リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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甘酸っぱい……甘酸っぱくない?

こういうラブコメの書き方って難しい。
恋に悩むなでしこを可愛く書けていたなら嬉しく思います。


第十六話『両想いの片想い』

「へっくし!!!へっくし!!」

 

各務原家訪問から翌日

ケンは床に伏せていた。

頭に重くのしかかるような痛み。

身体を駆け巡る悪寒。

喉の痛み。

痰の絡んだ咳。

そして高熱。

 

「物の見事に風邪ねぇ。ケンが風邪引いたの初めてよ?」

 

「じゃ……今日は記念日ってことで……祝日にしよう……」

 

「馬鹿なこと言ってないで、しっかり身体休めなさい。いいわね?」

 

「わかりました……」

 

おでこに冷えピタを貼り、天井を見つめるだけの時間が過ぎる。

あまりにも暇だ。

本来なら今頃バイトに勤しんでいる筈なのに、この体たらくでは仕事にならないだろう。電話で欠勤を伝えたら、

 

『しっかり休んで、またよろしく頼むよ!大事にな!』

 

と温かい言葉を頂いた。辛いときってこういう言葉が染み渡り、嬉しさがこみ上げてくる。

ラインのメッセージでは千明も風邪を引いたらしい。自分も風邪を引いたということは、まさかなでしこからもらったのだろうか?まぁ一応自身もダウンしていることをメッセージで送っておく。

リンから『は?ケンが風邪!?明日はメテオ!?』とめっちゃ失礼なお言葉を頂いたが。

……それにしても今まで風邪をこじらせたことがないだけに、この辛さは未経験のものだ。

 

「うぁ……喉痛ぇ……!」

 

咲が置いてくれたアクエリも、喉を通ればひりつく痛みが走り、少し泣きたくなる。食欲もないし、ただただ寝ておくしかできない。

 

「風邪って……結構キツイなぁ……」

 

ただ、水分を摂ったからか、ほんの少しだけ楽になった。

寝よう。

ひたすらに寝て、早く回復させよう。

辛い身体を我慢して目を閉じれば、本能が睡眠を求めていたのか、程なくして意識は微睡みに沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさにぐっすり、という表現が正しいくらいによく寝たあとの、さっぱりとした目覚めを感じて、ケンはゆっくり目を開けた。

焦点がいまだ合わない中、視界にはピンクの何かが見えた。

おかしい。自身の部屋にピンクの物は置いてない。

またゆっくりと目を開けていく。

 

「あ、ケン君、起きた!」

 

聞き慣れた声だった。

ハツラツとして犬みたいで、そして太陽のような……

 

「なでしこ……?」

 

「うん!ケン君、具合はどう?大丈夫?」

 

「ん……少し、楽には……って、何でなでしこが俺の部屋に!?」

 

「え?お見舞いだよ?」

 

「お見舞い?」

 

「ケン君、アキちゃんも風邪引いたーって言ってたから、私移しちゃったのかなって気になったんだ」

 

「……そう、か。ありがとうな、なでしこ。別に気に病むことない。たまたまなんだからさ」

 

「うん……それでね!私は昨日の恩返しに、今日はケン君の看病します!!」

 

むん、と意気込むなでしこだが、昨日は特に恩ということはしていない。どちらかといえば千明の方が良くやってくれたはずなのだが。

 

「アキちゃんのほうはあおいちゃんが行くって。だから私はケン君の方に来たんだ〜」

 

「いや、看病って……、母さんは?」

 

「おばさんから『買い物行ってくるから、よろしくね。冷蔵庫のものは好きに使っていいから』って任命してもらったから、とことんやっていくよ〜」

 

「母さん……」

 

それでいいのか志摩家の母よ。

 

「そだ!ケン君お腹空かない?なにか作ろっか?」

 

「あ、いや、それほど食欲は……」

 

グゥゥゥ……

 

「身体は正直ですなぁ〜。任せて!私がお粥を作ってくるから!」

 

「え……?あっはい……」

 

火が着いた猛獣は止まらない。ドタドタと部屋から出ていったなでしこ。なんか嬉しいんだけど、申し訳ない感じがして……

 

「……斉藤からラインが来てた」

 

恵那『貴様の家に、静岡由来の猛獣を一匹解き放った……!

療養は……お開きだ!』

 

そんなネタに富んだメッセージの後に、

 

恵那『しっかり治して皆でクリキャン行くんだぞ〜』

 

と、ありがたいお言葉も追加されていた。

 

ケン『ありがとうな、斉藤。おかげで寝てらんなくなったぜコンチクショー』

 

時刻を見ればお昼過ぎ。数時間寝ていたらしく、妙に目元がパッチリする。

念の為熱を測れば、37.8℃と、午前の8℃台に比べれば少し解熱している。やはり休んだことが大きく響いているのだろう。この調子なら明日辺りには治りそうな気がする。

ただ……

同級生の女子と家で二人きりっていうのも、なんだか落ち着かない感じだ。妙に緊張する、というか、こっ恥ずかしいというか……。

でも、こうして心配して来てくれるというのは嬉しいものだ。

12月半ば。

クリキャンまで後10日の寒くも暖かな冬日和は、こうして幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせ!お粥出来たよ〜」

 

お盆に土鍋を載せてなでしこが戻ってきた。

付けているエプロンは持参した私物なのか、妙に似合っている。

髪型も、学校でよく見るツーテールではなく、料理のしやすいポニーテールに纏めていて斬新だ。

 

「ありがとう、なでしこ」

 

「さぁさ、た〜んとお上がり」

 

「また田舎のおばあちゃんか」

 

このキャラ好きだな、ほんと。

茶碗によそわれた真っ白なお粥の上に、佃煮のりがちょこんと乗せられ、シンプルながら、病に伏した身にとってはありがたいものだ。

 

「いただきます……」

 

蓮華で佃煮のりを少し崩し、お粥と共に掬いあげる。ホカホカとした湯気と、少し漂うお米本来の甘い香り。ふぅふぅと少し冷まして口に運ぶ。佃煮のりの優しい甘辛さと、お米の甘味、ほんの少しだけ入れられた塩のしょっぱさが丁度いい。

 

「うまい……」

 

いつものように泣くことはなかった。だがそれでも十分過ぎるほどにウマい。昨晩からアクエリ以外に何も口にしていなかったので、空きっ腹だった。そこにじんわりと染み渡る優しいお粥だ。

 

「よかった。いっぱいあるから、ゆっくり食べてねケン君」

 

「ありがとう、なでしこ」

 

不思議と湧いてくる食欲に自身でも驚きながら、土鍋いっぱいに作られたお粥はあっという間に平らげられてしまった。

 

「ごちそうさま、スゴく美味しかった」

 

「お粗末様。じゃ、ちょっと洗ってくるからね」

 

再び部屋を出ていくなでしこを見送り、満腹になったことでまた睡魔が襲ってくる。

 

「なんか……幸せだな……」

 

その幸せの根源は何なのかがはっきりしないまま、ケンは再び意識を手放した。

 

 

 

 

「ただいまケン君……って、寝ちゃってる」

 

すやすやと規則的な寝息を立てている。

 

「やっぱり双子だなぁ、リンちゃんの寝顔そっくりだ」

 

麓キャンプ場のときも、四尾連湖キャンプ場の時も。双方わけあって同じテントで寝るときがあり、その際に見た寝顔と本当にそっくり。

 

「えへへ……なんかかわいいなぁ……」

 

何となく悪戯心が芽生えたなでしこは、ケンの頬をツンツンと突いてみる。程よい柔らかさの頬は、ちょっと病みつきになってしまいそうだ。

 

「でも可愛いけど……かっこいいんだ、ケン君……」

 

ケンの布団の縁に伏せ、じっと寝顔を見つめる。

そっくりだけど、違う。どこか違う。

 

「麓キャンプ場で抱き抱えられてから……私、変になっちゃったんだよ……?あの時から……ケン君の事が頭から離れないんだ……」

 

それはなんなのか自覚している。

今まで感じたことのない暖かさ、ドキドキ、そしてほんの少しだけ苦しい感情。

これがきっと、初めての……

 

「でも……このキモチを伝えようとしたら……きっと今のカンケイも変わっちゃう。それがなんだか怖いな……」

 

友達として、野クルのメンバーとして、キャンプへ行き、買い物へ行き、ともに過ごしてきた。その時間が楽しくて、でも少し切なくて。それが壊れちゃうのが怖くて、どうしても臆病になってしまう……。

 

「ケン君……寝ちゃってるから……言うんだよ?私の……気持ち」

 

彼は聞こえていない。でも彼に言っていることは変わらない。返事はなくとも、こうして気持ちを吐露する。そうしたかったから。

 

「大好き……」

 

その言葉は、切なくも恥ずかしい。でも伝えたい言葉。小さく自分に聞こえる程度に吐き出し、そして静かな寝息の喧騒に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

ふと程よい重みで目が覚めた。

よもやこんな短時間で二度寝をするとは思ってなかったケンはゆっくりと身体を起こす。

 

「なでしこ……寝ちゃったのか」

 

ベッドの縁にもたれ掛かるように静かな寝息を立てている。慣れない家で緊張でもしていたのだろうか?

すやすやと寝ている彼女に苦笑いしながら、体を冷やさないように傍らのブランケットを羽織らせる。

 

「ホントに……無防備なんだよ……」

 

距離感が異様に近くて、まるで女友達に接するみたいに触れられて、どれだけドキドキしたと思っているのだろうか。

恋愛経験もなく、近しい女子はリンと恵那くらいだった。それがなでしこが引っ越してきてから、あおいや千明とも接するようになった。彼女達はそれなりに異性としての距離感を持ってくれていた。

だがなでしこは、いつも笑顔で、ちょっと強引だけど引っ張ってくれて、彼女と過ごす時間の楽しさを教えてくれた。

その距離感に少し恥ずかしくも感じることはあっても、不思議と嫌な感覚はなかった。

きっとこれは彼女に…なでしこに恋をしているということだろう。もしかしたら、もっと前から彼女に惹かれていたのかもしれない。

この気持ちを、伝えたい。

だが踏ん切りがつかない。

きっと振られれば、この心地よい関係も終わってしまう。

それが怖いのだ。

もどかしい……でも……。

そんな思いが堂々巡りし、踏み出せないでいることが情けない。

 

「言いたくても言えない……ヘタレだなぁ……俺」

 

そっとなでしこの髪を一撫でする。柔らかな髪が、掌に心地よく伝わってくる。

未だ覚めぬ彼女に、振られることになろうともいつかこう伝えたい。

 

「大好きだよ……なでしこ……」

 

と。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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