リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第十七話『志摩家での猛獣』

時間は夕暮れ時

西日が部屋に差し込む頃にリンは家に着くことが出来た。家の陰にビーノを停め、スタンドで立たせると、バッグに入れた買い物袋を手に家に入る。

 

「ただいま〜」

 

返事がない。ケンはおそらく寝ているとして、渉は仕事で咲は買い物だろうか?

 

「ん?」

 

玄関でブーツを脱いでいると、女物のブーツが脱いで置いてある。

 

「…………?」

 

こんなブーツ持ってないぞ?と変に思いながら階段を上がり、自身の部屋の隣に備えられた兄の部屋へ辿り着く。

コンコン、とノックすれば、『どうぞ』と帰ってきたのを確認し、ドアを開ける。

 

「お兄ちゃん、差し入れ買ってきた……よ……?」

 

「あ!お帰り、リンちゃん!」

 

「お帰り、リン」

 

「ぴょっ!?なななななでしこ!?」

 

視線の先には、ベッドに座る兄と、勉強椅子に座って談笑するなでしこの姿。

よもや友人が兄の部屋にいるとは思わず、思わず桃白白みたいな声を出してしまったリンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、じゃあまたなでしこの恩返しか」

 

「えへへぃ……そうなるのかな?」

 

机で向かい合って座ることにしたなでしことリン。机にはなでしこへのお土産に買ってきたミニタルトを広げて食べながらお茶にしていた。ケンも一つだけということで頂いている。

そして申し訳程度に机の真ん中には、わんこ寺のおみくじ人形がちょこんと鎮座。

 

「ま、ありがとうなでしこ。ケンのこと、看てくれてて」

 

「こういうときはお互い様だよぅ。可愛い寝顔も見れたしねぃ」

 

「可愛いってなんだ可愛いって!」

 

「え〜?だってリンちゃんそっくりの寝顔だったんだも〜ん!」

 

「双子だから当たり前だ!」

 

「そうだ!リンちゃんと一緒に寝たら、リンちゃんの寝顔とケン君の寝顔、同時に見れるってことだ!一粒で二度美味しい!竹輪炭!」

 

「なんで竹輪炭!?」

 

「それ、四尾連湖で私が言ったやつじゃん」

 

なでしこがいるだけで、こんなにも明るく賑やかになる。リンもいつも以上に表情豊かで楽しそうで何よりだと、兄としては嬉しく思っていた。

そしてここで、なでしこが爆弾を投下する。

 

「ねぇリンちゃん」

 

「なんだよ?」

 

「さっき部屋に入ってくるとき、ケン君のこと『お兄ちゃん』て呼んでたでしょ?」

 

「キ、キノセイジャナイカナ~」

 

「わかりやすいなぁ……もしかして、家ではそう呼んでるのかなぁって思っただけなんだよ?」

 

「そりゃ……まぁ……だってなんか外でお兄ちゃんて呼んだら子供っぽい気が……」

 

「そんなことないよ?私だってお姉ちゃんて呼んでるし」

 

「ぐぬぬ……」

 

「リンよ……」

 

「な、なんだよ」

 

「素直になって、いいんだぜぇ?」

 

「『ワイルドだろぉ?』みたいな言い方ヤメロ」

 

「でもさ、兄妹お互い大切に思うのって、きっと大事だと思うよ?ケン君だって、昨日の夕方にリンちゃんが立ち往生した時に『大至急救援に!』って飛び出しそうだったもん」

 

「ちょっとなでしこさん?」

 

「やっぱり兄妹だ。素直じゃないねぃ」

 

「「ぐぬぬ……」」

 

なんだか今日はなでしこに勝てそうにない。いつもは逆なのに。

でもこんな空気がたまらなく愛おしいと、ずっと続けばいいと、

そんな青春の一幕。

 

 

 

 

 

 

「なでしこちゃん、今日はもう外暗いし、夕飯食べていきなさい」

 

「いいんですか?ありがとうございます!」

 

咲が帰宅した時間は17時を過ぎていた。既に外は暗く、年頃の少女を一人帰らせるのも忍びない。もうすぐ渉も帰宅するので、食後に彼の車で送るということになった。

 

「おばさん、お手伝いします!」

 

「あらあら、お客様なのにありがとうね」

 

「いえ!ごちそうになるので!」

 

和気あいあいと台所で料理を作る二人を、志摩家の兄妹はこたつに入りながら見ていた。手伝おうと申し出ても、ケンは病み上がり、リンは長距離の運転で疲れているからと断られ、こうして寛いでいることしか出来ないでいる。

 

「ホント、コミュ力おばけだな、なでしこ」

 

「うむ、これは嫁姑問題は大丈夫そうだ、よかったな、お兄ちゃん?」

 

「ぴょっ!?」

 

「……気付いていないとでも思った?」

 

「……そんなにわかりやすかったか?」

 

「割と」

 

まじか、と頭を抱えるケン。

変に意識してることが悟られないようにしていたが、それが逆効果だったのだろうか?

 

「なでしこちゃん、手際いいわね!」

 

「ありがとうございます!家でも結構作ってることが多いので……」

 

「これはお嫁さんに欲しいくらいよ?ねぇ?ケン?」

 

「コッチニフラナイデクレルカナ」

 

「顔真っ赤だぞ、わかり易すぎだ」

 

「あ、はは……」

 

なでしこもなでしこで顔を赤く染めて視線をそらしている。

しかしこの母、外堀を埋めてくる気満々である。

 

「ただいま。誰か来てるのかい?」

 

そんな甘酸っぱい空気を破るように帰ってきたのは、一家の大黒柱だ。

 

「あら、お帰りなさい。今、ケンとリンの友達が来てるの」

 

「各務原なでしこです!はじめまして!」

 

「はじめまして、二人の父である志摩渉です。よろしくね」

 

「はいっ!よろしくおねがいします!」

 

「もうすぐ夕飯出来るから、アナタもゆっくりしていて」

 

「ありがとう、そうさせてもらうよ」

 

コートを脱ぎ、兄妹二人が入るこたつに入り込む渉。やはり外は寒いのか、少し表情が蕩けている。

 

「風邪はもう大丈夫なのかい?ケン」

 

「うん、もう熱もないし、食欲もいい感じにお腹空いてきてる」

 

「よかった、風邪引いたことないケンが風邪引いたんだ。ちょっと心配したよ」

 

「ありがとう、父さん。今日は一日ゆっくり休めたから、お陰で回復も早かったんだと思う」

 

「可愛い彼女さんが居たからというのもあるのかな?」

 

「ナニイテンダアンタ」

 

「え?違うのかい?」

 

「違うよ、お父さん。今はまだ、ね?」

 

「ナニイテンダオマエモ」

 

「そうか、ケンも青春してるんだね」

 

もうやだこの父母。父は天然に、母は強かにと外堀を埋めてくるんだ。

 

「出来たわよ!さ、早く食べましょ?」

 

「行こうか、お兄ちゃん」

 

「どんな顔して食べればいいんだ……?」

 

テーブルの真ん中に置かれるのは、カセットコンロに土鍋。蓋を開ければ、今日は昨日もらった餃子を使った、なでしこ、リン、ケンの思い出の料理である担々餃子鍋だ。流石に5人で餃子が少し足りないだろうということで、お肉や野菜も少し多めに用意してある。

 

「これは温まりそうだね」

 

「なでしこちゃんから胡麻ダレを少し入れたら味がまろやかになるって言われて入れてみたの。辛いの苦手な人でも安心ね」

 

「流石なでしこだな」

 

「えへへぇ……」

 

「じゃ、いただきましょうか?」

 

「「「いただきます」」」

 

それぞれがお椀に鍋の中身をよそい、口にする。

なるほど確かに、麓キャンプ場の時は唐辛子の風味が感じられて、しっかり温まれたが、これは胡麻ダレの風味がその唐辛子をマイルドにして辛味を抑えている。

 

「これは美味しいね、身体が温まるよ」

 

「ホント、冬にぴったりね」

 

「うむ、相変わらずウマい……!」

 

各々が絶賛する中、ケンは微動だにせず、食べずにぼーっとしているだけ。

志摩家の中でも食欲は旺盛な方なのに……

 

「どうしたんだい?まだ……しんどいのか?」

 

「ケン君、大丈夫?食べられそう?」

 

「……えっ?あぁ……!大丈夫!ちょっと……ぼーっとしてただけだから。……うん、あの時と少し味が変わってるけど、これもうまいな」

 

それでも病み上がりなのか、いつものように号泣はしない所を見るに、本調子ではないのか。それでも食欲があるのはまだ良い方か。

 

「まぁまた風邪を引かないように、バイクに乗るときは、ジャケットだけじゃなくて他に寒さ対策しないと駄目よ?原付より速く走る分、寒さも違うんだから」

 

「それはまぁ……そうだけど」

 

「マフラーとかどう?ジャケットとヘルメットの間、寒そうに見えるけど」

 

「そうなったら吹き流しにならないよう、ジャケットの中に入れといたほうがいいよ」

 

「わかった……また見とくよ」

 

(マフラー……マフラーかぁ……)

 

暖かな餃子鍋を5人でつつくとあっという間に無くなり、シメはなでしこの本来のオススメであるご飯と卵で綴じた担々おじやとなり、皆が満腹となる大成功の一品となった。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、送ってくるよ」

 

「うん、お願い」

 

夕飯が終わり、一服したあと、渉が出すフォレスターになでしこを乗せ、家へ送ることになった。

助手席に座ったなでしこは窓を開けて、見送る三人に挨拶を交わす。

 

「じゃあリンちゃん、ケン君、またね!おやすみ!」

 

「うん、なでしこもお休み」

 

「なでしこ、今日は本当にありがとうな」

 

「いいよぅ、困ったときはお互い様だもん!」

 

「……そっか」

 

「おばさんも、今日はありがとうございました!」

 

「また来てね、なでしこちゃん!いつでも歓迎するわ」

 

「はい!またお邪魔します!」

 

一通り挨拶を済ませた所で、渉はフォレスターを発進させる。

赤いテールランプと共に、見えなくなるまで窓から手を振り続けるなでしこに、手を振り返す。見えなくなったところで、ケンは一息ついた。

 

「帰っちゃったね」

 

「そうだな」

 

「お兄ちゃん、寂しそうだな」

 

「……まぁ正直に言うと」

 

「もうちょっとしたら登校日だし、その時にまた会えるよ」

 

「わかってるよ」

 

「こういう時、ケンがタンデムして送っていくのが筋だけど、道路交通法がねぇ……」

 

ボヤキながら中に入る咲。それを追うようにして中に入ろうとするケンを、リンは呼び止めた。

 

「……お兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「クリキャン……勝負かけてみたら?」

 

「勝負……?」

 

「なでしこに」

 

「……それは……」

 

「こわいの?」

 

「正直……な」

 

振られて、今の居心地いい関係が崩れるのが。

その影響は、もしかすれば野クル全体にも関わるやもしれない。

二人だけじゃない。千明やあおいにも影響するかもしれないのだ。

 

「お兄ちゃん」

 

「…………」

 

「こんな諺あるよ」

 

「なんだ?」

 

「逃げれば一つ、進めば二つ手に入るって」

 

「それ、アニメのセリフだろ」

 

「……そうだっけ?」

 

だが確かに的を射ている。

逃げれば今の関係を続ける生活を手に入れられる。

進めばなでしことの新しい関係が手に入るかもしれないし、きっとそれによって新しい世界も見えてくるだろう。

 

「ま、悪くはない言葉だな」

 

クリキャンまで後10日。まだ時間はある。

 

「よし!男志摩ケン、一世一代の華を、一丁咲かせて見せようじゃあねぇか!」

 

「江戸っ子か!」

 

「ふたりとも!体が冷える前に中に入りなさい!」

 

「「は〜い」」

 

クリスマス……聖夜となるか否かは神のみぞ知る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方

各務原家

家に着くやいなや、なでしこはドタドタと静花の元へ駆けていく。

 

「ただいま!お母さん!」

 

「あらなでしこ、お帰り」

 

「編み針と毛糸、ある!?」

 

「あるのはあるけど……編み物でもするの?」

 

「うん!」

 

「わかったわ。ちょっと待っててね」

 

静花が自室に仕舞っているであろう編み物セットを取りにリビングから出ていく。一連のやり取りをソファから見ていた桜は何かを察したようだ。

 

「なでしこ」

 

「……?」

 

「頑張んなさい、編み物も、気持ちの勝負も」

 

「お姉ちゃん……うん!!」

 

全ては、クリスマスキャンプで決まる。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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