リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「もういいのか?」
しばらくリンとゆっくり感動を共有していたなでしこは、スマホを操作するとくるりとこちらを向いた。
「うん、リンちゃんともお休みって言ったし、そろそろ寝ないと明日起きられなくなっちゃう」
「だな。明日は俺が朝ご飯の役だし、早く戻るか」
日付はすでに日曜日。夜中の午前1時30分を過ぎている。流石に2日連続寝坊は示しがつかない。
「あ、その前に!ケン君、後ろ向いて!」
「ん?あ、あぁ!」
言われるがまま、なでしこの指示通り後ろを向くと、すぐ隣にやって来たなでしこが、ケンに寄ってスマホを自撮りで構え……
「はいっ!チーズ!」
「へっ!?」
パシャリ
写真を一枚。
何が起こったのか分からないでいたものの、撮れた写真をふにゃりと笑って確認するなでしこを見て得心する。
「変な顔で写ってないか?」
「ケン君、目を丸くして変な顔ですなぁ」
「撮り直しを要求する!」
「これはこれで味があって良いんだよぅ」
「なんじゃそりゃ」
「えへへ……リンちゃんとは麓キャンプ場二人で撮ったけど、ケン君とは撮ってなかったからねぃ、ちょうど良かったよ!キレイな夜景もバックだし!」
まぁ喜んでるから良いか。と納得し、前を足取り軽く走る友人に苦笑いする。
さて、ゆっくり歩いてテントまで戻るか、と思った矢先、目の前でなでしこがピタリと止まった。
どうかしたのかと近付けば、
「も、森を抜けるまで掴ませて……」
そう言って服の裾を摘んでくる。
先程までの元気はどこへやら。一気に怯え始めた。
そんな彼女へ生まれるちょっとした悪戯心。
「それだと歩きにくいだろ?手でも繫ぐか?」
からかうつもりだった。
多分恥ずかしがるだろうと見立てて聞いた冗談。
しかしそこはなでしこというコミュ力の猛獣。彼女は距離感をはかれないのか……
「うん!」
と、なんの躊躇いもなく手を握ってきた。
「えへへ……寒いからあったかいねぃ……なんか安心するなぁ……」
ランタンでほんのり照らされた彼女の柔らかくも温かな笑顔に、一瞬心臓が跳ね上がる。彼女にとって、友達とは躊躇いなく手を繋げるもの。だからこそ心配だ。勘違いする男友達が出て来やしないか?と。
「これで森を難なく抜けられるよ!」
「それは……よかったな……」
顔が熱い。きっと今の自分の顔は見せられたものじゃない。隣でご機嫌に歩くなでしこに悟られまいと、必死にランタンに照らされないように尽力するしかないケンだった。
(悶々として寝れるわけねぇだろぉぉぉ!!)
サイトに戻り、なでしことそれぞれのテントに戻って、着替えていざ就寝…となるわけがなかった。
さっきから変にドキがムネムネして落ち着かない。
目を閉じようとも、しっかりと冴えてしまっていて、寝れる気配がないのだ。
(家ならこういう時、バイクで走ったら寝れるのかな〜)
確かに夜風で冷えて、スッキリできるのは確かだろう。ただ
閑話休題
「ちと夜風に当たるか」
寝袋から這い出てダウンジャケットだけ羽織ると、テントから外へ。
スマホを確認すると時刻は2時を過ぎたところ。まだまだ夜が明けるまで時間がある。
「流石にリンは寝てるか」
最後のメッセージを見れば、『襲うなよ』と釘を差すような言葉が送られていた。
いかな志摩ケンが男と言えども、恋人でもない少女を襲うほど餓えてもいないし、ましてや仮になでしこが恋人であってもそのようなことはしない。
「ハァ……静かでいいな……」
吐く息は白く、体との温度差が如実にわかる。長時間夜風に当たるのは、健康上よろしくない。
それでもこうして夜の帳の中、静かに過ごすことが心地よかった。同時に、妙な寂しさもわずかに感じられた。
もうすぐこのキャンプも終わる。
家族以外でのキャンプは初めてで、しかも同年代の女子とするなどと、誰が想像できたろうか?
どたばただったが、心躍るひと時だったことは事実だ。それが終わる寂しさがほんのりと心に満ちる。
このキャンプを終えたら、答えを出さなければならない。
野クルに入るか否か
だがもう、答えは決まっていた。
「……明日、千明に答えを出すか」
そうと決まれば、早く寝て、明日しっかり朝ごはんを食べてもらうとしよう。
いつの間にかもやもやした感じは消え、スッキリとした心はどこか晴れやかで。寝袋に入ればそう時間はかからずに微睡みに沈むことができた。
翌朝 5時30分
鳥のさえずりにゆっくりと目を開けたなでしこは、身体を起こすと大きなあくびを一つ。いつもはアラームが鳴ってもなかなか起きない体質の彼女だが、今日はなぜかスムーズに目覚めることができた。
だんだん覚醒する頭と耳に、カチャカチャという音が外から聞こえる。
こんな朝早くからなんだろう?と、上着を羽織って外へゆっくりと出てみる。
「おはよう、なでしこ」
そこには未だ日が昇らぬうちから既に着替えて、朝ごはんのための設営を始めているケンの姿。
「おはよ〜ケン君、早いねぃ……」
「みんながいつ起きてくるかわからないからな。だから早めに起きてた。いつでも作れるようにな」
「それはそれは……ありがとうごぜぇやす……」
「ほら、早く着替えて。ココアでも入れるから」
「ん〜、わかった〜」
「あと、昨日の『アレ』も出しといてくれな」
「は〜い」
設置を終え、ミニテーブルの上でバーナーに点火し、水を入れたコッヘルを乗せて、お湯を温めていく。2つのコップには、一杯分ずつ個包装されたココアの粉末を入れておく。
寒い。
バーナーの火をある程度感じるとはいえ、夜明け前の山中の寒さは半端ない。
早いところ湯を沸かして温かいココアを……
そう思っていた矢先、肩から柔らかいものを掛けられた。
ブランケットだ。
「寒そうだったから出してきたんだ。よかったら使って?」
「ありがたき幸せにござる」
「うむ、苦しゅうない」
程なくして沸騰したら湯を、2つのコップに注ぎ入れて混ぜ、なでしこに一つ渡す。
「ありがと……あったかいねぃ……」
「持ってるだけでもいいかも……って夜中にも同じこと言ってたな」
「ふふっ、そうだった」
ふぅふぅと息を吹きかけ、少し冷めたところをどちらからともなく同時に啜る。
「熱いねぃ……」
「ん、だがそれがいい」
「その熱さがいい……だっけ?」
「よくわかってらっしゃる」
ちょっと古い漫画のネタだけど、なでしこは拾ってくれた。
変な高揚感に、顔を向かい合わせて笑い合う。
ひとしきり笑い終え、再び一口啜ったケンは、意を決したように口を開いた。
「なでしこ、俺さ……」
「ん〜?」
「野クルに入るよ」
「え?ほんと!?」
「うん。今回のキャンプで……なんて言うのかな。確かにみんなとのキャンプが楽しくって、それがもうすぐ終わっちゃうんだっていう寂しさがあったんだ」
「そうだねぃ……お昼くらいには終わっちゃうんだなぁって思うと……実は私もなんかさみしいなぁって思えてきちゃう」
「ん、だからこそ、またみんなと行きたいなって思えた。だから……入ってもいい……のかな?」
「私は大歓迎だよ!アキちゃんもあおいちゃんも、きっとまた皆でキャンプしたいって思ってるよ!だから一緒にまたキャンプ行こう!ね?」
「ん、ありがと……なでしこ。二人が起きてきたら、改めて伝えるよ。」
「うんっ!……あ!日の出だよ!」
そして…夜が明ける。ゆっくりと山の陰から登りゆく太陽。眩しくも温かな光が、二人を包み込んでくれる。
「眩しいねぃ……」
「でもあったかいな」
「そだねぃ……」
これも早起きとキャンプの醍醐味だろう。陽光に当てられてか、後ろのテントでもぞもぞと動く音が聞こえ始めた。
どうやら部長と参謀がお目覚めのようだ。
「よし、じゃあ朝飯の準備をしますか!」
「お〜!!」
「うんま!!何だこれ!滅茶苦茶美味いぞ!」
「せやなぁ!香ばしくて、中はスパイシーとまろやかさと甘さがマッチして絶妙やで!」
「おいひ〜!!」
「計 画 通 り」
起きてきた二人を交えて、早速朝ごはんを作り始めたケン。
使うのは定番『ホットサンドメーカー』
熱した底面にバターを塗り、半分の厚さに切った食パンを敷き、そこに昨日のカレーの残りを少し水気を飛ばしたあとに投入。更に炒めて持ってきていた千切りキャベツととろけるチーズを乗せて、食パンで挟んでプレス。そしてこんがり両面焼き色を付ければ、とろけるホットカレーサンドの完成だ。
「ちくしょう!二人の協力プレイのキャンプ飯なんて、恐れ入るぜ……!」
「うんうん!これはケン君大金星やで!」
「はは〜、ありがたき幸せ!」
食後の珈琲を飲みながら大絶賛を受けたホットサンド。お手軽ながらも二日目カレーの美味しさを活かした良作となった。
「さて、千明、あおい。話がある」
「どうしたん?急に改まって」
「なでしこにはさっき話したんだが、野クル入部の件だ」
「あぁ〜。それか。もしかして、答えが出たのか?」
「うん、俺で良いなら……野クルに入れてもらってもいいかな?」
「ホンマに!?入ってくれるのん!?」
「そりゃ大歓迎だが……いいのか?」
「唯一の男部員だからな。皆がそれでもいいなら……」
「そっか……!」
得心したように笑みを浮かべた千明。
その笑みはきっと、これで部に昇格する人数が揃ったと言うような笑顔ではなく……。
新しいキャンプ仲間ができた喜びからくるものなのだろう。
「よし!じゃあ晴れて野クルも四人になった!これからバシバシキャンプ計画立てていくから、覚悟しとけよお前ら〜!」
「「「お〜!!!」」」
心許せる友人とのキャンプの楽しさを知ったなら……
ココロは止まっていられない。
いられなくなった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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