リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
第一話『猛獣、来襲』
「じゃ、行ってくる」
季節は初冬。息も白む寒空の中、玄関先で自身を見送る母…咲に、自転車にまたがりながら、少女―志摩リンは言う。
「行ってらっしゃい。毎年のところだけど、車に気をつけるのよ」
「わかってるよ。……で、お兄ちゃんは?もう出掛けてたみたいだけど、教習?」
「そうみたい。教習が終わったらそのままバイトに行ってくるって」
「ストロングスタイルだな」
自身の『双子の兄』が祖父の影響で普通二輪の免許取得とバイクの購入に向けて躍起になっているのには半ば呆れを通り越して感心する。
「リンも人のこと言えないでしょ?キャンプにバイトに免許の勉強。私から見ればお兄ちゃんとどっこいどっこいなんだから」
「う……そうかな……」
高校一年生という多感な時期だからこそ、チャレンジ精神を持つというのは喜ばしいことだが、それ故に無茶だけはしてほしくないと思うのが親心か。
ただ、自身の子供が二人共が免許を取ろうと躍起になっているというのは、やはり血は争えないものなのかと内心呆れてしまう母。
「と、とにかく。行ってくるよ」
「ん、気をつけてね」
気恥ずかしさから逃げるようにリンは自転車を漕ぎ出し、目的地を目ざす。その荷台には、祖父から譲り受けたテントや寝袋等のキャンプ用品。
志摩リンのオフシーズンから始まるキャンプが、今年も始まるのだった。
「で、本栖湖でキャンプしたは良いが、そこで引っ越してきたばかりで富士山を見に来た女の子が休憩所で寝過ごして、真っ暗で帰れないのを成り行きで助けてカップ麺を御馳走した。そしたら迎えに来た女の子のお姉さんからお世話になったお礼に、と大量のキウイと電話番号を書いた紙を渡されたと」
「うむ」
「漫画かアニメの世界みたいだな」
「漫画とアニメの世界だよ」
翌日の夕方。
志摩家のリビングのコタツに入って件のキウイを食べながら、向かって座る自身とそっくりの顔をした双子の兄―志摩ケンに昨日のキャンプで起こった不思議な出来事を話していた。
「しっかし…南部町から本栖湖まで車でも1時間弱掛かるのに自転車でって凄い体力してるな、その子」
「自転車だと往復5時間掛かるからな」
「体力に加えて富士山への執念すら感じる」
「執念て……」
「だってさ、引っ越してそうそうまだ地理も全然わからんアウェーの土地で速攻で富士山を見に出かけようと思わんだろ?」
「あ〜、確かに」
「よっぽどの行動派か、はたまた天然で単純なだけか」
絶対後者だろうな、とリンは彼女……各務原なでしこのキャラから予想する。
着の身着のままで本栖湖までチャリこぎしてくるし、スマホを持たずに間違えてトランプを持ってくるし、行動の端々にそれらしいものが見られた。
「……ま、電話番号を渡されたからには、登録だけはしとくよ」
「そうしとけ。……ちなみにそのなでしこって子、年はいくつくらいの子なんだ?」
「…………(ジー)」
「この兄、狙ってるのか?みたいな目やめろ」
「……多分、同年代に見えたけど」
「もしかしたら、本栖高校に転入してきたりしてな」
「それこそ漫画やアニメだわ」
「向こうはリンのこと、背丈から年下と思ってるだろうな」
その日、志摩家のリビングで一人の少年がボコボコにされた姿で発見された。第一発見者たる母親は、『またリンを怒らせたのだろう』と、特に気に留めなかったという。
翌朝 本栖高校
「静岡の浜松から引っ越してきた各務原なでしこです!よろしくお願いします!」
「おいまじか」
朝のホームルームにて転校生が居るとのことで、紹介された少女の名を聞き、少年は目を見開くと共に呆れた。
現実は小説より奇なりともいうが、いざ目の前でこうしてそれが起こってしまえばこんな反応にもなるだろう。
「席は……一番後ろの志摩君の隣が空いてるから、そこに座ってね」
「はい!」
前方に並ぶ席の間を抜けて、隣に着席した各務原なでしこ。カバンから教科書やらノートやら出しながら、まるでふにゃり、という擬音が聞こえてきそうな笑顔で微笑みかけてきた。
「よろしくね、志摩君」
「よろしく。各務原さん」
「およ?ん?んん〜?」
無難に返したつもりだが、なぜか怪訝そうな顔を浮かべてジロジロと角度を変えて顔を観察してくる。
ややあって、
「あぁっ!!背が伸びて髪短くなってるけど一昨日の女の子だ!!!」
なでしこの大声でクラス中から注目を集めてしまったのは言うまでもない。
「えっ!?男の子なの!?」
「こんな見てくれだけどな」
ホームルームが終わり、一時限目を終えた休み時間。隣の席故に、いの一番に話しかけてきた。確かにケンは双子の妹であるリンと性別は違えど、顔立ちがよく似ている。髪はリンは腰辺りまで伸ばして、ケンはショート辺りで揃えている。中性的な外見のためか、よく女の子と間違われたりするのだ。
ちなみに、
背丈はリンが140cmと小柄なのに対し、ケンは165cmと、同年代の平均身長より少し小柄だが、それなりに高かったりする。
「じゃ、改めて……俺は志摩ケン。よろしくな」
「うん!よろしく!ケン君!」
「ちなみに、各務原が一昨日出会ったのは、双子の妹のリンだ」
「えぇっ!?双子なの?」
「うん、同じ本栖高だから、また会えると思うよ」
「そっかぁ。リンちゃんかぁ……!」
名前を教えただけでこんなに目を輝かせるなんて、どれだけ恩を感じてるのだろうか?聞いた話だと、スマホを貸して、カップ麺をご馳走したくらいらしいが。
「ねぇねぇ?ケン君はリンちゃんみたいにキャンプするの?」
「ん〜、時々はするなぁ。夏とか暖かいときはともかく、今はオフシーズンだからしないけど」
「じゃあじゃあ!この高校にはアウトドアな部活が登山部と、あともう一個あるって聞いたんだけど、ほんと!?」
「ウソ」
「え……?」
先程までのテンションから一変。氷点下と思しきほどまでに落ち込んでいくのが分かる。
「うちの高校でアウトドアな部活は登山部だけだぞ」
「そ、そんなぁ……!」
今にも泣きそうなまでになってきた。ケンの中で『表情がコロコロ変わって面白いやつ』という印象が与えられる。
だがまぁ、『流石にちょっとからかいすぎたか』と思い、ネタばらしを行う。
「まぁ野外活動サークルっていう、同好会みたいなのはあるけどな」
「ほんと!?」
「ほんと」
「よかったぁ、あるんだぁ!……て!ケン君、ひどいよぉ!嘘ついたぁ!」
「嘘はついてないぞ?野外活動サークルは部活じゃないからな」
「むぅ!!」
次はほっぺたを思い切り膨らませてプリプリ怒り始めた。
しかしまぁよく膨らむ頬である。
「一応部室棟の端に溜まり場があるけど、放課後行ってみる?案内するけど」
「いいの!?行く!行くよ!って、溜まり場?」
なんだかヤンチャな連中がたむろしそうな言い方に疑問を覚えながらも、ちょうどチャイムが鳴ったことで、なでしこはそれ以上尋ねることはなかった。
(リンがあそこに行くのは憚られるって言ってたけど…十中八九、メガネの方のノリだろうなぁ)
詳しくはわからないが、おそらくは野外活動サークルのリーダーである大垣千明がリンは苦手なのだろう。わりかし静かな方が好みなリンにとって、良くも悪くも賑やかしな千明はある意味天敵だ。
(まぁ、各務原連れて行ったら、そそくさ退散だな。なんか嫌な予感がしなくもない)
第六感というべきか。
そんな感覚に見舞われながら、放課後までの授業を消化するに至ったのである。
ちなみに、
なでしこが昼の弁当をやたら美味そうに食べていたのが嫌でも視界に入り、その空気に充てられる。ケンにはいつも以上に母の弁当が旨く感じられた。
オリキャラ紹介
名前 志摩 ケン
年齢 16歳
身長 165cm
体重 55kg
容姿 妹のリンそっくりの顔立ち。髪は流石に長くはないが、ショートヘアの女性に見えなくもない。
参考としては、映画版志摩リンが近しい
趣味 バイク、時々料理
基本的に妹のリンが『クールになりきれない一匹狼』であるのに対し、どちらかといえばケンはノリのいいタイプ。良く妹のリンをからかってボコボコにされている。だが、からかいながらも、リンのことを大切に思っており、時折シスコンじみた発言も見られる。
ソロキャンプの経験はないが、夏休みに祖父である新城肇が家にやってきた際に、キャンプに連れて行ってもらっている。その際に、祖父のバイクにタンデムし、風を切って走るバイクの魅力に惹かれる。その熱意は高校生になると同時に、普通二輪免許の教習を受けに行くほどで、本編開始地点で目下教習と、バイク購入資金のためのバイトで忙しい日々を送っている。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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