リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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EXTRA『親になること』

10月に入り、だんだん下がりゆく気温が秋の兆しを感じさせてきたこの時期。

昼下がりの時間帯、ケンは会社で書類とパソコンと真剣な表情でにらめっこしていた。

それはひとえになでしこ(愛妻)弁当で満腹になり、気合が入ったからと言うだけではない。

そのもう一つの理由が、彼をより仕事へ打ち込み、働く原動力として気合を満ち溢れさせていた。

 

「……よし、一先ずこれは終了だな」

 

トントン、と仕上げた書類を整頓し、次長に提出する。ここまではいつもの流れだ。

そのいつもの流れ通り、自身と同じくしてパソコンを操作する白川次長に、仕上げた書類を渡しに行く。

 

「次長、書類終わりました」

 

「あぁ、ご苦労。……ふむ、不備はないな」

 

ざっとではあるが書類チェックを行い、問題ないことを確かめる白川。

 

「しかし、いつも以上に気合が入っているな志摩。なにか心境の変化でもあったのか?」

 

「いえ、まぁ……」

 

いつものケンなら定時前までかかるような物だが、定時の数時間前に提出ともなれば不思議と感じるのも無理はないだろう。

白川の問いにケンはと言うと、やや照れくさそうに頬を掻きながら煮えきらない返事を返す。

 

「もしかして、予定日が近いから気合が入ったのかい?」

 

「え、えぇ、まぁ……」

 

最近になってしっかりと大きくなったお腹に張りを感じ始めると共に、『おしるし』があったなでしこは、身延にある産婦人科医院に入院している。何せ初めてのお産だ。いつ何時その時が来ても問題ないように大事を取ってである。

初めての子供

その言葉に父親となる身として、不安で身体が少し強張りそうになる。だが、妊婦としての身体の変化に耐え、出産を控える妻たるなでしこの それは自分の比ではないだろう。だからこそどっしりと構え、その気合を仕事に打ち込んでいるのがケンの現状だった。思えば白川や海津を含め、会社の人々には、父親や親の先達として相談に乗ってもらったり、アドバイスをしてもらったり、助力をもらっている。落ち着いたら何かしらお礼をしなければと思う最中、ズボンのポケットの中に仕舞っていたスマホのバイブレーションが振動する。誰だろう?と首を傾げつつも海津に許可を取り、外に出てスマホを取り出せば、画面には母たる咲の文字が。

 

「もしもし?」

 

『もしもしケン?今大丈夫なの?』

 

「うん、丁度仕事が一段落したからさ」

 

『だったら良かったわ』

 

良かった、と言う割には咲の声色には若干の真剣味が感じられる。なんとなく、彼女の用事が予想出来てきた。

 

『今、病院でなでしこちゃんに付き添ってたんだけど、さっき陣痛が始まったのよ』

 

「うぇっ!?」

 

『初産だから出産までまだかかると思うけど……今からなら仕事が終わったら病院に来れるかしら?』

 

「そ、それは大丈夫だけど」

 

『それじゃ、仕事終わりにね。あと……』

 

「???」

 

『焦んなくても大丈夫だから、落ち着いて運転するのよ?』

 

内心では心構えしていたつもりが、いざその時ともなればその強がりが剥がれ落ちてしまったようで。自身の中の焦りを見抜いていた咲はそれだけ言うと通話を切ってしまった。

とりあえず落ち着こう。

その為にもまず深呼吸。

少しだけ大きくなった心臓の鼓動と、早くなった脈を、深くゆっくりとした呼吸で落ち着かせていく。

焦るな

それだけを思い浮かべ、落ち着いたところで海津へ報告しようと振り返った時、

 

「志摩君、早退届と有給届、出してから行くんだよ」

 

「あひぃぃっ!?」

 

既に眼の前に海津が2つの届出用紙を差し出しながら立っていた。

どうやらお見通しだったらしい。

 

「早く行ってあげなさい。出産の時は奥さんは旦那がいるだけで安心するものなんだからね」

 

「は、はい……」

 

「調整は任せておけ……と言っても、お前の有給が貯まりまくってるからな。この機会に一週間ほどしっかり消化しとけ。あと、必要なら育児休暇も申請するように」

 

白川も白川で、ケンがしばらく休む事を見越して早速シフト調整をし始める。

各業務内容を精査し、人員の調整を行い、あっと言う間に不備がないように推し進める辺り、流石としか言いようがない。ただ、本社の人事からケンの有給消化をせっつかれていた身としては、白川にとっては渡りに船だった。

 

「しっかりと奥さんを支えてこい。生まれてからも大変なんだからな」

 

「……わかりました、ありがとうございます」

 

早速支店長から届出用紙を受け取り、自分のデスクで必要事項を記入していく。

本当にありがたいもので、こうしたチームプレイというか、有事の際にはカバーしてくれる同僚や上司にはほとほと頭が上がらない。だからこそ全てが終わったら恩を返せるように全力で勤めよう。改めてそんな思いを胸に、届けを提出したケンはバイクに跨り、身延へと疾走していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身延 とある産婦人科医院の病室

一人部屋の少しだけ大きめのベッドで横たわりながら、大きくなった腹部……ひいては子宮からの痛みに額から汗を流して耐えるのはなでしこだ。先刻から始まった陣痛。今まで幾度か痛みは経験したが、ここまでの痛みが続くということはなかったため、終わらぬ苦しみに汗が止まらない。そんななでしこ……義理の娘の手を握り、優しく見守るのは義母の咲だ。なでしこの夫であるケンも勤めている身のため、四六時中付き添ってもいられない為、こうして主婦である咲が主立ってなでしこの看病をしている。勿論、ケンも仕事終わりには時間の許す限りは病室を訪ねてきているが。

ともあれ、お産が近い陣痛が始まったことでケンには連絡を入れておいたため、早ければ1時間ほどで着くだろう。なでしこへに一番必要なのは、やはりケンだ。彼が来るまでは自身が元気付けねばと、焦ることなく、穏やかに寄り添う。やはり出産を経験したとだけあり、辛さというものをわかっており、下手な声かけよりもそっと優しく手を握り、そばにいてくれることがありがたかったのを覚えている。

 

「お、お義母さん」

 

「何かしら?なでしこちゃん」

 

「お、お産て……大変、なんですね」

 

苦痛で玉のような汗が浮かんでいるにも関わらず、たどたどしくも微笑むなでしこに、咲は改めて感心する。初産だから未経験の痛みなのにもかかわらず笑顔を浮かべられる。

きっとこの子なら強くも良い母親になれる。

そんな確信が確かに感じられた。

 

「そうね。でも生まれたら、きっと痛みの分だけ子供が愛しくなるものよ?私だってそうだったから」

 

「え、えへへ……じゃ、頑張り、ますね……う……!」

 

痛みの波があるのだろう。その強さでまた話す余裕が薄れたらしく、顔をしかめた。

生まれるまではまだ長いだろう。初産だと下手すれば半日。その間母親になる女性は耐えねばならない。

そんな彼女を支えるのは……

 

「なでしこっ……、母さんっ……」

 

あれからもう1時間が経っていたようで、ガラッと開く音とともに息を切らしながら入ってきたのは、ここにいなければならないもう一人の主役。

 

「ケン、待ってたわ」

 

「ケン、くん……」

 

息を粗くしながらも、その目はしっかりと自分の夫を捉え、その表情は安堵から浮かべる笑顔だ。

そっとベッドサイドに駆け寄ると、差し出してきたなでしこの手を、自身の手で優しく包み込む。よほど堪えているのだろう。握ったその手はじんわりと汗で濡れていた。

 

「ごめんなでしこ、遅くなったな」

 

「ううん、お仕事、ご苦労さま……」

 

「じゃケン。少しなでしこちゃんのことお願いね。私は売店で飲み物とか買ってくるわ」

 

「ん、わかった」

 

これから長い戦いが始まるのだ。兵糧……もとい、発汗による脱水を防ぐ為の水分補給や、痛みに耐えながらも嚥下しやすいゼリー飲料は必要となってくる。病室を後にした咲を見送り、残されたのは夫婦二人。

 

「そだ、ケンくん……」

 

「ん?」

 

「名前、考えてくれた……?」

 

名前

この場所とタイミングでともなれば、これから生まれてくる子どもの命名だろう。休憩時間など、空いた時間にあーでもないこーでもないとウンウン唸りながら考えていた。あくまでも候補の中に入る名前なのだろうが、それでも初めての子供だ。彼、ないし彼女に似合う、素晴らしい名前にしてあげたいと思い、名字との響きも合わせてずっと考えてきていた。

 

「もちろんだ。なでしこも気に入ってくれる名前、考えてきたから。だから、頑張って産もう。俺に出来ることなんて、こうやってそばにいて手を握るくらいしかできないけど」

 

「そんなこと、ないよ?一緒にいてくれて……安心するもん」

 

だから、出産の苦痛に耐えられるよう、そばに寄り添おう。

子供の名前について話しつつも、ドリンクやゼリーで可能な限りで水分・栄養補給し。

なでしこが破水したのは、ケンが到着してから10時間後のことだった。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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