リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
第一話『年越しキャンプへ』
それは、ほんのちょっとのきっかけ。
今年もあと数日で終わるという日の夕方のこと。
武田書店
リンがバイトをしている、志摩家からそう遠くない本屋だ。
足元をハロゲンヒーターでぬくぬくしながら店番バイトを熟しているリン。客足も疎らで、いかにも田舎の本屋と言った感じの店。
店番といってもレジ打ちと品出しくらいなもので、それ以外はボーッとして過ごす事が多いため、時折物思いに耽って過ごしていたりする。
(いずいずいず……ずいずいずい……沼津を通って西伊豆に行くべきか、伊豆の国を回って伊東を回るか……いやいや……ど真ん中を天城越えして、南伊豆へ行くのも悪くない……うむ、迷うな……)
年末の予定を考える片手間、店の入口の開閉音が聞こえれば挨拶を済ませることを忘れない。
(そう言えばお兄ちゃんも私と同じ日程の休みだったよな……う〜ん……誘うか……?いやいや……)
「これくださいな」
カウンター越しの声と、商品を出されたことで現実に意識を戻して商品のバーコードを読み取る。
商品を見れば、バイク雑誌の『MOTO RIDER』。兄の愛読書だったような気がする。
「年末は伊豆にでも行くのかね?シマリン殿」
聞き覚えのある声に視線を上げれば、ライダースジャケットを纏った見慣れた少年の姿。双子の兄のケンだ。
「まぁね、せっかくの休みなんだし。お兄ちゃんはバイト終わり?」
「うん、今日はコレの発売日なの思い出してさ。様子見ついでに買いに来た」
「毎度どうも」
「じゃ、頑張ってな。気をつけて帰ってこいよ」
「うい〜」
料金の支払いを終えて帰っていく兄。
お兄ちゃんと一緒の年越しキャンプ……。
そんな年末年始も悪くないと考えながら、再び妄想にふけるリンだった。
「皆とのチャットでそれとなく聞いてみるか」
千明『皆の衆ご苦労!元気にしとるかね!?』
なでしこ『押忍!自転車こいで頑張っとります!多忙でございます!』
千明『うむ!初のバイト、頑張り給え!』
なでしこ『おぉっす!!』
千明『郵便局組は年末年始どうなんだ?』
恵那『私は3日と4日休みだよ〜』
なでしこ『私は2日と3日休み〜』
千明『なん……だと……』
リン『まぁ、その……千明、頑張れ』
千明『リン!お前は年末年始不眠不休フルシフトだよな?な?そうだと言ってくれ!!』
リン『31日から3日まで休みだけど』
千明『嘘だと言ってよシマリン!!』
あおい『私は三ヶ日休みや〜』
ケン『俺もリンと同じ日程休み〜』
なでしこ『皆は年末年始なにか予定あるの?』
あおい『私は家族で飛騨高山の親戚の家に遊びに行くわ〜』
恵那『私はチクワと近くに初詣して、お昼からはショッピングモールかな〜』
なでしこ『私は浜名湖のお婆ちゃんの家に遊びに行くよ〜。ケン君とリンちゃんは?』
リン『私は伊豆の方に年越しキャンプの予定。海からの初日の出見に行く』
なでしこ『いいねぃ〜!』
ケン『俺は寝正月』
なでしこ『Oh……』
ケン『ていうのは冗談で、どこかバイクで出掛けようかなって考えてたり考えてなかったり』
リン『どっちだよ?』
恵那『そう言えばさ〜……』
そんな年末年始の予定を記したチャットを見て、バイト中ながら千明は固まっていた。
「時間不足っ……!圧倒的時間不足っ……!」
たしかに酒屋のバイトは多忙だ。特に年末年始は、親戚を家に迎える人々が酒を買いにやって来るため、特に。それ故に人手不足に陥るため、バイトといえども容赦なかった。
「アタシの冬休みはバイトで始まり、バイトで終わってしまうのか……!?」
リン『千明、お土産は食べ物でいい?』
あおい『アキ、私もなんかお土産買うてくるで』
なでしこ『私、うなぎのお菓子買ってくるよ!アキちゃん!』
千明『お、お前ら……!わかった!!身延の留守は任せておけ!!私は、お前らの帰りを命を賭して守ってやるぞ!!』
ケン『俺も買ってくよ、カップ麺でいいか』
千明『シマケン!お前も何か御当地土産買ってこい!アタシのために!』
ケン『え〜』
そして千明は仕事が止まっていたのがバレてお叱りを受けましたとさ。
志摩家 その日の夕飯後
ケンとリンはリビングで冬休みの宿題をのんびりと熟していると、思い出したかのようにリンが口を開いた。
「あのさ、お兄ちゃんも一緒に年越しキャンプ、行かない?」
「え?ん〜……まぁ確かに予定はないけど、ソロで行くんじゃないの?」
「その予定だったけど……たまには兄妹でキャンプもいいかなって」
今までこうやってキャンプに誘ってきたことがないリンから、こうしてお誘いがあるとは思ってもみず、ケンとしては驚きを隠せないでいた。きっと野クルの皆との日々が少し彼女を変えたのだろうと、何だか感慨深くなる。
「それに、クリキャンの時に一緒に走って……楽しかったから」
「……そっか、じゃ行くか!年越しキャンプ!」
「い、いいの?そんなすんなり……」
「妹が誘ってくれてるのに無下にできるほど、俺は終わってないからさ。とりあえず宿題を良いところまで終わらせて、予定立てようか」
「うん、ありがとう。お兄ちゃん」
こうして志摩ケンの年末の予定は、妹との初めての二人キャンプで埋まった。
「へぇ……二人で伊豆へ年越しキャンプか。だったら沼津の海沿いを通って、戸田へ抜けるのはどうかな?高台から見下ろす御浜岬も綺麗だし、西伊豆スカイラインも景色が良くて走りやすいと思うよ」
そんなわけで年長者の意見を聞こうということで、両親に相談したところ、渉があれこれとアドバイスをくれた。
なんだかんだで反対してこないのは、二人への信頼の証なのだろう。
「でも、伊豆は正月だと道が混むんじゃないかな?東京からも人が来るみたいだし。」
「それは……いやだな」
「だな、折角ならゆっくり走って泊まれるとこがあればいいけど……」
「だったら御前崎は?灯台の丘から見える太平洋も綺麗だと思うよ」
「御前崎か……」
「距離的には……そんなに変わらないか。街中通るかどうかの違いくらいかな?」
着々と予定が立てられていく中、こたつでみかんを剥いていた咲が心配そうな声を上げる。
「二人共、事故だけには気を付けてね?母さんはそれだけが心配なの」
「わかってるよ、車が多い道はなるべく通らないようにする」
「峠を攻めるのも控えておくよ」
「攻めねぇから」
「あと、3日におじいちゃんが来るから、それまでには帰ってきてね」
「うん、大丈夫」
「わかった」
「さて、御前崎に行くとして、どこをキャンプ地とするかだな」
「お、ちょっと遠いけど、磐田の海沿いにキャンプ場がある」
「通年営業だし、ここにするか」
「だな……しかし磐田か」
リンが思い出すのは、上伊那に行くときに寄ったわんこ寺の早太郎の思い出。磐田に居る化け猿を退治に行ったという伝承があるので、もしやと思いグルグル検索を掛けるリン。
「磐田……早太郎……」
「早太郎……?」
「ん、わんこ」
何故かリンの語彙力が低下している。
検索をかければ、磐田の見付天神に霊犬しっぺい太郎として祀られており、駒ヶ根では名犬早太郎の名前で親しまれているとか。
そして見付天神では三代目しっぺい太郎が実際に飼われているらしい。
「会いに行ける名犬……」
「……自分の世界にトリップしてる。……とりあえず見付天神は寄るということでいいか?」
「外せない、いや、外させない」
強制である。妹の犬好きにも困ったものだと苦笑いしながら、他に寄る所を検索していると、咲から掛川にある『たかくら』というお茶屋さんに寄って、お茶を買ってくるように言われた。道中なので断る理由もなく了承し、あれこれと議論しているとあっという間に夜は更けてしまっていた。
リン『また行くぞ、ワンコ寺参り』
ケン『ワンワン!』
なでしこ『いいなぁ!ワンコ寺!写真送ってね!』
リン『うい〜、行くぞケン』
ケン『ワンワン!』
なでしこ『ケン君も行くんだ?』
リン『うむ、暇そうにしてたから連行することにした』
ケン『え?リンが行かないかって誘ってきたんじゃ……うわリンなにをくぁせdrftgyふじこlp』
なでしこ『け、ケン君?』
ケン『犬とお呼びください』
千明『なんだよ、やっぱり志摩犬じゃんか』
ケン『ガルルル!!ガウガウ!』
千明『やんのかこのやろー!』
なでしこ『気を付けてね、二人共!』
リン『うむ』
ケン『ま、土産期待してろ〜。だがメガネ、テメーはダメだ』
千明『( ´゚◞౪◟゚`)』
12月31日
未だ日も昇らず、真っ暗な時間。
志摩家の前で二人の子を咲が見送りに出ていた。
「じゃ、気をつけてね?しっかり安全運転するのよ」
「わかってるよ。こまめに休憩も取るし」
「一応意思疎通出来るようにインカムも買ったしね。前に比べたら走りやすいと思う」
「ならいいけど……」
「じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「は〜い」
師走の末
志摩兄妹初めての二人キャンプが開始となった。
ゆっくりと先行し、ビーノに合わせて2速で走行していく。こんな暗いうちから走れば、前なら寒さで凍えていただろうが、首に巻いているマフラーが何より温かい。早朝から走るという、普段からやらない行動ということもあり、変なテンションで笑みが自然と溢れてしまう。
『流石に寒いね』
少し震える声でインカムからリンの声が聞こえる。
「そうか?俺はそうでもないよ?特に首周り」
『バカップル』
「褒めるな褒めるな」
『呆れてんだよ』
しかし、こうして走りながら会話ができるというのは安心できる。クリキャンの時は、後ろからちゃんとついてきているか心配で、何度もサイドミラーを見たものだ。
だがインカムがあれば、休憩したいときや緊急時にすぐさま伝達できる。有るのと無いのとで違いは大きい。
雑談しながら走っていると、あっという間に内橋駅の直ぐ側の南部橋東詰の信号までやってきた。
赤信号で停止し、右手を見れば南部橋。この橋を超えた先になでしこの家がある。
今頃すやすやと寝ているのだろう。少し会えない寂しさに浸っていたときだった。
「ケンく〜ん!リンちゃ〜ん!」
右後方から元気な声が二人を呼び止める。振り返れば、会いたいと思っていた少女が、手を振りながらコンビニからこちらへ駆けてきていた。
エンジンを停止し、二人は歩道に停車すると、なでしこは追いついてきた。
「おはよう!これから行くの?」
「ワンワン!」
「いつまで犬なんだよ……そう言えば家、この近くだっけ?」
「リンはまだ行ったこと無かったか。なでしこは今からバイト?」
「うぅん、まだなんだけど早く起きちゃって。休憩時間に食べるおやつ買ってたんだ!」
確かに彼女の持つナイロン袋におやつは入っている。しかし量がLサイズの袋にパンパンに入っている。よもやこれで一日分だろうか?
「あっ……はい!これ!」
袋から取り出して二人に差し出してきたのは、カレー麺とシーフード麺だ。
「旅のお供にどうぞ!差し入れだよ!」
「……、ありがとう」
「二人共、気をつけてね。」
「うん、バイト頑張って」
「ありがとな、なでしこ。なんかちょっと出発前に声聞きたかったんだ」
「私もだよ。しばらく会えてなかったから余計にかな?」
「……かもな?バイト頑張るのはいいけど、風邪、引くなよ?」
「引いたらまたケン君がお見舞い来てくれるから、存外風邪も悪くないですぞ?」
「おいまじか」
「ふふっ、年越しキャンプ、楽しんできてね!」
「うん、なでしこもお婆ちゃんの家、楽しんでこいよ!」
「えへへ……浜松の幼馴染の子も来るからすごく楽しみにしてるんだ!ケン君紹介したいんだけど、流石に年末年始だからね〜」
「その内機会はあるさ。……じゃ、行ってくる」
「うん!いってらっしゃ~い!」
昇る朝日に照らされながら、2人は直進して南下する。
自分の生まれ故郷へ旅立つ二人を、なでしこは見えなくなるまで手を振って見送っていた。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
-
未来の子供達のほのぼの生活
-
ケンとなでしこのいちゃいちゃ
-
お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
-
いつメンのキャンプ