リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
サブタイはあのキービジュアルからです。この一言だけにいい味がする。
高ボッチ高原キャンプ場
「やっとついた……150キロ走破!」
ビーノを走らせ幾星霜。
なんとかかんとか目的地へ到着と相成ったリン。だが曇りだ。
スマホを取り出して時刻を見れば15時を過ぎたところ。
ラインも入ってきているので見てみれば、兄がすやすやと眠る写真。
なでしこ『良い子はお昼寝の時間です!』
「ふふ……お兄ちゃん、気持ちよさそうに寝てるなぁ……」
おそらくは温泉に浸かって休憩室で寝てしまったのだろう。
温泉……
「こっちは温泉は潰れてたし、曇ってて何も見えねーし、踏んだり蹴ったり……ぐすん」
とりあえず見て回ろうと道を探せば、山頂への登山道を見付けたので、数百メートルの道をゆっくり登っていく。
「こんなんなら近くでキャンプしたほうが良かったかもな……」
そしてそう時間はかからずに山頂へと辿り着くことができた。
ここも曇っているのだろうと踏んで登山した。
しかしリンの予想は良い意味で裏切られる。
「おぉ……」
まさに絶景。
西日に照らされて黄金色に輝く山々に諏訪湖、そして山の遥か向こうには富士山がひょっこり顔を出している。
「なんだよ、こっちはバッチリ見えてんじゃん。キレイだな……」
今までのマイナスを帳消しに出来るほどの光景は、沈んだリンの表情を綻ばせるには十分だった。
「よし、温泉は帰りに入ればいいんだ。それよりも今日は温まるキャンプご飯、作るぞ!」
気合が入ったところで次はキャンプ地とする場所を探す。良さ気なところが散見されるが、せっかく長野まで来たのだ。ベストスポットを探してビーノで走り回る。
そしてふと目に入った砂利道を抜けた先。富士山側とは真逆の松本市側に面したサイトを見つけた。
「うん、ここがいいな……」
ここが志摩リンのキャンプ地となった。
早速ローテーブルとチェアを設置し、買い揃えてきた食材を並べていく。
「よし、初めてだし、まずは手堅く簡単な料理から……」
コッヘル一つで出来て茹で汁がでないスープパスタだ。予め刻んできた材料を駆使し、本を見ながら確実に。初めてのキャンプ飯なのだ。出来るなら美味しいものを作って次につなげる自信を付けたいのが性だろう。
特に難しい工程もなく、ややあって……
「できた……!初めてのまともなキャンプごはん!」
見た目もバッチリでこれは期待が持てる出来栄え。初めてにしては上々ではないだろうか?
「いただきます……!」
フォークでパスタを絡め、息で冷まして口に運ぶ。熱々のスープを吸ったパスタはそれでも熱く、かつミルクスープの優しい味わいがしっかり絡んだ味だ。
堪らず次はコッヘルを持ち、そのスープを一口。口の中を熱々のスープが満たし、飲み込めばじわりじわりと体を芯から温めてくれる。
「……うまっ……!」
ケンじゃないけど、思わず泣きそうになるくらいの旨さ。やはり自分で作って、寒い外で食べる熱々のキャンプ飯だからこそ、相乗効果で旨味が増すのだろう。
リンの脳は旨さのあまり蕩け始めていた……。
ほっとけや温泉 休憩室
年頃の少年少女がすやすやと寝息を立てるなか、スマホのヴァイブレーションが木霊する。そのスマホの持ち主であるなでしこは、振動音で目を覚まし、寝ぼけ眼で操作する。
リンからのラインだった。
リン『ボッチ山で食べるスープパスタ(゚д゚)ウマー』
夕日に染まる山を背に、コッヘルで作られた実に美味しそうなスープパスタの写真だ。
「リンちゃん、スープパスタ作ったんだ。おいしそ〜……」
ぼんやりと眺めていたなでしこ。しかし、画面上部に映った4桁の数字を見て、いや〜な汗がじんわりと浮かんでくる。
16:09
「3人とも!大変だよ!もう四時過ぎちゃってるよ!!」
「おわっ!ぬわーっ!思いっきり寝過ごしたー!!」
「むにゃ……リン……それ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか……完成度高けーなオイ……」
「あかんて〜……あか〜ん……うへへ……」
温泉の罠は何処までも四人を絡め、離さなかったようである。
どうにかこうにかなかなか起きない二人も叩き起こしたなでしこと千明。急ぎ出発し、イーストウッドキャンプ場を目指して森の中を歩いていく。日が傾いていることもあり、少々不気味な様相と化していた。
「なぁアキ、こっちでホンマに合っとる?なんや下りよるよ?」
「マップを見てるけど、こっちで合ってるみたいなんだけどなぁ」
「私、暗い森って苦手なんだよね〜……」
「林間キャンプ場全部NGじゃねぇか。シマケン、ちょっと高く飛んでキャンプ場どっちか見てくれよ」
「俺を某野菜人か何かと勘違いしてないかお前……」
不安に駆られながらも、マップを信じて進む四人。果たしてその先には、とある看板が立っていた。
『イーストウッドキャ 』
「ンプ場……?」
「ンプ場やな……」
「遅くなってすいません!!」
なんとか辿り着いたンプ場こと、イーストウッドキャンプ場。昼過ぎに予約していたのにも関わらず、遅れに遅れて夕方になってしまったことを千明は管理人さんに謝罪した。
「大丈夫ですよ。とりあえず改めて説明しますね。チェックアウトは明日のお昼。水は後でサイトに持っていくからね」
(作務衣だ……!)
(シブい……!)
(寒くないのかな……?)
(ナイスミドルな男だ……!)
「にしても管理人さんのリビングスペースえぇなぁ」
「なでしこの奴、バッチバチに目ぇ輝かせてるしな〜」
「こういうとこで余生を過ごしたいぜ……」
「余生よりもまず進路やな」
「それ以前に赤点回避だな」
「なぜそれを……!?」
「蛇の道は蛇だよ、千明」
「ねぇアキちゃん、どこにテント建てようか?」
「こっちこっち、良いところ予約してんだよなぁ」
千明に案内されるがままついていけば、イーストウッドでも一段と高いサイトだった。山下の町並みが一望でき、更に奥の山々までしっかりと見渡せる。
一段下のサイトには一組のキャンパーが居るくらいで、あとは貸切状態!
「最高やないの!」
「ちょっと高いほうが見晴らしがいいと思ってな、二段目にしたんだよ!」
「ムハー!」パシャッ
「これはナイスチョイスだ!見直したぜ千明!」
「だろう?これからは敬意を持って千明様と呼ぶといいぞ!」
「そしたら暗くなる前にテント張ろか!」
「賛成!」
「特訓の成果を見せるときが来た!」
「おい……アタシの扱い雑じゃね?」
「そんなことないぞ。このキャンプ場、すげぇ高得点だ。ここに連れてってくれて、感謝してるぞ」
「わ、解かりゃいいんだよ。んじゃ、気を取り直して設営するか!」
「はいよ!」
千明のイジりも程々に、持参したテントを貼り始める。
女子組は980円テントに加え、新しく買い足したもので二張。
男子組(一人)は、以前祖父である肇から譲ってもらったリンとは色違いの吊り下げ式の物。それぞれが放課後や休みに張り方を練習した成果もあり、難なく完成に至った。
そのタイミングを見越してか、シブい作務衣の寒くないのか不思議なナイスミドル管理人が飲料水と消火用の如雨露を持ってきてくれた。と同時に、使用できる薪の場所も教えてくれたのだが、タダということで『燃やし放題だぜぃ』と言わんばかりに、ヒャッハーしようとした千明は釘を差されたのは余談である。
「そうだ!折角だし、この薪を使ってウッドキャンドルをやってみようぜ!」
「ウッドキャンドル?」
「なんや?それ……」
「ウッドキャンドルっていうのは……」
(以下大塚ヴォイス)
ウッドキャンドル
丸太の切り口に切り込みを入れ、そこに着火剤を詰めてろうそくのように燃やすやり方です。スウェーデントーチや木こりのろうそくとも呼ばれています。
「なんだ……今の声は……?」
「??アキちゃん、どうかした?」
「いや……今、物凄いダンディな声がウッドキャンドルの説明をした気がするんだが……」
「ダンディな声?そんなん聞こえへんだよ?」
「気の所為……なのか……?」
「疲れてんじゃないのか?」
「そうなのかも……。とりあえず、割れてる薪を束ねて固定して、中に着火剤を入れれば……」
「おぉ!なんかそれっぽい!」
各々のシートをウッドキャンドルもどきを囲むように配置し、いよいよ着火剤に点火する。すると、見る見るうちに火は太い蝋燭のように大きく燃え、パチパチと小気味よい音を奏で始める。
「いつもの焚き火とは一味違う雰囲気だ……」
「いいねぃ……」
「これ、上に土鍋を置いて料理もできるんだぜ」
「それ、便利やな」
「けどそれやると、鍋が煤だらけになるんだよな。だから皆ガスバーナーを使うんだ」
「へぇ……よく知ってるねケン君」
「3年ほど前、とあるソロキャン少女がキャンプを始めたばかりの頃におんなじことやってたからな」
「「「あ〜…………」」」
ボッチ高原
「へくちっ!!……うぅ、ちょっと冷えてきたか……?」
「焚き火見てると、どうしてこんなに落ち着くのかなぁ……」
「せやなぁ……」
「……なんか落ち着きすぎて眠たくなってきた」
「流石にここで寝るとマジで風邪引くぞシマケン」
夕日と焚き火を眺めながらのチルタイム。温かく、マッタリとした時間が、四人を支配していく……。
バキャ!!
「「「「ぉわっ!?」」」」
甲高い音とともに、いきなりウッドキャンドルもどきが、プロがパスタを湯がくときのアレみたいに八方に割れ広がった。思いもせぬ事態に、四人は身を引いてしまった。
「び、びっくりした!」
「なんなん!いきなり!……?」
ふと気になったあおいが、ウッドキャンドルもどきを束ねていた針金を拾い上げる。
「これ、よう見たら細いアルミ線やないの?熱で切れてもうたんや……」
「確か……アルミニウムって鉄よりも融点が150度くらい低いんだっけ?」
「せやなぁ、せやから私てっきりスチール鉄線やと思うとった」
「な?だから鍋載せなくてよかっただろ?」
「な?やないわ!」
「やっぱり千明は千明だな」
「どういう意味だシマケン!」
「よ〜し!晩ごはん作るよぉ!」
「おぉ!!」
「予め切って湯揚げしておいた具材をルゥを溶かした水に入れて煮込めば!ちょっと変わった煮込みカレーだよ!」
「「やっぱりカレーか!」」
温まったらすぐ完成のようなもので、沸騰したら蓋を開ければ、そこには色とりどりの具材が溶け込んだカレーがあった。
「うまそー!」
やはり定番とはいえ、カレーの匂いというものは不思議と食欲を掻き立ててくれる。もちろんスパイスなどの成分による作用というものがあるのだが、理屈抜きでカレーとは食欲促進の代名詞と言っても過言ではないのだろう。
各々持参した使い捨ての紙皿にパックご飯をよそい入れ、そこに出来たてのカレーをかければ…!
もはや言うまでもない。
そして街が一望できるベンチに並んで座り…
「それじゃ!」
「「「「いただきま〜す!!!」」」」
まずパクリ、と一口。
「んまぁーい!」
「ホンマに美味しいわ!」
「にひひ〜、綺麗な景色を見ながら美味しい外ごはん!」
「キャンプの醍醐味やね!」
約1名はまた号泣しているので割愛。
「美味いけど……なんか変わった味のカレーだな」
「フッフッフッ……よくぞ気が付かれましたな……!」
そして取り出したるは、インスタント麺の粉末スープだ。
「隠し味は、とんこつラーメンのスープだよ!」
「あぁ〜、ラーメン屋さんのとんこつカレーってやつか!」
「うん!余ってる粉末スープを使って、よくこれ作るんだ〜!そのままだと濃いから、小麦粉と水で薄めて使うんだよ」
「変身カレーってやつやな」
「ウチは肉じゃがを次の日にカレーにしたりするぞ」
「ウチはおでんカレーや」
「え〜?おでん?」
「和風出汁と牛すじが入ってて、結構うまいんやで?」
「ケン君のウチは何か変身カレーある?」
「ん〜、ポトフかな。ウインナーとかゴロゴロ野菜とかで結構美味いし、スープに素材の旨味が出てるからな」
「「「おぉ!!いいねぇ!」」」
そこから始まる残り物カレーからアレンジレシピの話題。
今後のキャンプ飯のアイデアの出し合いにもなり、日が暮れるまで話題が尽きることはなかった。
夕食を終え、再び焚き火を囲んだ四人。各々持ち寄ったおやつやちょっとした夜食を焚き火を使って楽しみながら、野クル初めてのキャンプはゆっくりと折り返しに向かって進んでいた。
「夜食に鮎の塩焼き食う人初めて見たわ」
「え〜?美味いんだぞ〜?な〜?なでしこ」
「おいひ〜よ!塩もちょうどいい塩梅だよ〜!」
「こいつら、ホントにキャンプ楽しんでんな……」
そして就寝時刻。
「じゃ、焚き火も完全に鎮火したし、そろそろ寝るとするか!」
「あいや待った!ちょっと待った!」
それぞれ就寝のテントに入ろうとするなか、そこに待ったをかけたのは唯一の男子であるケンだ。
「悪いなケン君、このテントは三人用なんや」
「いや、入れてくれなんて言ってねぇし。しかもスネ夫かよ」
ゴソゴソと自分のテントに戻って持ってきたのは、行きの電車でなでしこが気にしていたバッグ。
その中から取り出したるは……
テッテレテッテーッテテー
「銀マット〜ッ!!(ダミ声)」
「「「銀マット?」」」
「これは偉大なるソロキャン少女シマリン様からの賜り物だ!」
「おぉ!シマリン!?」
「まぁ真面目な話をすると、地面からの底冷えを防ぐんだ」
「え〜?シュラフがあるから大丈夫そうだけど……?」
「まぁこれは安めの銀マットだけど、あるのとないのとは違うからな。モノは試しにってことで」
「せっかく志摩さんが厚意で持たせてくれたんやし、使わしてもらおか?」
「そだな。ありがたく頂戴して、後生まで祀らせてもらいます」
「いや使えよ、んで返せよ」
そんなわけでシマリン様からのありがた〜い銀マットを使い、就寝と相成ったわけだが……
「狭っ!?」
流石にテント一つに三人川の字は窮屈なわけである。誰だよ三人用のテントって言ったやつは?
「流石に三人はきつすぎだろ?」
「だって一人で寝るのは寂しいよぅ!」
「せやな〜」
「じゃ、ここは公平に……」
「「「じゃ〜んけ〜ん!!」」」
「ぐすん」
なでしこ敗退。
「……そだ、リンちゃんは今どうしてるかな?」
アプリを起動し、遠い長野の山でぼっちキャンプしている友達にラインメッセージを送る。
なでしこ『リンちゃん、まだ起きてる?』
リン『寝てる』
即返信が返って来た。
なでしこ『そっちはどんな感じなの?』
リン『どちゃくそ寒いから芋虫状態』
なでしこ『私も今芋虫だよぅ。あ、でもこれ、マットがなかったらもっと寒いのかな?』
リン『多分な。今は良くても真夜中に寒くて寝てられなくなるかも』
なでしこ『Oh……!だったらリンちゃんに感謝感謝だね!ありがと!』
リン『うむ。苦しゅうない』
なでしこ『へへ〜!ありがたき幸せ!』
リン『あと、シュラフの足元にカイロ入れたらオールオッケー』
なでしこ『ほんと!?やってみるよ!』
リン『そういえば、温泉行ったら潰れてた』
なでしこ『Oh……』
リン『明日はゼッタイ温泉入る!超入る!』
なでしこ『超頑張って!……そういえばこっちでリンちゃんの話題上がったんだけど』
リン『なんだよ』
なでしこ『リンちゃんて、腹筋割れてるの?』
何故だろう?スマホ越しにずっこけるような音が聞こえた気がする。
リン『誰情報だよソレ』
なでしこ『んとね、ケン君がバイク乗るために体鍛えてて腹筋が割れてるって話が夕食後にでて来てね?』
リン『うん』
なでしこ『じゃあ原付に乗ってるリンちゃんも割れてるんじゃないかってアキちゃんが……』
リン『アイツか……』
次はスマホ越しに威圧感が伝わってきているのがわかった。
リン『なでしこ、大垣からマット代1500円徴収しといて、ローンは不可って』
なでしこ『了解です!』
リン『こっち、星空と夜景が凄いよ』
「……夜景かぁ……フム……」
なでしこはふと何かを思案し、意を決してメッセージを打つ。
なでしこ『リンちゃん、しばらく起きてて!』
リン『???うい〜』
一人で寂しく寝ていたテントを出て、追い出された隣のテントのチャックを開ける。
「アキちゃん、あおいちゃん、起きてる?」
しかし返事は返ってこない。既に件の二人は、すやすやと夢の国に旅立っていた。ハハッ!
「ケンく〜ん」
こうなればもう一人の友人だ。自身のテントを挟んで反対側のテントのチャックを開ける。
「だめだ……リン……!そこは……!そんなとこは……!」
なんの夢を見ているのか?変にうなされている。
「そこは……!お兄ちゃん秘蔵の宝が……!」
「秘蔵の宝……?」
思春期男子特有の、アレな本。妹がそこにガサ入れしている夢なのだろうが、ピュアななでしこはそんな憶測もできず。
「大丈夫?ケン君」
悪夢にうなされる彼を起こして助けるという選択肢を選んだ。
「ん……なでしこ……?あれ……?俺のお宝は……?」
「お宝?」
「……ここは……テント……。夢か……良かった……!」
「うなされてたけど…大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫。夢だったから大丈夫」
「???」
やはり彼の言う言葉の意図は理解できないが、それでも起こして正解だったようである。
「それよりどうした?こんな夜中に。寢れないのか?」
「そうじゃないんだ。ちょっとだけ用事で笛吹公園に行きたいんだけど……そのぅ……」
「ははぁ……大方、暗くて怖いから付いてきてほしいってことか?」
「わ、笑わないでよぅ……」
「わかったわかった。じゃ、寝間着のままだと寒いし、着替えてから行こう。なでしこも暖かくして来な」
「うん!ありがとうケン君」
何を思って笛吹公園まで行こうと思うのか。それはわからないが、ここで断って一人で行かれても寝覚めが悪い。目も冴えてしまったし、気晴らしにはいいか、と着替えを始める。
数分後
「じゃ、行くとしますか」
「お、おぉ〜……!」
昼間の元気はどこへやら、完全にへっぴり腰だ。ランタンを持つケンの後をソロリソロリと付いていくなでしこ。
ガサガサという、風が葉を撫でる音ですら『ひぃん!』と悲鳴を上げ、ケンの腕に抱き着いてくる。
「なでしこ、その……そんなにガッツリひっつかれたら歩きにくいんだけど……」
「だって怖いんだもん……!」
最早季節外れの肝試しじみて来た。
なでしこからしてみればヒヤヒヤしているが、ケンにとっては顔が熱くなってくる。女子とピッタリと密着するなんてシチュエーション、今まで経験がなかった。先々週のバイク転倒未遂の時に抱きかかえたのは不可抗力としても、これは流石に精神衛生上よろしくない。腕から伝わるほのかに柔らかな感触の正体が何なのかという答えを求めるわけにもいかず、ただただ煩悩に耐えるしかない。
あくまでもなでしこはリンと共通の友人で、そこに特別な感情はないのだから。
「や、やっと明るいとこに出れた……!」
「ホントにやっとだな……」
「ケン君、リンちゃん待たせてるから急ごう!」
「お、おう……って何でリン?」
「リンちゃんに夜景の写真を送ろうと思って!」
「なるほどな……」
急ぎ足で笛吹展望台へと走る二人。
程なくして目的の展望台へと到着した二人は、眼下に広がる絶景に思わず息を呑んだ。
「はわぁ……!」
「これは……見事だな……」
建物や車、街灯が織りなす色とりどりのライトが無数に広がり、まるで地面にも星空が広がっているかのような不思議な景色。
これは確かに誰かに見せてあげたいと思えるほどに絶景。
「ん……と……」
はるか頭上に手を伸ばし、精一杯の高さから撮影しようと試みる。だが、手がプルプル震えているので、このままでは納得の行く撮影はできないだろう。
「なでしこ、貸してみ」
「ん?」
言われるがままスマホをケンに渡すと、彼は構えた。
「撮ってやるから、ポーズして」
「え、えっと〜……こうかな?」
可愛らしいピースが後ろの夜景も相まって、どこか神秘的にすら見える。少し見惚れそうになる衝動に駆られながらも、何とかシャッターを切る。
「送信、と」
リンに送信したのを確認しながらなでしこにスマホを返却する。
「ありがとうケン君。わがままに付き合ってくれて」
「んにゃ、丁度いい気晴らしになったから別にいいよ」
そんなやり取りをしていると、リンからの返信が入る。
そこにはシンプルに、
リン『ケンと二人でちょっと待ってて』
の文章が。
何だろうと二人は首を傾げる。
一緒にいることがバレたみたいで、二人でこんな夜中に出歩いていたことに後でイジラレそうだと内心苦笑いを浮かべる。
「ん、やっぱ寒いな。そこの自販機でなんか買ってくる。何がいい?」
「ココアを所望します!」
「はいはい、アイスココアね〜」
「身体が冷えて死んじゃうよぅ!」
「ハッハッハ〜ッ!」
展望台からそう歩かない場所にヌカ・コーラの自販機があった。
ご所望の通り、ホットココアとホットミルクティを購入。来た道を戻れば、ベンチに座ったなでしこが夜景を見ながらぼんやりとしていた。
「おまたせ。ほい、ホットココア」
「ありがと。ふぁあ……あったかぁい……」
「寒い日にこういうのを持ってるだけで幸せになれるよな」
「わかる!丁度いいくらいの温度なるまで手を温めてるんだぁ」
「だよな」
かじかんだ手が程よく暖かくなってきたこともあって、どちらからともなく揃って缶のプルタブを開けて一口啜る。程よい暖かさと甘みが口を通り抜け、胃をほんのりと温めてくれる。
「おいしいねぃ」
「こんな夜中に甘い飲み物って、ちょっと背徳感あるな」
「わかる〜!だから余計に美味しいのかな?」
ゆっくりと温かい飲み物を堪能していると、リンからの返信が入る。
リン『お返し』『写真』
画像ファイルが添付されてたので、何だろうと思い、それをタップする。
そこに映し出されたもの。
高ボッチ高原から見下ろす数多の明かりが彩る諏訪市と諏訪湖。そして澄んだ満天の星空。
「「…………!」」
ここから見える景色と変わらぬ美しい夜景がそこにあり、写真を見たなでしことケンは思わず息を呑んだ。
おそらく写真が送られて来たのも、移動して夜景スポットを探して撮影してきたのだろう。
写真を味わったなでしこは、ゆっくりと展望台の先へと歩き、眼下の絶景を再び一望する。
違う町並みを見下ろして、
でも同じ感動を味わって、
離れていてもこの心の震えは通じ合っている。
そこから生まれる言葉と思いは同じ。
「「……きれいだね……」」
きっと、そらでつながってる。
そんな通じ合っているかのような目の前の少女と、そして遠くにいるはずの妹の姿を、眩しそうに眺める少年が一人いた。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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未来の子供達のほのぼの生活
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ケンとなでしこのいちゃいちゃ
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お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
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いつメンのキャンプ