リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第二十二話『踏み出す一歩』

しばらくしてケンが買ってきたガスを使い、ようやくシメのパスタにありつけた面々。

誰もが大満足の夕飯。クリキャンの大きなイベントの一つを終えた彼女らに、一つの別れが訪れる。

 

「楽しかったよ……チクワ!また遊ぼうね……!」

 

「もう聞こえとらんで、なでしこちゃん」

 

チワワは寒さに弱い。だから本格的に冷え込む前に恵那の父が迎えに来たのだ。後部座席ですやすやと穏やかな寝息をたてながら、車に揺られてチクワは帰宅と相成った。

 

「よ〜し、んじゃ手分けして洗いもんとか片付けを終わらせていくか」

 

『お〜!』

 

皆がテキパキと手分けして片付ける中、千明がとあるものを見て戸惑う。

 

「お前……そのトナカイ服、気に入ったのか?」

 

「割と」

 

最初こそウケ狙いのような扱いを受けて拗ねていたが、存外慣れると悪くないらしく、買い出しから帰ってからも着直していた。

 

「なぁ、お風呂の順番どうする?」

 

ご飯も片付けも終えて、あとはお風呂だけ。他のキャンパーが周囲にいないとはいえ、流石に全員一斉にお風呂へ行って荷物をフリーにするのはよろしくない。

 

「私、あとでいいよ!」

 

「私も。先生は……」

 

「酔いを冷ましてから入るって、飲みながら言ってた」

 

「いつまでも入れねぇ」

 

「俺もあとからでいいよ。もう少し焚き火で温まってたいし」

 

「ほな、私とアキと斉藤さんが先に入る言うことでええかな?」

 

「うん、ゆっくり入ってきてね」

 

三人が荷物からタオルや着替えを取り出して温泉に向かうのを見送ってから、4人は焚き火を囲んで時間を潰す。

マッタリとした時間を過ごす中、リンがふと疑問に思ったことを鳥羽先生に問いかける。

 

「あの……先生。今日私達に付き添ってくれてよかったんですか?」

 

「え?」

 

「クリスマスだし……カレシさんは良いのかな、と」

 

「あ、火起こしのお兄さん」

 

「火起こしのお兄さん?」

 

「うん、前に四尾連湖でね?竹輪炭になかなか火がつかなかったときに、鳥羽先生と一緒にいた人が助けてくれたの。それが火起こしのお兄さんなんだよ」

 

「へぇ……四尾連湖でそんなことあったのか」

 

あの時のケンは、確か祖父とデイキャンプしたあとにバイトに行ってたから参加しなかったが、そのような話は初耳だった。

 

「えっと……私誰ともお付き合いしてませんけど……多分それ、私の妹です」

 

「えっ!?妹!?」

 

「あんな感じなのでよく間違われるんですよ」

 

(火起こしのお姉さんだったのか……!)

 

「け、ケン君は見た目は女の子だけど、男の子……だよね?」

 

「地味にクるわ、それ……」

 

よもやあそこまでボーイッシュな女性がいるとは思わなかった二人。ケンはケンでまさか自分に火の粉が飛んでくるとは予想だにしなかった。

 

「いや〜、いい湯だったな〜」

 

そこに、お風呂先発組がヌクヌクとした余韻を残しながら戻ってくる。

すかさずなでしこは千明の元へ駆け寄り、神妙な面持ちで尋ねる。

 

「アキちゃんは女の子だよね!?ねぇ!?」

 

「喧嘩売ってんのかオラァ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜!」

 

『お帰り〜!』

 

後半組も冷えた体を温泉でしっかり温め、ホカホカ気分でテント側まで戻れば、なんとも奇妙な光景に出くわした。

あおいも千明も、そして恵那のでさえも頭頂部で髪をシニヨンに纏め、リンと同じ髪型にしていたのだ。

 

「わぁぁっ!みんなリンちゃんみたい!!」

 

「なでしこちゃんも、シマリン団子やる?」

 

「やる〜!!」

 

「なんだそのネーミングセンス……」

 

トリマー斉藤。その実力が発揮されるときが来た。その手腕、まさにプロのごとく。手早く髪を結い上げ、あっという間に『四人分』の髪型を纏め上げてしまった。

リン、なでしこ、鳥羽先生……そして……

 

「ホンマに髪型揃えたら見分けつかんようになるなぁ〜」

 

「なんで俺まで?」

 

髪の長さの都合上、小さいながらもシニヨンが頭頂部に作られたケン。よもや女子に混じって髪で遊ばれる日が来ようなどとは……

 

「ふぉぉ!!ケン君もかわゆいですなぁ〜!せっかくだし、みんなで写真撮ろう!」

 

パシャリ、と写真を撮るが、なでしこは恵那の策謀により、シニヨンがハニワ型にされていたことにようやく気付いた。

 

「およよ?」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、今から何しよっか?」

 

「寝るにはまだ早いね」

 

「クックックッ……ちょうどええもんありまっせ〜?知ってるか?最近は野外フィルムフェスってのがあってな?夜空の下のスクリーンに、オールナイトでいろんな映画を上映してるんだよ〜」

 

『へぇ〜』

 

「そんな雰囲気を味わってもらおうと思ってな〜昨日、これを契約してきた……!」

 

取り出したるはタブレット端末……!

 

「月額1280円で、動画一万タイトル見放題だ〜!!これで眠くなるまで動画観賞しようぜ?」

 

「いいね〜!」

 

「アキちゃんナイス!!」

 

「何見る?」

 

「アニメ〜」

 

「お笑い〜」

 

「洋画〜」

 

「ホラーがええな」

 

「えっ!?」

 

「ウソやでー」

 

「むぅ……!」

 

「コマンドー」

 

「シマケンお前……それはレンタルで有料だわ」

 

そうして始まった動画観賞会。焚き火に当たりながら、代わる代わるに見たい動画を堪能し、笑い合い、驚き合い、誰もが暖かい時間を過ごしていく。

特に、『原付の旅』を見た志摩兄妹の食い付きぶりは中々のもので、やはり兄妹だという感想を誰もが浮かべた。

そして……

 

「ふぁ……アタシそろそろ寝るわ……」

 

「私も〜……」

 

「私もそろそろシュラフと婚約しなきゃだから……」

 

「おいまじか」

 

「私はもう一本見てから休もうかな」

 

「私ももう一本だけ……」

 

「ぐご〜……ぐが〜……」

 

「シマケ〜ン、グビ姉テントに運ぶぞ〜」

 

「うい〜」

 

先に寝てしまう野クルテント組。流石にそろそろお開きの時間らしい。なでしこも早めに休まないと朝ご飯が作れなくなる。

 

「ケン君、最後に見たいものある?」

 

酔い潰れを千明と協力してテント内のシュラフに押し込んで出て来たケン。どうやら最後はケンの見たいものの順番だったらしい。

 

「俺は……少し散歩してくるよ。夜富士でもゆっくり見てくる。それで……その……なでしこ、一緒に行かないか?」

 

「え……?」

 

「なでしこ」

 

「ん?なぁに?リンちゃん」

 

「一緒に見に行ってきたら?焚き火の近くだと、見えにくいでしょ?」

 

「……うん!行ってくるね、リンちゃん」

 

並んでテントから離れていく二人を、どこか保護者のように見つめるリン。

 

「頑張れよ、二人共」

 

「いや〜……青春してるなぁ!二人共」

 

「うわっ!?大垣!?寝たんじゃ!?」

 

よもやすぐ隣に立っていようとは思わず、ずっこけそうになる。

 

「いや、なんとな〜く今日勝負を掛けそうな雰囲気だったからな〜、もしやと思って」

 

「お前、変なとこで鋭いよな」

 

「にひひ……あの二人、上手くいってほしいよな」

 

「うん」

 

「お前も複雑だろな〜、お兄ちゃんと友達だからな〜」

 

「でも、お兄ちゃんもなでしこも二人共幸せになれるなら、私はそれでいい……」

 

「だな……ってお兄ちゃん?なんだよ?実はお兄ちゃんて呼んでたのか?」

 

「なっ!?み、皆に言うなよ大垣……!」

 

「ん〜、どうしよっかな〜?」

 

「ギギギ……」

 

「よし、じゃあ条件を一つ」

 

「なんだよ」

 

「アタシのこと、千明って呼べ。こっちもシマリンからリンて呼ぶから」

 

「そんなのでいいの?」

 

「もちろん。あとさ……クリキャンで終わりじゃなくて、またキャンプ、一緒に行こうぜ?こんなふうにさ!」

 

「なんだよ、条件2つじゃんか」

 

「細けぇこたぁいいんだよ!」

 

「…………そうだな、考えとくよ……『千明』」

 

「おう、期待しているぜ、『リン』」

 

クリスマスキャンプの夜は……もうすぐ終わる。

そして今までの関係も終わり、また新しい関係も始まる。

変わらない日々の扉を開け、始まりの一歩を踏み出して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗だねぃ……」

 

「そうだな……夜富士も絶景だ」

 

芝生に並んで座り、月に照らされた富士山を眺める。周りに明かりもなく、澄んだ空気。そして富士山山頂付近に降り積もった雪が夜空に幻想的に浮かんでいた。

 

「……ケン君、クリキャンのおもてなしを準備してるって言ってたけど、結局何なの?」

 

「それは秘密」

 

「え〜?」

 

「明日の朝までな」

 

「ん〜……じゃあ、楽しみにしとくっ」

 

何気ない会話。

いつもの友達としての会話。

それが堪らなく嬉しくて、楽しくて。

このままでも良いって思っていた。

だが気持ちは違う。

ただの友達以上の想いがある。

 

「なでしこ……その、さ……」

 

「なぁに?」

 

甘く、柔らかな声が、耳をくすぐる。

今から言う言葉を考えれば、こんな変わらぬ返事すらも魅力的に感じてしまう。

 

「俺……なでしこと出会ってから色んなことが変わったよ。キャンプにそれほど強い興味が無かったのに、こうして皆とキャンプに行くまでになったんだ」

 

「私も、本栖高校に来なくて、静岡に居たら……ケン君やリンちゃん、野クルの皆と出会わずに、キャンプもしなかったと思うよ」

 

「うん……でもこうやって過ごして変わったのは……キャンプへの思いだけじゃなかったんだ」

 

視線を富士山から移してなでしこを見つめる。だが顔は向けども直視ができない。

こんなに2人きりという状況が恥ずかしく、そして緊張するなんて思いもしなかった。それはこれからのことを踏まえれば尚の事。

 

「俺は……その……ぅ……」

 

あと少し、あと少しの踏み出す勇気が出てこない。

心臓の鼓動は早く波打ち、顔が熱い。

もはや半分パニックになっているようなものだ。

どうする?どうすれば言葉を出せる?

詰まる言葉に戸惑っていると、自身の手にそっと温かなものが重ねられた。

 

「ケン君……」

 

なでしこの手だ。

柔らかなそれから伝わる人の熱が、不思議と安心を与えてくれる。

 

「私、待ってるよ……ケン君の言葉。だから、きかせてほしいな……」

 

「……ありがとう、なでしこ……」

 

いつもは持ち前の溢れる行動力で振り回してくるなでしこ。だが、今日ばかりは自分を立ててくれていることが何よりの後押しになる。

大きく深呼吸

吐き出した息と共に鼓動が少し収まってくる。

そして手の温もりが踏み出す気持ちを押してくれる。

今なら……

 

「俺は……各務原なでしこ……君が好きです……友達としてではなく、一人の、女の子として……!」

 

告白は、静かな夜の帳に消えていく。

うつむくなでしこ。

沈黙が二人を支配し、それが重圧にすら感じる。

言い切ったのだ、悔いはない。

 

「うん……ありがとう……ケン君」

 

普段の彼女から考えられないような、小さく絞り出した声。

ゆっくりと上げた彼女の顔は赤く、そしてしおらしく。

いつもとは違う一面。

 

「私も……大好きだよ……ケン君」

 

その言葉が全てを満たしてくれた。

落ち着いていたはずの鼓動は再び唸りを上げ、顔面がとんでもなく熱くなる。

 

「え、えへへ……何だか恥ずかしいねっ」

 

「そうだな……でも、すっごくスッキリした気分だ」

 

「あ、私も。ずっと気持ちを抑え込んでたから」

 

「悪いな……ヘタってて」

 

「もうっ、謝るのはなしですぞ」

 

ちょっとむくれたようにケンへ寄り掛かり、肩に頭を乗せるなでしこ。

晴れて恋人となったことで、距離感に躊躇いがなくなったらしい。

 

「実はさ、今日ここに来た時に、桜さんにも言われてたんだ。なでしこに向き合って欲しいって」

 

「あ……もしかしてあのときの?」

 

「うん、リンからもお見舞いに来てくれた後に、クリスマスキャンプで告白したらどうかって言われたし……ほんと、周りの人に押されてだな……」

 

「うん。皆にありがとう、だねぃ」

 

「だな……あと今度なでしこの家族さんに挨拶にも行かないとな」

 

「あはは、そうなったら私も行かなきゃだね」

 

ゆっくりと、二人だけの時間が過ぎていく。

少しの勇気がきっかけで動き出した世界を噛み締めながら。




メインの二人もそうだけど、リンと千明の関係も書きたかった。二期から互いに名前呼びになってたから、クリキャンが仲良くなるきっかけになれたと思うので、こういう補完もありかな〜と創作してみました。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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