リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第二十一話『静岡の猛獣と、聖夜の猛獣』

※大塚ヴォイス

まず、鍋に牛脂を広げ牛肉に軽く火を通します。

砂糖、醤油、酒を入れてひと煮立ち。

椎茸、エノキ、ネギ、焼き豆腐、白滝、春菊を乗せたら、蓋をしてしばし待つ。

 

「待てない……!」

 

「まぁ待て、落ち着けなでしこ」

 

「正統派すき焼きってレシピだね」

 

「関西風やで〜。アキ、鉄スキレットで、この玉ねぎ、オリーブオイルとニンニクで炒めといてくれへん?」

 

「いいけど……もう一品作るのか?」

 

「まぁそんなとこや」

 

「しっかし、めちゃくちゃ冷え込んできたなぁ……」

 

「高原やしなぁ……」

 

「今、気温0度だって」

 

朝霧高原は標高は1000メートルと高く、12月は最低気温が−4度を記録することがあるという。

 

「みんな、こうすると温かいですぞ」

 

物々しい声のなでしこを見れば、ブランケットに身を包み、不穏な笑みを浮かべている。

 

「出たな、怪人ブランケット」

 

秘密結社ブランケット。勢力拡大中。

ちなみにチクワは組織のトップの将軍。ケンは一般戦闘員らしい。

 

「俺の扱いに一言物申す!イー!!イー!!」

 

「だって、黒にしましまのブランケットだからしかたないじゃん」

 

などと過ごしていると、鍋の蒸気穴から如何ともし難い香りが周囲を支配し始めた。

 

「そろそろ頃合いやな……」

 

蓋を開ければ、何とも美味そうに仕上がったすき焼きがそこにはあった!

 

「出来たで晩御飯!」

 

『おぉ〜!!!』

 

皆がお椀に卵を割り入れて混ぜ、戦闘準備万端!

 

「それでは……」

 

『いただきま〜す!!』

 

皆が箸を突っ込み、各々の好きな食材を引き上げて口へ運ぶ。

賑やかな二人はうまいうまいとどんちゃん騒ぎみたく盛り上がり、リンと恵那は静かに味わう。しかしその口元は釣り上がっており、とても喜んでいるようだ。

皆の反応を眺めてほっこりしているあおい。そう言えばいつもは号泣している彼はどうだろう?目からビームが出たりとか、彼なりのオーバーリアクションを期待しているのだが……

 

「…………」

 

「あれ?ケン君?」

 

おそらくは先程まで食べていたであろう彼が微動だにしない。

かと言って泣いてもいない。

これは……

 

「リンちゃ〜ん、ケン君が旅立ってもうた〜」

 

「!?!?」

 

肉に感動し、牛に感謝していたリンが現実に戻ってくる。

隣で食べている兄の顔を覗き見れば、確かに旅立っていた。

そう、満たされ、そしてとても幸せそうな顔で……

 

 

『リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される』をご愛読ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃな〜い!!」

 

「お、生き返った」

 

「いかん、美味すぎて曾祖父ちゃん曾婆ちゃんが川の向こうで呼んでるのが見えたわ」

 

「会ったことねぇだろ」

 

「いや、あおい。めちゃくちゃ美味いわ!ありがとう!」

 

「ど、どういたしまして……」

 

流石に美味い料理で人殺しにならなくて良かったと一安心のあおい。

そして…彼に代わって泣いているのは鳥羽先生。

 

「ど、どないしたんですか?先生」

 

「ずぎや゛ぎに゛あ゛ゔに゛ぼん゛じゅ゛、わ゛ずれ゛ぢゃ゛っだぁ゛〜!!」

 

「さ、さよですか……」

 

悔し涙を流すグビ姉は置いといて、食事を再開するあおいに、千明は尋ねる。

 

「なぁイヌコ。どうして晩飯すき焼きなんだ?」

 

「あぁ、それな?ホンマは私、ビーフストロガノフとか、牛肉のトマト煮込みとか、洋風の料理考えとったんよ。クリスマスって洋風の催しやからな」

 

「確かにそうだけど……」

 

「で、迷っとったらお婆ちゃんがすき焼きを勧めてきたんよ。『すき焼きは特別な日に皆で頂くもんや』って。それに得心してもうたんや」

 

「婆ちゃんに言いくるめられたんか〜」

 

「でもこうやってお鍋囲むのって、日本の年末って感じがして、すごくいいと思う!」

 

「せやな!」

 

「……そうだ!忘れてた!私、クリスマスっぽいもの持ってきてたんだよ!」

 

恵那が立ち上がり、あのおおきなダッフルバッグから取り出したもの。

それは……

 

「年末戦士!!」

 

『サンタクレンジャー!!』

 

「ちなみに、男の子達にはトナカイね!」

 

「トナカイチクワ、可愛い〜!!……でも……」

 

「…………」

 

ものすごい仏頂面で正座するケン。その身体は茶色い一体型のクリーンスーツのような服を着て、それに付けられたフードも茶色い。極めつけはそのフードから生えた柔らかい枝角と、鼻につけた真っ赤な付け鼻。真っ赤なお鼻のトナカイさんだ。

 

「正直……あれは可愛いとは……」

 

「うん、知ってた」

 

「確信犯かよ!」

 

「あれ見ながらご飯食べんのか〜」

 

「か、可…愛い…よ……ケン君……」

 

「目を逸らして自信なさげにいうのは止めてくれなでしこ」

 

「てかさ……なんか冷静に考えて傍からアタシらを見たら、仕事を終えたサンタが打ち上げしてるみてぇだな……」

 

『…………』

 

クリスマスとは、かくも難しいイベントである。

 

「あ、そろそろ具材追加しない?」

 

恵那の言う通り、鍋を見れば具材がほぼなくなっている。第二陣投下のタイミングかと思いきや、

 

「いや、こっちのはこれでおしまいや」

 

「え?でもお肉まだこんなに残ってるよ?」

 

確かになでしこの言うように、半分近く残っている。この残った肉をどうするのか、皆が不思議に思っていると、あおいが不敵な笑みを浮かべながら、とあるものを取り出す。それは……トマト!

 

「こっからはコイツでお色直しや……!」

 

先程大垣がオリーブオイルとニンニクで炒めた玉ねぎとカットしたトマト、更にバジルを加えて炒め、それを鍋に残った割り下に入れて、お肉を追加して煮込めば……

 

「トマトすき焼きの完成や!」

 

『トマトすき焼き!?』

 

未知の料理に皆が恐る恐る口に運ぶ。

するとどうだ。割り下にトマトの酸味とバジルの爽やかなスパイシーさが合わさることで洋風にリメイクされ、先程とは全く違う世界を見せてくれる。そこへ更に最高級牛肉が加われば……!

 

「うんま!!」

 

(反則級だ……!)

 

「ケ・ボーノ!!」

 

一人イタリアに染まっているがそれはそれとして……

 

「ワ゛イ゛ン゛があ゛ゔの゛に゛……!ワ゛イ゛ン゛があ゛ゔの゛に゛……!」

 

「あ〜……はいはい、忘れてしもたんですね」

 

一人の涙の後悔を残し、意表を突いたトマトすき焼きは大絶賛。あっという間に鍋の具材は空っぽになってしまった。

 

「食った〜」

 

「食べたねぃ〜……」

 

「犬山さん御馳走様、すごく美味しかった……!」

 

「グラッツェ!」

 

「お粗末様〜、あとケン君は早う日本に帰ってきぃや…………けどな?まだ終わりやあれへんねん」

 

『???』

 

もうあれだけ旨いものを食べれたのだから、これ以上何を出されるのか?と誰もが思う中、彼女が取り出したるは……!

 

「トマすきのシメ……チーズパスタが残っとんのやー!!」

 

『チーズ……パスタ……?』

 

「シメ食べる人〜?」

 

「はい〜!!」

 

「シー!!」

 

「スゲェなお前ら……」

 

男子と腹の中猛獣は勿論食い付く。

 

「私、一口だけもらおうかな?」

 

「私も」

 

残る千明と鳥羽先生も少しだけ、と結局全員食べることになり、残った割り下を温め直そうとコンロの火力を上げたとき。

 

「あれ?火ぃ消えてもうた……?ガス切れかな……?なでしこちゃん、予備のガスは……」

 

「あぁっ!!持ってくるの忘れた……!!」

 

愕然と倒れ伏すなでしこ。だがここでリンが代替案を思い付く。

 

「先生のガスが使えるんじゃない?」

 

「ほんと!?」

 

確かに鳥羽先生の使用しているガスは、リン達が使っているOD缶ではなくOB缶で、カセットコンロのガス缶と同じ型だ。ということでセットして点火すると問題なく火が点いた。

しかし……

 

「あかん、こっちもや」

 

「そんなぁ!」

 

ガスが元々少なかったのか、その火はすぐに消えてしまった。

 

「先生!ガスボンベはもう無いんですか!?」

 

「そんにゃもにょはにゃい!!」

 

即答である。

 

「コンロが……もう使えないということは……!明日の朝ごはん……作れないってことじゃん……!ぐふっ……!」

 

自身のおもてなしが出来なくなることに絶望し、なでしこは再びがっくりと倒れ伏せる。

 

そこに立ち上がるものがいた。

 

「ガス、何本あればいい?近くにコンビニがあったはずだから、ひとっ走りしてくる。」

 

「ケンくぅん!!ありがどゔ〜!!」

 

「はいはい……泣くな泣くな……んで、しがみつくな」

 

立ち上がった足にしがみつき、更に泣き伏せるなでしこ。

重症である。

と、ふとスイッチが入ったかのようにピタリと泣き止んだ。

 

「そだ!あおいちゃん、お肉と割り下って残ってる?」

 

「少しならあるよ?」

 

「ケン君、お金出すからガス二本とチューブ生姜お願い!!」

 

「わかった。あと買ってくるものは?」

 

「あったし、にほんしゅぅ〜!」

 

「俺、未成年ですんで無理です。……んじゃ、行ってくるよ」

 

遠のいていく『茶色い背中と頭から生えた枝角』。

 

「ちょい待ち。せめてそれ脱いでから行き」

 

「ハッ!?」

 

変に馴染んでいたのか、あおいが突っ込むまで誰も違和感がなくなっていたようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒っ……流石に夜だから冷え込むな……!」

 

バイクを走らせながら、身体を襲う寒風に身悶えする。ジャケットやグローブ、フルフェイスヘルメットをしていても、隙間から入ってくる風が身を刺すように寒い。

 

「これは……早く帰らんとまた風邪ひきそうだ……」

 

気持ちは急くが我慢だ。

思えば……ちょうど一人になりたい心境もあったから買い出しを名乗り出たのだ。

いよいよ今日、自分の気持ちに決着をつける。

その時が迫ってきてるのだと、改めて自覚してくる。

タイミングや言葉を選んでシミュレーションしたが、これでいいのだろうかと迷いながら。

後悔の無いように、彼女に相応しくあるように……

今一度、ケンは一人の男として覚悟を決めた。

その時は、そう遠くない。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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