リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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またせたなぁ……!


第七話『鰻と、なでしこの幼馴染』

小腹を満たし、浜名湖の周囲を走っていたケンは、日が傾き始めたところでリンと合流。キャンプ場近くにある『弁天楼』という入浴施設でまったりと風呂を満喫する。

どうやらリンはあれからずっと弁天島海浜公園で読書をしていたらしく、互いに冷えた身体をしっかり温めていく。

 

『……極楽だった』

 

ほこほこと上気した顔で入浴の余韻に浸りながら、休憩室でだらりと過ごす。

特には時間に急ぐ必要もなく、ただただ自由な時間だ。

 

「お兄ちゃんはどこまで走ってたの?」

 

「浜名大橋を北上して西側をぐるっと走って、んで浜名バイパスを走ってきた」

 

「くっ!スクーターで走れねぇとこ行きやがって……!」

 

「中型免許取ればいいじゃん」

 

「……考えとく」

 

「俺は読書はあんまりしないから、まぁ互いに好きな時間を過ごせてある意味正解だったな」

 

「……そうだな。浜で一日本読んで、温泉に浸かって、贅沢な時間の使い方ができたよ」

 

「うむ……んぉ?」

 

丁度もうすぐ日の入りという時間。

浜の方を見れば、一箇所に人が集まっている。ちょっと気になる光景に、二人は浜辺と繰り出す。

皆が夕日を見ている……にしては、一箇所に人集りができている状態だ。

 

「すみません、みなさん何をしてるんですか?」

 

最後列にいた男性に、リンは思い切って尋ねることにした。

 

「あぁ、皆赤鳥居に日が沈むところを見ているんですよ」

 

「赤鳥居って……あの湖のど真ん中のアレですか?」

 

「えぇ。この季節になると、ちょうど鳥居に夕日が重なって綺麗でね」

 

なるほど確かに、皆が見ている位置からだと、沈みゆく夕日がまるで鳥居の中へ吸い込まれるようにゆっくりとその姿を隠していくように見える。

 

「初日の出見て……日の入り見て……本当にのんびりした元日だったな」

 

「だな。しかも両方鳥居からっていうのがちょっと縁起がいいな……」

 

「……今年もよろしくね、お兄ちゃん」

 

「こちらこそ、よろしくなリン」

 

初めての兄妹二人だけの元日。

予想に無かった過ごし方だったけど、それも全然悪くなく。

ほんの少し、ほんの少しだけ雪と凍結に感謝しながら、二人の元日は終わりを迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝 山梨県 南部町 各務原家

夜も明けぬ内に一部屋に賑やかなアラームが鳴り響く。

だが暫く待てどもその部屋の主は全く起きようともせず、代わりに先に起きていた桜が第二のアラームとして部屋の主たるなでしこを起こしにかかる。

 

「なでしこ、時間でしょ?起きなさい」

 

「んん〜……」

 

この姉、実を言うとアラームで起きないであろうなでしこを直接起こすために、予め先に起きてずっとスタンバっていたのだ。

なんだかんだ、やはり妹に甘い姉である。そしてなかなか起きない妹の鼻を摘んでしっかり覚醒させるあたり、厳しさも持ち合わせていた。

 

 

 

 

「私達は明日車で行くから、乗り換え間違えるんじゃないわよ」

 

「うん!」

 

「お土産忘れてない?」

 

「持ったよ!」

 

「スマホは?」

 

「大丈夫だよぅ!」

 

やはり妹が心配である。何度も確認しなければ、姉として気が気じゃないようで、なでしこからも流石に苦笑いを浮かべられる。

ブーツを履き終え、玄関から元気に飛び出すなでしこを追うように玄関先で見送る桜。

 

「じゃあ行ってくるね!お姉ちゃん!」

 

「いってらっしゃい。リンちゃんと愛しのケン君によろしくね」

 

「へぶっ!?」

 

いざ出発!と踏み出したなでしこだが、姉のふとしたからかいに躓き、物の見事にずっこける。

 

「……何やってんのあんた」

 

「お、お姉ちゃんが変な事言うからだよぉ!」

 

「別に変なこと言ってないわよ?愛されてるものね?」

 

「あ、あわわ……!」

 

本当にからかいがいのある妹である。

先日のお食事会以降、なんだかんだこうやってイジってきている桜に、中々耐性がつかないなでしこ。

ホントに恋する乙女そのものである。

 

「ま、とにかく気を付けてね。アヤちゃんにもよろしく言っといて」

 

「う、うん。行ってきます」

 

再び出発するなでしこを見送りながら、桜は一息。

やはり心配だ。

ラシーンで追跡しようかという案が頭の片隅に浮かぶほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移り、渚キャンプ場の志摩兄妹

 

ゆっくりとテントで休んだあと、朝食はなでしこから貰ったカップ麺で済ませる。

ちなみに、

シーフード派であるケンとカレー派であるリンとの間で、小規模な小競り合いが起きたのは別のお話。

だが寒空の下、外で食べるカップ麺は絶品であることには変わりなく、二人共食べ終わる頃には満足そうな顔を浮かべていた。

そして早目にキャンプ場をチェックアウトし、昨日ケンが通ったルートをなぞるように舘山寺を目指してバイクを走らせること三十分。

 

「舘山寺到着っと」

 

早速リンのリサーチしていた『苺のきらめき』を販売している『しず香』を目指して歩いているわけだが。

その道中からとんでもないプレッシャーが二人を襲い来る。

そう、それはそこかしこにある看板に描かれた浜名湖名物の鰻。

ウナギ。

UNAGI!!

 

「う、うなぎの圧力が……!けどそんなの食べたら財布が即死してしまう……!あっ!」

 

「どした?変な声出して」

 

「お兄ちゃん!」

 

「な、なに?」

 

「うなぎ食べたい!妹にご馳走して!」

 

「お前は俺の財布を抹殺する気か!?」

 

鬼のような提案をするリンに、正直ケンはドン引きだ。

ケンもケンでそれなりにバイトで稼いではいるものの、バイクを買って、キャンプギア購入や、クリキャンでのプレゼント購入で結構散財してしまったので、そこまで大きな余裕がない。ここでうなぎを奢ろうものなら、帰りのガソリン代が危うくなる可能性も見えてくる。

 

「……と、ここだな」

 

「早く来すぎたか?並んでるのかと思ったけど……」

 

だが店に貼られた整理券を取る指示の貼り紙。

そして取った番号は『23番』。どことなく嫌な予感がする。

 

「あと5分で開店が……」

 

「……ん?」

 

後少しで開店という時間に、何処からかぞろぞろと、まるで湧いてきたかのように客が店の前に集合し、その様相はまるで満員電車さながら。

 

「く、車の中で待ってたのか……!」

 

「伏兵とは……!」

 

「おはようございます!」

 

店の入口が開き、店員さんが皆に聞こえるように声を張り上げた。

 

「これから苺のきらめきの注文を承りますので、個数をお教えください!」

 

早くこの人混みから逃れたい二人。

だがいざ注文が始まると、二人はある危機感に見舞われることとなった。

 

「五十個ください!」

 

おぉ、いきなり大量注文する人もいるものだと感心する二人。

だが、

 

「私も五十個です!」

 

「「えぇっ!?五十!?」」

 

更につづく五十個コール。

まるで山彦のように響くそれが、整理券の番号通りなら二十二人続く!つまり千個飛ぶのだ!

 

「そ、そんなに買うものなの!?」

 

「ちょ……ちょちょちょ……!!

 

ちょっと私達の分も残して!五個でいいからぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐久米駅到着っと」

 

「まだ昼前なのに疲れた。シュラフで寝てもいい?」

 

「風邪引きたいならいいよ」

 

苺のきらめき争奪戦(大げさ)に辛勝し、戦利品を得た二人は、なでしことの約束の地である佐久米駅へと辿り着いた。

 

「ケンく〜ん、リンちゃ〜ん!」

 

「お、ナイスタイミングだな」

 

「うむ、計 画 通 り」

 

ちょうど着いた電車から降りてきたらしいなでしこが駅から二人の方へ駆けてくる。

 

「あけましてございます!今年もよろしくおねがいします!」

 

「こ、こちらこそよろしくおねがいします」

 

「今年もよろしく、なでしこ」

 

「うん!」

 

相変わらず笑顔が眩しいやつである。

 

「あ、そうだ!二人共こっちこっち!面白いのが見られるよ!」

 

「「面白いの……?」」

 

そう言ってなでしこは出てきた駅へと再び戻っていく。そのまま駅を抜けてホームへと駆けていく彼女を追って、二人も中へ。無人駅だから切符を買わなくてもホームへ抜けられるようだ。

そしてホームへ足を踏み入れた瞬間。

 

「うわっ!」

 

白いなにかが羽ばたき、思わずリンは驚きの声を上げてしまう。

目の前に広がっていたもの。

それは浜名湖に面したホームに群がる大量の白い鳥だった。

 

「こんなにたくさん……?」

 

「かわいいでしょ?ユリカモメ。冬になると沢山集まってくるんだよ」

 

「へぇ〜……人慣れしてるなぁ……」

 

1メートルもない側で写真を取るリンだが、そのシャッター音にも物怖じせずに居座るユリカモメ。

その愛嬌のある容姿に、リンは釘付けだ。

 

「どう?ケン君、すごいで……しょ……?」

 

なでしこは言葉を失った。

彼の方を見れば、肩やら頭に所狭しと止り木代わりにされていたのだ。

 

「人馴れしてるとはいえ……馴れ馴れしくないか?こいつら」

 

「たまにそういう人いるんだよねぃ」

 

「似合ってるよ、お兄ちゃん」

 

「こんな奇抜なファッション、遠慮しとく」

 

そしてやって来る電車。ユリカモメを轢いてしまわないよう、警笛を鳴らして飛び立たせている。そんな大量のユリカモメの羽ばたきの波に巻き込まれ、佐久米駅に三人の変な笑い声が木霊した。

 

 

 

 

 

「なでしこ、ここからおばあちゃんの家まで近いの?」

 

「う〜ん、歩いて20分位かな?」

 

「大体1〜2キロくらいだな」

 

「あ、でもその前に、お昼食べてかない?すぐそこに美味しい鰻屋さんがあるんだよぅ!」

 

『えっ!?UNAGI…!?』

 

二人に舘山寺で感じたプレッシャーが再燃する。

誘ってもらった所でリンの所持金は1290円。ケンは2560円。足りない分を補完したとしても、食べられる所持金はもちあわせていない。

そんな二人をよそに、スタスタとその美味しい鰻屋さんとやらに向かっていくなでしこ。

ホントにすぐそこだったようで、二人が鰻のプレッシャーに圧されていた間に到着してしまうほどに近かった。

 

「こんにちは〜!」

 

と、元気よく入っていくなでしこ。

そして圧倒的所持金不足の二人が引き留めようとするが、ここでリンに電流走る。

 

「お、お兄ちゃん。考えたんだけど……」

 

「な、なんすか?」

 

「もしかしたらお手頃価格だったりするのかも」

 

「ど、どゆこと?」

 

「浜名湖は鰻の名産地!だから輸送費がかからない分、他よりきっと安いんだよ!」

 

「なるほど!そうか!」

 

「「そうに違いない!鰻が食える……!!」」

 

そんなアホな理論を打ち立てて納得し、意気揚々となでしこを挟むように席に座る二人。

店内に漂う焼き鰻の香りに包まれて、恍惚とした表情を浮かべる志摩兄妹をよそに、なでしこが迷わず特上三人分を注文する。

特上という単語に反応して現実に戻った二人は、お品書きを見て目玉が飛び出た。

 

『特上 四〇〇〇円』

 

圧倒的ッ!圧倒的金不足ッ……!

 

何をどうしてもお金が足りない二人は、まるで壊れたブリキ人形のようになでしこを挟み睨む。だがなでしこは余裕の表情そのもの。いくら彼女がのほほんとしているとはいえ、金銭感覚がアレなことはないだろうと。

そう思っていたのに……!

どうする!?この金銭不足の状況をどう切り抜ける!?ケンとリン、二人の所持金を合わせても特上一人分に届かない。

なでしこがどれだけ持っているかはわからないが、カバーしてもらうわけにもいかない。

かといって口座にお金があるわけもなし。

結論

\(^o^)/オワタ

 

「大丈夫!!」

 

絶望に打ちひしがれる二人を察してか、なでしこが懐から『最も権力のある紙切れ』を2枚、ドンと机に叩き出す。

それは『学問のすゝめ』の著者と、『たけくらべ』の著者。

つまり一万円札と五千円札!

 

「お代は私に任せて!」

 

「「え……?」」

 

「二人がおばあちゃんち来るってウチのお父さんに言ったら……」

 

『なでしこの恋人と、お世話になってる友達だからな!そいつで浜名湖の鰻を食らわせてやるんだぞ!』

 

「ってお金出してくれたんだよ!と、言うことだから、心配せず味わってくれたまえ!」

 

「「ご、ご馳走様です……!」」

 

なでしことの仲を認めてくれただけでなく、こうして美味しいご飯をご馳走してくれるよう取り計らってくれる修一郎に、ケンは改めて感謝の念に絶えない。

そうこうしていると、3人の注文分である鰻を店員さんが調理を始める。

ぬめぬめした鰻をしっかりと引っ掴み、慣れた手付きで捌いていく。まさに熟練の技。

串打ち三年、割き八年、焼き一生。

そんな鰻屋の熟練までの年数の目安があるように、その手際に辿り着くまでの道のりが伺える。

そして……

 

「特上お待ち!!」

 

蓋を閉じられた重箱とお吸い物、そして漬物の小鉢が運ばれてくる。

三人分揃ったところで蓋を開ければ、香ばしい香りとともに、赤茶色のタレで焼かれた鰻が!まさに鰻重と紛うことなきその風貌が目に飛び込んでくる。

 

『おぉ〜……!』

 

「じゃ、食べよっか!」

 

『いただきます!』

 

鰻に箸を入れれば、表面がカリッと焼かれた感触。だがそれはすぐに無くなり、ふんわりとした感触が続いてやってくる。

手頃な大きさに切り、口へ運べば、まさに至福の時が訪れる。

サクッとした食感、炭火で燻された香ばしい風味、タレのコク、鰻の脂の旨味。

それらが一体となって口の中いっぱいに広がっていく。

 

「おいしいねぃ〜」

 

なでしこもなでしこで美味い鰻ということで、満面の笑みだ。リンもケンも言葉が出ず、ただ頷くしかできない。

今まで食べた鰻重とは比べ物にならない程に、この鰻重は旨すぎた。

一口食べるごとに更新される幸せ。

味の桃源郷がここにはあった。

 

(だめだ……こんな味を覚えたら……また浜名湖まで来なきゃいけなくなる……!)

 

(旨い……ただひたすらに旨い……!クリキャンのすき焼きや、なでしこの担々餃子鍋とはまた違ったベクトルの旨さだ!すき焼きは牛の旨味もさることながら、皆で食べるというシチュエーションでの旨さ……!なでしこの担々餃子鍋は、元々の旨さに加えて寒空の下での温かな鍋という相乗効果による旨さ……!だがこの鰻重は、ただひたすらに旨さだけで勝負してきている……!これは……もはやただ胃を蹂躙する旨さの暴力……!旨い……!ただその言葉が全てを物語る……!)

 

「ぷはぁ……!」

 

「ってもう食い終わってるし!?」

 

既にアガリのお茶を飲んでいるなでしこの胃袋は、相変わらずおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ご馳走様でした!』

 

鰻屋を後にした三人は、なでしこの祖母の家へと出発する。その口内には未だ鰻の味が余韻を残しており、妙な幸福感に満たされていた。

そして佐久米駅から浜名湖沿いに西へ歩くことしばし。

 

「あそこがおばあちゃんちだよ!」

 

道沿いにひっそりと建つ平屋の家があった。

玄関の横に押していたビーノとGSXを駐車。ふと、祖母の物であろう自動車の影に、生産終了となったモデルのエイプ100が目に止まった。何となく、珍しく思いながらも、いまは挨拶が先だと玄関へ。

揃ったところでなでしこが玄関を開ける。

 

「おばあちゃ〜ん!来たよ〜!」

 

「「お、お邪魔します」」

 

そう呼べば程なくして、黒猫を抱いたなでしこの祖母が出迎えてくれた。

 

「あら〜、いらっしゃいなでちゃん!」

 

「おばあちゃん!あけましておめでとう!」

 

「おめでとう。リンちゃんとケン君も、山梨からよく来たね!」

 

「は、はじめまして」

 

「本日は、お世話になります」

 

などと挨拶をしていると、もそもそと居間から芋虫のように出てくる人影が。

 

「ん〜なでしこ〜久しぶり〜」

 

それはせんべいをくわえ、少し気怠げな雰囲気の少女だ。

ケンは何処か彼女に既視感を覚える。

 

「アヤちゃんもう来てたんだ!あ、この子は土岐綾乃ちゃん。私の幼馴染だよ」

 

「はじめまして〜……あれ?おに〜さんのほうは……昨日のお客さん?」

 

「そういう君はコンビニ店員さん」

 

「え?なに?ふたりとも知り合いなの?」

 

妙な巡り合わせがここにあった。

 

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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