リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
登校日 放課後 野クルの溜まり場
「お肉……あたってもうた!!」
あおいがカバンから取り出して見せるのは、懸賞のチラシ。一等にはA5ランク黒毛和牛肩ロース。その量なんと2キロ!
「ダニィ!?当てただと!?これを!?マヂで!?」
「ふぉぉ!!いいお肉だぁ!!もしかして、この前言ってたいいものって……!」
「せやで〜、これ使て、クリキャンのご飯にしようやないか〜」
あおいの太っ腹な提案に、千明となでしこのテンションは爆上がりである。
「「やったー!!お肉!!オニク!!ONIKU!!」」
「一人4000円ずつな〜」
「「!!!」」
「せ、1500円じゃないの……?」
「ぐぬ……!バイト代が……!」
「ウソやで〜」
なにはともあれ、キャンプご飯がとんでもなく豪華なものへと変貌したのは確かで、
「お疲れ〜」
「お邪魔しま〜す」
「「「お疲れ〜&いらっしゃ〜い」」」
ケンと恵那が遅れて来た時には、あおいにこれでもかと胡麻をする部長と鉄砲玉がいた。
「さて」
場所を移して校庭へ。
いつもの校庭の隅に固まった5人。
「斉藤が我が探検隊に体験入隊するということだが、ウチは甘くないぞ!返事のはじめと後には『サー』をつけろ!わかったな!ヒヨッコ!」
「サー、イエッサー!」
やはり斉藤はこの野クルに入るべき逸材だ。面構えが違う。
「では早速、クリキャンの作戦会議を始める!日取りは今月二十四日と二十五日。場所は富士山周辺ということだけ決まってるが……」
「前にアキが甲府で下見したとこはどないなん?」
「あ〜……あのスキレットのじいさんのいたとこな、あそこは冬季休業してるらしい。結構そういうとこ多いみたいなんだよな〜」
「隊長!!おやつはいくらまで「好きなだけ持ってきてよぉぉぉし!!」
「キャンプ場か……」
「ケン君、心当たりある?」
「そうだな〜……」
そういえば身内にとんでもなく引き出しが多い人物に心当たりがあった。
ややもすれば『彼』なら……
「ちょっとキャンプ場の情報通の人に心当たりがある。ちょっと聞いてみるよ」
「よろしく頼むぞ、通信兵長」
「誰が通信兵長だ」
「ケン君!富士山見えるとこね!」
「できれば芝生のとこがええな〜」
「近くに温泉があるといいな〜」
「条件多いな!?……まぁあたってはみるけどさ」
少し離れてスマホを操作するケンを横目に、作戦会議は続く。
「キャンプ場探しはシマケン通信兵長に一任するとして……参謀長官イヌコ君、持っていくものの説明をよろしく」
「いつまでこのネタ引っ張るんや……?ん〜、まぁ前回のキャンプとおんなじやと思うけどな〜」
「クックックッ……同じ……?イヌコ参謀副長官……それは違うな……!」
「なんか降格させられたんやけど……」
「実は良いものを手に入れたのだよ諸君!」
自信満々にカバンから取り出したもの、それは……
「じゃ~ん!焚き火台だ!!」
「「「おぉ〜!!」」」
「ナマゾン年末セールで4500円で買っちった!」
「結構奮発したやん!」
「バイト代が入って、焚き火台とステンレスの製火床とゴトクがセットになった3万円のやつにしようと思ったんだが……ポチろうとした瞬間に鼻血が出ちまってな……」
「高すぎて身体が拒絶反応出したんやな……」
「んで、これにしたってわけ」
「いや、必要十分やで」
千明の鼻血騒動の話が終わったところで、ケンがスマホ操作を終えて戻ってきた。
「おぉ!シマケン、どうだった?」
「メールを送るには送った。まぁ、年中結構な割合、バイクで走ってる人だからな。ちょっと返事に時間がかかる」
「そんなに走っとるん?」
「まぁ娘である母さんが『ちょっと落ち着いて欲しい』って愚痴るくらいだからな」
「情報通の人って、ケンのおじいさんなの?」
「あぁ。俺のバイク愛の原点って言っても過言じゃない人でな。ツーリングしながら、日本中のキャンプ場を回ってるんだ」
「へぇ……そんなすげぇキャンパーさんなんて、一度会ってみてぇな〜」
「機会が合えばな」
千明は知らない……彼の祖父には既に一度出会っていることを……。
「そういえば斉藤さん、ホントに泊まりで良かったの?寝袋とか持ってないんじゃ……」
「それね、泊まりのほうが楽しそうだから、注文しちゃったんだ。私、寒いの苦手だからこれにしたんだけど……」
恵那が見せるナマゾンの注文画面。そこに表示されていたのは……
「¥45000!?」
「「「高っ!?!?」」」
「アウトドアはいい経験になるから〜ってお父さんが協力してくれたんだ〜」
「いいなぁ〜」
「ぐ……!桁が……!桁が一つ違うぅ……!」
「アキ!!鼻血!!」
「ぬぁっ!?」
少し冷えてきたので、小枝を集めて早速焚き火台で焚き火と相成った。せっかくならコーヒーを飲もうということで、もはや使い慣れた煤がこびり付いている野クルポットを乗せてお湯を沸かす。
「まぁあとの持ち物は……私らはまぁ前回持ち寄った物でええし……斉藤さんは寝袋と着替え持ってきてくれたらええと思うよ」
「わかった!」
「リンちゃん、来る気になってよかったね!」
「だね!」
図書室
「あ、大垣からだ……」
図書委員として番をしていると、作戦会議中の千明からメッセージが入る。
千明『シマリン〜焚き火台買ったぜぃ!』
リン『お、それ、軽くて人気のやつじゃん』
千明『クリキャンは、これで焚き火をやるからな!楽しみにしておけ!』
先日の『リンちゃん遭難未遂事件』(なでしこ命名)以来、リンの心境にほんの少しだけ変化があった。
千明へ、少し歩み寄ってみよう。そう思い始めたのだ。メッセージのやり取りも、あれ以来頻度が増えたし、こうしてクリキャンへの参加も決意したのである。
なでしこ『そうそう!ケン君がおじいちゃんにいいキャンプ場がないか探してもらってるんだって!』
リン『確かに、おじいちゃんなら知ってるかもな……ケンにしてはいい判断だと思うよ』
ケン『にしては、ってどういうことだ!お兄ちゃん激おこだぞ!』
リン『ま、あの人ならいいキャンプ場教えてくれるだろうな』
ケン『うむ、期待して待つが良い!』
リン『何でケンが偉そうなんだよ』
お湯が沸いたので、皆で焚き火を囲いながらコーヒーを嗜む。
「せや!クリスマスのご飯、何作ろか?」
「そうだな〜……クリスマスっぽいキャン飯にしたいよな〜」
「そだね〜、何にしようか?」
「あ、クリスマスっぽいといえば、プレゼント交換やらないの?」
「「「プレゼント……こうかん……」」」
「確かにこのままやったらクリスマスにやるってだけで普通のキャンプと変わらへんなぁ……」
「私、プレゼント買ったらキャンプのお金がぁ……」
「わ、私もバイト代がまだ入ってへんし……」
各々が圧倒的懐事情に皆が悶える中、千明がポン、と恵那の肩を持つ。
「斉藤……いいか……?最高のプレゼントってぇのはな……?皆の心の中にあるもんなんだぜ……?」
「ええ話し風に言うても騙されへんで」
イケメン風オーラを出せども、それが通じるほど野クルは甘くはなかった。
「せや!私お肉をプレゼントにしてまおー!」
「ぬぁ!狡ぃぞイヌコ!」
そこからは肉を求める姦し三人娘による血肉の争いが始まる。高級肉という甘い言葉に惹かれた猛獣達は、その本能から奪い合うのである。
「面白い子だなぁ……」
「野クルの名物にするか」
「ケン、君も面白い子に含まれてるんだよ?」
「ははっ、マジか……」
比較的ツッコミ役だと思っていたのはケン自身だけだったのだろうか。
「そうだ!プレゼントの代わりに、おもてなしするのはどうかな?」
「おもてなし?」
「うん!例えばあおいちゃんはお肉を使った晩ごはんでおもてなし、私が朝ごはんを作っておもてなしするとか!それなら、家から食材を持ってくればいいし!」
「なるほど……じゃあキャンプでの遊びを考えてくるのもアリか!」
「うんうん!クリスマス気分を味わえるおもてなしとかもいいね〜!」
「一人はみんなのために!みんなは一人のために!ワンフォーオール!オールインワンだよ!…………あれ?ワンフォーオール、オールオンワンだっけ?ワンオンワン?……オールワンワン?」
「オールフォーワン……なんでワンフォーオールがわかってこっちがわかんないんだ……!」
「えへへ……あ、そうだ、ケン君は何かおもてなし考えてる?」
「ん〜……そうだなぁ……まぁ一応前からクリキャンでやろうって考えてたことがあるんだ。準備ももう終わらせてる」
「え〜なになに?」
「それを先に言ったらお楽しみが無くなるだろ?当日まで秘密!」
「ぶぅ……」
せっかくのおもてなしなのだ。サプライズがあってこそだろう。
クリキャンで何をするかで盛り上がっている中、一つの声がそれを制止させる。
「ちょっと貴方達!校庭で焚き火なんかして!火事になったらどうするんですか?」
「鳥羽先生だ……」
「アタシら一応登山部の大町先生の許可をもらって焚き火をしてますよ?」
「へ?」
この学校に来たばかりの鳥羽先生は、野クルのことをそこまで知らないため、先達として注意してくれたようだ。
だがしかし、これが鳥羽美波にとって藪蛇であった。
千明の言うとおりに大町先生に確認したところ、間違いはないことを証言。
心配なら、フリーの鳥羽先生が指導したら良いのでは?という案が大町先生に浮かび、有無を言わさず教頭に報告しに行ってしまったのである。
(や、ヤブヘビ……)
野クルに顧問がついた!!
「お……じいちゃんから返事来た」
改めて顧問となった鳥羽先生を交えてクリキャン作戦会議を始めようとなったとき、祖父に送ったメールの返事が返ってきた。
「おっ!来たか!」
「ケン君!どこ!?どこどこ!?」
「お、落ち着けお前ら!今表示するから!」
わらわらと集ってくる千明となでしこを制しながら添付されたURLをタップすれば、オススメのキャンプ場のホームページへと飛ぶ。
朝霧高原キャンプ場
調べれば、富士山を望めるめちゃくちゃ広いキャンプサイトで、近くに入浴施設もあるとか。
「「「「いいねぇ〜!!」」」」
「あの……この部、野外活動サークルって、何をするところなんですか?」
取り残されていた鳥羽先生は、用意されたコーヒーをすすりながら尋ねる。未だ活動方針の説明も受けていないので、状況が飲み込めずにいた。
「うちらの野外活動サークル……略して野クルは主にキャンプをしてるんです。バイトで活動費貯めて、計画立ててキャンプに行ったりしてます」
「キャンプ……ですか?」
「今度クリスマスの二日間にもキャンプを予定してるんです。良かったら先生も参加されませんか?」
「え?いいん、ですか?」
「もちろんです!まぁそんなガチガチのキャンプじゃなくて、ゆる〜いキャンプ、ゆるキャンをモットーにしてるので、身構えなくても大丈夫ですよ」
「そうですか……それなら参加してみようかしら?」
「「「「わーい!!」」」」
「それで……どこでキャンプになったんですか?」
「ウチの祖父から教えてもらった朝霧高原です。」
「朝霧高原……だったらベーコンとビールね」
「ビール……?あ!」
「あの……各務原さん?」
その言葉に一番反応したのはなでしこだ。鳥羽先生を最初に見たときから、どこかで見たことがあるような気がしていたのだ。それはリンも同じだったらしく、二人そろって首を傾げていた。
そして、最後のピースがなでしこの中でハマった!
「斉藤さん!スマホペン貸して!」
恵那からスマホペンを受け取り、鳥羽先生の顧問記念に撮った写真にあれやこれやと書き足していく。
「メガネを書いて……フードを書いて……お酒を書いて……」
一心不乱に鳥羽先生の写真に落書きしていくなでしこに、皆がなんだろうと覗き込んでいく。
ひとしきり書き、出来上がったそれを見て、
「あぁ〜!!」
なでしこは素っ頓狂な声を上げた。
なでしこ『酔っ払いのお姉さんだ!!』
同じく鳥羽先生に既視感を抱いていたリンにその写真を送ると、
「それだ!」
と、ようやく引っかかっていたものが取れたようである。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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