リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「よし!先生の許可もとったし、ここをキャンプ地とする!」
「テント建てたら下校前には撤収やけどな」
野クルと体験部員のケンは、ジャージに着替えて、中庭へと繰り出していた。
先刻、落葉焚をしようと意気込んでいたなでしこだったが、つい先日に落葉焚をしたばかりであったため、落ち葉がないことに落ち込んでいた。
このままなでしこのキャンプ熱が収まり、やっぱり野クル入るのをやめるとなれば死活問題である千明とあおいは、どうすれば機嫌が直るのか思案する。
そういえば、買っておいた格安テント(¥980)を建ててみないか?という千明の案に、再び目を輝かせたなでしこ。ならば善は急げということで冒頭につながったのである。
そして袋の内容物を取り出して地面に広げて部品を確認していく。さて、あとは組み立てていくだけだというとき、千明はケンの背を叩いて言う。
「じゃ、経験者たるシマケンに指南をしてもらうぞ!皆、心して聞くように!!」
「押忍!」
「あ〜、悪い。この手のテントは組み立てたことないんだ」
「ゑ?」
「これ、ポールを二本、中に通して骨組みにするやつだろ?俺が組み立てたことあるのは、じいちゃんのワンポールか、リンの吊り下げ式くらいなんだよな」
「Oh……」
「で、でも、説明書読みながらやったら私らでも出来るて!当たって砕けろやで!」
「砕けたら駄目だろ!野クル唯一のテントなんだぞ!」
そんなこんなで気を取り直して設営に取り掛かる。
流石に中庭でテントを建てようなどと今までになかった光景のため、窓や廊下から何事かと他生徒の注目が集まっていた。
「ポールを繋いでいって……三・節・棍!!」
「三節ゆうに超えとるで」
そしてそれは中庭に面した窓がある図書室からも丸見えだった。
「あいつ……この学校に転校してきたのか……ホントに漫画やアニメみたいだな」
志摩リンである。
図書委員として受付で座っていると、向かいが窓のため、否が応でも目に入っていた。その中に、一昨日出会ったなでしこも混じっていることに少々驚きもした。
そして何よりも、
「ていうかケンのやつ、野クルに入ったのか?」
自身の双子の兄が、えっちらおっちらと野クルの手伝いをしていた。
入学してからバイトのために部活は帰宅部を専攻していたのに、どういう風の吹き回しだろうか。
兄の読めない行動に頭を抱えるリンのその髪をイジる一つの影。
リンの中学生時代からの友人である斉藤恵那だ。
「相変わらずお兄ちゃんっ子ですなぁ、リンは」
「ち、ちげーし」
「じゃあ、テント建ててるのが気になるの?」
「それも違う」
「リン、ああいうの得意なのにね……っと、出来た!九条カレンヘアー!」
「色々危ないからヤメロ」
そんな二人のやり取りの中でも、外のテント張りは着々と進んでいくわけで……。
テント本体上部のスリーブに三節棍……もといポールを通し、本体の四隅に固定する。
しかし、
「ぐぬ……!これ……かった!」
「がんばれ!アキちゃん!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
ボギャア‼
「折れたァァァ!!」
「イヌコがフラグ建てるから!!」
「えぇ!?私!?」
予想だにしないことに右往左往する野クルメンバー。
そんな4人を、リンは図書室から静かに眺める。
「あらら……折れちゃったみたい。あぁなったらどうするの?」
「買い換えるか、メーカーに修理に出すかだな。それか、補修用の金具で応急処置するか」
「補修用の金具?」
「こんな奴」
リンがスマホで検索すると、正に鉄のちくわみたいな金具の画像が表示される。
「これに折れたところを両側から通して、ガムテープかなんかで固定すれば、当面は大丈夫だと思う」
「それって、こんなやつ?」
そう言って恵那が取り出したのは、正しくリンが言うその金具である。
「なんで持ってるんだよ?」
「図書室の落とし物入れに入ってたから」
「なんで入ってるんだよ?」
「ほらリン。詳しいんだから行ってきて手伝ってあげなよ。で、お兄ちゃんに甘えて来なって」
「甘えるって、ケンにそんなことしねーし。てか、面倒くさい」
「というと思ったよ。じゃ、私が行ってくるね〜」
「うい〜」
そんな感じで恵那が野クルをレスキューすべく図書館を後にする。
「お節介焼きなやつだ」
ややあって。
恵那が中庭に現れる。その手には応急用金具と、職員室か何かで借りてきたと思われるガムテープ。
リンの教えたとおりにあれよあれよとポールを補修し…
「「「「できた〜!!」」」」
なんとか野クルテント、完成と相成った。
「おぉ!!980円だけど、ちゃんとテントしてる!!」
「素材は値段相応だけどな」
「ありがとうな、斎藤さん。助かったわ」
「いえいえ〜、リンがお兄ちゃんが困ってるから助けてあげて〜って頼んできたからね〜」
恵那が図書室の窓を見れば、受付の席から心配そうに見ているリンの姿。気付かれたと判断するやいなや、そそくさと読んでいた本へ視線を戻して誤魔化す。
「ふっ……素直じゃねぇ妹だな」
「お、おぉ〜!リンちゃん!ホントに一昨日の子だ!!」
そしてなでしこはというと、本栖湖で出会った少女が目の前にいることに目を輝かせ、テンション爆上げとなる。
そして彼女程の行動派のテンションが上がるとどうなるか。
「ホントに同じ学校だったんだね!!」
ダッシュ。
目標をロックオンした猛獣はもう止められない。
獲物へ向かって走り出した獣は、傍目を気にせずに突進する。自身の射程距離まで間合いを詰めるために。
「この間はありがへぶっ!!」
だがしかし、
悲しいかな。中庭と図書室を隔てる窓ガラスを考えずに突っ走った彼女は、もろに顔面をガラスにぶつけることとなった。
「お〜い、大丈夫か?各務原」
「はながいだい……」
まぁそうなるわな、と呆れながらも、蹲るなでしこを案じて、4人は駆け寄る。
無論、素直じゃないリンも、慌てて駆けつけて窓を開ける。
「お、おい、大丈夫か?」
「ら、らいりょうふらよ、リンひゃん……」
涙目になりながらも、ぎこちない笑みを浮かべる。鼻血が出ていないことを見るに大丈夫そうらしく、そう時間は経たずに復帰するなでしこ。
「改めてリンちゃん!この間はありがとう!」
「うむ……カレー麺代1500円払いに来たか」
「へゔ!?さ、30回払いでなんとか……」
「増えてるじゃん。……冗談だよ。こっちこそキウイありがとう。お姉さんにもお礼を言っといて。じゃ」
「あ!リンちゃん!リンちゃんも野クルに入らない?一緒にキャンプやろうよ!」
「やだ」
「えぇっ!?」
そう言うだけ言って窓を閉め、図書委員の仕事へ戻っていったリン。
上がりに上がったテンションの支点が折られ、ガックリと膝をつくなでしこ。
どうしたものかと少しオロオロする野クルの二人。
「各務原、ごめんな。リンのやつ、グループキャンプより、1人で静かなソロキャンプの方が好きなんだよ」
「そ、そうなの?」
「ん。ソロキャンプが好きだから、その時間を脅かされたくないんだと思う」
「そ、そっかぁ……」
なでしこからしてみれば、キャンプに興味を持つきっかけとなったリンと一緒に、ちゃんとキャンプしたかっただけなのだろうが、それがリンとは噛み合わなかったのだろう。
「じゃ、無理に誘うのもリンちゃんに悪いね」
「まぁ、キャンプ以外で好感度を稼げば、終いにゃデレるさ」
「……好感度?」
「自分の妹をギャルゲーの攻略対象みたいにしたんなや」
そんなこんなで、
なでしこ転校一日目は、そこそこの波乱に満ちたものとなったのだった。
同週金曜日 夕方 志摩家
「ただいま〜」
「お帰り、リン」
帰ってきたリンを出迎えたのは、煎餅を食べながらこたつで寛ぐ兄の姿だ。
今日、彼は学校を休んでいる。と、言うのも、病欠というわけではない。ピンピンしてるし、リン曰く、風邪なんか引いた記憶もない。かと言って仮病でズル休みしたわけでもない。
「で、どうだったのお兄ちゃん」
「フッフッフッ……!よくぞ聞いてくれた、我が妹」
「何だこのノリ……」
「しかと目に焼き付けろ!この今日の成果を!!」
そう言ってケースから取りだしたのはカード。顔写真付きの。
そう、それは躍起になって取ろうと頑張っていたもの。
つまり、
「普通二輪免許、合格したぜぃ!」
中型バイクの運転免許である。平日しか試験がないため、致し方なく学校を休んで受けたのだ。
「へぇ…一発合格できたんだ」
「正直、受かるかどうか不安だったけどな」
「まぁでも、良かったじゃん」
「リンも、原付の試験……来週だっけ?頑張れよ」
「ん、まぁなんとかなると思う」
「お互い二輪が来たら峠を攻めに行こうな」
「悲惨な未来しか見えんわ」
コーヒーを入れたリンもこたつに足を突っ込む。まだ秋の最中とはいえ寒いものは寒い。こたつの暖かさがリンを駄目にしていくのが実感できる。
「明日もキャンプ?」
「うむ」
「どこまで?」
「富士宮市の麓キャンプ場」
「静岡キャンプか。また遠いとこまで行くなぁ」
「もう慣れたよ。原付乗り始めたら長野にも攻めに行くつもり」
「いずれじいちゃんの家まで原付で行きそうだな」
「あ〜、それもいいかな」
「……おいまじか」
どうも妹の距離感がヤバい感じがして仕方ない。兄としてはもう少し近場で慣らしてからのほうが良いのではないかと思ってしまうのは、兄心というものなのだろうか?
「あと、麓キャンプ場でキャンプめしを作ろうかなって」
「お、とうとうカップ麺を卒業か」
「うむ、飽きてきた。ちなみに簡単なキャンプめしって無い?初心者でも作りやすいの」
「ん〜、スキレットがあれば肉焼いて食べるだけでも美味いんだけどな。俺もスキレットは持ってないし」
「私もコッヘルしか持ってないしな」
「なんなら、行き掛けのスーパーに寄って、売ってあるものを見ながら考えるのも楽しいかもな」
「それ、行きあたりばったり過ぎない?」
「それもキャンプの醍醐味だってじいちゃんも言ってただろ」
「まぁ……確かに」
今もどこかをバイクを走らせ、キャンプを堪能しているであろう祖父。何が起こるかわからない、そんなハプニングも楽しむことがキャンプの醍醐味だと、二人がキャンプに興味を持ち始めた頃に教えてくれた言葉だった。
「まぁ、何とかやってみるよ」
「ん、頑張れよ。後、念の為にカップ麺は持って行っとけよ」
「え〜、飽きてきたのに?」
「万が一に備えるのも大事だぞ。失敗したときの保険みたいなものなんだからな」
「うい〜」
そんなこんなで、
志摩家の週末がのんびりとゆる〜く始まった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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