リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
本栖湖 湖畔のキャンプ場
受付を済ませ、荷下ろし用の駐車場に車を停めてギアをサイトに下ろす最中。
八割ほど降ろし終えた時に、車の隣にトライアンフがその重厚なマフラー音を轟かせて停車した。
太陽の光に反射して見えないヘルメットシールドの内側は、エンジンを停車して降車し、こもった空気と共にそれを脱ぎ外したことで、その人物の正体は明らかとなった。十年前からまた少し伸ばし、ヘルメットで乱れたセミロングの青髪を首を振って解く。
「あ!小姑サマ!」
「誰が小姑様だ!?いつも通りに呼べよ」
「え、えへへ?なんだか呼ばなきゃって使命感が、ね?」
「ったく……二人も久しぶりだな」
ギアをせっせと運ぶ十歳の双子に歩み寄ると、女性はしゃがんで愛おしそうにその小さな頭を撫で回す。
「うん!おばちゃんも久し「お・ね・え・さ・ん。でしょ?」ハイ、オネエサン」
少年が禁忌を破りかけたが、心做しか頭に乗せた手に力のこもったのと、圧を掛けた一言で封じる。やはりそう呼ばれるのには敏感なお年頃らしい。
「遠路はるばるご苦労さんだな、我が妹よ」
「ま、シーズンオフだからな。それに気分転換がてら足を運ぶのもやぶさかじゃないし、甥と姪のキャンプデビューを見届けたいしな」
それに、ここは思い出の場所だから。
義理の姉となった彼女と出会った、大切な場所。
そう言えば出会ってから二十年を超えたんだから、時の流れとは残酷だとしみじみ思う。
久々に出会ったことで積もる話も交えながらテント設営。幼い二人のキャンプデビューなので、ある程度手伝わせながらゆっくりと。
いつもの倍は掛かりつつも、大柄なファミリーテントが完成となった。
「やっぱ実際組んでみるとデカいな」
「うむ。高下のテストキャンプの時のやつより一回り小さいけど、それでもデカいもんはデカい」
テントの中ではレンが自分用にあてがわれたシュラフに包まりイモムシとなって、中をゴロゴロ転がりまわっている。それだけ十分な広さなのだ。
「さて、そろそろ火を起こしとくか。レン、ラン。林の中で乾いた薪と松ぼっくり、拾ってきてくれるか?」
「はーい」
「う、うんっ」
レンは元気に、ランは少しおどおどしながらの返事を返し、弟が元気に、姉はそれを慌てて追うようにして走っていってしまった。
「元気な子じゃのう……若い若い」
「儂らも昔はあぁじゃった……」
「何黄昏れてんだ、このバカ夫婦……」
どこから取り出したのか、湯呑みに入れたお得意先の店のお茶をすすりながら、我がこの元気な姿に目を細める兄夫婦に呆れてしまう。まぁ今に始まったことでは無いのだが。
「さて、私も自分の分は拾ってくるよ。見守りも兼ねてさ。晩御飯の下ごしらえ、頼むね」
「気をつけてねぃ〜……」
そうして双子の後を追って林へと入っていく彼女を見送りながら、二人はゆっくりとクーラーボックスから食材を取り出して、手際よく調理の準備を始めていく。互いが協力して器材を用意し、息の合った動きはさながらプロみたいだ。皆様からの「なんのだよ?」と言うツッコミが入るのも織り込み済みで。
「よ〜っし!今日は久々の美味しいキャンプご飯、作るよ!」
「おう!」
レンと別れて、ランは一人でゆっくりと薪や松ぼっくりを探して林を散策していく。そう労せずして薪はそこらかしこに落ちており、まるで誰かが撒いていたかのような……。
「ふふふ……燃やし放題だ」
普段のおとなしいランからは想像できない満面の笑顔が浮かび、ホクホク顔で薪を拾い集めていく。
袋として持ってきたエコバッグはあっと言う間に薪でなってしまった。
「あ、そだ。松ぼっくりも……」
これもそう探すことなくそこらかしこに散らばっていたので、よく傘が開いたものを選び取り、手の中にあるその独特の形をじっと見つめる。
\コンニチハ/
「うん、これでいいかな」
そんな松ぼっくりも袋にホイホイと集め、気づけば十歳児に少し重たいくらいに集まってしまっていた。
「ぐ……ちょっと重たいけど……」
額に若干の汗を浮かべながら袋を抱え、自身の家族が待つキャンプサイトへと戻り歩くラン。
そんな最中……
「……あれ?他のキャンパーさんかな?」
ふと木の陰から見えたのは、ローチェアに腰掛け、夕飯か何かを作る眼鏡を掛けた女性キャンパーの姿。すこし年季の入ったテントに加えて、これまた年季の入ったスキレットで調理する姿はどこか様になっていて。
「ほわぁぁ……!」
そのスキレットで焼かれているのは肉塊だ。ステーキ肉と言うに相応しいそれは、香草やにんにくと共にスキレットの中で焼かれ、ほわほわと木の陰から覗くランの方まで何とも空腹を掻き立てる匂いを漂わせてきている。
肉が焼ける傍ら、女性はスキットルに入れられた酒を煽り、肉への期待感と酔いを深めていた。
それにしても何と魅惑的な匂いなのだろう?家や店で時折ステーキは口にするものの、ここまで心惹かれる物ではなかった。心を掻き立て、そして腹を刺激し。これがきっと両親の言っていた『キャンプご飯』の魅力なのだろう。
そしてそんな匂いに惹かれて、奴が目を覚ますのは必然であり……
グゥゥゥ……!!
思いっ切り腹の虫が覚醒してしまった。
「ん?」
どうやら女性キャンパーにまで聞こえるほどの音量だったらしい。ランに気づいた女性は眼鏡越しにじっと彼女を見つめる。そして気付かれるつもりはなかったランはというと、どう抜け出そうかと思案する。しばらく無言で見つめ合う二人……
そんな沈黙を破ったのは女性キャンパーだった。
ちょいちょい、と手招きして来たのである。ここで回れ右することも出来たのだが、空腹の波には逆らえず、ランはゆっくりと、おずおずと女性キャンパーへと近寄っていく。
そして、双方の距離が三メートルほどとなった時、女性キャンパーは口を開いた。
「肉、食うかい?」
「い、いいん、ですか?」
その返事を聞いた女性はナイフで一口サイズに肉を切り分け、持参のフォークに刺すと、そっとランに差し出す。そんな肉をこれまたおずおずと受け取ったラン。外はしっかりと、中はレアに焼かれたそれは何とも肉々しく、実に食欲を掻き立ててくる。
「い、いただきます」
そしてゆっくりと口の中にそれを頬張った瞬間、
「んんっ!?」
噛めば広がる肉の旨味と、香草とにんにくの香り。そして下味につけられた黒胡椒の風味が駆け抜け、今までに食べたことのない感覚がランを突き抜けていく。ワイルドな味付けではある。だがそれを踏まえてもこの旨さは今までに感じたことのないもので、ランの中で新しい何かが生まれた感覚を味わわせる。
目を見開き、じっと咀嚼する少女を見て、女性はしてやったりという表情を浮かべる。
「お〜い、ラン。そろそろ戻るぞ〜?」
そんな新世界を味わっていたランを現実に引き戻したのは……
「お〜!シマリンじゃねぇか。久しぶり〜!」
「なっ!?千明!?なんでここに!?」
甥のレンと共にランを探しに来た女性……リンだった。
「いや〜、まさかシマリンと会えるとは思わんかったぜ〜」
「私もだよ」
「で、このちっこいの二人があいつ等の子供?」
「うん」
「最後に会ったのが二〜三歳の時だったからな〜、お互い覚えてねぇのも無理ないか」
レンとラン、そしてリンと歩く千明は二人と最後に会った時の事を思い出して物思いにふける。何だかんだ忙しくしていたお互いはメッセージ以外でのやり取りが殆どなかったから尚の事。二人の両親も来ているという事で、折角だから会おうということになり、こうして共に戻っていく。
「お、戻ってきたな?」
「ご飯の下拵えできてるよ〜?あとは火をおこして……およよ?」
具材の切り分けなどを終えた双子の両親。その二人が千明を見つけて目を丸くしていく。
「あぁ!アキちゃんだ!!」
「久しぶりだな〜!シマケン、なでしこ!」
かつて所属していた部活、その部長の登場に、志摩夫婦は驚きを隠すことが出来ずに素っ頓狂な声を上げてしまった。
双子の紹介
志摩ラン
ケンとなでしこの長女で、レンの双子の姉。
平均的な背丈で、母から受け継いだ桃色の髪を腰まで伸ばしている。
二人の子供とは思えないほどに大人しく、少し人見知りしがち。物静かだが頭もよく、成績は良い方である。だが両親からは食いしん坊で大食いと言う部分をしっかり受け継いでいる。
志摩レン
ケンとなでしこの長男で、ランの双子の弟。
平均的な背丈で紫の髪を短くざんばらにしている。
姉とは逆に、両親の活発さを足して引き継いでおり、わんぱくと言うに相応しい。成績も勉強よりも運動が得意といった様子で、学年中でトップクラス。
姉ほどではないが、彼も結構食う方。
名前の由来は、父親のケンからは『ン』で終える二文字の名前
なでしこからは『花』から
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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