リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
あれは嘘だ
『ホワイトデー』
伊豆キャンから10日後
今日も変わらず学業に励む野クルの面々。
伊豆キャンの興奮の名残も消え、日常へと戻って来ている最中の今日この頃。
つつがなく、そして穏やかに今日も学校が終わろうかという時間。
帰りのホームルームが終わり、帰り支度を皆が始めていた時。
「なでしこ」
「およ?」
隣の席の少女に話しかければ、キョトンとした顔で返事が返ってくる。
「今日、なんか予定ある?」
「ん〜、今日はバイトは休みだから、野クルかな〜って思ってだけど、どうかしたの?」
「今日、千明もあおいもバイトらしいんだ」
「そっかぁ……じゃあケン君と2人きりなんだねっ」
2人きり。
そんな魅力的な言葉を満面の笑顔で言われれば堕ちそうになるが、ここはグッと我慢。
イチかバチかの質問に望む答えが返ってきたのだ。ここは積極的に行かねばと、ケンは内心奮起する。
だが正直に言うと緊張するが、ここは男の見せ所。
「それなんだけどさ、なでしこ」
「???」
「俺ん家に、寄ってかないか?」
正直に言う。
なでしこは少し疑うということを覚えても良いかも知れない。
先のケンの問いに喜色満面の即答でOKしたものだから、恋人として何だが少し不安になる。
誘いに乗ってくれたのは嬉しい反面というのもあり、二律背反の気持ちがケンの中で渦巻いていた。
「ただいま」
「おかえりケン。あら、なでしこちゃん。いらっしゃい!」
帰りの挨拶をすれば、母である咲が出迎えてくれる。そして見知った客人であるなでしこも歓迎してくれた。
「こんにちは、おばさん!おじゃまします!」
「ゆっくりしていってね?」
靴を脱ぎ、なでしこに客人用スリッパを用意して、連れ立ってケンの部屋へと足を運ぶ。
そういえば、なでしこが自分の部屋に来るのは風邪を引いた時以来だと思い返す。あの時は致し方無かったにせよ、こうして自分から彼女を部屋に招待する、というのも中々恥ずかしいものだ。
「どうぞ?」
「おじゃましま〜す!」
「適当に寛いでて?飲み物入れてくるから。何がいい?」
「シェフの今日のオススメを!」
「かしこまりました、お客様」
などと冗談を交わして、バッグやらコートなどを部屋に下ろしたケンが一階へ降りていく音が木霊し、やがて静かになる。
ローテーブルの側の座布団に腰を下ろし、キョロキョロと部屋を見渡すなでしこ。思えば風邪の看病の時はこうしてゆっくり部屋を見ることは無かったので、改めてこうしてみると、自分の部屋とか女友達の物とも随分雰囲気が違う。
着飾ったような感じもなく、何と言うかスッキリとした感覚。
本棚にはバイク雑誌や漫画、ゲームソフトが並べられ、あとは勉強机にテレビ、ゲーム機。そして部屋の隅のポールハンガーにはヘルメットや厚手のジャケット。そして、自身の編んだマフラーが。
「ずっと使ってくれてて、嬉しいなぁ……」
クリキャンでプレゼントして以来、見るたびほとんど首に巻いて使ってくれていることが何よりも嬉しくて、頑張ったかいがあったと改めて感じる。
「……ちょっとだけ、いいよね?」
そのマフラーをそっと手に取り、自身の首に巻いてみる。
先程まで着けていたからか、ほんのりまだ温かく、そして鼻をくすぐる大好きな人の香り。
「ケン君の……匂いだぁ……」
今まで抱き着いて匂いを感じることはあったが、ここまで強く感じることは今までなかったので、あまりの刺激になでしこは自身の顔が真っ赤に染まっていくのを否が応でも感じてしまう。
「〜〜〜っ……!」
これ以上はなんだか変な気分になりそうだったので、なでしこは少し名残惜しいながらもマフラーを元の場所に戻す。
今までにない変な感じで、心臓がバクバク高鳴っているのが分かるほどに高揚していた。
落ち着かせるために座布団に座り直した所で部屋の扉が開き、お盆を持ったケンが戻ってきた。
「おまたせ、コーヒー類しかなかったけどいいかな?」
「うぇっ!?う、うん!大丈夫!今ならブラックでも行けるよ!」
「いや無理すんな、って……なでしこ、顔が赤いぞ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫大丈夫!元気いっぱいだよ?」
と、何ともない風を装って見るものの、ケンからは疑いというか、心配の念は尽きないようで……
「どれ……?」
「ひゃうっ!?」
額に、ひんやりとした大きな手が充てられる。
思わぬスキンシップにテンパりそうになるなでしこと、そんな彼女をつゆ知らず、目を閉じて自身の額にも手を充てて検温するケン。
「熱は……ないみたいだな。」
「へぅぅ……」
「ほ、ホントに大丈夫?」
「だ、大丈夫……だよぅ……」
「そ、そうか」
まぁ本人が良しとしているなら、ということで、テーブルに置いたお盆からソーサーとブラックが入れられたコーヒーカップを並べていく。調整用のスティックシュガーとクリームも、多めに持参してきていた。
そしてコーヒーと共に生クリームを添えて焦げ茶色のケーキがフォークを添えて置かれる。
「これ、チョコケーキ?」
「そ、苦手じゃない?」
「うぅん!大好きだよ?」
「なら良かった。じゃ、食べようか?」
「うん!いただきま〜す」
早速ケーキをフォークで一口大に切り分けて口へ運ぶなでしこ。
その様子を、固唾を飲んで見守るケン。
しばらくケーキを咀嚼して飲み込んだなでしこ。ややあって……
「ん〜!おいし〜!」
その表情に花を咲かせた。
「美味しいか!初めてにしては上々ってとこだな」
「初めて……?これって、ケン君の手作り?」
「まぁな。この前のお返しってことでさ」
「この前……?」
首を傾げるなでしこさん。
まさか何の日かわかってなかったのか……?
ガックリとするケンは、壁にかけてあるカレンダーを指差し、今日はなんの日かをなでしこに確かめさせる。
「えっと……3月14日……あぁ!ホワイトデー!?」
「そ。バレンタインに手作りトリュフ貰ったから、俺も手作りでお返ししようって思って作ってみたんだ」
「そっかぁ〜!すっかり忘れてたよ〜!でもありがとケン君!すっごく嬉しい!」
「おかわりもあるから、いっぱい食べてくれよ?」
「いいの!?じゃ、頑張っちゃうよぅ!?」
そこからなでしこのスピードは怒涛のもので。
パクパクと、どっかのフードファイターもかくやと言わんばかりに食べすすめるなでしこ。相変わらずの食いっぷりに、作った側としてみればこれほど作り甲斐のある人間は中々いないだろう。
「結婚したら、いっぱい料理作ってやりたいな〜……」
「っ!?けほっけほっ!」
「うぉ!?なでしこ大丈夫か?急いで食べるから!」
「ち、違うよ!ケン君が変なコト言うから……!」
「変なコト?」
「け、結婚したら〜……って……!」
どうやら緩んだ気持ちから口にしてしまっていたらしく、なでしこにつられてケンも顔が真っ赤に染まっていく。
「……まぁ、そういうのはまず卒業してから、な?」
「う、うん!」
少しビターなチョコケーキと、少し苦目のコーヒーと。
二人の甘く、そして緩やかなホワイトデーの午後は、ゆっくりと過ぎていった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
-
未来の子供達のほのぼの生活
-
ケンとなでしこのいちゃいちゃ
-
お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
-
いつメンのキャンプ