リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
バレンタインが終わり、学年末テスト
伊豆キャンへ行くためにここは落とせない面々は、いつも以上に気合を入れてテスト勉強に励んでいた。
直前にならないと火が着かないと豪語していた千明でさえ伊豆キャンに行きたいという思いが強いためか、一週間前からテスト勉強に励む。図書室という静かな空間を利用しながら皆で教え合いながら学年末テストに向けての対策を講じてきた。
結果
千明は全教科過去最高得点を叩き出し、余裕を持って赤点を回避できたのである。
無論それは他のメンバーも例外ではなく、全員が笑顔で学年末テストを終える結果に至った。
ちなみに……
千明の赤点回避のために、テスト明けに餌を置いて釣るというのも良いのではないか?という案が誰もの頭に浮かんだのは言うまでもない。
そして……
伊豆キャンまで残り一週間を切った。
夜 志摩家リビング
「下田にお昼頃集合だから、早めに出発して外周通っていくか。日の出見ながら」
「このルートだと、下田まで8時間超えるけど、大丈夫か?」
「途中、ジオスポット回りながら行けば、丁度いい休憩になるだろ」
今回の伊豆キャンのコンセプトは、ご当地の食材を使ったキャンプご飯作成と、ジオスポット巡りだ。車チームと単車チームとでそれぞれがジオスポットを巡って下田で合流、という物になっている。
「でも海沿いを走るってなるとまた海風がなぁ……」
「なんだ?じいちゃんにスクリーン頼んでないの?」
「スクリーン……?あ……」
ケンの言葉で思い出したリン。静岡の正月から帰る肇のバンの中で話した内容。長期間を走るならスクリーンを付けたほうがいいことや、肇の家に使っていないものが転がっているだろうから、必要なら持っていくことを話していた。
「確かに、お言葉に甘えて貰っといたほうがいいのかも……」
「そうしとけ。じいちゃんもリンに頼みごとされたら喜ぶだろ」
ビーノパワーアップ計画が練られる中、二人のスマホが振動する。
千明だ。
千明『3人共、起きてるか?』
リン『寝てる』
ケン『良い子はお休みの時間です』
恵那『( ˘ω˘)スヤァ』
千明『起きてんじゃねえか。しかもしれっと悪子ちゃん扱いすんな。って本題はイヌコとなでしこの誕生日なんだけどよ〜、プレゼント、これでどうだ?』
千明から二人への誕生日プレゼントの候補として送られてきた写真。
それを見た二人は千明のセンスにいい意味で少し驚いて目を丸くした。
リン『これ良いな、値段も高すぎないし』
ケン『確かに。これならこれからの活動にも使ってもらえそうだしな』
千明『だろ?』
恵那『じゃあこれにしない?』
千明『よ〜し決定!』
ケン『お前、変なとこでセンスいいよな』
千明『うるせぇ、変なとこは余計だ。明日学校帰りにカリブー寄ってみるわ』
リン『わかった、明日お金渡すよ』
恵那『よろしくね〜』
二人への誕生日プレゼントは決まった。
後は……
「そう言えばお兄ちゃんからのなでしこへの誕プレ、用意してるの?」
「そりゃまぁ勿論。折角だしな」
「何買ったの?」
「それは秘密です」
「うわ……それお兄ちゃんがナマでやるとちょっと引くわ」
「……ヒドい」
「あと、今回のキャンプ長いんだし、モバイルチャージャーだけだと心許ないよな」
「だったらスマホホルダーと充電器付けるか?」
「だな、ナマゾンで買っとくか。あと荷台も買っとくかな」
「お、それいいな。リアキャリアがあったら積載も増えるし。俺もポチっとくか」
伊豆キャンまであと6日。
今までにない二泊三日のキャンプ。
まるで新年のカウントダウンのように迫るカレンダーの日にちを目にするたび、こみ上げてくる高揚感。
バイトにテス勉に、我慢と努力を積み重ねた自分達へのご褒美が、もうすぐそこまでやってきていた。
伊豆キャン前日 放課後
「「ただいま〜」」
学校から一緒に『歩いて』帰ってきた二人は玄関をくぐると、上がったところに少し大きめのダンボールが置かれていた。
それが何なのか察した二人。ケンがそれを抱えて台所のテーブルで開封すれば、中には二種類のリアキャリアと、2つのスマホホルダー。
先日ナマゾンで注文した物が、今日になって届いたのだ。
「随分ギリギリになっちゃったな」
「うむ、まぁでも間に合っただけマシだ」
「あとは父さんが帰ってきたら手伝ってもらうかな」
これがあれば泊まり掛けのバイクツーリングやキャンプでも容易に充電したりナビを見たりできるし、荷物も断然積みやすい。まさに今回のキャンプにうってつけの部品だ。
説明書を読んでいると、渉と咲が帰宅したらしく、リビングへと入ってくる。
「ただいま。いや〜、ひさしぶりに二輪に乗ると怖いね〜」
「そうね〜、ちょっと怖かったわ(血が疼いて)」
「おかえり、父さん、母さん」
今回長距離を走る、とのことなので二人は、リンとケンの二輪をバイクショップへメンテに出してくれていたのだ。途中で故障、なんてことになれば、せっかくの伊豆キャンが台無しだ。
「お、部品届いてたんだね。じゃあ早速取り付けようか」
「おじいちゃん、七時くらいに来るらしいから、それまでに仕上げてね」
「「は〜い」」
先ゆく渉と、それに着いていくリン。
何故か残ったケンに咲は首を傾げる。
「どうしたの?ケンも付けに行ってきなさい?」
「うん、勿論行くよ?……それはそうと母さん」
「なによ?」
「バイクに乗ってみて、血が疼いた?」
「そうね、乗ってた400と比べるとパワー不足は否めないけど、その分細やかなワインディングが……って!何言わせんのよ!」
「語るに落ちたな……フフフ……!」
「も、もう!早く行って手伝ってきなさい!夕飯に間に合わないわよ!」
「は〜い」
顔を真っ赤にしてトタトタと出ていく悪戯好きの息子に咲は大きなため息を一つ。
「ホント、血は争えないのよね……」
「うん、これでバッチリだね」
「お、おぉ……!相棒がついにパワーアップイベントを経た……!」
「んむ!」
バイク屋で洗車とメンテを終えてピカピカになって帰ってきた相棒に、リアキャリアとスマホホルダーを取り付け終えた。これでタンデムが狭かったGSXの積載が、大幅と言わずとも、かなり増えたと言っても過言ではない。それはビーノも同じで、これでキャンプギアをしっかりと積み込むことが出来る……!
更にスマホホルダーを取り付けたことで運転中の充電は勿論、初めて行く場所へのナビも、一々ポケットから取り出して確認せずとも良くなったことで、快適性が向上。無論、脇見運転にならないようにと渉から釘を差されたが。
と、完成した相棒の勇姿に惚れ惚れしていると、重厚なエンジンとマフラーの音が耳に入ってきた。
トライアンフスラクストンに跨った肇が、志摩家の前に停車する。
「おじいちゃん」
「待たせたな、スクリーンを持ってきた」
スラクストンのタンデムには、大きめの段ボールが縛り付けられており、あの中にリン御所望の物が収められているのだろう。
「ありがとう」
「わざわざすみません、お義父さん」
スタンドを立てて降車した肇の目に入ったのは、玄関先でパワーアップイベントを終えた二台の二輪。
「ん?キャリアと携帯ホルダーか」
「今ちょうど取り付け終わったところなんですよ」
だが何となく気になった肇は、スマホにコードを差したままの二台のキーを回しては戻しをして、顔を顰める。
「んむ……これではいけないな」
「え?」
「キーをオフにしても充電が止まらないだろう?ケーブルを抜き忘れたとき、バッテリー上がりを引き起こす危険性がある。リレーが必要だな」
「リレー……ですか?」
バッテリーからの直接充電を引いていると、スマホを差している限り延々とバッテリーを消費してしまうが、リレーを挟むことでキーのオン・オフを連動させることができるので、スマホを抜き忘れたとしてもキーを切っていればバッテリー上がりを回避することができる。
「二人共、出発は明日だと言ってたな?」
「う、うん」
「甲府の店ならまだ間に合うか……」
「え?ちょ、じいちゃん……?」
「買いに行ってくる。スクリーンを取り付けておいてくれ」
「あ……わかりました」
そして迷うことなく発進し、あっという間に見えなくなるトライアンフ。
風のように出発してしまった肇に、三人は呆気取られるしかない。
「行っちゃった」
「マジかよ、じいちゃん」
そんな三人が佇む玄関に、お玉を持った咲が様子を見に出てきた。
「あれ?今、お父さん来なかった?」
「甲府に部品買いに行っちゃった……」
「えぇ〜!?夕飯作ったのに冷めちゃうじゃない!」
「しばらく帰ってきそうにないね」
「も〜!!」
咲を宥める渉。そんな両親を尻目に肇の置いていった段ボールを開封するリン。どうせ帰って来るまでしばらく掛かるし、言われたとおりにスクリーンを取り付けることにしたのだが……
「あれ……?これって新品だよね?」
「そうみたいだねぇ」
綺麗にパッキングされたスクリーン。明らかに『家に転がっていた』ようには見えない程に綺麗な物だ。
「使ってないとは聞いてたけど……」
「こんな綺麗にパッキングしとくかな?」
「はっはぁ〜ん?多分リンにあげるためにわざわざ買ってきたわね〜?」
「えっ!?そうなの!?」
「カッコつけてても、孫に色々してあげたいのよ」
「そういうものなの?」
「そういうものなのよ。祖父って言うのは。後、曾孫を早く見せたらもっとカッコつけるかもしれないわよ?」
「ナニイテンダアンタ」
ニヤニヤしながらケンを見るのは、先程からかった仕返しか。
妙なところで負けず嫌いな母に呆れながら、リンのスクリーン取り付けを手伝うことにしたケンだった。
「二人共どうだ?」
肇が買って来たリレーを取り付け終え、ちゃんと出来ているか試しにキーを回す。
ちゃんとキーを回せば充電され、切れば充電が切れるようになっている。
「うん、大丈夫だ」
「ちゃんと充電切れてるよ。ありがとう、お父さん、おじいちゃん」
「うむ」
「これでようやく完成だね」
完全体となった二台にとても満足気な二人。渉と肇も、そんな二人の笑顔で充足感に満たされている。
「じゃ、終わったんならご飯にしましょ!もう9時よ?」
「だね」
「そうだな」
「道理で
腹が
減った!!」
「えっ!?お母さんも昔バイクに乗ってたの?」
「あぁ、リンは知らなかったのかい?」
「お父さんが昔乗ってたのは知ってたけど……」
「三人で伊豆にツーリングに行ったこともあるんだよ?」
「お兄ちゃんも知ってたの?」
「まぁな〜」
「なんで今まで黙ってたの?お母さん」
「だ、だって!別に聞かれなかったじゃない?」
どこか気まずそうで恥ずかしそうな咲。どうやら彼女にとってツーリングしていたときは黒歴史的なもののようだ。
「咲は中々スジがよかったな」
「そうでしたね、僕なんかよりずっと上手かったんだよ?」
「へぇ……」
「今日なんて、ケンのバイクに乗って帰ってきたんだけど、今も昔と変わらないテクニックだったとしみじみ思ったよ。ブランクって何なんだろうって」
「(・∀・)ニヤニヤ」
「なによケン?そのニヤケ顔……」
「別に〜?やっぱりバレたな〜って」
「ぐぬぬ……!」
「確か写真が……」
「ちょ!ちょっとやめてよ!恥ずかしいから!」
どれだけ黒歴史なのか。アルバムを探そうとする渉を必至に制止する。
「二人共!そろそろ寝たほうがいいんじゃない!?夜中に出発するんでしょ?」
「そうだけど……写真、見たい」
「そ、それはまた今度!」
「(・∀・)ニヤニヤ」
「ケン!その顔やめなさい!」
めちゃくちゃあからさまに話題を変えようとする咲。人というものは、隠そうとすればするほど、それを知ろうとする難儀な生き物である。
「ふふ……早めに寝ておいたほうがいいな?明日は疲れるぞ?」
「わかったよ」
「(・д・)チッ」
「ケ〜ン〜……?」
「リ、リン!そろそろ寝るか!な?」
「う、うん。じゃ、お休み」
「お休みなさ〜い!」
「あぁ、お休み」
咲のやばいオーラを察して、リンを連れて逃げるように部屋に戻ったケン。
パジャマに着換え、ベッドに横になって天井を見上げる。
いよいよ明日、待ちに待った伊豆キャンが始まる。
野クルの皆と、
リンと、
なでしこと。
きっと忘れられない二泊三日になるだろう。
そのためにも……
「……寝るか」
部屋の電気を消し、ゆっくりと目を閉じる。
どんな景色が、
どんな出来事が、
どんな食べ物が待っているのだろう?
高揚する気持ちを抑えながら、ケンの意識は沈んでいった。
そして野クルで約1名、興奮のあまりほぼ不眠で参加となった人物がいることは余談である。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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