リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「んまぁ〜……」
西富士宮にて、なでしこは至福のひとときを味わっていた。
彼女が食べているのは店の名物たる五目しぐれ。お好み焼きと富士宮やきそばをあわせたご当地グルメで、さっぱりとした香ばしいウスターソースと、イワシの削り粉の風味とともに口いっぱいに広がるキャベツの甘みと肉かすの旨味、もちもちとした太麺の食感が非常に美味な料理だ。
桜が教えてくれたこの店は人気店らしく、長蛇の列を並んだ甲斐あって、その味は腹ペコ魔神と化していたなでしこを唸らせて満たすには十分なものだった。
実に美味しそうに食べるなでしこの姿は、頑固そうに見える大将の口元を緩めるには十分なものである。
あっという間にそこそこの大きさがあったしぐれ焼きを平らげたなでしこ。お冷を飲み干して、ふと思った。
(そういえば私、一人で外食するの初めてかも……?フフフ、お一人様ってオトナな感じ!)
悦に浸ったなでしこは、『オトナなお一人様ご飯』を更に満喫すべく、立ち上がり注文した。
「おでんもください!」
「はいよ!」
なでしこ『五目しぐれ、んまぁー!!』画像
あおい『飯テロや!飯テロしてきたで!』
千明『さっき昼飯食べたとこなのに腹減るだルルォ!?』
恵那『私、お腹空いてきたから朝ごはん食べてくるね』
ケン『朝!?昼じゃなくて!?』
リン『古民家カフェのエゴマチーズケーキ、ウマ〜』画像
千明『リンはリンでスイーツ投下しやがって!』
各務原桜がログインしました
桜『ココアシフォンもイケるわよ』
各務原桜がログアウトしました
あおい『へ?』
千明『いま一瞬……』
なでしこ『お姉ちゃんがいた……?』
あおい『そう言えばなでしこちゃん、夕飯は何するか決めたん?』
なでしこ『うん!メインとは別にちょっと実験気分で作ってみようかな〜って』
ケン『何作んの?』
なでしこ『それは秘密です!』
千明『何でだよ?てか、そのフレーズ気に入ってんのな』
なでしこ『女は秘密を着飾って美しくなるんじゃよ』
ケン『それ、悪の組織の女幹部のセリフじゃん……』
なでしこ『おっと、バレましたかな?でも上手くできたら皆とのキャンプでも作るから、楽しみにしててね!』
あおい『うん、なでしこちゃんもソロキャン楽しんで来ぃや?』
なでしこ『ありがとう!また写真送るね〜!』
「ご馳走様でした〜!」
「まいど〜」
あれから五目しぐれとおでんに加えて、富士宮やきそばまで平らげたなでしこは、程よく膨れたお腹の幸福感に満たされながら西富士宮駅へと戻り歩いている。左手に見える憧れの富士山を眺めながら歩いていたら、今日のキャンプへのワクワク感がどんどん膨らんでいくのがわかる。
「えっと……次は買い出しして、その後電車で富士川駅だったよね」
今日のキャンプ場までのチャートと買い物リストを記したメモを見ながら、今の所不備もなく熟せていることに充足感に満たされ、足取りも軽くなってくる。
「フフフ!順調順調!」
と同時に、ほんのちょっぴりだがなでしこの中に寂しさが生まれてきたことで、軽やかだった足取りがそれに比例して落ち着いてくる。
「一人でキャンプの買い出しか……」
今までのキャンプの買い出しは、家族とだったり、リンとだったり、誰かしら一緒だった。ワイワイ話しながら何を買おうか?何を作ろうか?と相談したり。
誰かと一緒にいることが賑やかで楽しいものなら、今は少し寂しくて、でもそれがまた少し新鮮で。
「これもリンちゃんが言ってた『寂しさも楽しむ』ってことなのかな?」
これが楽しいって感情なのかはわからない。でもこのキャンプをやり遂げた時、きっとその意味がわかるだろう。
そのためにも先ず買い出しを済ませなければ。
「よ〜し!今日の〜晩御飯は〜!野菜丸ごと実験ホイル焼きと〜!鮭のホイル焼き〜!頑張って作るぞ〜!」
なでしこ初めてのソロキャン。
まだまだ序章である。
「ぐぬぬ……!高い……!」
ケンは財布と、目の前に貼られた値札を交互に睨んで歯噛みしていた。
夕方にバイトを終えたケンは、どうせなら少しパーツでも見にいくかと南下し、富士宮にあるバイクパーツショップへ足を運んでいた。
パニアケースを取り付けようにもステーが必要だし、ステーだけでも樋口一葉がサヨナラし、ケースまでそれなりのものを買おうとすれば諭吉さんが何人も立ち去ることになる。バランスを考えて左右2つ買えば、それはもう悲惨なことになりかねない。
「これがバイク乗りの性か……!」
バイクを買って終わりじゃない。
バイクを買ってからが始まりなのだと誰かが言ってた気がする。
「……また暫く金貯めよう……お?」
別のコーナーを歩いていけば、これも欲しいと思っていたパーツが目に入る。
「スマホホルダーか。これも付けたほうが遠出とか知らない道を走るときにありがたいよな」
無論、ナビを見ながらの運転というのは御法度だが、ポケットからいちいち出して見なくても良いのだから、その一手間をなくせることは大きく感じられる。
「……ま、次に遠出が必要になった時にでも考えるかな」
そうなると、バイクのバッテリーからのスマホ充電出来るようにするのも必要になるかもしれないわけで……
バイト代 いくらあっても 困らない
シマケン、心の句。
次いでヘルメットコーナーへと足を運ぶ。色や形様々なヘルメットが羅列するその中で、いつか必要になるであろうなでしこのヘルメットを少し下見がてら品定めしていく。
流石に自分に合わせてフルフェイスは少し大袈裟かもしれない。安全性は高いのではあるが。ただ買うとすれば、リンと同じような軽量のレディースタイプの方が、疲れにくくていいのだろうか?
肇や綾乃の使用しているハーフタイプにゴーグルを合わせるのもありかもしれない。
「印象としてはレディースタイプが似合いそうだな」
リンとお揃いのデザインにすればたいそう喜びそうだ。
なんにせよ、まだ十ヶ月先の話なのだから、そこまで急く必要はないのだが。
「…………写真止まったままだな」
店を出てスマホを見れば18時過ぎ。
数時間前にスーパーの『TOMATO』で食材購入したという報告の写真以降、パタリと更新が途絶えた。あれだけ写真を取りたがりのなでしこがだ。
「山ん中だし、電波悪いだけなのかな」
おそらくあの辺のキャンプ場だろうかと、遠くに見える山を見つめるケン。
口では電波が悪いだけなのだと言い聞かせながらも、その目はどこか焦りと不安が見て取れる。
「……近くだし、様子見に行くか」
だがあくまでも今日はなでしこのソロキャン。心配して見に来たのがバレれば、それも台無しになってしまう。
つまりこっそりと遠くから無事を確認するだけの仕事。
ただただ恋人が心配なだけ。
だがケンは知らない。
傍から見れば彼を含めて『なでしこ見守り隊』と呼ばれかねない後二人の隊員が、それぞれ『家族』と『友人』の立場として雨畑と身延から出動したことを……。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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