リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
映画編でチョロっとだけ話題に上がった彼との出会いです
なでしこ『ケン君ケン君!』
茹だるような暑さの中、畳の上で扇風機の風に吹かれながら溶けていたケンのもとに、やや食い気味になでしこからのメッセージが届いたのは、高校三年の夏休みが折り返しに入った辺りある日の昼過ぎだった。
ケン『どったの?』
なでしこ『ケン君、明日って空いてる!?』
やはり食い気味にずいずいと来ている。暑いのにこの押しの強さは見習うべきか、勘弁して欲しいと思うべきか。
ケン『空いてるけど……もしかしてデートのお誘い?』
なでしこ『うん!』
(恐らくは)恥ずかしげもなく即答である。まぁデートと言う単語に慣れてきたと言うことは、二人の関係が馴染んできた証でもあるため、少し寂しいやら感慨深いやら複雑なものだ。
なでしこ『お姉ちゃんがね、プールのペアチケットをくれたんだ!だからケン君と行きたいなぁって思って!』
ケン『プールか……確かに長いこと行ってないな』
なでしこ『だったら行こう!ね?』
ケン『わかったわかった。じゃあ明日の朝に迎えに行くから。何なら弁当でも持っていくよ』
なでしこ『ホント!?楽しみにしてるね!』
ケン『うぃ〜』
さて、水着はどこへしまったか。咲に保管場所を尋ねるため、和室をあとにする。どこのどんなプールかは聞かずじまいだったが、それもまた楽しみだろう。
一方で、
各務原家でも急ぎ水着を新調する為に、姉にねだってデパートへと出掛けるなでしこが居たとか何とか。
「おぉ……これはまたスゲェ内装だな」
バイクを走らせて数時間。
某県にある大型全天候ウォーターレジャーランド『わくわくざぶーん』へと足を運んでいた。外装からデカいのは容易に想像できたが、受付を済ませて水着に着替えて出てくれば、その内装に目を丸くして出たのが上記の言葉だった。
浜辺を模した波の出るプールに、その向かいには岩をくり抜いたのかと思わせるようなウォータースライダー。その隣には軽食などを提供しているフードコート。目にも優しい南国の木や植物も植えられており、屋内ながらもちょっとしたアロハな気分を味わえる。
夏休みながらもあまり混雑していないのは、ここの利用料金が割高である為らしく、なでしこが桜からもらった金髪赤目の子供が描かれた優待券がなければ、それなりの対価を支払わなければ入れないという、ほんの少しのセレブなプールなのだ。無論、その分内装の綺麗さは当然として、エステもあるらしいので、その価値は確かなものだった。
ちなみに、
チケットをくれた知り合いは、何となく桜に似た雰囲気の長身の女性で、車、バイク、はたまたママチャリまでバリバリに乗りこなす人物だという。
「こんなすげぇとこの優待券くれるなんて、桜さんに感謝しないと……なんかお土産でも買って帰らないとな」
「け、ケン君、お待たせっ」
桜に感謝しながら待ち人を待っていると、後ろからなでしこのやや控えめな声を掛けられる。
振り返れば、眩しい太陽のような少女が居た。桃色の長い髪はシュシュでポニーテールに。水着はフリルの付いたビキニで、普段の服装からわからないが、それなりの大きさがあるバストがしっかりと自己主張している。腰にはバレオを巻いており、幼い可愛さとともに、どこか大人の女性としての魅力が伝わってくる装いだった。
「ど、どう、かな?変じゃない?」
やはり水着というのが恥ずかしいのか、胸元を腕で隠そうとしているが、それがかえって胸を寄せており、控えめながらも谷間が出来上がってしまう。
「あ……、その。うん。ヤバいくらいに可愛い、かな。凄く、似合ってる」
「〜っ……!よかったぁ〜……!ケン君の好みに合ってるか心配だったんだぁ……」
「それは……男として嬉しい情報だな」
ケンはケンでアロハ柄の青いサーフパンツに、グレーのラッシュガードと言った装い。無難なチョイスだけに、隣にいるなでしこの魅力がより際立っている。その証拠に、道行く男共が視線をなでしこに向けており、相手がいる奴は彼女に耳を摘まれているまでがお約束。中には声をかけようとしていたチャラそうなやつも散見されたので、なでしこの魅力が嬉しいやら危なっかしいやらだった。
「じゃ、早速遊ぼっ!」
「そ、そうだな!折角遊びに来たんだし!」
「よ〜し!今日は一日、遊び尽くすぞ〜!」
「お〜!!」
と、言うことで、『わくわくざぶーん遊び倒し計画』がスタートする。
まずはなんと言ってもウォータースライダー。のっけから一番のロングランを!という事で、フジヤマ・スライダーを滑ろう!と、なでしこの要望もあって、結構な高さがある階段を2人用浮き輪をを担いで登っていく。頂上から見下ろすと、少し股間がヒュンとなりそうな高さ。
「ケン君!私前でも良い?」
「いいぞ〜」
という事で、浮き輪をスタート位置に設置し、希望通りになでしこが前、ケンが後ろに。開いた足の間になでしこがすっぽりと収まるような座り方だ。前の客がスタートして追いつかないくらいに時間が経てば、担当スタッフが背を押してスタート。右へ左、そして渦巻状にカーブするコースに、なでしこもケンも喜びや驚きやの大声が飛び出す。二人共バイクでの速さに慣れているとは言え、これはこれで新鮮なもので、堪能しているとあっという間にゴールとなって、最後はジャンプ台状になったコースから飛び出してプールへと大舞してフィニッシュ。大きな水しぶきを上げてプールへとダイブした二人は、スライダーの魅力に取り憑かれたようで、数回繰り返し滑ることとなった。
他にも洞窟プールや波の出るプールを堪能し、次は何で遊ぼうか?とビーチスペースを横切ろうとした時。
「ぶっふぅ!?」
「ケン君っ!?」
横から飛んできた赤い閃光がケンの頬に錐揉してめり込み、数メートル吹き飛ばされた。
一頻り頬を蹂躙したそれは、高く高く跳ね上がり、砂浜に落下してめり込んだ。
「バレーボール……?」
倒れたケンを介抱する傍ら、落ちてきた物の正体に驚きながら呟くなでしこ。
「お〜!悪いな兄ちゃん!おいアーチャー、ちゃんと狙え!」
「む、スマンな。手前のやつを狙ったつもりなんだが」
「お前……生身の人間にあれは危険球……いや、致命傷になるぞ!?しかも俺狙いか!」
「大丈夫ですか!?あぁ、こんなに腫れ上がって……!」
声の方を向けば、上から長い青髪のチャラそうな長身男、銀髪で浅黒い肌の長身男、赤みのある髪のケンと同い年くらいの少年、金髪碧眼の女性だった。
どうやらビーチバレーのスパイクが流れ弾となり、ものの見事に歩いていたケンに直撃したのである。
「いつつ……星が見えたんだが……」
「け、ケン君、大丈夫?」
「お、兄ちゃんタフだねぇ!」
「頑丈そうでよかった。いや、ぶつけた以上良くはないですが」
「……ビーチバレー?」
「なんなら兄ちゃんも一緒にやるかい?ぶつけた詫びによ。彼女さんと参加していいぜ!」
「しょ、正直、あれをぶっ放す人とやりあったら生きて帰れる気が……」
「それにだ、カップルでビーチバレーをしたらより仲が深まるってもんだぜ?」
仲が深まる。
その言葉にピクリと反応する人物が一人。
「やろう!ケン君!仲、深めよう!」
「え、えぇぇ……」
食い気味に参加表明するなでしこ。嬉しそうに目を輝かせる彼女に断りきれるわけもなく、為すがままに参加となってしまったケンだった。
そして同時に思う。
俺は今日、生きて帰れるのか?と……。
「君、苦労してるんだな……」
「わかってくれるか」
苦労性に見える赤髪の少年とは、なんだかわかりあえたような気がしたケンだった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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