リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

35 / 117
第十話『デートプラン』

静岡から帰って数日後

 

思い思いの冬休みを終えて再び始まる学校。

始業式を終えて野クルのメンバーは部室に集まることにした。なんだかんだ積もる話と、バイト漬けの哀れなメガネにお土産を渡すのも兼ねてだ。

 

「あおいちゃん、高山どうだった?」

 

「うん、むっちゃ寒かったけど良かったで?三町散歩したり、平湯温泉で雪見風呂堪能してきたんやで〜」

 

「和洋折衷スイーツ!栗きんとんクッキーサンドうめー!!」

 

「浜松はどうやった?」

 

「おばあちゃんちでゆっくりしてたよ〜。二日は地元の友達とリンちゃんとケン君が来て〜、三日はお姉ちゃん達が来て家族皆で初詣に行ってきたんだ〜」

 

「浜松は鰻だけねぇ!すっぽんビスケット、旨し!!」

 

「ケン君はどないやったん?」

 

「一日目はリンと海沿い走りながら御前崎とかお茶屋さん、見付天神回って磐田でキャンプ。福田海岸で初詣見て、んで一日に帰ろうと思ったら凍結で帰れなくなっててさ。リンは海岸で本を読んで、俺はバイクで浜名湖辺りを走って過ごした。二日三日はなでしこのおばあちゃんちでお世話になって帰って来たって感じだな」

 

「写真二人分やから海の写真でいっぱいやったな〜」

 

「日の出と日の入りが両方鳥居と重なってて綺麗だったよねぃ……」

 

「でっかい豚足入ってる!磐田名物おもろカレー!!……は、帰ってから食う、と」

 

「賢明な判断やで」

 

「ちなみにカレーはリンからの土産な」

 

「え?じゃあシマケンからは?」

 

「クックックッ……よくぞ聞いたなメガネよ……!俺からはこれだ!」

 

仰々しい笑みを浮かべながらバッグから取り出したるもの。それは年末年始で散々ケンを蕩けさせた悪魔の飲み物……!

 

「掛川のお茶屋さんの『姫蔵』だ!!」

 

「おぉ!あの美味しいお茶屋さんの!?」

 

「そう!三日の帰りに買って帰ってきたんだよ!……流石に四日間のうちに三回も行ったら、苦笑いされてたけどな」

 

「行きすぎやでそれ」

 

「というわけで……俺が静岡で見つけた禅の心を得られるお茶っ葉だ。寒い日に飲めば、お前もきっと病みつきになる!」

 

「そんなに美味いのか?」

 

「ま、物は試しだ。騙されたと思って飲んでみ」

 

「サンキューな、シマケン」

 

「おう」

 

渡すものを渡すと、ケンはバッグを肩に掛け、帰り支度を始める。

 

「え〜?ケン君帰っちゃうの?」

 

「バイトだからな〜、しょうがないさ」

 

「悪いな、バイトなのに来てくれて」

 

「いいってことよ。じゃ、また明日な〜」

 

「気ぃ付けてな〜」

 

「じゃあね、ケン君」

 

バイト学生も大変である。

……というのも、正月キャンプで所持金をほとんど使い切ってしまったので、バイトシフトを多めに入れてもらっている現状。クリスマス2連休に加えて年末年始休暇もしっかりもらったので、その分出勤させてもらっているのもあるのだ。

 

「んじゃ、アタシも少しバイトの戦果を出すかな〜……ヘキサゴンタープ!!」

 

そして、試しに張ってみようとして千明がポールを忘れ、なでしこが文字通りポール代わりの人柱となったのは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

身延市 とあるガソリンスタンド

 

「ありがとうございました〜!!」

 

燃料を入れ終え満腹になった車を走らせて、客がまた一人スタンドを後にする。

正月も終わり一週間。多忙であるはずの三ヶ日を休ませてもらって感謝の念に堪えないケンは、より一層バイトに身を入れていた。

 

「寒ぃ……この季節は応えるなぁ……」

 

客が居ないうちは暖房の効いた中で待機できるが、給油中は外に居なければならないので寒いものは寒い。

ホントに三ヶ日は地獄だっただろう……。

さて、中に入り少しでも暖を取ろうと思った先に次の客が車を入れてきた。

 

「いらっしゃいませ〜!」

 

まぁ客が来てくれるのは良いことだ。思いっきりの笑顔で出迎えると、その車はよく見る水色の車だ。

 

「現金で満タン……てケン君じゃない」

 

「桜さん!いらっしゃいませ」

 

「貴方ここでバイトしてたのね」

 

「えぇ。じいちゃんの伝手で」

 

桜が給油カバーを開けたので、キャップを取り外し、赤いノズルを差し込んでレバーを固定して給油していく。

 

「中、拭かれますか?」

 

「ありがとう」

 

濡れ布巾を渡して、次はミラーやフロントガラス、ウインドウ、リアガラスを手際良く拭いていく。給油が終わるまでに済ませるのがベストだ。半年以上も業務を熟していれば手際も大分良くなり、あっという間に拭き終えるに至った。

 

「ベテランさんみたいね」

 

「まぁそれなりにやらせてもらってますから」

 

「貴方がここで働いてるなら、贔屓にさせてもらおうかしらね」

 

「それはありがたいですが、いいんですか?」

 

「アクセスしやすいもの。別にいいわ。それに、未来の義弟がいるんだしね」

 

「そ、それは流石に気が早いのでは……」

 

カチッとノズルのストッパーが掛かる。ほぼ満タンまで入ったようだ。あとは少しずつ手動で入れ、満タンまでしっかりと給油する。

 

「7786円になります」

 

「じゃあ1万円で」

 

「1万円お預かりします」

 

なんだかんだ桜もケンを認めてくれているからか、時折こうやってからかってくる。嬉しいやら恥ずかしいやら。でも悪くはなかった。

レジで精算し、お釣りを取り出す。

 

「2214円のお釣りになります」

 

「ありがとう。ケン君、バイト頑張ってね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「あと、休みの日にはなでしこをデートにくらい連れてってあげてね?恋人同士なんだし」

 

「は、はい……」

 

「それじゃ、またね」

 

「ありがとうございました〜!!」

 

静かな笑顔を残して、ラシーンを発進させる桜。

それを帽子をとって礼をし、見送るケン。

そこへ点検をしていたチーフがケンの元へとやってくる。

 

「おい志摩くん、今の美人さんは知り合いなのかい?」

 

「え、えぇ。友人のお姉さんです」

 

「ラシーンなんて中々いいチョイスしてるなぁ」

 

「確かにいい車ですよね。どこかしらアウトドアらしい感じもして」

 

「俺もあんな美人さんとデートとかしてみてぇな」

 

「歳の差考えてくださいよチーフ」

 

「志摩くん、時々すごい棘を刺してくるな……」

 

どこかしょんぼりしながら、再び整備の方へ戻るチーフ(四十路+妻子持ち)。

残されたケンは、桜とチーフが口にしていた言葉をオウム返しのようにつぶやく。

 

「デート……デートかぁ……」

 

いざデートと言われても、そんなもの経験がないケンにとっては未知の存在だ。

だが漫画とかでも、街へ繰り出して一緒に買い物したり、ご飯を食べたり、公園とかでのんびりしたり。そんな過ごし方なのかの漠然としたイメージは出来る。

 

「誘うのはいいけど……なでしこはキャンプにもお熱だから邪魔できないしな〜……」

 

さてさて、どうしたものかと悩む少年。

無理強いは出来ないし、まぁそれとなく誘ってみて、行けるようならそれで良しと言う程度に頭の片隅に留め、次なる来客車両の対応に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

夕食後 志摩家のリビング。

こたつでつかぽんを摘みながら『UMAの正体』たる謎の本を読むリンと、眉間にシワを寄せつつ何某かをタブレットで検索するケン。

 

「お、幸運のヒゲだ」

 

つかぽんに焼印されているデザインにはレアなものがあり、その一つがヒゲ。某チョコ会社のコアラと似たような感じだ。

折角なので写真に収めようとスマホを構えると、相変わらず向かいで仏頂面をしながらタブレットとにらめっこしている兄の姿。今までこんな深刻そうな顔をする兄を見たことがあろうか?

 

「さっきから何を検索してるのさ?」

 

流石に真ん前でそんな顔をされていれば気にもなってしまうのが妹たる所以か。

 

「リンや」

 

「なんだよ」

 

また変なことを聞いてくるのか?と傍らに置いてあるカップを取り、コーヒーを啜る。

 

「デートってどこに行けばいいんだ?」

 

「ブゥゥゥゥッ!!」

 

思いっきり口に入れたコーヒーをケンの顔目掛けて吹き出してしまった。

 

「うぎゃぁぁ!!目が!目がぁぁ!」

 

「ご、ごめん!大丈夫!?タブレット!」

 

「おまっ!俺の心配しろ!」

 

とっさにティッシュで顔を拭いていくケン。まぁタブレットは防水性なので多少濡れても問題ないのだが。

 

「ケンが変なことを聞くからだろ?」

 

「いやだって……タブレットで調べてもイマイチピンとこないんだよな……」

 

「だからって私に聞くなよ」

 

「いやそりゃ……同じ年の女の子に聞けばいいんじゃないかって……」

 

「そんなの経験のない私に聞くなよな」

 

「それもそうだ」

 

「素直に納得されるのもなんかムカつくな」

 

再びタブレットで調べるケンだが、やはり成果は芳しくないようで、再び眉間にシワが寄る。

 

「ぁぁぁ〜!俺はあと何回押せばいい!あと何回検索ボタンを押せばいいんだ?グルグル先生は何も言ってはくれない……!教えてくれリン!」

 

「知らんがな」

 

終わりのない円舞(エンドレスワルツ)のように、検索・閲覧・苦悩の三拍子を繰り返す。

これが女性経験のないチェリーボーイの性か……はたまた初めてのデートで苦悩する男子の通過儀礼なのか……。

 

「青春だね」

 

「悩むのはいいけど近所迷惑だから、少し静かにしなさい」

 

「……ハイ」

 

食上の椅子でお茶を飲みながらテレビを見ていた渉が懐かしむように言い、咲が釘を差してくる。ヒエラルキートップの言うことに逆らうなどという愚かしい行為もできず、ただ静かにするしかできない。

 

「ケン、もしかして買い物とか観光、食事ばかりに気を取られてないかい?」

 

「え?まぁ……確かにそうだけど……」

 

「別に形に拘らなくてもいいんだ。ただ二人だけで楽しめたらそれでデートは成功なんだから。僕も咲とはデートにバイk……」

 

「そ、そうだ!ケン、なでしこちゃんとキャンプに誘うのはどうかしら?一緒にキャンプに行くなら、それも立派なデートよ?」

 

「キャンプ……キャンプか」

 

なるほど確かに。変に買い物とかに誘うよりも、そっちのほうがなでしこも確実に楽しめるだろうし、変に気張らなくても良さそうだ。

 

「ありがとう父さん母さん。そのプランで少し頑張ってみるよ」

 

「頑張んなさい」

 

そうと決まれば、二人で行けるキャンプ場を探そう。

方針さえ決まれば、後は何をトッピングして良いものにしていくかなので、なでしこの好きな物を当てはめれば……!

 

「お、ここなんていいかな?」

 

後は彼女次第。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。