リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

14 / 117
第十四話『猛獣の決意』

「…………」

 

カリカリ……

 

「…………」

 

カリカリ……

 

放課後 本栖高校 図書室

片や受付に

片やそれに向かい合って

それぞれが教科書とノートを広げて勉強に勤しむ。

ただただ静かで、傍から見ても二人の集中力が伝わるほどに集中していた。

 

「お兄ちゃん、ここってどうやって解くの?」

 

「ここはな……こうして……」

 

リンとケンだった。

テスト前なので誰しもが家に足早に帰り、テスト勉強に取り掛かる。

だがこうして静かな図書室でひたすら勉強に取り掛かるというのも、一つの利用法だ。

 

「少し一息入れるか。なんか飲むか?」

 

「じゃぁココア」

 

「うい〜」

 

開始して一時間ほど。凝り固まった肩を解しながら、図書室を後にする。ちょっと離れた自販機に向かうために調理室前を通ったときだった。

 

「ギャーー!!!」

 

つんざくような悲鳴がケンの耳を貫いた。

 

「なんだ!?どした!?」

 

何事かと扉を開いた先、そこに居たのは……

 

「し、シマケン……!」

 

親指を火傷して水で冷やす涙目の千明と、苦笑いしているあおいと恵那だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、スキレットのシーズニングしてたのか」

 

ミカンの皮をスキレットで焼いているところを見るに、ある程度工程は終わっているのだろう。

既にあおいも指を火傷したらしく、恵那がシーズニングを手伝っている。

千明は千明で木皿のコーティング剥がしをしている。

 

(こいつら……テスト前なのに余裕だな……、大丈夫なのか……?)

 

恵那は謎に包まれているが、あおいは成績優秀で有名なものの、千明は正直怪しい。キャンプの準備するのはいいが、テスト後でも良くないか?と、彼女のテストを心配。

 

「よし!これでシーズニングとコーティング剥がし終わりだな!」

 

木皿はコーティングを剥がしたあとにオイルで仕上げたことで、味が出ていい具合になっていた。

ようやく終わったことに達成感を得ていた三人。そこに野クルのグループラインになでしこから写真とともにメッセージを受信した。

 

なでしこ『テスト終わったら、みんなでクリスマスキャンプやりませんか!』

 

写真にはマフラーをヒゲ代わりにしてサンタクロースになったなでしこ。

 

「クリキャンか……」

 

「ナイスな提案だな」

 

「なでしこらしい発案というか」

 

「私、クリスマスはカレシと過ごすから無理や」

 

「ダニィ!?カレシいたのかキサマー!」

 

「ウソやで~。いつもは家族とクリスマスやけど、みんなと過ごすクリスマスもおもろいかもなぁ」

 

「ダニィ!?家族いたのかキサマー!!」

 

「なんじゃワレー!?」

 

もはや見慣れた漫才に、ケンも恵那も苦笑いを浮かべる。

 

「そや、斎藤さんもキャンプどうや?」

 

「へ?私?」

 

「デイキャンプにしたら寝袋もいらんし、一緒にやらん?」

 

「ん〜……寒いのは苦手なんだけど、ちょっと楽しそうだなぁ……」

 

「何なら、チクワも遊べるとこ選んどくか」

 

「それだったら行く方へ天秤が大きく傾きますなぁ、ナイス提案だよケン」

 

「「チクワ?」」

 

聞き慣れない名前に、千明とあおいは首を傾げる。

 

「ウチで飼ってる犬だよ。チワワの」

 

そう言って恵那はスマホに写ったチワワのチクワを二人に見せる。

以前、緑のシートを敷いた茶色いクッションに埋まり、ホットドッグとなったチクワだ。

 

「かわええな〜!」

 

「よし!いいとこ探してやるから、恵那もいっぺんキャンプしようぜ!」

 

「ん〜……テスト終わってから返事してもいいかな?」

 

「ええよ、ゆっくり決めてな」

 

「うん、じゃあ私、そろそろ帰ってテスト勉強しなきゃ。じゃあね、3人とも」

 

「ん、ほなな〜」

 

「……テスト勉強…………あ゛!!」

 

「どした?シマケン、きったねぇ声出して……」

 

「リンに飲み物買いに行く途中だったんだ!悪ぃ二人共!また!」

 

「お、おう……」

 

嵐のように部屋を出て、まるでバイクのように疾走して廊下を走っていった。

残るは静けさのみ。

 

「ほな、シーズニングもコーティングも終わったんやし、私らも帰ろか」

 

「おう、だけどその前に……」

 

ちなみに、廊下を走っていたケンは、新任の美人で有名な先生に呼び止められて注意されたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなりすいませんシマリン様……どうぞお納めください……」

 

「うむ、苦しゅうない」

 

図書室に戻ると、速攻ジャンピング土下座。貢物たるココア(少しお高めのG○DIVA)を献上する。

まぁ特に怒ってもいなかったので、修羅場もなく収まった。

 

「で、なんで遅くなったの?」

 

「千明達がスキレットのシーズニングしててさ、火傷して大声で悲鳴あげてたから心配して見てた」

 

「へぇ〜、大垣、スキレット買ったんだ?」

 

「何でも、一昨日キャンプ場の下見に行ったときに、すごい渋いキャンパーが肉をご馳走してくれたらしい。その時にスキレットで焼いてたのがすごい印象的で、ついつい買ったんだとか」

 

「渋いキャンパー……まさかおじいちゃん……なわけないか」

 

「そんな偶然、あったらたまげるわ」

 

偶然というものは恐ろしいものである。

さて。一息ついたところで勉強を再開するかと言ったとき、ケンのスマホにメッセージが届く。

 

「千明からだ」

 

「野クルのメッセージ?」

 

「あぁ。……クリスマスキャンプ開催だってさ」

 

「冬休み早々よくやるよ」

 

「ちなみに発案はなでしこだけど」

 

「あいつもあいつでストロング過ぎるわ」

 

「ところでさ」

 

「やめとく」

 

「まだ何も言ってないし」

 

「流れ的にわかるよ」

 

「ん〜……まぁ無理にとは言わんけどさ。最近なでしこと二人でキャンプしてんだから、お試しでどうかな〜って思ったんだ」

 

「余計なお世話だよ、それに……あそこのノリ……特に約1名はちょっと苦手で……」

 

「まぁわからんでもないけど、野クルに入った俺からしてみれば、千明も案外悪いやつじゃないよ。いじり甲斐あるし、ノリもいいし、それに……無理に押しては来ない。アイツなりに距離感を計ってくれてるよ」

 

「そうなの?」

 

「……多分」

 

「一気に胡散臭くなったな」

 

「それに俺からしてみたら、リンとは気が合いそうだと思う」

 

「え〜?」

 

「ま、行くかどうかは即決せずに、考えとくくらいにしといてくれ。別に強要しないから」

 

「うい」

 

確かに今まで千明のノリが苦手で、賑やかしなやつだという表面上の印象で遠巻きにしてきた。

深くは知ろうとも付き合おうとも思わなかった。

一度だけ、

一度だけ知るためのキャンプ。

それも悪くないんじゃないか?

そんな思いが、知らぬうちにリンの心の隅に芽生えていた。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、

期末テストはつつがなく終わりを告げた。

しっかり予習復習したものには結果が、

前日にならんと尻に火がつかなったやつには相応の点数が与えられたのは言うまでもない。

 

 

 

 

そして、

テスト明け

野クル姦し三人娘は、キャンプ用品店である『カリブー 身延店』へと足を運んでいた。

テスト勉強という束縛から開放された三人。前回のキャンプを踏まえ、改めて買い揃えるものをピックアップするためだ。加えて、この店舗の存在を、引っ越して知らぬであろうなでしこに教えるためでもある。

案の定、

なでしこも含め、千明とあおいもテンションを抑えきれず、なかなかのはしゃぎっぷりである。特に千明。

三人が見て回り疲れてキャンプチェアーで寛ぐ中、見知った男子生徒が店舗に現れた。

 

「OD缶OD缶〜……」

 

「はれ……なんかケンくんのまぼろしがみえるよ〜……」

 

「ほんまや〜……」

 

「だらけすぎて〜ゆめでもみてるヅラ〜……」

 

「スライム!?!?!?」

 

キャンプチェアーで半分溶けてる三人を見つけたとき、まるでモンスターのようだったと後にケンは語る。

 

 

 

「心臓に悪いわ!」

 

「すまんすまん、ちょっと夢見心地だったヅラ」

 

「チェアーの居心地良すぎて、眠ってまいよったんやヅラ〜」

 

「変な方言やめろ」

 

カリブーで心臓が止まりかけたケンと、各々銀マットを購入したメンバーと共に店を出る。何故か千明はウシャンカ(ロシアの耳あて付き帽子)を購入して被って出てきたが。

 

「ケン君は何買ったの?」

 

「俺はOD缶。家の予備がなくなってきたから買ってきてほしいってリンにパシられた」

 

「妹思いやなぁ……」

 

「シスコンめ……」

 

「シスコンで何が悪い!」

 

「そや!妹が可愛いない兄姉がおるわけないやろ!」

 

「そうだそうだ〜!」

 

「えぇ……」

 

何故か妹の立場であるなでしこもシスコン側についた。つまり姉はシスコンという結論に行き着いたのだ。まぁ桜としてみても表には出さないが、よくなでしこを送り迎えしたり、心配しすぎて本気で怒ったりするのも愛情なのだが。

 

「そだ!せっかくだし、身延饅頭食って帰ろうぜ」

 

「「「賛成!」」」

 

近場の和菓子屋に四人で凸し、各々購入していく。千明とあおいは3個。ケンはリンのお土産も合わせて6個。なでしこは家族への土産も込で10個購入。紙コップに入ったお茶も貰い、近くの川沿いのベンチで食べることにした。

 

「丁度出来たてが食えるなんてツイてるよな〜」

 

「ほんのり温かくてモチモチして美味しいねぃ……」

 

「あったかうまーやなぁ」

 

「ちょうど小腹が減ってたから尚の事美味いな……うっ……!」

 

「また泣き出したわ……」

 

「ズズ……日本人ならやっぱり饅頭とお茶ヅラ……」

 

「ヅラ……」

 

川のせせらぎと、夕方を告げるカラスの鳴き声。それ以外が全く無い静かな空間が、最高のチルタイム。さらに口を支配する甘味と苦味のマリアージュ。

至福である。

 

「身延饅頭って、他の名物に比べたら知名度低いよな〜ウマいのに」

 

「せやなぁ〜歌とか作ったら流行るんやない?」

 

「み〜のぉ〜ぶ、ま〜ん〜じゅう」

 

「それは蛍の光だ」

 

「み〜のぶのまんじゅうくうため、お〜まえはた〜び〜だち〜、おか〜ねを、み〜う〜しなった〜」

 

「身延を世紀末にすんなや、しかも金ないんかよ」

 

ズズ〜

しばし茶をすする音が四人の間に流れる。

静かな時が流れる中、なでしこは意を決したように立ち上がった。

 

「決めた!私バイトする!それで、キャンプ道具、買うよ!」

 

「「おぉ……」」

 

「なんかカリブーで欲しいギアでも見つけたのか?」

 

「うん!これなんだけど……」

 

写真に撮っていたらしく、それを、皆が見えるように差し出す。

そこに写っていたのはガスランプ。OD缶に接続し、ゆらゆら揺れる火を灯すギアだ。キャンプ以外でもインテリアとしても使えそうな商品。ただ、値段が高校生のお小遣いにしてはお高いものとなっている。

 

「へぇ〜、ガスランプか〜」

 

「結構可愛いギアやね」

 

「こりゃなでしこが欲しがりそうだ」

 

「でしょ!でも高いから、バイトしてお金貯めようかなって……」

 

「良いんじゃないか?こういうのもキャンプを楽しみにする要因になるしな。」

 

「せやなぁ。自分でためたお金で買ったギアでキャンプの楽しさはひとしおやと思うで」

 

なんだかんだ三人はバイトをしてギアを買ったり利用料金を出しているのだ。自分も自分で稼いだお金でやってみたいと思うのは必然かもしれない。

 

「で、帰りに身延饅頭食べに来るんだ!」

 

相変わらずの食欲の化身に、一同は苦笑いする。

意気込んだところでなでしこは次の饅頭を…と紙袋を探るも…

 

「あれ…?全部食べちゃった!」

 

やはり食欲魔人。

 

「ちょっと買ってくる〜!!!」

 

「バイト代が胃の中に消えるタイプやな」

 

「ヅラァ……」

 

全力ダッシュしに行くなでしこを、三人はまた苦笑いしながら見送る。

 

「ガスランプ いつになったら 買えるやら」

 

「一句やめえや……なぁ二人共」

 

「「???」」

 

「私も買うてくる〜!!!」

 

なでしこを追うようにあおいも走っていってしまった。

 

「ちょっ!お前ら!荷物!」

 

「……千明……」

 

「ま、まさかシマケン……!お前もか……!」

 

「いや、買いに行くなら行って来い。荷物見ててやるから」

 

「シマケン……恩に着る!!」

 

そして千明も行ってしまい。残されるはケン一人。

そういえばクリキャン……クリキャンか……。

 

「クリスマスと言えば……プレゼントだよな……」

 

もしリンや恵那が行くともなれば……

 

「え〜っと、リンになでしこにあおい、んで斉藤についでに千明……」

 

計5人。

千明の扱いがアレなのは今更だが。

 

「……バイト代、足りるかな……いいや……!」

 

パニアケースとか積載関係のパーツを買おうかと思っていたが、仕方ない。

ケースなどいつでも買える!

 

「高一のクリキャンは、今年しかないんやー!」

 

変に財布の紐がゆるい男、ケン。

だがしかし、ここに更にもうひとり追加されようなどとは、今この時彼は予想だにしなかった。




オマケ

「へぇ〜……この辺もぐるぐるマップで3Dが見れるようになったんだ」

テストを終えてまったりとした時間を取り戻したリンが、次なるキャンプ場探しの為にタブレットでぐるぐるマップを弄っていた。その最中、身延のマップが更新されていることに気付き、どうせならと周辺を見て回るシマリン。

「そう言えば……テスト前に帰るときにそれっぽい車が走ってるの、見たよな〜。こう……車の天井に丸っこいカメラ付いてるの」

「へぇ〜……じゃあもしかしたらマップにケンが写ってる可能性もあるわけね?」

「だったら凄いじゃん。メジャーデビューだよ?世界中の人に晒されてるんだよ?」

「おい言い方」

ニヤニヤとしながらスワイプし、丁度本栖高校の近くの道路に差し掛かった時だった。

「ぁ」

気の抜けたリンの声に、何事かとケンもタブレットを覗き込む。釣られて咲も気になったのか、同じく覗き込んできた。

「「ぁ」」

リンと同じく、ケンも咲も気の抜けた声が志摩家のリビングに木霊した。
三人の視線の先。
そこにはぐるぐるマップの写真。
そしてその写真に映し出されていたもの。
それは……



どこかで見た桃色の髪をした少女がカメラを構えてこちらを撮っている風景だった。







なでしこ、知らぬ間に世界デビュー

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。