リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
甘さ多めに感じて頂けたら本望っ
ゴーン……
ケンが家のリビングの炬燵でのんびり年越し蕎麦の海老天をかじっていると、遠く除夜の鐘が聞こえてくる。
時計やテレビを見れば、賑やかなカウントダウンを終えて、皆が新年を祝ってどんちゃん騒ぎしている。
今年は以前のように年越しキャンプすることなく、こうして家で家族とのんびりしようとリンと相談して決めたことだった。何より、また道が凍結して方方に迷惑をかけるのもよろしくないというのもある。
「父さん、母さん、リン。あけましておめでとう」
「おめでとう、ケン」
「おめでとう」
「おめでとう、お兄ちゃん」
同じく蕎麦を食べていた家族に新年の挨拶。また新たな一年が始まることに、どこか透き通る感覚が心に生まれる中、ポケットに入れていたスマホが立て続けに振動する。このタイミングで鳴るとしたらアイツラだ。
千明『諸君!あけおめ!』
なでしこ『あけましておめでとう〜!』
あおい『あけましておめでとうや〜』
野クルだ。
一応このグループメッセージに恵那も入っているのだが、挨拶がないのを見るに既に寝ているのだろうか?よく寝るやつである。
ケン『あけましておめでとう、今年もよろしく〜』
リン『うむ、今年もよろしく』
遅ればせながら、ケンとリンも挨拶を送る。
とりあえず新年のメッセージだけ送って蕎麦の続きを食べようとした矢先、再びスマホが振動し始める。
また誰かメッセージか?と思ってディスプレイを見れば、『各務原 なでしこ』の文字が。と言うことはメッセージではなく通話であるということ。
すかさずケンはぬくぬくした炬燵から這い出て、少し冷える廊下に出て通話ボタンをスワイプして、呼び出しに応じる。
『あ、ケン君!あけましておめでとう!』
「あけましておめでとう、なでしこ。今年もよろしくな」
『うん!よろしくね!……えへへ、メッセージもいいけど、ケン君の声を聞くとやっぱり嬉しいなぁ』
「ん、俺もだよ、なでしこ」
その為にわざわざ電話してきてくれたのだろうか?もしそうなら何ともいじらしいなでしこに、突然会いたくなる衝動が湧き上がってくるも、ここはグッと我慢するケン。
『あのね、ケン君』
「ん?」
『明日、と言うより今日なんだけど、何か予定はある?』
「1日は特にないなぁ。……もしかしてどこか一緒に出かけたい?」
『う、うん……何だかお正月早々に、ケン君と会って出掛けたいって思ってきちゃって』
考える事は同じだったらしい。
以心伝心、と言うのか何というのか。
それでも特に予定がなかったケンは、
「よし。それじゃ新年の初詣デートに洒落込むか!」
『っ!うん!』
二つ返事でこれを了承するのだった。
ちなみに
「お正月デートか〜、若いねケン」
「襲うなよ?」
「ほら、これでなでしこちゃんにごちそうしてあげるのよ?」
廊下で話した事で内容が家族に筒抜けだったらしく、いじられることになったのは余談。
一応お小遣い……もとい、お年玉を貰えたことへの代償と考えれば安いものかと、ここはグッと我慢するケンだった。
翌朝
志摩家の最寄り駅である甲斐常葉駅で待ち合わせとなったケン。
それなりにおしゃれに、そして寒くないようにロングコートにいつものマフラー。中はハイネックセーター、ズボンは落ち着いた色合いの裏起毛パンツと、無難かつ防寒のファッション。普段、バイク用コーデ位しかファッション誌を見ないケンの為に、リンと咲監修の元でコーディネートしてこうなったわけだ。防寒性、ファッション性もさることながら動きやすさも損なわれていないため、二人の協力に感謝しながら駅構内で待っていると、恐らくなでしこが乗っているであろう電車の便がゆっくりと駅へと入ってくる。開かれた扉から見える車中は、甲府・甲斐市方面へ初詣に行こうとする客でそこそこ混んでおり、ぎゅうぎゅうとは言わないまでも座るのは中々難しそうだ。
「あ、ケンくんっ……!」
乗り込むと、出迎えてくれた待ち人の声に振り向けば、そこにはいつもの雰囲気と異なる彼女がいた。
白い膝裏辺りまでの裾のあるロングコートに黒いニットの長袖。そして腰からスラリと伸びる赤いフレアロングスカートに、ヒール付きのロングブーツ。
いつもの動きやすさ、運動性を重視した服装ではなく、どちらかといえばオシャレで大人っぽいコーディネートに見受けられた。髪型も、普段のツーテールではなく、肩あたりでプレゼントしたシュシュで一つに纏めて前に流している。
「あ、あけましておめでとうっ。今年もよろしくねっ」
「う、うん。あけましておめでとう、なでしこ。こちらこそよろしく」
「あ、あの……服、へ、変、じゃない?」
「あ、うん……その、いつもと違う感じで。すごく新鮮で綺麗だなって……思った」
「う〜……!面と向かって言われたら余計に恥ずかしい……!」
顔を赤らめて下を向いてしまうなでしこ。いや、褒める以外にどうしろと?と言うツッコミは口にはしないが、彼女も普段と違うコーディネートに戸惑っているのかもしれない。
俯いて吊り革を持つなでしこに並び立つようにして、ケンも吊り革に捕まりながら、発進した電車に揺られて北上していく。
やや密着した空間の中で、隣に立つ大人っぽいなでしこに妙にドキドキしてしまい、ほんのり香る女の子特有の甘い香りも相まってなんとも悩ましい。
「その……」
走り始めて数分経った頃だろうか?無言を貫いていたなでしこがケンに聞こえるか否かの声量で、ポソリと口を開く。
「ケン君も……いつものバイク乗り用の服じゃなくて……私、ドキドキしてるんだよ」
「お、おう……そう、か」
よもや自分の服装を評価されるとは思わず、ケンもケンで顔を赤らめながらなでしこから目を逸らしてしまう。
いつもと違う雰囲気と言うものは、どこか真新しさすら引き出させてしまうのか。いつもの恋人の違う魅力に充てられ、慣れた筈の互いの隣が気恥ずかしさを再び生み出してしまい、目的地である南甲府駅へ着くまでのしばらくの時間、なんとも甘酸っぱい雰囲気が二人の間に漂っていた。
そして、南甲府駅で降り、バスに揺られることしばらく。目的地の最寄りの停留所で下車し、歩くこと数分。
「立派な石の鳥居だねぃ……」
「俺も初めてきたけど……雰囲気あるよなぁ」
あんぐりと口を開いて、表参道から入ったところにそびえながら参拝客を出迎えてくれる鳥居を見上げるなでしことケン。
その傍らの石碑にはこの神社の名前が彫られ、一層雰囲気を厳かにしてくれる。
そして元旦とあってか初詣にやって来た参拝客でひしめいており、結構な混雑具合だ。
「結構、混んでるねぇ」
「流石に元日だからな。目的は皆同じって訳だ」
「おぉっ!出店もある!焼きそば!」
「ちょい待ち」
食べ物を見つけて目を輝かせるなでしこだが、飛び出しかねない彼女の手を掴んで制する。
やはり幾ら大人っぽいコーディネートをしても本質は変わらないもので、彼女の食に対する欲求はいつも通りだ。
「なでしこ、先に参拝済ませてからな?本分はそっちなんだからさ」
「わ、わかってるよぅ」
ケンの指摘に顔を赤らめ、自身を制するなでしこ。掴まれた手を自然と握り返し指を絡めて、所謂恋人繋ぎへと移る。手袋越しとは言え、伝わる手の温もりが何よりも正月の寒空に染みる。
「じゃ、ケン君。はぐれないように、手をしっかり握っててね?」
「わかったわかった。手も手綱も握ってるから」
「も、もう!私そんなに走り回ったりしないよぅ!」
「焼きそばに釣られてた人が何を仰る」
「そ、それは……人間たるもの、三大欲求には抗えんのじゃ。偉い人にはそれがわからんのじゃ」
なでしこの必死な言い訳を軽く聞き流しながら境内を進む二人。
いつの間にやら今日出会った時の気恥ずかしさは何処へやら。普段のやり取りへと変わって行っていた。
手水舎で手と口を清めた二人は、参道を連れ立って歩いていく。
「そういえばなでしこ。この神社の御利益って知ってる?」
「???ん〜……調べてきてないからわかんない」
首を傾げるなでしこに、説明するにあたって少し恥ずかしいのか、彼女から視線を反らしてケンはポソリと呟いた。
「ここ、縁結びで訪れる人が多いんだよ」
「っ!へ……へぇ……、縁結び、でございまするか」
「ん、まぁつまり……初詣デートには、もってこいってことで」
「そ、そう、だねぃ」
説明する側もされる側も気恥ずかしさが湧いてきたらしく、顔を赤らめて黙り込んでしまう。
ケンとしてみても、なでしこともっと仲良くなりたいと言う願いからここをチョイスしたのだが、説明を受けて察したなでしこも同様で、彼の思いに心が一気に熱くなる。
自分との関係を大切にしてくれている。
そんなケンに、なでしこもこの関係を大事にしたい思いは変わりなく、その気持ちが彼の手を握る自身の手に少しばかり力を込めさせる。
そして列に並ぶこと暫く。本宮の賽銭箱前にたどり着いた二人。
「ケン君っ」
「ん?」
「何お願いするの?」
「そうだなぁ……」
互いに賽銭を投げ入れながら、なでしこは不意にそんな質問を投げ掛けていた。
やっぱり何を願うのか気になってしまうのは、恋人として仕方のないことなのだろうか?
悩む仕草を見せながらも、二人は共に鈴を鳴らして、二拝二拍手をしてそっと目を閉じる。
「なでしこと末永く一緒にいられますように」
「っ!」
小さく隣で呟かれた言葉が耳に入り、なでしこの顔は一気に最紅潮に達する。
隣を見ればケンが片目を開けて口元に笑みを浮かべ、こちらを見てきていた。
末永く
その言葉がなでしこの頭をループしており、熱暴走させていく。
「なでしこは何をお願いするんだ?」
「わ、わたわたわたしは……」
そして思考回路がショートした結果、
「け、ケン君と結婚できますようにっ!!」
大声で、それこそ神社内に響き渡らん位に叫んだ。
喧騒に包まれていた境内は一気に静まり返り、誰も彼もが参拝客の最前列……ひいては二人に注目を集めていく。
背中から刺さるとんでもない視線の気配に、なでしこの願いを聞いてしまったケンも彼女に負けず劣らず顔を真っ赤に染め上げていく。
「……………〜〜〜!!」
何とも気不味い。
背中に感じるのは嫉妬と微笑ましいものを見る目がそれぞれ半々といった所か。
どちらにせよ、ここまで注目を集めるのは流石に本意ではないケンは正気を取り戻すと、
「な、なでしこ!さ、最後に一礼して戻ろう!な?」
「う、うん!」
大きな声で叫んだことで正気を取り戻し、その後直ぐに叫んだ内容を振り返って再び顔を真っ赤に染め上げたなでしこ。ケンと共に最後に一拝し、どちらからともなく手を繋いで足早に本殿前を後にする。
その二人を見送る視線を背に受けながら、境内を駆け抜ける二人。
二人のその顔は、顔を真っ赤にしながらも、どこか楽しそうで。
なんだかんだこうして今年も、ドタバタしながらも楽しい時間を皆と、そして恋人と過ごせる。
そんな一年を予感する二人の初詣。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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