リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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『夏の激戦 後編』

わくわくざぶーんに高々と砂埃が打ち上げられ、同時に爆発音と思しき轟音が浴場を大きく揺るがす。傍から見れば地震か、はたまた爆破テロか?そう思うのが普通の感性だろうが、悲しいかな、この場にいる人間の感覚はバグっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

なでしこの乗り気に誘われるがまま彼女とペアを組んで参加した。相手は長身男二人組。曰く、チャラそうなのがランサーで、銀髪褐色肌がアーチャーという名前らしい。更には赤髪の少年は衛宮士郎、金髪の人はセイバー。……コードネームだろうか?と疑問符を浮かべたケン。そのすぐ真横を、とんでもねー速さのサーブが打ち込まれて冒頭の結果だった。

 

「ふむ……手加減というものは存外全力を出すよりも難しいと言うが、まさに的を得ているな」

 

得点が入ったことで再びサーブ権を得たアーチャー。

……あ、これ死んだわ。

彼のジャンプから、ボールで鳴ってはならない鈍い音とともに放たれたサーブは一直線にケンに向かって……

 

「ほっ!!」

 

当たる前になでしこが見事に割って入ってボールを高く打ち上げる。瞬間的に現れたように割って入った気がするが、気の所為だ、多分。

 

「ケン君!トス!」

 

「はっ!?お、おう!」

 

上手くネット際に落ち行くボールを、スパイクが打てるようにオーバーで緩く打ち上げる。

瞬間、自陣コートで砂塵を巻き上げて何かが迫り、次の瞬間には打ち上げたボールの傍らで見事な弓なりの跳躍。

 

「……は?」

 

「そこっ!!」

 

おおよそ、先程のアーチャーによるサーブの音と遜色ない轟音とともに、ラインギリギリに打ち込まれる超豪速スパイク。

 

「ほう……?生身の人間でよくやる」

 

「ちげぇねぇ。……こりゃ手加減いらなくねぇか?パワーならバーサーカークラスに感じるぜ?」

 

「ふむ、下手に出し惜しみをしていてはこちらが危ういな……」

 

……何だか背筋が寒いどころか凍りつきそうな話し合いをする相手二人の会話を、笑顔でハイタッチしてきたなでしこに応えつつ引きつった笑みを浮かべるケン。

相手もそうだが、なでしこのフィジカル、その恐ろしさにも驚かされる。よもやここまでとは思わず、一般ピーポーの自分がポツリと取り残された気がしてならない。

だがここで尻込みしていて何がなでしこの恋人か。彼女が戦っているのに自分が腑抜けていてはダメだ。

自身の心に発破をかけ、なでしこのトンデモサーブを処理してスパイクを放つランサー。

視線を凝らす。

彼の目先。

きっとそこに打ち込んでくる!

狙いは……自身となでしことの中間

 

「うぉぉっ!!」

 

思わず飛び込んで片手でのダイビングレシーブ。右手に千切れ飛んだのかと思うような滅茶苦茶な衝撃と痛みが走るが、何とかボールを打ち上げることに成功。フワリと舞い上がるボールの落下地点にすかさず入り込むなでしこ。ケンも負けじと立ち上がり、すぐさま駆け出す。なでしこがトスを上げると同時に跳躍し、スパイクの警戒するタイミングをズラして打ち込む、所謂『速攻』を二人の間に叩き込んだ。

 

「さっすがケンくん!」

 

「いやいや、なでしこが合わせてくれたからだよ」

 

見事に息の合ったコンビネーションで1得点。三人ほどの強いスパイクではないものの、不意をついた攻撃に対応しきれず、アーチャーもランサーも一瞬呆気取られる。が、スグに素敵な笑みを浮かべ、その身体にヤバそうな力を纏わせていく。

 

「悪くねぇ……!悪くねぇぞ兄ちゃん!だったらガチで行くからな?」

 

「――体はボールで出来ている

血潮はゴムで、心は空気

幾度の試合を越えて不敗

ただ一度の敗退もなく

ただの一度も違反もされない。

彼の者は常に独り、表彰台で勝利に酔う

故に勝利に意味はなく、

その体は、きっとゴムで出来ていた」

 

遂には幻覚でも見てるのだろうか?

周囲の景色が荒野へと変わり、周囲のそこらかしこに野球やサッカー、古今東西ありとあらゆる『ボール』という存在が転がっている。

 

「おぉぉ!!なんかすっごいよケン君!」

 

「……なんでさ」

 

「行くぞ、少年少女――――ブロックの枚数は十分か」

 

「二人共、それ俺のセリフだと思うんだけど」

 

そして巻き起こる、もはやビーチバレーなのか何なのかわからない混沌とした試合。

その渦中にて、なでしこは未知のバレー?に歓喜し、ケンはと言うと、自身やなでしこが危なくないか回避に専念するしかなかったとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜!遊んだ遊んだ!」

 

あれからもはやバレーと言うか命のやり取りと言うか、寿命が縮むと言うにふさわしい経験をしたケン。なでしこはと言うと、終始怯えた様子もなく、どういうカラクリか無限に打ち出されるボールを楽しみながら捌いており、途中どこかで見た事あるような金髪赤目の青年が乱入し、『(オレ)も混ぜろ!雑種!』と、同じようにどこからかボールを打ち出して応戦し始める始末。

何を言ってるか分からね―と思うが、ケンも目の前で何が起こってるかわからなかった……

頭がどうにかなりそうだった……

催眠術だとか魔術だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったひとときだった。

 

「いっぱい遊んだらお腹空いちゃった!」

 

「……アンタの彼女、一体何者なの?アイツラの動きに着いてってたんだけど……」

 

「いや、まぁ……その、フィジカル強めとしか言えね―……」

 

観戦してなでしこの身体能力の高さに驚き、ケンに尋ねてきたのは、遠坂 凛。士郎の同級生らしい。妹と同じ名前の読みで少し驚いたが、更に驚いたのは……

 

「まさか彼女が桜の妹だったとは……世間は狭いですね」

 

凛と共に観戦していた長身の桃色の髪をした女性……名はライダーと言うらしい。どうやら彼女がチケットを桜に渡したとのことで、ケン、なでしこ共々感謝を伝えると、

 

「私は元々ここへよく来るので、常連客が客層を広める為のサービスなのでしょう。なのでお礼を言われるほどではありませんよ」

 

と、苦笑いしながらさっぱりと終わってしまった。

ともあれ、

恋人がお腹を空かせているのもあって、そろそろお昼にしようかと考えた矢先、

 

グゥゥゥ……

 

「な、なでしこ?もうちょっと待とうな?」

 

「い、今のは私じゃないよ!?」

 

グゥゥゥ……

 

腹の中の猛獣が再びその唸り声を上げる。しかしその元凶は確かになでしこではない。その音の方を向けば……

 

「士郎、私もお腹が空きました」

 

セイバーだった。

ケンは直感が働く。

あ……何となくこの人はなでしこと同じタイプ(食いしん坊)なのだ、と。

 

「やれやれ、仕方ない。俺達も昼にするか。弁当、取ってくるから」

 

「他の皆は場所を確保しててくれ」

 

『は〜い』

 

という事で、士郎と連れ立ってロッカールームへと向かうケン。

その傍ら、だんまりの二人だったので、意を決した士郎は話題を切り出した。

 

「志摩は、料理とかするのか?」

 

「ん〜、まぁしょっちゅうってわけじゃないけどな?キャンプに行くことが多いから、その流れでって感じ。衛宮は?」

 

「俺はまぁ……小さい頃からやりなれてるからそれなりには。って、衛宮じゃなくて、士郎でいいぞ。俺もケンって呼ばせてもらいたいし」

 

「それはまぁ、望むところだと言わせてもらおう。改めてよろしくな、士郎」

 

「あぁ、よろしく」

 

流れで身の上話をしながらロッカーから弁当を取り出し、尽きることのない話を続けながら飲食スペースへと辿り着いた二人。そこには、女子4人がキャイキャイと何やら話で盛り上がっていた。3人いれば姦しいと言うが、4人だと殊更である。

そしてそれをそっちのけでビール片手におっ始めているランサーと、それに絡まれているアーチャーの構図。

 

「士郎、こちらを確保しました!」

 

「ケン君、お疲れ様!」

 

それぞれが空いてる隣の席へ誘導し、着席。そして弁当をテーブルの上に。

 

「どうせならシェアしようってケンと話しててさ。良いかな?」

 

「それは構いません。私としても、なでしこから聞いたケンの料理。気になっていましたので」

 

「……なでしこ?何話したの?」

 

「え〜っと……ケン君と行ったキャンプの話をしてたらその流れで……」

 

「キャンプご飯てのも結構興味が惹かれるのよね」

 

「やれやれ、流石に今日は普通の弁当だけどな」

 

ケンが保冷袋から取り出してテーブルに広げるのはタッパー。積み入れしやすいこの容器なら、そこまでかさばらないと考えての選択。その蓋を開ければ……

 

『おぉ〜!』

 

タッパーに敷き詰められていたのは、オニギリや卵焼き、ウインナーやきんぴらごぼうと言った、弁当の定番とも言える品々。だがそれだけではない。一つのタッパーには一品だけでそこを占拠しているものがあった。

 

「これって、鳥のマリネか?」

 

「正解。疲れた時には酸っぱい物がいいと思ってな」

 

衣をつけて油で揚げた鳥を、細切りにした野菜とともにオリーブオイルと酢、砂糖などを混ぜ合わせたつけ汁に漬け込んだものだ。表面に添えられたレモンの薄切りが何とも彩りよくされており、見た目も楽しめる。

 

「にしても……本来二人でこの量を食うつもりだったのか?」

 

「あ〜、うん、まぁな」

 

士郎の言う事も最もだ。普通に軽く見積もっても、4人前はゆうにありそうな量の弁当。それを二人で食べるともなると……。

 

(まさかな)

 

予想が外れてくれるだろうと願いながら、士郎も士郎で自身の弁当の蓋を開ける。三段の重箱に敷き詰められたおにぎりやサンドイッチ、ハンバーグやアスパラベーコンと言った定番かつハズレのないメニュー。どれもこれもが彩りよく盛り付けられており、見ただけで美味いと分かる。

弁当の紹介はこれくらいにしておこう。何故ならなでしことセイバーがこれでもかと言わんばかりに目を輝かせながら弁当を見つめているのだから。

持参した取皿や割り箸を各々に配り終えた所で……

 

「それじゃ……」

 

『いただきます!』

 

という事で始まったお昼御飯。思い思いの料理を取皿にとりわけ、頬張り、絶賛する。暴れ倒したというのもあるだろうが、作った人間の料理の腕が確かなものなので、空きっ腹に思いっきりどストライクだった。

 

「ん〜!甘酸っぱいマリネが染み入る〜!」

 

「うん、酸っぱさも甘さも、どれも良い感じだ」

 

「マリネと言う物は初めて口にしましたが、なるほど。これは実に美味しい」

 

疲れた時には酢を使った料理が効果的と聞く。加えて酸っぱい物と言うのは唾液分泌を促して食欲促進にも効果的。まさにうってつけと言える。

 

「士郎の料理は……なんというか、安心する味だな」

 

「えぇ、いつもと変わらぬ、ホッとする味です」

 

「ん!やっぱ坊主の飯はうめぇな。ホイル焼きの時も悪くなかったが、これも良いもんだ」

 

士郎の料理はどちらかと言えば尖ったものはない。だがそれだけに安定の、安心できる味付けだ。

双方甲乙付けがたい美味な弁当に皆の箸は止まらず、ものすごいスピードでその量を減らしていき、あっという間に容器はすっからかんになってしまった。これだけの人数が居たのだ。当たり前だと思いたいが……

 

(明らかにセイバーと各務原の箸のスピードが早かったような……)

 

なるほど、ケンが二人分であれだけ用意するわけだと納得がいく士郎。

だがなんだかんだで自分が作った料理を、笑顔で美味しそうに食べてくれる人がいるのは嬉しいものだ。

現になでしこが美味しそうにぱくつくのを幸せそうに眺める少年がいたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして回復した体力で昼からも遊び倒した一行。ビーチバレーやお昼御飯を通して仲を深めあった面々は、時間を忘れ、わくわくざぶーんを心ゆくまで堪能し、気が付けばあっと言う間に夕方となっていた。

 

「二人共、山梨まで遠いけど気を付けてな」

 

「あぁ。また遊びに来るよ。士郎達も、暇があったら身延へ遊びに来てくれ。歓迎する」

 

「わかった、そん時はよろしく頼むな」

 

バイクに二人が跨り、別れの挨拶を交わす。

たった一日だけ。

それなのに名残惜しさが強く心に滲んでくる。

 

「なでしこ、またビーチバレーで勝負しましょう!」

 

「うん!セイバーさん、今度は負けないからね!」

 

「二人共、頼むから周囲への被害を考えてくれよな……」

 

そして巻き込まれる側としてみては、命がいくつ有っても足りないと感じるまでに恐ろしい経験だったとケンは後に語る。

一通りの挨拶を済ませると、バイクはゆっくりと出発し、やがて駐車場を出て、赤いテールランプの跡を残してあっと言う間に見えなくなってしまった。

 

「なんだか、不思議な二人でしたね」

 

「そうね。同年代なのにどこか子供っぽかったけど」

 

「でも、楽しいひと時でした。また会いたいものです」

 

「会えるさ。それに会いたくなったら会いに行っても良いんだ。折角知り合ったんだからさ」

 

たった一日で出来たかけがえのない友人。

またきっと会える。

約束を交わした訳ではない。

だがそれでもそんな確信めいたなにかがある。

その時に思いを馳せながら、士郎は皆と共に疲れた身体を奮起して帰路につくのだった。

さて、今日の晩御飯は何にしようかと考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しかったね、ケン君」

 

「そうだな、思わぬ出会いで思ってもみない経験が出来たよ……」

 

まぁビーチバレーと言う名の『戦争』じみた戦いはさておいても、旅先で出会った新たな友人たちとの出会いと別れが、どこか物悲しくもあった。

 

「でも、お別れするのって、何だか寂しいね」

 

「……そうだな。けどさ、また会いに行けばいいんだよ。いつかさ。別れは寂しいけど、また会いたいって思いも同時に浮かんでくるんだから」

 

「そだね。ふふっ!何だかキャンプと一緒だ!楽しい終わりが寂しいから次をしたいって思っちゃうの」

 

伊豆キャンの終わりにリンを交えて話し合ったあの日の言葉。

楽しい終わりの寂しさを次の楽しいに繋げる。それもまた、旅の醍醐味なのだろう。

 

「あ!ケン君!晩御飯食べて帰らない?ぐるぐるマップで美味しそうな店がこの先にあるって!」

 

「そうだな。せっかくだし食ってくか。なんて店?」

 

「えっとね?麻婆豆腐が有名な『紅洲宴歳館・泰山』ってお店だって」

 

その日

二人の舌はどうなったのか……それは読者の皆様の想像どおりである。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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