リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第十九話『宴の始まり』

12月24日 10:00  志摩家 玄関先

 

「シュラフと……テント、薪は向こうで買うか?」

 

「うん、持っていく荷物は少し少なくした方がイイし、積載が多くなりすぎるかも」

 

「だな。シュラフとテントと細々したものと秘密兵器乗せたらもう限界だわ」

 

「流石にカスタムしてないから、バイクだとそうなるよね」

 

GSXのタンデムにあれこれ縛り付けていたら、あっという間に載せるところがなくなってしまった。こればかりはカスタムなしのスーパースポーツバイクの宿命である。

 

「ここから大体2時間か……ま、ゆっくり走っていくか!」

 

「お兄ちゃん、ホントに良いの?先に行っててもいいんだよ?」

 

「せっかくなんだし、一緒に行こう。それに、一度リンと走ってみたかったんだからさ」

 

「……ありがとう。お兄ちゃん」

 

「二人共、気を付けてね。しっかり暖かくして寝るのよ?」

 

「わかってるよ」

 

「リン、お兄ちゃんのことお願いね」

 

「ん」

 

「あれ?おかしくない?俺じゃなくて?」

 

「二人共、楽しんでくるんだよ。お土産話、楽しみにしてるから」

 

「ありがとう、お父さん」

 

「じゃ、出発しますか」

 

「お〜」

 

「「行ってきます!」」

 

どちらからともなくキーを回してキルスイッチを押す。小気味よい振動とともに、互いの相棒の心臓に火が入った。

左後方確認し、ゆっくりと二人は駆け出していく。

 

「ホント、誰に似たのかしらね」

 

「また走りたくなってきたかい?」

 

「……ほんの少しだけ」

 

空は快晴。風もなく絶好のキャンプ日和。

今日は待ちに待った野クルのクリスマスキャンプの日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一度休憩を挟み、朝霧高原に辿り着いたときは12時30分を過ぎたあたりだった。

 

「今更だけどだいぶ早く来すぎだよな?」

 

「2時集合だもんね」

 

「じゃ、早く来たんだし、ササッと受付済ませとくか」

 

「だな」

 

 

 

 

 

「先程7名様の受付を2名の方が済まされましたよ?」

 

「え?もう?」

 

「やっぱりはやる気持ちは皆同じだな」

 

「念の為に確認されますか?」

 

「はい」

 

そして登録された名簿を見て、ケンは黙り込んだ。

 

「これ、書いたのメガネのやつですか?」

 

「はい、そうでしたね」

 

「千明のヤツ……!」

 

記入された名簿の名前。

ケンの名前である欄はこう書かれていた。

『志摩 犬』

と……。

 

「……野郎ぶっ殺してやるるぁあああああ!!!!」

 

少年の咆哮が、朝霧高原に響いた。

 

 

 

 

 

 

「へっきし!!」

 

「なんやアキ〜また風邪?」

 

「いや……なんか悪寒が……」

 

 

 

 

 

 

 

「さて……あおいとメガネはどこだ……?」

 

「とりあえず、サイト歩いて探してみる?」

 

「だな、そうすっか」

 

散歩がてらサイトを歩いてみる。

芝生の平原がどこまでもと言わんばかりに広々と広がって、更にはその奥に富士山がこれでもかと自己主張。近くにも温泉があるし、野クルの欲張り要望にしっかりと応えたキャンプ場だ。

 

「いいところだな……」

 

「そうだな、おじいちゃんに感謝しないとな」

 

「とりあえず、あの二人がどこにいるのかメッセージ送っといたらどうだ?」

 

「そうする」

 

リンがメッセージを送る間、ケンはぼーっと目の前の景色を見渡す。

子供がおにごっこ?をしているが、デイキャンプで来たのだろうか?元気に走り回っている。

 

「若いのはいいのぅ……元気があって」

 

「何黄昏れてんだ……。見晴らしもいいから、ここにテント張っちゃう?」

 

「そうすっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お互いのバイクに積んだ荷物を何往復かして運び、テントを隣り合わせて建てていく。

その中で、ケンのギアに少し変化があったことにリンはふと気づいた。

 

「へぇ、お兄ちゃん、ローチェア買ったんだ?」

 

「そんなに良いものでもないけどな。一応座れるものがあったらいいなって、買っちった」

 

「流石に芝生直座りはお尻冷たいもんな」

 

バーナーやコッヘルも新しく買い足したから問題はなく、程なくしてキャンプ地が完成と相成った。

 

「俺もだいぶ設営早くなったな〜」

 

「だな、でもまだまだ負ける気はないけど」

 

「リンちゃ〜ん!!ケンく〜〜ん!!」

 

「お、賑やかなやつが来たな」

 

サイトの坂の下方を見れば、ラシーンから降りた元気印のなでしこが一直線に突貫してくる。

 

「………うむ」

 

「勝負の時を見誤らないようにね」

 

「押忍……!」

 

「二人共早いねぃ」

 

「待ちきれなくてな」

 

「集合、12時でよかったかもな」

 

「だねぃ」

 

「荷物、降ろしに行こうか。手伝うよ」

 

「ありがと〜!」

 

とは言っても、四人で下ろせばほんの僅かの時間で終わる量であった。

 

「それじゃ3人とも、暖かくして休むのよ」

 

「「「はい!」」」

 

「あとケン君、ちょっといい?」

 

「は、はい……」

 

やや険しい表情で桜に手招きされ、二人と10メートルほど離れた位置まで移動する。

剣呑な雰囲気に、ケンは思わずごくりと固唾を呑む。

 

「ケン君……」

 

「はいっ……!」

 

「なでしこ、今日は勝負を掛けるつもりで準備してきてるの。だから、あの子の言うことを受け入れるにしても断るにしても、しっかりと受け止めて上げてほしい。そのうえで、答えを出して欲しいの」

 

「……はい。俺はもう、なでしこから、そして自分の気持ちから逃げるつもりはありません」

 

「……そう、その言葉が聞けて満足だわ」

 

真剣な面持ちから一変、いつもの穏やかな表情に戻った。

 

「あの子、思い切りはしゃいじゃうだろうけど、お願いね」

 

「わかりました、目を光らせておきます!」

 

ケンの答えを聞いてラシーンに乗り込んだ桜は、その車体を発進させ、高原を後にした。

 

「ケン君、お姉ちゃんと何話してたの?」

 

「なに、なでしこがはしゃぎすぎないようにお目付け役に任命されただけだよ」

 

「もう!私そんなに子供じゃないよぅ!」

 

ヘソを曲げたなでしこをケンが宥めていると、リンのスマホにメッセージが入る。

 

「お、犬山さんからメッセージだ」

 

あおい『じゅかいの牧場でスイーツ食べとるよ〜』

 

添付された写真には、抹茶と小豆のジェラートを食べるメガネの姿。こんな画像を見て飛び付かないという選択肢が無いやつがいるわけで……

 

「ふぉぉ!!おいしそー!!」

 

胃袋おばけだ。ヨダレを垂らしながら画像を食い入るように見つめている。

 

「ここから歩いてそんなに遠くないし、食べに行く?」

 

「う…………!今月のお小遣いが厳しいから我慢する!!」

 

珍しく自制している。子供じゃないと言ったのは過言じゃないようだ。

グゥゥゥ……。

前言撤回。身体は正直である。

 

「えへへ……さっき車の中でお昼ごはん食べたばかりなんだけどねぃ……」

 

「腹の中に猛獣を飼ってやがる」

 

「腹ぺこさんもいることだし、リンさんや、ちょっとお茶にするかい?」

 

「そうだな、私も少し小腹が減ったし」

 

「やったぁぁ!!」

 

リンがカバンの中から取り出したるは、ソフトマシュマロとチョコビスケットだ。

 

「おに……ケンは飲み物の準備をお願い」

 

「はいよ」

 

「リンちゃんや」

 

「なんだよ?田舎のおばあちゃん」

 

マシュマロを竹串に刺すリンに、なでしこはニヤニヤしながら問う。

 

「私の前でくらい、ケン君のことをお兄ちゃんと呼んでもよいのじゃよ?」

 

「う、うるさいな〜」

 

プイッとそっぽを向くリン。お兄ちゃん子なのを認めたくなくて照れ隠ししているようだが、なでしこにはそれが『カワイイ』の核心を貫いた。

 

「も〜、リンちゃん可愛いのぅ!」

 

「ばっ!なでしこ、火の側で抱き着くな、危ないよ!」

 

「ごめんごめん!」

 

「まったく……ほら、チョコビスケットをお皿に盛って」

 

「あいあいさー!」

 

封を開け、ざらざらと出てくるチョコでコーティングされたそれは、実に食欲をそそるものだ。

 

「これだけでも美味しそうだねぃ」

 

「まぁ待て落ち着け」

 

焼き上がって溶けかけたマシュマロをチョコビスケットで挟んで完成だ。

 

「はい、スモアって言うらしいよ」

 

「ほぁぁ!スモア……!」

 

「ほい、ココアお待ち!」

 

「ありがとうケン君!」

 

そしてタイミングを見計らったようにココアを注いだカップを渡すケン。さて、役者も揃ったところで……

 

「「「いただきます」」」

 

もう待てないとばかりにスモアを一つ取ったなでしこは、有無を言わさずかぶりつく。

 

「んん〜〜!!」

 

かじった先から熱したことでトロリと伸びるマシュマロ。そしてその熱に触れることで少し溶けかけたチョコがマッチして、極上のおやつと化していた。

 

「なにこれ〜!?美味しすぎるよ〜!」

 

こうなった猛獣は止められない。一心不乱にスモアを食べ進めるなでしこ。その姿は見るものをホッコリさせてくれる。

 

「相変わらず美味そうに食いやがるぜ」

 

「う、うまぁ……!」

 

「はいはい、そっちは涙がちょちょ切れそうなんだな」

 

互いに美味しいという表現を違う形で表現してくれる。それがリンにとって何よりのご褒美だ。

 

(しかし……)

 

ここでふと、とある疑念が入る。

 

(今までの料理でこんな感じだったら、今日の晩御飯に高級和牛なんて食べたら、いっそ昇天しちゃうんじゃ……)

 

今までの食材とは面構えが違う。A5ランク最高級和牛……リン自身ですら食べたことのないとんでも食材。正気を保てるかどうか……。

 

(気をしっかりもたないと……私もヤラれる……!そうだ……情報収集だ……!敵を知り、己を知れば百戦危うからず……!予め覚悟しとけば、こちらの損傷を抑えられるはず……!)

 

「そうだ、犬山さん凄いお肉で晩御飯作るって言ってたけど、何を作るか聞いてる?」

 

「いや、野クルでも何も聞いてないな」

 

「お楽しみってことだねぃ、私A5ランクのお肉なんて初めて食べるよ〜」

 

情報は得られなかった。

まぁそれでもいいお肉でご飯が食べられることもあるけど、リンにとってこれだけの同年代の子達とキャンプご飯を食べることが未経験だ。その未知の楽しみが美味しさにブーストを掛けてくれるだろう。

 

「朝ごはんはなでしこが作るんだっけ?」

 

「そう!!ニッポンの朝ごはん!!」

 

「……ニッポンの?」

 

「えへへ、楽しみにしててね!」

 

「うん、楽しみにしとくよ………ぉ、大垣からメッセージだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡り数分前

じゅかいの牧場

スイーツを堪能し終えて施設内をぶらりとしていた千明とあおいは、敷地内の一角に薪が販売されていることに気付いた。

 

「こんなところに薪売っとる」

 

「一束300円て……安いな。よし!ここで買ってこうぜ!」

 

「せやけど、持って帰るのしんどいで?」

 

「じゃあ先生呼んで車で……は、無理だったか」

 

そこまで言って二人は思い出す。

既に鳥羽先生は『おっ始めて』いて、車を出せない、出してはいけない状態であることに。グビ姉の称号は伊達ではない。

 

……

 

…………

 

「「あっ!!」」

 

 

 

 

 

 

「ドーモ、メガネ=サン。シマ=イヌです」

 

機動兵器を持つ二人を呼び出したはいい。

だが千明は忘れていた。

ケンからとんでもないヘイトを買っていたことに。

なんか赤黒いオーラのようなものが見えるのは、きっと見間違いだと思いたい。

 

「わ、悪かったってシマケン!」

 

「ハイクを詠め」

 

「ケン、スレイするのはいいけど、薪も運んでよ」

 

「うい〜」

 

「いやいや、止めろよ!?」

 

まぁケンとしても、千明のやってることは気の知れた友人に対する悪戯ってことは理解している。故に悪ノリしただけだ。

 

「あ、そうだ。ここは私が出すよ。」

 

「ま、マジで!?」

 

「夕飯ご馳走になるんだし」

 

「ありがとう〜志摩さん」

 

「大将!持ち帰って家宝にさせていただきやす!!」

 

「これから盛大に燃やすんだよ」

 

 

 

 

 

 

さて、薪を購入したはいい。

だが……

 

「「重っ!!」」

 

ビーノとGSX、それぞれ荷台とタンデムに二束ずつ積載。一束大体7キロ。合計にしてそれぞれ14キロ積載!!

 

「いや〜、運んでもらうばかりか金まで出してもらって……涙がチョチョ切れるってな〜!………お?」

 

いざ出発、となったとき、まだ駐車場に薪が一束残ってるのを千明は見つける。

 

「お〜い、一束忘れてるぞ〜!」

 

「重すぎるから、それは大垣が持ってきて〜」

 

「え?」

 

「それを持ってきたら名簿の件、水に流してやるわ」

 

「へ?」

 

返事を聞くまでもなく、志摩兄妹は出発してしまう。

残された千明が取れる選択肢は、もはや一つだけだった。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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