リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第十六話『ホイル焼きとキャンプ飯の魅力』

「なにあれ……?」

 

「黒魔術か悪魔の儀式……?」

 

なでしこがソロキャンで訪れた炊飯棟。

彼女とキャンプで居合わせた一宮遙香と拓人の姉弟は、施設内で唯一火の取り扱い許可が下りているここで、夕飯のコンビニ飯を温めるべくやってきたのだが……。

 

「…………」

 

ニット帽を目深く被り、ブランケットにくるまって、炭がいこる焚き火台をジッも見つめているなでしこがいたのだ。その目は虚ろというか据わってるというか、いささかヤバそうな雰囲気で、一宮姉弟はとても入りづらい空気の炊飯棟入り口で立ち往生していた。

 

「どうする……?ここしか火を使っちゃ駄目なのに……」

 

躊躇う遙香を他所に、火を見つめていたなでしこのスマホのアラームが、彼女を現世に引き戻した。素早く火箸を掴むと、いこった炭の中に入っているアルミホイルの塊を引っ掴むと皿に投下。アルミホイルを開いて出てきたのは、熱でじっくりと焼かれたトマトだ。そこにパセリとオリーブオイルを垂らせば、トマトの丸ごとホイル焼きの完成だ!

 

「できた!」

 

「ホイル焼きだ!」

 

出来上がった焼きトマトを美味しそうに頬張るなでしこ。遙香としては早いところ夕飯を温めてテントに戻りたいのだが、入る勇気が持てない。

だが弟の拓人は、目の前で出来上がったホイル焼きにその目を輝かせている。

そんな二人に気付いたなでしこは、二人にチョイチョイと手招きをする。

アヤシイなでしこに入ることを躊躇う遙香。

 

「どうする……?拓人……って!?」

 

遙香が相談するよりも早く、拓人はなでしこの手招きに応じて近寄っていった。

 

「……トマト、食べるかい?」

 

「いいの……?」

 

その様相は、かつての肇と千明と同じようなシチュエーションだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは?」

 

「じゃがいも」

 

「じゃぁこれは?」

 

「う〜ん、人参……だったかな?」

 

焼きトマトで仲良くなった拓人は、ホイル焼きに興味を持ったらしく、何を焼いているのか気にしてあれこれ尋ねていた。

そんな弟を他所に、遙香はジップロックに入れたコンビニ飯を、ガスコンロとフライパンを使って湯煎し始めていた。

 

「じゃあじゃあこれは?」

 

「ん〜……オロシャヒカリダケだったかな……?」

 

「こら。少しは遠慮しなさい」

 

「え〜、いいじゃん」

 

食い気味に質問する拓人を遙香は嗜めるが、なでしこ本人は気にしていないようで、彼女をまぁまぁ、と宥める。

 

「お姉ちゃんもどうじゃ?焼きリンゴもあるぞえ?フヒヒ……!」

 

「魔女のおばあちゃん……!」

 

遙香に反してなでしこに懐いた拓人は、雑談しているうちに今回キャンプへ来た理由を話すに至った。

曰く、母が『主婦のお休み』ということで旅行に行っているらしく、その間に父と姉との三人でキャンプに来たとのことだ。

 

「キャンプは楽しい?」

 

「う〜ん、わかんない。お菓子食べながらアニメ見てただけだし」

 

「そっかぁ……おっ!次のができたみたい」

 

アラームがなったことで次の食材を火から離し、アルミホイルを御開帳。

 

「これは?」

 

「ナスの丸焼き!召し上がれ!」

 

言われるがままに皮を切り開き、中の薄緑の果肉をひとくち食べる拓人。

美味しい!と絶賛する隣で食べようとしない遙香にも促すと、一口だけ、と言わんばかりに口へ運ぶ。

 

「……!ナスって、こんなトロトロになるんだ……!」

 

「お次はじゃがいも!」

 

「皮がパリパリでポテチみたい!」

 

「中よりも皮のほうが美味しい……!」

 

「次は……アボカドの丸焼き……!」

 

『…………これは流石に生のほうが美味しいかも』

 

でもこんなハズレがあっても、思わぬ美味しい食材が出てくる楽しさがあるわけで、食べ進めるうちに最初は硬い表情だった遥香も、少しずつ表情が柔らかくなってきていた。

 

「次はオロシャヒカリダケ!」

 

「……美味しい、のかな?」

 

「……ノートパソコンのバッテリーが回復した気がする」

 

「そう言えば、そっちで作ってるのはいいの?」

 

「あ……」

 

コンロの方に戻り、湯煎しているフライパンの蓋を開けて具合を確かめる遙香。

 

「もうちょっと煮たほうがいいかな……」

 

「へぇ……お弁当ってこうやって温める方法があるんだね」

 

料理好きのなでしこも、この温め方は意外だったらしく、目からウロコといった様子で感嘆の声をあげる。

 

「アウトドアの料理って難しそうだったから……。キャンプっぽくないけどね」

 

「そんなことないよ?私だってキャンプで食べるカレー麺とか大好きだよ?」

 

自分のキャンプの原点。

外で富士山を見ながら食べたあの味。

寒い中で食べる熱々のカレー麺は、家で食べるそれとは違う食べ物なのかと思うほどに美味しいものだった。

だからこそなでしこは思う。

キャンプご飯だから、難しく考えなくてもいいんだ、と。

まだキャンプの楽しさを知らない二人に、料理が楽しめる切っ掛けになれば、とも。

 

「じゃあそんなアナタにとっておきをあげましょう!炭火焼きのサツマイモ!」

 

二つに割れば、まるで石焼き芋のように蜜が照る黄金色のサツマイモが姿を表す。

もう見た目から甘いというのがありありと伝わっていていた。

 

「多分上手く焼けたと思うよ〜?」

 

一口齧れば、口いっぱいに広がる熱々のサツマイモと、そこから溢れる上質な甘み。石で焼いていないが、それに負けないほどに甘い。

 

「わぁ……!すっごい甘い……!」

 

その甘さは、先程まで物静かだった遙香に驚きの声を出させるほどに。

 

「アルミホイルで包んで焚き火の中に入れただけなんだよ?」

 

「これって、いいお芋使ったんですか?」

 

「うぅん、スーパーで買った特売のやつだよ〜」

 

「へぇ……そんなに簡単なんだ……」

 

「始めはね、簡単な料理でいいんだよ?お肉焼くだけでもね〜。キャンプで作る料理って楽しいよ〜?それに、失敗して変なのができても、なんか面白いしねっ!」

 

「あ!人参焦げてる!真っ黒!」

 

「あわわ!ホントだ!焼きすぎた!!」

 

だが試しと言わんばかりに一口齧るなでしこと拓人。だが案の定コゲコゲになるまで焼かれた人参は炭の味がするらしく顔を顰めていたが、二人共何処か楽しそうだ。

釣られて遙香も、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「遙香?拓人?」

 

「パパ!」

 

「帰りが遅いから心配したんだぞ?」

 

「あ……ごめんなさい」

 

そんな三人のもとに、遙香と拓人の父親である伸一が二人を案じて様子を見に来た。

 

「すいません、うちの子達が……」

 

「いえいえ!私が誘ったので」

 

そこで拓人が一つイタズラを思い付いたらしく、コゲ人参を箸で一つまみすると、伸一の方へ駆けていく。

 

「パパ、これ食べてみて!」

 

「ん?」

 

息子に言われるがまま、差し出された人参を一口。途端に口に広がる苦味に目を見開く。

 

「……ちょっと、苦いかな?」

 

そんな父親に子供二人はケラケラと笑い、なでしこも釣られて笑ってしまう。

それはきっと、楽しいから。

誰かと一緒に笑い合えるキャンプが、やっぱり好きだから。

ソロキャンを通して、改めてグルキャンの楽しさも再認識していくなでしこ。

 

「それじゃ、御馳走様でした」 

 

「お粗末さまでした」

 

「お姉ちゃん、さようなら!」

 

「さようなら!」

 

お弁当を温め終え、一宮親子がなでしこと別れてテントで戻りゆく姿を、離れてそっと見守る影が一つ。手に持つスマホの電波は圏外を表示している。

 

「……やっぱり電波が届かなかっただけか」

 

見守り隊の一人であるリンだった。

雨畑の温泉からビーノを酷使し、一番に到着したようだ。

リンの心配は杞憂に終わったようで、いつもの元気な笑顔で一宮親子を見送るなでしこに一安心する。

 

「もう誰かと仲良くなってる……やっぱりすごいな、なでしこは……」

 

やはり彼女ほど誰かと打ち解けることに長けた人はなかなかいないだろう。あのコミュ力の高さこそがなでしこの大きな美点だ。

 

「これなら雨畑の方でキャンプすればよかったな……」

 

取り越し苦労だったが、まぁよし。ということで、ビーノに戻ろうと駐車場に足を踏み入れた時。

 

「ん?」

 

10メートルほど前方に不審なものが見えた。黒い人影にぼんやりと白く光る眼鏡。それはまるで四尾連湖で見た牛鬼を思い出させる様相。

トラウマをほじくり返されたリンはガタガタと震えだし……

 

「イィィィィッ!?」

 

甲高い悲鳴が富士川の山中にこだました。

 

 

 

 

「パパ、この山、鹿出るの?」

 

「さぁ?どうだろうね?」

 

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  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
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