リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第二十二話『合流とホラと金目鯛バーガー』

さて、腹も膨れたところで出発……となったところで、追うように出発した車組からスマホに伊豆に入った報告が恵那から入れられた。

車の中で爆睡するなでしこの写真を、昔のコントみたいな、瞼にバキバキに開けた目の落書きをしたファイルを添えて。

 

「………目、バッキバキじゃねぇか」

 

「前の日に興奮で寝れなかったから今寝てる系だろな、これ」

 

「ま、下田に着く頃には起きるだろ」

 

「お、そうだ。こっちも返しのメッセージを、と」

 

ケン『こっちは今、河津のわさび丼で遅めの朝ごはん食べた』

 

と言うメッセージとともに送ったのは、虚ろな目で淡々とわさびを擦るリン、そしてわさび丼の写真だ。

 

「なっ!?いつの間に!?」

 

「わさびに集中しすぎで気付いてなかったんかい!」

 

あおい『わさび丼?何や辛そうな名前やなぁ』

 

ケン『そうでもないよ。辛さよりも爽やかな風味が大きくて、すんなり食べれたし』

 

千明『くそぅ!伊豆グルメの先を越されたか!』

 

リン『わさびソフトとかもあるし、そっちも休憩がてら食べたら?そっちのルートだと、道の駅とかで食べれるらしいし』

 

恵那『ホント?先生に相談してみるよ。二人共気を付けてね〜。下田で会おう!』

 

ケン『決勝で会おうみたいな言い方ヤメロ。フラグだぞ』

 

「やれやれ、車組はまったりだな」

 

「うむ、こっちもそろそろ出るか」

 

「軽く見て、あと2時間弱か。約束の時間には良いくらいかもな」

 

「だな。少しゆっくり目でも丁度いいかも」

 

もしかしたら丁度いいくらいのタイミングで互いに着くかもしれないと予想して、二人は下田を目指して二輪を発進させた。

 

 

 

 

漫画のように同じタイミングで約束の所に着く。

そんなふうに考えていた時期が

二人にもありました。

 

 

 

恵那『河津桜まつりの渋滞にハマってて、まだしばらく着きそうにないんだ。ごめんね〜』

 

二人が下田に着いたメッセージを送った時、車組の到着は遅れるとのメッセージが入った。

河津桜まつり

日本一早咲きと言われる桜のまつりが、毎年2月下旬から3月始めにかけて河津で行われており、毎年100万人近くの観光客がこぞって訪れる為、この時期は渋滞がとんでもないことになるとかならないとか。車組はその渋滞にすっぽりとハマってしまったようだ。

 

リン『わかった、しばらくそのへんプラプラしてるよ』

 

ケン『気をつけてなー』

 

という事で、下田の海浜公園を散策することとなった二人。でっかい錨やら、黒船を見て回り、最後は海を見ながら入れる足湯で冷え切った足を温めていく。

 

「至福だな」

 

「……んむ」

 

じんわりと温まってくる足先の感覚に、掛川のお茶のごとく蕩けそうになる。

何もせず、ただただこうやってボーッとして、足を温めながら静かな太平洋を眺める。

山梨県民として、これほどの癒やし空間は早々あるまい。

遊覧船だろうか?黒船にも似た外観の船が、ゆっくりと進み行く景色を眺めていると、ふとケンの肩に重みが乗っかかる。

 

「……寝ちまったか」

 

隣を見れば、温泉の暖かさと、わさび丼による程よい満腹感、そして長距離の運転で疲れたからか、リンがケンの肩に頭を乗っかけてすやすやと寝てしまっていた。

 

「ま、これから騒がしくなるんだし、今のうちに休んどけ、リン」

 

きっと千明やなでしこも含め、今日はあおいの妹たるあかりも参加している。おそらくこの三人が今回のキャンブで大盛りあがりするだろうことは想像に難くない。今のうちに体力を回復しておかねば、おそらく保たないだろう。

 

「っと……、車組は渋滞を抜けたか。リン、そろそろ集合場所に向かうぞ」

 

「む〜……」

 

恵那からのメッセージを受けて、名残惜しいがそろそろ足湯を抜けねばと、リンを起こしにかかるが、結構深い眠りなのか揺すれども頬を摘めども起きる気配がない。このまま起きなければ、先に着いていた自分達が合流に遅れるという、おかしな展開になりかねない。

 

「……しゃぁねぇか」

 

足湯からリンの足を抜けさせて、タオルで拭き、靴下やブーツを履かせる。自身も急ぎ同じように足湯を終えると、未だ船を漕ぐリンの手を引いて背負い、そのまま合流地点に向かうことにした。

幸い、持ってきた荷物が、財布と鍵とタオル、そしてスマホだけだったから、手には少し濡れたタオル。

双子の妹を背負い、起こさないようにゆっくりと海岸線沿いの歩道を歩き、集合場所である駐車場を目指して歩いていく。

 

「ったく、リンも重くなったな……ぐぇ」

 

心做しか、リンの手を回している首が締まった……。

 

「おんぶなんて、小学生の時くらいからかな……あの時は俺も鍛えてなかったからもっとしんどかったけど……今はリンもそれなりに成長したってことなんだろな」

 

小さい頃に、近くのスーパーへおやつを買いに出掛け、その帰り道に転んで、痛みで歩けないリンを背負い、家に帰った時。

その時、リンを背負って歩くのにかなり辛く感じたことが、兄であるケンにとって不覚だった。無論、成長期前だったし、当時は体格もそこまでリンと変わり無かったのだが、自身がこの体たらくで、妹を支えて助けられるのか?と情けなく思い。

それから兄として相応しくあれるようにそれなりに体を鍛えていたからこそ、こうしてあの時のようにヒィヒィ言いながら背負って歩くことは無く、むしろ余裕を持って行ける。

 

「兄としてらしいことが出来てるかわかんないけど……いつもありがとな、リン」

 

互いに成長し、高校生となり、なんだかんだで趣味やバイトや勉強で忙しいが。

だからこそそんな中で兄妹の時間が大切に思え、そして変わらずいつも兄として立ててくれる妹に感謝の念が浮かぶ。

 

(バカだな、お兄ちゃんは)

 

そんな彼の背中に背負われたリンは、閉じていた目を開いて苦笑いを浮かべる。

身を預ける兄の背は、昔と比べるべくもなく大きくて、けれどもあの頃と変わらない頼もしい背中で。

なんだかんだでバカやってることは多いけど、悩んでたり迷っているときはしっかり相談に乗ってくれるケンを、今まで兄らしくないと思ったことはない。今も昔も変わらぬ、大切な双子の兄だ。

 

(いつもありがとう、お兄ちゃん)

 

再びやってきた睡魔と追憶の背中に身を寄せながら、再びリンは微睡みに沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

一方

 

「……しこ……ん………なで……ちゃん……、なでしこちゃん」

 

ラフェスタの車内ですやすや寝息を立てていたなでしこ。あかりの必死の声掛けでようやくその目を覚ますに至った。

 

「ようやく目ぇ覚ました!」

 

「ごめんあかりちゃん、寝ちゃってたよ……いまどこ?」

 

「今、伊豆キャン終わって帰るとこやで」

 

「……………ゑ?」

 

「なでしこちゃん、二日間も寝とったんやで?」

 

「ずっと起こそうとしとったけど、全然起きひんだんやもん!」

 

「もうお土産も買うたし、写真もいっぱい撮ったから、帰りに一緒に見よな!」

 

「見よな!」

 

ホラ吹き姉妹本領発揮。寝惚けて頭が回らず、青ざめていくなでしこへホラで畳み掛ける。スマホで日付確認すれば済む話なのだが、疑うことを知らぬなでしこは、ホラ吹き姉妹のホラを真に受けてしまい……

 

「い……伊豆キャン〜……!」

 

号泣。

 

「なでしこ虐めんなホラ吹き姉妹」

 

流石に見兼ねた千明から釘を差されたのは言うまでもない。

 

「お、ようやく来たな車組」

 

「あ!ケン……と、リン?寝てるの?」

 

「うむ、足湯に入ってたら疲れから寝ちまった」

 

「夜中出発だったもんね〜、二人共お疲れ様」

 

「志摩君、遅くなってごめんなさいね」

 

「いえいえ、ゆっくり待ってただけですし。先生も運転お疲れさまです」

 

何故かリンを背負っているケンをカメラに収める恵那。互いに運転を労っていると、背後からフラフラと迫る怪しい影。

 

「け、ケン君……!」

 

「ん?」

 

なでしこである。

だが

据わった目。

青ざめた顔。

そして発せられる謎の圧。

果たして目の前にいるのは自身の恋人と同一人物なのかと思ってしまうほどに、雰囲気が違いすぎる。

 

「ここはどこ?今日は何日?」

 

「ど、どしたの?なにがあったの?」

 

なでしこが犬山姉妹のホラだと気付くまで、少し時間がかかったのは別談である。

 

「ん……」

 

ケンの背でようやく目覚めたリン。目を開けば、車組の面々が揃い踏みなことに気付き、ケンの背からするりと降りる。

 

「皆、合流出来たんだ……ふぁ……」

 

「合流やないで、今から帰るとこや」

 

「え?」

 

欠伸をしていたリンに、あおいがすかさずホラを吹く。

 

「リンちゃん、ずっとケン君に背負われて二日間も寝とったんやで?」

 

本日二人目のホラ被害者が生まれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

「「んまぁ〜!」」

 

下田のとあるレストランにて。

ご当地グルメである金目鯛バーガーを頬張り、先程の泣きべそと絶望はどこへやら。満面の笑みのなでしこ。

 

「カマンベールチーズと甘辛ダレがキンメダイとよく合うねぃ」

 

「ね〜」

 

「私、前からこれ食べてみたかったんだよねぇ、もう思い残すことはないよ〜」

 

「いや、他にもっとやりたいことあるだろ」

 

少し遅めのお昼御飯に舌鼓をうつ車組。勿論単車組も、わさび丼を食べた後なのだが、結局3時間ほど空いていたため、金目鯛バーガーはすんなりと胃袋に消えていく。Mのハンバーガーチェーンにも時折行くが、そこのフィッシュバーガーとはまた違う旨さがこれにはあった。

 

「遅めの朝ご飯だったけど、結構食べれるもんだな」

 

「魚だからかな?そんなに油っこくないしな」

 

「え?二人共朝ごはん何食べたの?」

 

寝ていたなでしこは二人の朝ご飯を知らないままなので、志摩兄妹はスマホの写真フォルダからわさび丼の写真を表示してなでしこに見せる。

 

「わさび丼。中伊豆通った山中のお食事処でな」

 

「ふぉぉ……!美味しそう!……でもわさびだから辛くないの?」

 

「結構辛さよりも爽やかさが勝ってた感じで美味しかったよ」

 

「へぇ……これは?」

 

画像を一枚スワイプすれば、虚ろな目でわさびを擦るリンの写真。もはやホラーに近い。

 

「それは忘れろ」

 

リンにとっても不本意だったようで、ジト目で睨まれてしまった。

 

「わさびと言えば、ケンに教えてもらったとおり、途中の道の駅でわさびソフト売ってあったよ!」

 

「はい!美味しかったです!」

 

「えっ!?わさびソフト!?食べたかったよぅ〜!」

 

甘いソフトクリームに、爽やかさとともに程よい辛さのわさびがマッチして予想外に美味しかったらしく、あかりはお気に入りの様子だ。

そして食に目がないなでしこは、ご当地グルメを一つ食べそこねたことに再び絶望する。

 

「わさびは伊豆の名物なんだから、これからの伊豆キャンの途中で食う機会くらいいくらでもあるだろ」

 

「ほんと!?」

 

「そんときも寝てたら知らんで〜」

 

「もう!寝ないよぅ!」

 

「どうだかな〜、食べすぎてスヤスヤ寝てるのが想像できるぞ〜?」

 

「アキちゃんまで〜!」

 

なでしこのプリプリと怒る姿に、皆がケラケラと笑い、そしてバーガーを食べ進めて。

二人の時とは比べるべくもない賑やかな雰囲気。

やっぱりこのメンツでの空間が好きなのだろう。

金目鯛バーガーを頬張りながら、リンの口元は確かに緩んでいた。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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