リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
猛獣のカリブー襲撃事件から二日後
志摩家 リビング
もうすぐ22時を回ろうかと言う時間。
トイレのために自室から出てきたケンはリビングの明かりが灯ってることに気付いて中を覗く。
「リン、どうしたんだ?遅くまで起きて」
「あ、お兄ちゃん……」
見れば、タブレットを操作して地図を出しているところだった。表示範囲を見るに、また長野を攻めに行くらしい。
「明日のキャンプ場までのルート調べてるんだ」
「明日……?確かなでしこと南部町のキャンプにチャリで行くんじゃ……」
「それな、風邪引いたってことでなでしこは不参加」
「Oh……」
「で、なでしこが『私の屍を乗り越えていけ』って言うし、お見舞い行くのも大袈裟だから、ソロキャンプしようって思ったの」
「それで長野か。しかも上伊那とはまた……」
「距離的には高ボッチと同じくらいだし、何とかなると思う」
「……そうか、まぁ気を付けてな」
「うん……お?このルート、山越えだけど30キロも短縮できる……!」
「確かに短くなるな。……けど、最初のオススメに出て来ないの、なんか変じゃないか?」
「山越えルートだからじゃないの?」
「だといいけど」
「あとは……観光スポット……ふぁ……!」
「また明日早いんだろ?もう寝とけって。コップは洗っといてやるから」
「ん〜……ありがと……お兄ちゃん……おやすみ〜……」
「あぁ、おやすみ」
リンが部屋に戻るのを見送り、タブレットを充電スタンドに差し込むと、リンのコップを洗い、食器乾燥機に立てかける。
「しかし……あのなでしこが風邪ねぇ……明日は雪でも降るか?」
むしろ風の子という言葉が人の形をしたかのようなやつなのに。
ま、お見舞いメールだけでもしとくか、とケンも翌日のバイトに備えて早々と休むことにした。
翌日
「お疲れ様です!先上がります!」
「お疲れ志摩くん、また頼むよ!」
「はい!」
「あと、クリスマスの二日間、シフト調整出来そうだから!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「彼女さんとお泊りデートかい?若いねぇ!」
「いやいや、彼女なんていませんよ。ただ部活で泊まり掛けの活動なんですから……」
「わかったわかった。ま。しっかりアオハルしてきなよ!その代わり、年末頑張ってくれな!」
「わかりました!お先失礼します!」
担当シフトが終わり、バイト先のガソリンスタンドからバイクを走らせる。今日は15時までのシフトだったので、帰るにはまだ少し余裕がある。
どうしたものかと休憩がてら自販機でコーヒーを飲みながらスマホを起動すれば、なんかすごいメッセージが来てた。
どうやらなでしこは今日の朝には解熱し、元気になったらしい。今からならワンチャンキャンプ行けるんじゃね?と着替えようとしたら、案の定桜に止められ、一日安静となった。当然である。
で、一緒にキャンプへ行けなかった代わりに、リンのナビゲート役を買って出たわけだが、途中で見舞いに来た千明が乱入。ナビゲートがかなりカオスなことになった。
その後、千明がお見舞いの品に持ってきたほうとうを千明に調理させるという謎の展開を経て、各務原一家のほうとう初体験となったらしい。
「情報量多すぎだろ……」
まぁでも、元気そうでよかった。と一安心したところに、千明からメッセージが入る。
千明『シマケン、バイト終わった?』
ケン『なんで分かったんだ……はっ!千明!きさま!見ているなッ!』
千明『おう、既読が一つ増えたからな〜』
ケン『マジレスしてきやがった』
千明『それはそうと、今からなでしこん家来れるか?』
ケン『行けるけど……なんかあんの?』
千明『クリキャン作戦会議しようぜ』
ケン『男の俺が行ってもいいものなのか?』
千明『いいんじゃね?アタシだって、お前がウチに遊びに来てもいいと思ってるぞ?ただ、イヌコのとこはやめとけよ?』
ケン『なんで?』
千明『あいつの妹が結構マセててな、色々絡まれて苦労すると思うぞ』
ケン『忠告感謝する』
千明『なでしこには秘密にしとくからな』
ケン『なんでさ?』
千明『そのほうが面白いだろ?』
ケン『程々にしとけよ。じゃ、後で』
千明『気を付けるヅラ〜。ちなみに家はここな』
送られてきた地図情報を元に、なでしこの家の位置を確認し、ルート検索。
「9号10号を下って……んで南部橋を渡ってすぐか……」
そこそこ距離はあるが……
「まぁ何とかなるか……途中のコンビニでゼリーとか買っていってやるか」
空き缶をゴミ捨てに入れ、バイクを出発させる。家とは正反対の方向だが、まぁ家に帰っても時間を持て余すだけなので丁度いい。
ギアを2速にあげ、軽快にバイクは南部町へ向けて駆け出していった。
なでしこ『ソースカツ!』
千明『ローメン!』
なでしこ・千明『『ぐぬぬぬぬ!!』』
千明『なでしこのくせに生意気な!』
なでしこ『アキちゃんの分からず屋!』
千明『この胃袋おばけ!』
「こいつら、近くにいるのになんでメッセージアプリで口論してんだ?」
途中で寄ったコンビニで差し入れを買いに止まった際、アプリを見れば、なんともまぁまた混沌としたやり取りが行われていた。
どうやらリンの遅めのご飯に何を勧めるかで、千明となでしこがそれぞれローメンにするかソースカツにするかで揉めてるみたいだ。
まぁ喧嘩してるわけじゃなくて、ネタの枠を越えてないのだろうけど。
そうこうしてると、リンからの温泉とセットのミニソースカツ丼の写真が送られてきた。ミニとはいえ、サラダや味噌汁も付いているのでそこそこのボリュームがある。
「旨そうだな……」
ちょっと小腹が空いてきたケンは、差し入れついでにジューシー豚饅を購入し、小腹を満たしてから出発することにした。
外にバイクが止まる音が聞こえてきた。
どうやらケンが来たようだ。
なでしこが驚く顔が目に浮かぶぞと、内心ニヤニヤしている千明。勘繰られないようにあくまで内心だけ。
玄関の扉が開く音がした。どうやら入ってきたらしい。
よし!よしよし!世紀のドッキリ成功まで秒読み!
こりゃバラエティ番組プロデューサー目指せるんじゃねぇの?とワクワクしている。
コンコン
(キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)
「なでしこ〜、友達が来たわよ?」
「友達?誰だろ……どうぞ?」
ガチャ……と開いてそこに居たのは……
「通りすがりの仮面ラ○ダーだ!覚えておけ!」
フルフェイスヘルメットを被った、同級生の姿だった。
「ケン君が来てくれるなんて嬉しいなぁ……!でも家、よくわかったね?」
「千明が教えてくれたからな」
「え〜?アキちゃん、ケン君来ること知ってたの?」
「まあな。ちょっとしたドッキリだったんだけど、まさかシマケンがディ○イドのマネをしてくるとは思わなかったぜ」
「まぁ、元気そうで良かった。ほい、これ差し入れ」
「ありがと!ほぁぁ!ゼリーだ〜!」
「ほうとう喰えるならまぁ大丈夫そうだな。一日で治せるなんて、どんな身体してんだ?」
「えへへ……」
「よ〜し、じゃあシマケン来たところで野クルの緊急クリキャン会議を始めるぞぉ」
「押忍!あ、ケン君も座ってよ。ゆっくり寛いでいいから」
「ん、ありがと。」
「まずはメンバー。アタシら四人はほぼ確定だな。バイトのシフトの兼ね合いもあるけど……シマケンは?」
「今日チーフからクリスマスの希望休工面できるってお達しがあったよ」
「アタシもイヌコもよし!なでしこは……」
「はい!はい!!参加問題なしです部長!!」
「うむ、元気があってよろしい。恵那も参加OKの返事ももらった。あとは……」
「リンちゃんだね。ケン君、行けそうかなぁ?」
「声はかけてみたが、正直なんとも言えん。けど、前に比べたらかなり前向きな手応えだったぞ」
「ほんと!?」
「確定ではないけどな。後はアイツ次第か……。それと千明からも声掛けてやったらどうだ?」
「アタシか?別に構わんが……兄のお前のほうが適任じゃないのか?」
「部長のお前から直々ってのも大きいと思うけど?」
「わかった……後で尋ねてみっか」
そして桜と、なでしこの母である静花が持ってきてくれたお菓子を摘みながら、あれやこれやと話を勧めていく。何故か静花から微笑ましい視線を感じたのは気の所為だろう。
そこに
「お、イヌコからだ」
バイトを終えたあおいからのメッセージが飛んできた。
あおい『バイト終わったー』
なでしこ『お仕事お疲れ様〜』
あおい『ありがと〜、風邪もう大丈夫なん?』
なでしこ『もう治りました!』
あおい『良かった、強い子なでしこや』
なでしこ『そんで、今アキちゃんとケン君とでクリスマスキャンプの作戦会議してるんだ』
千明『風邪ひきなでしこにほうとう食らわせてやったぜ!』
あおい『なんやアキ料理できたん?』
ケン『俺はバイト上がりでついたばっかりで何も食らわせてねぇ。なでしこ、何食らいたい?』
なでしこ『ジューシー豚饅!』
あおい『寒いから私も豚饅買うて帰ろ。なでしこちゃんの分も味わうとくわ』
なでしこ『ひぃん!!』
あおい『せや!今度のキャンプ、ええもん持って行けるかもしれへんで!』
千明『ダニィ!?新しいキャンプ道具でも買ったのか!?』
あおい『ん〜、道具やないんやけどな。まぁ登校日までのお楽しみやで』
ある程度話がまとまったところでリンからのメッセージが入る。
リン『通行止めなうⅡ』
ビーノのライトが照らす先には、無慈悲に通行止めの立て札が。
「Oh……」
「まじか。てかⅡ?」
「えっと、夜叉神峠ってとこを通ろうとしたら、途中からマイカー規制で通れなかったんだって」
「夜叉神峠……?まさか昨日30キロショートカット出来るって喜んでた道かよ」
「こんなに真っ暗なのに大丈夫かな!?」
「たしかにこれはヤバいな……」
「リンちゃんが遭難しちゃったらどうしよう!?」
「落ち着けなでしこ……ん?これって……」
「迂回路を探してみたけど……29キロあるぞ……よし!」
ヘルメットを手に意を決して立ち上がるケン。
「ど、どうしたのケン君!」
「大至急救援に向かう!」
「お前もちょっと落ち着けやシスコン。それに多分これ……」
一方
「迂回路経由したら3時間……思い切り9時過ぎるぞ……!」
どうしたものかと道端に座り込んでいたリン。何か打開策はないかとスマホであれこれ検索していると、画面が通話に切り替わった。相手を見れば、ちょっと苦手な印象を持つ大垣の表示。ここで出ないわけにもいかず、意を決して通話に応じる。
「もしもし?」
『あぁ!シマリン?繋がってよかった〜!そこの通行止めだけど、そのまま通れると思うぞ?』
「えっ?」
千明曰く、置きっぱなしになっているだけだという。ただ、万一のことがあるので、ゆっくりと歩いて抜けるように助言。
疑わしげにビーノを押して歩いていく。
だが千明の言葉を信じる以外にベターな選択肢がなかったリンは、寒空の中ビーノを押し進んでいく。
「ほ、ほんとに抜けれた……!何もなくてよかった〜……!」
千明の言うとおり何もなく、右折すればキャンプのT字路まで抜けることができた。
一気に緊張がほぐれ、がっくりとビーノにもたれるリン。
目的地は目と鼻の先まで来ていた。
千明が通話を終え、なでしこの部屋で机の上に置いたスマホを、皆が穴が開くかのようにガン見してリンの先行きを見守る。一分一秒がとても長く感じるが、スマホの時計はしっかりと通常の流れを刻んでいるのがもどかしくもある。
千明が通話を終えて数分後……
リン『なんとかキャンプ場着いた。ありがと助かった』
なでしこ『よかったー心配したよー!』
千明『なー?言ったとおりだろ?アタシすげぇ!』
ケン『千明閣下!この御恩は忘れません!……10分くらい』
千明『短ぇよ!もっと恩を感じて、アタシを崇め称えろ!ハーゲ○ダッツ奢れ!』
と、各々がメッセージを終えたところで、ため息とともに肩の力が抜けて体を反らせる。
「ホント、助かったよ千明」
「にひひ……まぁ経験が活きたってことだな」
「経験……?前にもあったの?」
「いや、家族で出掛けたときにおんなじことがあったんだけど、地元の人が教えてくれたんだよ。特に通行止め理由もなくて、道のど真ん中に置いてなかったしな」
「やりますねぇ」
「まぁ、シマリンの助けになれたなら、悪くない経験だったってことだな」
と、千明の体験談を話していると、リンからの写真が送られてくる。
リン『山の上なう』
「ほぁぁ!絶景だぁ……!」
「150キロ走った甲斐はあったみたいだな」
「お、次は晩飯だって」
「へぇ……豚饅をホットサンドメーカーでプレスしたのか」
「おいしそ〜!これってイーストウッドの朝ごはんで使ったやつ?」
「そだよ、しかし豚饅をプレスとは……悪くないな。他の点心もプレスしたら旨そうだな」
「ピザまんとか良さそうだね!本物のピザみたいになりそう!」
「今度試しに作るか!」
「……よし、いっちょ勝負するか!なでしこ、携帯貸してくれ」
「いいけど……」
リンはサンド豚まんを食べながら今回の旅について物思いに耽る。
通行止めで引き返すハメになるわ、温泉で寝過ごすわ、さらにはまた通行止めに引っかかるわ…。てんやわんやでほとんど観光スポットとか回りきれずにいた。
(私ってホント、旅ベタだなぁ……)
ちょっとブルーになっていると、スマホが通話を着信する。表示にはなでしこの名前。
「もしもし?」
『リンちゃん!夜景の写真あ〜りがと〜!』
「大垣だな?」
『むっふふ〜!よくわかったなシマリン〜、我が擬態を見破るとは……!』
「ねぇ?さっきの通行止め、なんで通れるって知ってたの?」
『それな……』
リンにも改めて自身の経験談から通れると判断したことを説明する千明。
自分では焦ってばかりだったのに、冷静に助言してくれた彼女に感嘆の意を覚えた。
「なるほど……とにかくありがとう……助かったよ」
『いいってことよ』
確かにノリは苦手なやつだ。だがこのやり取りだけで、千明が義理人情に厚いやつなんだという印象がリンの中に生まれてきた。雰囲気だけで苦手意識を持っていたが、接していくうちに友達を大切にできるやつなんだと分かってきた気がする。
『あ……あのさ……』
「何?」
『シマケンからも聞いてると思うが……今度野クルでクリスマスキャンプするんだけど……シマリンも来ないか?たまにはグルキャンも楽しいと思うぞ?』
「大垣……!」
『シマリン……!』
「それとこれとは話が別だから遠慮しとく」
『ガクッ!ちょっ!シマリン!今の流れって受け入れる系の流れじゃね!?そこはもうちょっと悩むとか、考えとくとかそういう……』
ピッ
「ふぅ……」
だが断った手前、未だ燻る思いもあるのも確か。
確かにソロキャンは好きだ。
静かにこうして過ごすことが寂しくも楽しい。
だが千明の言う通り、グルキャンにもすこし惹かれるものもある。
食わず嫌いというのもあるかもしれないが…
リンにとってあとひと押しが、グルキャンへの一歩を踏み出せずにいた。
「……ぉ、斉藤からだ」
今、恵那がリンにグルキャンへのとどめを刺しに来た。
「「お邪魔しました!」」
「うん!二人共ありがとう!またね!」
「ぶり返すなよ〜」
「えへへ、わかってるよぅ」
「あ、千明ちゃん、ケン君、ちょっとまって!」
「ほうとうが餃子に化けた」
「俺もゼリーが餃子」
「なでしこ錬金術だな」
「今度家で担々餃子鍋でも作るか」
「いいねぇ、アタシもレシピ教えてもらおっ」
南部橋を二人並んで歩く。
内橋駅まで千明を送ることにしたケンは、バイクを押しながらゆっくりと進んでいく。
「……クリキャンは、アタシとイヌコ、シマケンとなでしこ、斉藤の5人か……」
「賑やかにはなりそうだな」
「だな。でもアタシとしては、シマリンともちょっと、してみたかったんだけどな、キャンプ」
「千明……やっぱお前良いやつだよな」
「な、なんだよ急に!アタシが良いやつなのは知ってるだろ?」
「知ってるよ。ここ一ヶ月で特に」
「……ま、お前が野クルに入ってくれて、もっと盛り上がってきたからな。アタシとしても、シマケンが良いやつってのはよくわかってるつもりだぜ?これからもよろしくな?シマケン」
「おう」
どちらからともなくグローブと、素手の甲がコツンとかち合わせる。
と、アオハルしていたら、千明のスマホにメッセージが。
誰からだろう?と立ち止まって確認すれば、千明は『素直じゃねーな』と苦笑いする。
なんのことかわからずにいたケンに、千明はスマホを見せる。
リン『やっぱりキャンプの件、考えとく』
『行く』とは言わないあたり、千明の言うように本当に素直じゃないと、ケンも苦笑いを浮かべる。
「なでしこにも伝えてやっか」
「そうだな……ふぇっ……!」
「「ふぇっくしゅ!!」」
今年のクリスマスは、きっと忘れられない思い出になる。
そんな思いを馳せながら、二人は家路を急いだ。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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