」」」」」」」

 

ひと暴れして雑魚を散らし、次の狙いを奥に控える大型の眷属に定めた先生ネキ。

フタバを除く救急医学部に指示を出し、【子守唄】の試行回数の暴力で視界の中の大半を眠りに落とす。

 

「おっけおっけ、高い金出して人魚ネキの【睡眠貫通】スキルカード化した甲斐はあったね。

 ――――――そんじゃフタバちゃん、【永眠の誘い】」*5

 

「了解しました。――――――【永眠の誘い】」

 

次いで放たれた【永眠の誘い】により、眠りに落ちた眷属たちが問答無用で死亡、MAGへと還る。

フタバ達救急医学部は治癒や回復に特化したスキル構成をしており、デモニカで足りない戦闘系スキルを補っている。

患者を眠らせ、安静にさせるために*6本部の黒札、人魚ネキの【子守唄】【睡眠貫通】を解析しスキルカード化して習得させていた。

しかしそれだけでは終わらず、いざという時のために人魚ネキの鉄板コンボである【子守唄】からの【永眠の誘い】を参考に、

七発同時の【睡眠貫通】つきの【子守唄】で広範囲の敵を強制的に眠らせ、そこに【永眠の誘い】で即死させる、というコンボを開発していた。

無論フタバ達のレベルもあり高位悪魔には通用しない手だが、レベル30に満たない眷属達であれば効果は十分。

先生はにやりと笑うと、ぽっかりと空いた空隙に雪崩こまれる前に滑り込み、大型の眷属へ向けて突っ込んでいった。

 

 

 

 

「――――――【物理プロレマ】【龍眼】【ヤブサメショット】」

 

同時刻、上空。レン子ニキが呟きながら劔冑(デモニカ)の左腕にマウントされたバリスタを放つ。

放たれた矢は狙い過たず空から迫りくる眷属天使達を撃ち抜き、あまつさえ貫通した矢が生き物のように軌道を変え新たな敵に食らいつく。

レン子ニキが纏うのはスイスの英傑ウィリアム・テルの名を冠するデモニカ。

厳密には彼をモチーフにしたゲームの装備をモデルにしたものだが……カジオーネキの手になるその性能は折り紙付きである。

リンに及ばずとも仕事の合間に錬磨を重ね、ノワール達について行ける程度には動けるようにはなっていたのだ。

そのレン子ニキの脇を抜けて、漆黒の劔冑(デモニカ)が飛ぶ。

(はね)を開き飛行するカブトムシを思わせるその劔冑(デモニカ)の名は勢州千子右衛門尉村正、通称『初代村正』。

レン子ニキの専用シキガミ、ブシ子の纏う劔冑であった。

 

「マスター、突貫します! 援護を!」

 

「オッケーブシ子ちゃん!」

 

長大な野太刀を振り回し、悍ましき変化を遂げた天使たちを一刀のもとに切り捨てる。

振り終わりの隙を突いて襲い掛かるものがあれば、レン子ニキの放った蛇のごとく食らいつく矢によって撃ち抜かれる。

そうして出来た空隙で、ブシ子は野太刀を背に着くほどに大きく振りかぶり、呟く。

 

「村正! “(オドシ)”で行きますよ!」

 

『諒解。―――磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

 

初代村正の返答と同時に、その装甲表面が火花を散らし、強力な磁場を発する。

蒐窮一刀(オワリノタチ)。初代村正に実装された陰義、『磁力操作』の究極系。それを用いた剣技群を指す名である。

ブシ子がその中より放つべきと決めたのは、今放てる中で最強の技。

 

蒐窮開闢(おわりをはじめる)―――終焉執行(しをおこなう)―――虚無発現(そらをあらわす)

 

極限まで高まった磁場により、背と太刀が反発し合う。それを用いた強力無比な打ち下ろし。

その名を―――

 

「吉野御流合戦礼法“雪颪(ナダレ)”が崩し―――電磁撃刀(レールガン)(オドシ)”!」

 

ソニックブームを引きながら放たれた打ち下ろしが接近していた眷属天使の一群を消滅させる。

スキルとしては【チャージ】【物理プロレマ】を重ねた【雲耀の太刀】。

しかしそこに(オカルトを前提とした)物理法則による電磁加速を与えることで剣速を増し、

デモニカを介して習得した装甲悪鬼村正原作に登場する剣技『吉野御流合戦礼法』の術理で放つ。

そうすることで額面以上の威力を発揮することを可能とした。無論レベルにして50程、主人であるレン子ニキと同程度であるが、

おおよそレベル20~30程度の眷属天使相手には十分すぎる程の戦闘能力であった。

 

「ノワールさん、穴が開きました! 後はお任せします!」

 

「了解しました!」

 

(オドシ)”によって開いた大穴に飛び込むのは、専用デモニカ『篝の劔冑(ブラン)』を纏ったノワール率いる一団。

ノワールが装着しているブランを始めとし、イカルガに搭乗しているアイリスを除いた七人。

ブシ子達を追い越し前に出ると各々の得意な間合いに散り、戦闘を開始する。

 

「【メギドラオン】!」

 

「――――――Ah………♪」

 

初手はラプンツェルの【メギドラオン】。

広範囲を万能属性の爆裂により薙ぎ払い、ブシ子が開けた穴をさらに広げ進撃。

その後に続くようにセリリが歌声―――フタバ達同様の【睡眠貫通】の乗った【まどろみの渦】*7―――でフタバ達よりさらに広範囲を眠りと幻惑に落とし、

一小節ほど歌った後、歌い終わりと同時に放たれた【永眠の誘い】のコンボで即死させる。

セリリは人魚ネキの変身悪魔の1つであるマーメイドであり、リンを安眠させるために彼女の【子守歌】による夢の誘導技術を会得している。*8

それを戦闘に転用し、彼女の得意技である睡眠からの【永眠の誘い】を模倣した広域殲滅能力を得るに至る。

安らかな顔でそのまま即死させられていく眷属天使や深きもの共を見て、ラプンツェルはセリリの横で頬をひくつかせた。

 

「情報として知ってはいましたが……実際に見るとえげつないですね、それ。

 睡眠が入らなくても幻惑を与え、眠ってしまえば即死……セリリさんもマスターに似て来たのでは?」

 

「え? やめてよリンに似てるだなんて、あたしが無法者みたいじゃない。

 でもまあ、実際強力だもんねえ……人魚ネキはこれを軽々やってたみたいだけど、結構しんどいわ、これ。

 リンに聞かせる子守歌ならもう少しモチベーションも上がるんだけど……

 それに、似たような即死コンボならアイリスも感電入れて【ナイス・ショート】*9出来るわよ」

 

セリリとアイリスは絶対に怒らせないようにしよう。ラプンツェルはその時心底からそう思ったのだという。

 

 

 

「キャナル、状況を!」

 

『はい! イカルガとクトゥルー、接敵しました! いくらかはそちらへ流れましたが……

 大半の眷属のこちら側への誘引、現状成功しています!』

 

縦横無尽に空を駆け、当たるを幸いに眷属を倒していくノワール。その手には二本の赤い槍。

ノワールは悪路王異界攻略後も悪路王異界に通い、そこに座すスカアハの手ほどきを受けていた。

それにより、かつては付け焼刃であった槍術も一応の完成を見る。優美な舞を思わせる所作ながら、その(きっさき)は絶死の冴え。

穏やかで気弱にすら見えるノワールだったが、その本質(ペルソナ)は師事したスカアハ同様の影の国の女王、女教皇・スカアハ。

普段はリンに対する深い愛でもってリンを癒す妻として控えているが、控えているだけでは守れない、リンについてゆくのではなく、その横で共に戦いたい。

そんな思いで己のペルソナを進化させ、そしてその後の鍛錬によって師事したスカアハに迫るほどの槍術を会得した。

常に最前線に突っ込んで行くリンを前にその願いは余り叶っているとはいいがたいが、それでもかつてのように無力に歯嚙みすることはない。

油断なく槍を閃かせ続けていたノワールだったが、その背後よりふわりと飛び出す赤黒の影。紅蓮(マタドール)だ。

 

「紅蓮!? あなたには孔雀明王の守りを任せていたはずですが……」

 

「何、このままではお前にすべて食い散らかされてしまうのでな。一太刀見舞うくらいはさせてもらおう……【赤のカポーテ】」

 

空を踏みしめノワールを飛び越えながらも、紅蓮(マタドール)は空気を打ち払うように右手をひらりと動かす。

その手の軌道に沿って赤い布がはためいたようにも見え……次の瞬間、左に構えた剣を突き出す。

 

「――――――【血のアンダルシア】」

 

空気を突き破るような音と共に突き出された剣は、紅蓮(マタドール)の前方に迫っていた眷属達を須らく貫き、霧散させた。

魔人マタドールの固有スキル、【赤のカポーテ】【血のアンダルシア】。

己の命中と回避を最大まで上げる【赤のカポーテ】からの敵全体物理攻撃【血のアンダルシア】。

原作女神転生でも幾多のプレイヤーを悩ませたスキルを、当然この紅蓮(マタドール)も得意としていた。

紅蓮(マタドール)は一太刀見舞って満足したのか、もう1度空を蹴って孔雀明王へと戻りながら声を張り上げる。

 

「ははは、満足とはいかないが、お前(ノワール)のためにも敵は残しておかねばな! では、後は任せた!

 お前の魂の煌めき、後ろで見守っているとしよう!」

 

『……マスター関わらないとだいたいあんな感じですよね、紅蓮さん』

 

「まあ、恐らく今晩もまたマスターは張り切られると思うので、少しは機嫌を取っておいてもいいでしょうか。

 ――――――ともあれ。ブラン、私達も負けてはいられませんね、行きますよ!」

 

呵々大笑しながらも戻っていく紅蓮(マタドール)をセンサーでとらえながら、ブランがぼそりと呟く。

ノワールもまた軽くため息を一つつき、刹那、表情を引き締めた。

 

「ブラン、推力最大、行きますよ!」

 

『オッケーお姉ちゃん! 全システムオールグリーン、いけるよ!』

 

直後、ノワールは二槍を回転させながら上方向へと投擲。篝の劔冑(ブラン)がその背に背負った兎の頭、その耳部分から爆炎を噴いて急上昇する。

そして高く投げられた槍に瞬時に追いつき、一本目の槍の柄尻をボレーシュートの形で蹴り込む。

そしてその回転を利用しオーバーヘッドキックの状態へと移行し、残るもう一本をも蹴り飛ばした。

 

「影の国へとお行きなさい……『蹴り穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』ッ!」

 

蹴り放たれた二槍は番の鳥の如く絡み合う軌道で宙を駆け、炸裂。

瞬く間に無数の(やじり)となって散り、眷属達を撃ち抜き―――眷属達がMAGに還った頃、再びノワールの手の中で槍の形を成した。

 

『『ゲイ・ボルグ二式』、再構築完了! 便利ですよね、戻ってくる奴』

 

「ええ、良い仕上がりです。リンクニキさんには改めてお礼を言わないと」

 

ノワールの槍術は一応の完成を見たが、それでも免許皆伝には程遠い。

技としての絶死の槍(ゲイ・ボルグ)を放てるようにこそなったが、槍としてのゲイ・ボルグそのものを所持しているわけではない。*10

そこでリンクニキを中心に宮城支部技術班が制作したのがこの霊装『ゲイ・ボルグ二式』である。

構造としてはロケットペンシルの芯のような『鏃』が直列に連なってできており、一見して鋭い杭のような形状をしている。

これは普段宮城支部謹製の術式接着剤『ウルトラボンド』で固定されており、絶死の槍を放つという行為がキーになり連結が解除。

無数の矢尻となって飛び回り敵を撃ち抜く―――という特性を持つ。

また、射出後は展開型デモニカや初期型シキガミの技術を利用した再構築機能で鏃がMAGに変換され、その後ノワールの手元で再構築される仕様となっている。

 

「……マスター、ご武運を」

 

ノワールは一瞬瞑目し主人(リン)の身を案じる言葉を呟くと、次の瞬間には意識を切り替え、戦闘へと戻って行くのであった。

 

 

 

 

 

「アイリス、地脈の流れはどうなっている!」

 

「クトゥルーのアーカム地脈からの引き離し、一応は成功! しかしそれ程離れていないため、思ったほどのパワーダウンは望めていません!」

 

「こっちの思惑を悟ったか……? いや、地脈から離れることを嫌っただけかもしれんが……面倒だな。

 まあいい、多少なり弱体化しているなら少しは楽になろう。行けるな?」

 

「ここで行けませんって言ったら踏みとどまってくれます?」

 

「無理だな、諦めろ」「ですよねえ!」

 

ノワールがリンを案じていたころ、リンはクトゥルーをこれ以上地脈から引き離すのを諦め、戦闘態勢に入っていた。

クトゥルーのみならずいくらかの眷属も付いてきてはいるが、クトゥルーに対し放った牽制の余波で吹き飛ぶ程度の者達、考慮に値はしないだろう。

リンはイカルガの【マテリアライズシステム】で赤口葛葉を具現化し、向き直る。

 

「クトゥルーのステータスに変化は?」

 

「体制に変化なし。レベルは測定不能から98までダウンしました。地脈から引き離した効果はありますが……」

 

「どちらにせよ格上なのは変わらんが……現実的な数値になっただけマシか。

 仕掛けるぞ、ハスキーも相手の隙を見て仕掛けろ、私達に構うな、勝手に避ける」

 

『ご自身が滅茶苦茶なこと言ってる自覚あります!?』

 

「お前程度の蹴りに当たってたら星祭*11では話にならん」

 

「ハスキーさん、うちのマスター(幼女ネキ)こういう人なんで……」

 

絶句するハスキー(ムラクモ)をスルーし、リンはイカルガを突撃させる。

迎え撃つように迫るクトゥルーの巨腕を紙一重でかわし、その後ろに抜け―――

 

「―――『星の杖(オルガノン)』」

 

イカルガサイズで繰り出された『星の杖(オルガノン)』によりその腕は瞬時に輪切りにされる。が――――

 

「クトゥルー右腕、再接合!」

 

「切り落とした程度では再生するか、報告通りだな。だが地脈からある程度離している以上、再生させ続ければガス欠を起こすはずだ。

 そうなれば休眠期に入る可能性は高い。そこをハスキー、お前の出番だ。ムラクモで押し戻す」

 

『聞いております。対クトゥルーの神話再現だとか』

 

対クトゥルーの神話再現。厳密に言えば『原作再現』に当たるだろうか。

これはH・P・ラヴクラフトが執筆したクトゥルフ神話作品『クトゥルフの呼び声』に由来する。

仔細は割愛するが、そのクライマックス、迫るクトゥルフに登場人物の一人が船舶で突撃を敢行し、撃退する、と言う一説がある。

この船の種類については諸説あるが、訳された作品、及び原文においては『武装された船』であるとされる。

ムラクモは竜を象っているがその本質は船であり、その体当たりならば有効打を得られよう、と言うのが戦闘前の会議における結論だった。

 

「なので積極的に仕掛けていけ。そのための格闘用竜脚(ドラゴニッククロー)だ」

 

『やっぱやらなきゃいけませんか、あれ……』

 

「さっきも言ったが、出来るかどうかではなくやるかどうかという話だ。

 出来なければ恐らく負ける。生き残りたくばやれ。真っ先に死ぬのは恐らくレン子ニキとブシ子とお前だ。

 お前らが一番弱いからな」

 

『分かってますけど……! ああもう、恨みますからねマスター(レン子ニキ)!』

 

そこからは、猛烈な殴り合いの始まりであった。クトゥルーの巨腕が振り回されれば、イカルガがその六腕すべてで作り出した巨大螺旋丸で迎え撃つ。

それが拮抗し一瞬お互いの動きが止まった直後、イカルガを巻き込む軌道で振り回された格闘用竜脚(ドラゴニッククロー)の蹴りが直撃。

クトゥルーの巨体が大きく仰け反り、当然のように攻撃を回避していたイカルガが再度構築した螺旋丸をイズナのようにボレーシュートの形で蹴り込み、

突き出されていたクトゥルーの右腕を巻き込み、微塵に砕いてMAGへと還す。当然その腕は再生されるが……

 

「マスター! 僅かですがクトゥルーの保有MAG減少を確認! 地脈とのリンクが完全に切れていないので微増し続けていますが……」

 

「減るならば良い。回復を上回る消費を与えてやればいつかはゼロになる!」

 

星の杖(オルガノン)、螺旋丸、【アクセルクロー】、【冥界波】。得意の多彩な属性魔法を封じられてもなお、数々の物理スキルで攻め立てる。

そしてクトゥルーがリンの方に意識を向ければ、ムラクモ(ハスキー)の格闘用竜脚《ドラゴニッククロー》がその隙を狙い、それを喰らって体制を崩せばリンが大技で削っていく。

そうして激闘を続けることしばし。クトゥルーのアナライズを続けていたアイリスが声を上げた。

 

「クトゥルーの保有MAG減少速度、増加速度を上回りつつあります!」

 

「頃合いだな、仕掛けるぞ! 大技で行く!」

 

リンはイカルガの腕を振り上げ、巨大な螺旋丸を1つ。そしてその周囲を衛星のように回るやや小型の螺旋丸を複数生み出す。

そして幾度目かのクトゥルーの剛腕を紙一重で避け、その勢いのままに螺旋丸をクトゥルーの胴体に叩きつける。

 

「超大玉――――――惑星螺旋丸!」

 

空間がねじ切れるかのような轟音と共に、クトゥルーの巨体、その胴体が大きく抉り取られる。

惑星螺旋丸、ぞれぞれ別方向に乱回転する複数の螺旋丸を叩きつけることにより、当たった場所を中心に広範囲を抉り取るリンの奥の手の一つであった。

さしものクトゥルーも大きくたたらを踏み、辛うじて踏みとどまる。その傷口はじわじわと再生を続けていたが、アイリスの言う通り開戦当初ほどの無体な再生速度はない。

それでも放っておけばいずれ完治するだろう、そう判断するより先に、リンは声を張り上げた。

 

「ハスキー! やれ!」

 

『了解しました! これは幼女ネキさんに無茶振りされた私の分!』

 

イカルガを追い抜くように突出してきたムラクモが、その巨大な脚でもってクトゥルーを打ち据える。

そして蹴り飛ばした後に急上昇し宙返りすると、その勢いのままムラクモはラムアタックを敢行した。

 

『そしてこれはこれからも幼女ネキさんに無茶振りされるだろう私の分――――――っ!!!!!』

 

「それはただの八つ当たりではないか?」

 

『まず間違いなく無茶振りされるだろうから今のうちに予()しておくんですよーっ!』

 

ちょっと無茶振りしすぎただろうか。リンがそう思う程に今のハスキーは問答無用であったのだという。

 

 

 

「――――――おや、結構やりますね黒札さん。これは本当に倒せちゃうかも?」

 

アーカムシティ上空。遠くに見える戦闘の光を見つめながら、銀髪の少女……無貌の邪神ニャルラトホテプはふむ、と顎に手を当てて考え込む。

 

「まあ別に倒されてもどうせリポップするか休眠期に入るだけだからいいんですけど……

 あんまり簡単にクリアされるとGMとしては悔しいですねえ。向こうも私が暗躍してるのはお判りでしょうし……

 ちょっとだけなら介入するのもアリですよね? そう、GMだって卓を囲む仲間の一人! 手を出してはいけないという方はないでしょう!」

 

やがて何かを思いついたのかにやりと笑い……ノイズが走る様に、その顔に燃える三眼がちらつく。

 

「まあ、それでもなんでもかんでもGM権限なんてやったら白けちゃいますから……1回だけ。

 一回だけで手出しはよしましょう。さてさて、ではタイミングを見計らって……」

 

うきうきとした顔で遠くを眺め、燃える三眼をちらつかせながらも笑う無貌の神。

その視界の端に影がよぎった。目深に帽子を被り、コートの裾をはためかせながらこちらを見る青年。

そしてその傍らにいる、半ばこちら(・・・)側に踏み込んでいるであろう、金髪の少女。

 

「おや、見つかっちゃいましたねえ。まあ、手遅れですけど。――――――ばぁん☆」

 

彼らが行動を起こす前に、無貌の神は手で銃を構えるジェスチャーと共に、魔法を放った。

――――――彼方にいるクトゥルー(・・・・・)に向けて。

 

 

 

*1
なお原作では4丁、6丁全てを使うのはリンのオリジナル

*2
リンの個人技は含まず

*3
そも、飛竜戦艦は母艦であるため本来前に出てはいけない

*4
原作準拠。原作のヴァーダントは汎用性に優れ、近接戦仕様の他中・遠距離戦用の換装装備が存在する

*5
「終末に向けての準備するとある転生者の話」主人公。マーメイドのデビルシフターで、子守歌で眠らせてからの永眠の誘いでメシア教の拠点を殲滅したこともある

*6
リンが悪夢を見ないようにセリリが子守唄を歌っているのと同じような使い方。本家人魚ネキも出来る

*7
※敵全体に確率で睡眠と幻惑を与える

*8
フタバ達との差異はスキルカードによる付加ではなく自力での習得

*9
※感電している敵を即死させる

*10
あくまで悪路王異界のジェネリック影の国は「影の国っぽい別の異界」であり、ゲイボルグの原材料である海獣クリードが存在しないため

*11
星祭神社。『最速で出会った俺らのガイア連合活動記録』主人公セツニキのお膝元。修羅勢がうようよいる。同作「アガシオンを作ろう!」で育ての親の葬式代を出してもらった恩がある。多分爆速でレベル上げて金返しに行って「はえーよホセ」とか言われた




そんなわけで77話でした。クトゥルー戦も次回で終了……の予定。たぶんきっとおそらく! ゲームや他作品でもすが、掲示板なしの小説アートのみ、スキル交えたバトル描写も含めて描くのにMP大分消費するんです……という言い訳。
前書きでも言いましたが多分最長あと3回ぐらいで日本に帰ってこれる予定です。



■解説

・幼女ネキ
10倍以上まある相手と殴り合いしてたようじょ。
クトゥルー戦の描写、相性とか考えると幼女ネキ得意の広範囲属性魔法がほとんど通じないんで笑っちゃったんですよね。
辛うじて属性によらず膨大なMAGを放出できるスキルがあったからどうにかなってるけど。
一応セイテンタイセイでメギドラオンも使えるけど、威力そのものは螺旋丸派生術とか星の杖の方が上。
今回の件で「あ、ハスキーは怒らせたら不味い奴だな」と理解した。

・嫁ズ
色々悪路王異界の頃よりは段違いにパワーアップしてますよ、と言うお話。
主に描きたかったのがノワール・セリリ・紅蓮あたり。

ノワールはハルカ君とは別経路でスカアハの槍術を修めているので、従妹弟子ぐらいなのかもしれない。(それぞれ別個体のスカアハから技を教わっている)
今回使ったのは蹴りボルグだけど、投げる方も刺す方も使える。
余談ですが、ペルソナ(人格としての本質)はスカアハですが、本霊はスカアハではありません。ペルソナは転生元とはあんまり関係ないらしい、というのを絡めてみた感じ。

セリリはいずれ人魚ネキみたいな睡眠からの永眠の誘い使わせたいなあ……と思っていたので今回のような感じに。幼女ネキの嫁ズ、ことごとく広範囲殲滅が得意な面々だなぁ……

紅蓮はマタドールらしさをちょっと出したくて……この紅蓮の【赤のカポーテ】はバーン様のフェニックスウィングのイメージ。

・先生ネキ
デモニカのマイナーチェンジをしてた変態。
原作になぞらえて近接戦オプション以外のものも一応作ってはいる。
なお後ろからヒトハ達に一斉掃射されてもかわすか払うかするので割と平気。

・救急医学部
フタバちゃん以下8名。一応医療目的で人魚ネキの子守歌とか睡眠貫通をスキルカード化したものを差し込んでいる。
また、今回はやらなかったけど、
(1~4人が)【自爆】→(残った4人が)【サマリカーム】(か反魂香)→(1~4人が)【自爆】→以下略の広範囲殲滅外道コンボとか、
消耗して来れば【リカームドラ】(MPも回復する方)→【サマリカーム】(か反魂香)なんかも実行可能。
仮にも嫁をその扱いはどうよ、と言われたこともあるけど、なんのかんのと全員全幅の信頼と愛情で繋がっているので平気。
先生ネキを含めて、幼女ネキ以上に『死ななきゃ安い、蘇生させれば死んでも安い』を徹底している。
手段選んでるとほんとに死ぬからね、とは本人の談。

・ニャルニャルしいアレ
クソGM気取り個体の面目躍如。クトゥルーに対して何を使ったのかは待て次回!
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