リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「リンちゃん?」
果たして暗闇に現れた人影の正体は桜だった。
どうやら彼女もなでしこが心配で様子を見に来ていたらしい。
「ささ、ささ桜さんも……来てたんですね……!」
「もしかして、驚かせてしまったかしら?ごめんなさいね。……なでしこを心配して来てくれたの?」
「その……元はと言えば私がソロキャンしたいって思いを焚き付けてしまってたみたいなので……」
もし何らかのトラブルに巻き込まれでもしたら、各務原家の人たちに申し訳ないし、何よりも罪悪感に苛まれるだろう。なでしこにキャンプへの興味と、ソロキャンしたい意思を持たせた自分の責任だから。
「ありがとうね。リンちゃんはこれからどうするの?」
「このまま帰ろうかと思います。今日はなでしこのソロキャンなので」
「そう、私も帰るわ。一人でも大丈夫みたいだし」
さて、帰ろうかとビーノへ視線を戻す途中、山の中腹にちょっとしたベンチがあるのが目に入ったリンは、桜を誘うことにした。
「桜さん、良かったら少し登りませんか?ここ、有名な夜景スポットらしいので」
「いいわね。せっかくここまで来たんだもの」
駐車場から歩いてそう時間もかからず、見晴らしスポットへと辿り着いた二人。見下ろした視界には、富士市と沼津市の建物が織り成すそれは、まさに絶景だった。
「へぇ〜……これはなかなかいい夜景スポットね」
「ですよね」
これは自分もソロキャンで来たくなる衝動にリンが駆られていると、下の登路からなでしこが謎の替え歌を歌いながら登ってきている。
ここで見つかってはすべてが台無しだ。
急ぎ二人はなでしこから距離を取り、近くの茂みに足を踏み入れた。
が、
「ぐえっ!?」
そこで妙なものを踏んだ感覚と、カエルを踏んだかのような声に二人は飛び退く。
ガサガサとその茂みから出てきたのは、フルフェイスヘルメットを被った怪しい人物。
「「〜〜〜ッ!?!?」」
あまりに不審者の代名詞と言わんばかりのソイツに、思わず悲鳴を上げそうになるリンと桜だが、近くになでしこが居ることを考えて、お互いの口を塞いで声が漏れないようにする。
「あれ?リンと桜さん?どうしてここに?」
その不審者からの声は、よく聞き慣れた少年の声。
彼がヘルメットを取れば、リンそっくりの顔。
「お、お兄ちゃん……!?」
「お、脅かさないでよケン君……!」
「いや、俺も驚かされたんですけど。……もしかして、二人もなでしこのソロキャンが心配で様子を見に来たとか?」
「も、ってことは、ケン君も?」
「えぇ。野クルとして、あと……恋人として心配で」
頬を掻きながら、照れくさそうに。どうやら考えることは三人共一緒だったらしい。妙な連帯感に、三人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
なんだかんだで、皆なでしこが大切なのだ。
「てか、なんでこんなとこで寝そべってたんだ?しかもヘルメット被って」
「ここからならなでしこのテントを見下ろして様子が見えるからな。大丈夫かどうか一時間ほど見守ってた。ヘルメット被ってたのは、寒さ対策と、万一見られてもバレにくいようにってな」
「一時間……」
「何ともなくて安心してたけど、やっぱり心配だから、寝るまで見守ってようかと」
リンと桜は同じ事を考える。
自分も大概だけど、ケンが一番なでしこ心配症という病気が重篤だと。
「……あんまり過保護だと、嫌われても知らないからな?」
「ぐふっ……!」
「それより何より、身延より温かいって言っても、寒いことには変わりないんだから、風邪を引いたら元も子もないわよ?心配してくれるのは嬉しいけど、それで逆になでしこに心配かけるのは、姉としていただけないわ」
「返す言葉もございません」
「って!なでしこがこっちに来た!?」
このままでは鉢合わせてしまうと考えた三人は、更に奥にある茂みに潜り込みやり過ごそうとする。
腰辺りまで伸びた草は、暗がりもあって三人を上手く隠し、高いカモフラージュ率を叩き出していた。
スマホを空に向かってかざして振りながら、目の前を通り過ぎていくなでしこ。
通過して距離が離れたのを見計らい、三人は急ぎ道を下って駐車場へと帰還した。
「ぉ!送れた〜!」
電波が悪い中で撮った写真をアップ出来た喜びの声を背に受けながら。
結局ケンも二人と一緒に帰ることとし、ラシーンが先導して山道を下っていると、そのラシーンの窓から手を出して合図する桜。
どうかしたのかと止まる二人に、苦笑いを浮かべた桜はそっとスマホを渡す。
そこにはなでしこから送られてきた夜景の一枚とメッセージ。
なでしこ『電波が悪いけど、楽しくソロキャンしてるよ!』
人の気も知らないで、と思いながらも、なんだかんだでソロキャンを満喫しているなでしこに、リンもケンも桜と同じように苦笑いを浮かべる。
「二人共。少し市内の方走らない?夕飯、ご馳走するわ」
「「はい……!」」
「あと、三人で『原付きの旅』について語り尽くしましょう」
「「は、はい」」
そして余談だが、
西富士宮のとある飲食店で三人は五目しぐれを食べながら、原付きの旅について(主に桜が)熱く語っていたという。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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