リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第八話『なでちゃんのほっぺと、バイク乗りの性』

改めてなでしこ祖母宅の居間へと入り、こたつへと足を突っ込む綾乃。

それに続いて三人も居間へ。

 

「なでしこが撮ったキャンプ写真で良く見てるよ、二人共」

 

「ど、どうも」

 

「アヤちゃん、ケン君とどこかで会ったの?」

 

「昨日の昼飯買いに行ったときのコンビニ店員さんだったんだ」

 

「私も珍しく正月から同い年くらいの人がバイクで出かけてたのが珍しくて、つい話しかけちゃってさ」

 

「まさかこんな偶然あるとは思わんかった」

 

「世間て狭いよね〜」

 

「さあさ、皆おこた入んなさい、寒かったでしょ」

 

「うん!そうする〜!」

 

さて、ここで問題が一つ。

こたつは四角だ。

で、今ここにいるのは五人。

全員が足を突っ込もうとすれば、どこかで二人が密着する形になるのだが。

 

「えへへぃ……」

 

「まぁ、こうなるか」

 

なでしこがケンと隣り合う形でコタツに当たることになった。

 

「ホントに付き合ってるんだ?なでしことケン君」

 

「そうなんですよ奥さん!」

 

「『恋人出来たよ〜』ってメッセージ来たときは、『あのなでしこに?』って思ってたくらいだもん」

 

「え〜?そんなに信憑性ない?」

 

「だって、なでしこは恋愛よりも食欲を満たす方に走りそうだからね〜」

 

「「物凄くわかる」」

 

「もうっ!ケン君もリンちゃんも納得しないでよ!……あ!うなパイ!しかもナッツ入りのやつだ!」

 

こたつの上に置いてあったうなパイを目聡く見つけるあたり、綾乃の言い分もあながち間違ってはいなさそうだ。

 

「アヤちゃんが持ってきてくれたのよ。なでちゃんが帰ってくるからって」

 

「ありがとう!アヤちゃん!」

 

「一人で全部食うなよ〜」

 

そして早速開封し、一つ取り出してかじりつくなでしこ。サクッという心地よい音が部屋に響く。

 

「んまぁ〜……!」

 

至福の笑顔である。

 

「ホントなでしこって美味しそうに食べるよね〜」

 

「「わかる」」

 

「さほど美味しくないものでも、なでしこが食べてると『一口頂戴』って言いたくなるの」

 

「「物凄くわかる」」

 

あっという間に一枚平らげて、次を喰らい始める静岡の猛獣。

 

「さっき昼飯食ったばかりなのにな〜……と、そう言えば手土産があったんだ。おばあさん、お茶を入れるの手伝います」

 

「あらあら、なでちゃんの恋人さんに悪いねぇ〜……」

 

「い、いえ」

 

折角大枚をはたいて買った良いお茶があるのだ。美味しい入れ方を教わった訳だし、ここは一つ、皆を蕩けさせるのも良いだろう。

 

「あ、でもさ、前はも〜っと美味しそうに食べてたんだよ?」

 

「前?」

 

綾乃がスマホを操作し、写真フォルダからとある画像データをリンに見せてくる。

そこに写っていたのは、学校の机の上に大量のパンやらなんやらを広げ、それを満面の笑みで頬張るなでしこ。その身体は大福のように、実にまるまるふっくらしたものだ。

 

「えっ!?これいつの写真!?」

 

「中1の頃。なでしこのお父さんが食べるの好きな人でさ〜。一緒に沢山食べてたせいか、中3の頃まで丸かったんだよね〜」

 

「中3て……一年でどれだけ痩せたの?」

 

「ん〜、中3の夏休みにお菓子食べてずっとゴロゴロしてたら、お姉ちゃんがついに怒ってね〜」

 

『いい加減食うのをやめろ豚野郎!!』

 

「それで毎日浜名湖を自転車でぐ〜るぐるさせられてたんだよね」

 

「あのときはお姉ちゃんが鬼に見えたよ……」

 

桜なりになでしこの身体を心配してのことなのだろう。そのためにはしっかり鞭を振るってくるのだから、文字通り愛の鞭である。

 

「でもおかげですっかり痩せて体力ついたじゃん」

 

「えへへ……そうなんだけどね」

 

「でも私は丸っこいなでしこが美味しそうに食べてるの好きだったけどな〜」

 

ここでリンはなでしこのバイタリティの高さの理由に合点がいった。出会ったあの日、南部町から本栖湖まで自転車で漕いでいく体力の高さは、桜ブートキャンプの賜物だったのである。

 

「ま、痩せてもほっぺの柔らかさは変わんないね〜」

 

綾乃がなでしこのほっぺをつまめば、まるでつきたての餅のように伸びた。

あまりの伸び具合に、リンが思わず目を見開くほどだ。

 

「リンちゃんもやってみ?」

 

「う、うん」

 

みょ〜ん……

 

「力全然入れてないのに、やらかい」

 

「私も」

 

なでしこの祖母まで参加。左右から頬を引き伸ばされ、傍から見れば罰ゲームか何かのようだが、本人は嬉しそうである。

 

「ケン君もやってみなよ」

 

「俺も?」

 

仕出した玉露を湯呑に入れ、皆に配っていたケンにも飛び火してきた。

確かに魅力的な柔らかさだと見てわかる。

だがいくら彼女とはいえ、そうそうそんなスキンシップをとっても良いものかという葛藤もあるわけで……

 

「別に恥ずかしがらんでもいいんじゃない?恋人なんだしさ〜」

 

「う、うむ……じゃ、なでしこ、失礼するぞ」

 

「ど、どうぞ……!」

 

きゅっと目を閉じて恥ずかしそうにする彼女の頬を優しくつまみ、軽く引っ張る。すると本当に柔らかな餅という例えがピッタリ当てはまるかのようによく伸びるのだ。

 

「お、おぉ……!」

 

妙な感動を覚える触感に感嘆の声が漏れてしまった。

これは病み付きになりそうな柔らかさ。

女子の肌というものをまじまじと触ったことがないチェリーボーイのケンには未経験の感触。

 

「これは癖になりそう」

 

「でしょ〜?」

 

「これは良いものだ。ありがとう、なでしこ」

 

「う、うん」

 

「これから定期的に触らせてもらいなよ?恋人同士なんだから、こ〜ゆ〜スキンシップも良いんじゃない?」

 

「ま、ただやりすぎは注意しろよ。見せつけられる方にとって糖分過剰摂取は勘弁だからな」

 

「「肝に銘じておきます」」

 

「さあさ、話が落ち着いたところでお茶を頂きましょ。ケン君がいいお茶入れてくれたんだから」

 

「うむ、味わわせてもらおうか。最高級のお茶……その風味とやらを……!」

 

そして皆一口含み、その表情はとてもだらしのないものへと変わってしまった。

 

「うまぁ……!」

 

「うむ、相変わらずこれは蕩ける……!」

 

「程よい温かさでいいねぃ……!」

 

「美味しいお茶ねぇ……淹れ方が変わってたからかしら……」

 

「お店の人が、低めの温度……50〜60度の温度で仕出したら美味しくなるって言われたので、そうしただけですよ……」

 

「私も今度買ってこよ……」

 

こたつの効果も相まって、今が異様なくつろぎ空間へと変貌していた。

 

 

 

 

 

「………ジー」

 

「何だ?黒猫さんや」

 

「この子、ヨゾラっていうの。夜の空みたいな黒猫だから」

 

「へ〜……ヨゾラ〜」

 

「…………ジー」

 

「めっちゃ見られる……」

 

「あんまり自分から寄ってくる子じゃないからね」

 

「そうだ、なでちゃん。最近よくキャンプ行ってるんでしょ?おばあちゃんたちにもお話聞かせてくれるかしら?」

 

「うん!」

 

そこから始まるスマホの写真を交えたなでしこの思い出話。

朝霧高原でのクリキャン写真。

あおいがつくったクリキャンのトマトすき焼き。

いつの間にか撮っていた仏頂面したトナカイのコスプレをしているどこかで見た少年。

そしてなでしこが朝に作ったニッポンの朝御飯。

更には麓キャンプ場での担々餃子鍋と坦々シーフード麺。

加えてイーストウッドでの煮込みカレーに、翌日のカレーホットサンド。

更に更に四尾連湖での焼き肉とプチ鍋とジャンバラヤ。

 

「ご飯作ってばっかじゃん」

 

見せてくる写真が案の定食べ物ばかりなので、綾乃が呆れている。確かにキャンプの度に出ているご飯はどれもこれも美味しいものばかりで、思い出深いものであることに変わりはない。

 

「外御飯はキャンプの醍醐味なんじゃよ。ね?」

 

「まぁ確かに、同じメニューでもまた違った旨さがあるのは確かだな」

 

「へぇ……」

 

「……試してみる?」

 

「???」

 

リンの唐突な提案に、綾乃は首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

綾乃のお試しキャンプ飯、ということで庭先に繰り出した四人。

リンが取り出したるは……

 

「何これ?」

 

「ミニ賽銭箱だよ」

 

「違う違う、焼き土下座執行台」

 

「お前ら適当に言うなよ。ミニ焚き火グリルだよ」

 

持ってきたけど今回使わなかった形成炭と竹輪炭を使って火を熾し、焼き網の上に昨日の戦果たる餅を並べていく。

 

「へぇ……こうやって焼いていくんだ?」

 

「うん」

 

遠火でじっくりと火を通していると、あるものが気になっていたケンが立ち上がり、綾乃に尋ねることにした。

 

「あのエイプって土岐さんの?」

 

「綾乃でいいよケン君。そだよ。家族が使ってたやつだけど」

 

「もう販売してない絶版車じゃん。盗難対策しとけよ〜?この排気で盗られてる車種1位らしいからさ」

 

「それは抜かりなく!ケン君は250?」

 

「そうだよ。中古で買ったけど」

 

「中古の割に綺麗じゃん。高かった?」

 

「半年のバイト代と四年間のお年玉が全部お星様になるくらい」

 

「Oh……でもこれからカスタムしてくんでしょ?」

 

「一応そのつもり。じゃないとキャンプ用品がタンデムにしか載せられないからさ。あれやこれや載せてたら積載出来なくなるし」

 

「わかる。ステーを取り付けてパニアとか?」

 

「うん、でも出来るだけタンデムは余裕を持たせて……」

 

そんなバイク談話で盛り上がる二人をじっと見つめる二対の目が。

 

「リンちゃんや」

 

「なんじゃ、おばあちゃん」

 

「話があんまりわからんのじゃが……リンちゃんはわかるかの?」

 

「8割くらいは」

 

「これがバイクに乗らん者の性なのかのう……」

 

なんとな〜くケンを綾乃に取られてる気がして頬を膨らませるなでしこに気づかず、二人は更に盛り上がっていく

 

「綾乃ちゃん、跨ってみる?」

 

「いいの?じゃ、遠慮なく……」

 

やはり乗り慣れているのか、スムーズな動きで跨り、乗り心地を確かめる綾乃。身長はリンやなでしこより少し高く、150センチ程のため、二人よりは足付きが余裕を持っている。

 

「おぉ……この重厚感……いいですなぁ」

 

「うむ、堪らんよなぁ……」

 

「ね?エンジンかけてみてもいい?走らないから」

 

「えぇよ」

 

諸々のスイッチを入れてエンジンを入れれば、二気筒エンジンから伝わる振動。

エイプとは違う鼓動が、バイク乗りの魂的なものを刺激してくる。

 

「いいなぁ……私もいずれは乗りたいなぁ……」

 

「高速走るのに必要だからな。遠出したいなら中型取ったほうが良いかも」

 

「ん〜、まぁゆくゆくは目指すくらいにするか〜……ケン君は大型取るの?」

 

「そのつもり。じいちゃんがトライアンフのスラクストンに乗ってるからさ、いずれはデカイのに……って憧れはあるかも」

 

「結構渋いの乗ってるおじいちゃんだね」

 

「変わった人だけどな」

 

「二人共、焼けたよ?」

 

結構話し込んでいたら、餅が焼けたとのことで、切り上げて戻るさなか綾乃が気になっていた事を尋ねる。

 

「そう言えばタンデムに余裕持たせたいって、なんで?」

 

「あ〜、それな。二人乗り解禁されたら、後ろに乗せる約束した奴がいるんだよ。だから窮屈な思いはさせたくないな……ってだけで」

 

「へぇ〜……?」

 

なんとな〜く察した綾乃は、話を聞いて思わず目を丸くしているなでしこをニヤニヤしながら見ながらこう言った。

 

「いや〜……大事にされてますなぁ?なでしこ?」

 

「あ、アヤちゃん!!」

 

「あはは!」

 

照れ隠しに綾乃を追いかけるなでしこと、逃げ回る綾乃。

餅を食べたのはそれからもう少し後のことだった。




餅を焼きながらヤキモチ焼くなでしこ。え?クッソ寒い?


黒猫さんかわゆい。
ちなみに名前はなでしこの中の人ネタクライシス

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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