リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第五話『猛獣の逆襲』

「何やってんだよ、おに……いや、ケン。しかも二人で揃って」

 

「何って、様子を見に来た」

 

「駐車場でばったり一緒になったんだよぅ。偶然ってあるんだねぃ」

 

「リンへの愛ゆえだな」

 

「ね〜?」

 

「なぜそこで愛?」

 

相変わらずこの二人は謎の相乗効果を齎して、余計にぎやかになる。大垣千明とはまた別のベクトルの賑やかさだ。

 

「あ!そうだ!リンちゃん!もう晩御飯食べちゃった?」

 

「え?いや……まだだけど」

 

「聞きました?旦那さん。これは思わぬ好機ですねぃ」

 

「うむ、ガッツリやりたまえ、各務原隊員!」

 

「オーキードーキー!!そんなわけでリンちゃん!今から三人でお鍋、しよっ!」

 

「どんなわけでだ?」

 

返事を聞くまでもなく、シートを広げ、キャンプでまず見ないだろうカセットコンロと土鍋をバスケットから取り出す。

更には白菜や白ネギ、豆腐にニラなどなど。

 

「そういえば二人共、どうやってここに?」

 

「私はお姉ちゃんが富士宮で友達と遊びに行くから、一緒につれてきてもらったんだ。」

 

「……まぁ流石にこの荷物を持ってチャリは無理だよな」

 

「俺はバイクが納車されたから、初乗り慣らし運転で様子を見に来た」

 

「へぇ。じゃあバイクで来たんだ」

 

「うむ!未だにあのシートから伝わる2気筒エンジンの振動の興奮が収まらん!」

 

むはー!と幼い少年のように興奮を隠さない兄に、リンは呆れながらも静かに笑みを浮かべる。

ずっと前から楽しみにしていたバイクなのだから、この興奮と充足感はわからなくもなかった。

 

「リンも原付が来たら、伊豆のスカイラインを攻めに行こうな!」

 

「どう考えても悲惨な未来しか見えんわ。昨日もおんなじやり取りしただろ」

 

「ちなみにリンが本栖湖まで使ってる甲州いろは坂もツーリングスポットだったりしなかったり」

 

「どっちだよ。……まぁケンの言うとおり、道中の景色は綺麗だけどさ」

 

キャンプ先なのに、まるで家で過ごしているかのような安心感。矛盾しながらも、心地よい感覚。家族でキャンプするというのは、こういう感じなのだろうか。

 

「私もあの日、いろは坂通って本栖湖まで行ったけど、あの道も紅葉でホントに綺麗だったの、覚えてるなぁ……」

 

ネギや白菜をチョキチョキとキッチンバサミでカットしながら、なでしこは先週の出来事に思いを馳せる。まだあれから一週間しか経っていないが、ここまでキャンプにのめり込むとは、なでしこ自身予想だにしていなかった。

 

「っと、手伝わなくてごめん。なにかすることはある?」

 

「いいよ、二人共ゆっくりしてて。お鍋なんて、切って、ぶち込んで、煮るだけだもん」

 

「それでいいのかアウトドア料理」

 

「それに、これは二人へのお返しなんだ」

 

「お返し?リンはともかく、俺は何もしてないだろ?」

 

「そんなことないよ。転校してきて不安だったけど、ケン君が友達になってくれてすごく安心したんだよ?」

 

それはそうかも知れないが、それでも恩を感じすぎだと志摩兄妹は考える。

それに、なでしこのコミュ力なら、自然と打ち解けていそうなものだろうが。

それでも結果として、なでしこが喜んでいるのなら、

 

((まぁよし!))

 

「前は夜に帰っちゃったけど、今日は私も泊まるんだよ!」

 

「泊まる?テントやシュラフは?」

 

見たところ、調理機材や具材以外の荷物を持参していない。いくら元気者のなでしことはいえ、さすがにこの寒空の下で野宿は風邪を引くだろう。

 

「お姉ちゃんの車にお布団積んできてるんだ。だからお姉ちゃんが戻ってきたら車中泊……って、車で泊まったらキャンプにならないんじゃ……」

 

「そうでもないよ。キャンピングカーで泊まるオートキャンプも今の時期はよく見かけるし。ほら、あっちの方に止まってるでしょ?」

 

「ホントだ!いろんなキャンプの仕方がある……ふぇっ……ふぇっ……へっぷし!!」

 

マフラーを巻いたり帽子を被っていても寒いものは寒いのだろう。可愛らしいくしゃみが飛び出す。

 

「えへへ…やっぱり静岡に比べたら寒いものは寒いねぃ。まだ慣れないや」

 

「そりゃそうだ。この辺は夏は暑く、冬は寒いんだ。気を付けないとあっという間に風邪引くぞ」

 

「今まで風邪引いた事ないヤツがよく言うよ」

 

「引こうと思っても引けないからな。致し方ない」

 

「ったく……ほら、貼るカイロ一杯あるから好きなだけ使いなよ」

 

「え?いいの?ありが……ハッ!?1500円……?ろ、六十回払いでお願いします……!」

 

「お前、何か各務原に1500円のトラウマでも植え付けてんの?」

 

「記憶にございません」

 

とまぁ冗談兼漫才はここまでにしておくとして……

 

「今日は御馳走になるんだし、気にしなくていいよ」

 

「えへへ、ありがとうリンちゃん!あっ!ねぇねぇ、カイロってどこに貼るといいのかなぁ?」

 

「両目」

 

「あと、スマホ」

 

「「それは確実に違う」よ」

 

そんなわけで、なでしこにカイロを貼ることにした。

 

「先ずは、首の後ろ。鳩尾。あと肩甲骨の間。太い血管が通ってる所がオススメって、じいちゃんと同じ声の人が言ってた」

 

「誰だよそれ」

 

「首の後ろと〜……鳩尾と〜」

 

鳩尾に貼るべくなでしこがブラウスの裾を上げた瞬間、リンは行動を起こした。

 

「ワルキューレ!!」

 

「ぐぁぁっ!?目が!目がぁぁぁぁ!!」

 

リンのVサインがケンの両眼にシュゥゥゥゥゥッ!!超!!エキサイティンッ!!ものの見事に目潰しと相成った。

同級生が服を捲るのを兄が見るなど看過できないリンは実力行使に移ったのである。

ビクビクと気持ち悪い痙攣を起こす兄を、まるで養豚場の豚を見るような目をして見下ろしていた。

 

「り……リンよ」

 

痛みに耐えながら、ケンは言葉を絞り出すように放つ。

 

「何だよ」

 

「『ワルキューレ』の『W』を成すには…相方が居ないと……駄目だぞ……!お兄ちゃんとの……約束だ……!」

 

「やかましい」

 

「リンちゃん、背中の方を貼って……ってケン君、どうしたの?蹲って。お腹痛いの?」

 

「あ〜、大丈夫。放っといたら再生するから」

 

「……?再生……?」

 

「ほら、背中に貼ったげるから、そっち向いて」

 

「ありがとねぃ……」

 

カイロによって血行が良くなったなでしこは、残る食材をサクサクと刻み、蓋をする。

 

「しばし、待つのじゃぞ?」

 

「いきなり年寄り臭くなったな」

 

「もう再生したのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、

待つことしばし。

日はすっかりと山の陰に隠れ、周囲が夜へと変わりゆく。

真っ暗にならないうちに、リンは持参したランタンで周囲を照らし暗闇に備える。

待っている間に、ケンは暗くならないうちにと、駐車場からリンのテントの近くへとバイクを移動させていた。スタンドがめり込んでバイクが転倒しないよう、平たい石を咬ませることも忘れずに。ある程度街灯はあれども暗いことには変わりない。真っ暗闇で歩くのはゴメンだった。

実際に見たバイクに、血が騒ぐのか、リンはソワソワし始めた。

 

「ねぇケン。バイク、跨ってみてもいい?」

 

「いいぞ。気を付けてな」

 

「うむ」

 

逸る気持ちを抑えながら、ハンドルと前輪ブレーキを握り、スタンドを払うと、右足を大きく上げてしっかりとバイクに跨った。

しかし、

 

「むぅ……」

 

左足をついた状態だと右足が明らかに宙ぶらりんだった。どこをどう見ても身長とバイクの大きさがあってない。

 

「ちょっと……いや、かなり高いな」

 

「わざわざ言い直すなよ」

 

「まぁなんだ。原付はともかく、将来バイクを買うときは、シートとかハンドルを調整したほうが危なくなさそうだな」

 

「これから成長期だし。もっと伸びるし」

 

「だといいな。後リン。乗ったあとで言うのも何だけどさ」

 

「何だよ」

 

「短いスカートでバイクは止めとけよ」

 

「なっ!?見るなバカ」

 

いくら厚手のタイツを履いているとはいえ、スカートである。そこは年頃の女子として恥じらいを持ってほしいと思う兄心。

自覚しておずおずとバイクを降りたリン。すれ違いざまにケンの爪先を踏んでいくことを忘れない。

 

「ケン君ケン君!私も跨ってみてもいいかな?」

 

「いいけど、跨ったことはあるのか?」

 

「えへへ……実は初めてなんだよねぃ」

 

「わかった。じゃ、手伝うからゆっくり乗ってみるか」

 

「あいあいさー!」

 

「じゃあまず、基本的に乗るのは左側からだ。バイクは自転車と同じでサイドスタンドを使って左に少し傾けて停めるからな」

 

「ふんふん」

 

「で、乗るときはハンドルと一緒に右のレバー。これが前輪ブレーキ。これをこうやって握ることでブレーキが掛かって、乗る際にバイクが動いて転倒のリスクを下げる」

 

「ほう〜……」

 

「で、あとはバイクを少し真っ直ぐに起こしてサイドスタンドを払い、あとはブレーキを握ったまま左足に重心を掛けて、右足を大きく上げて跨がる」

 

風をきるように勢いよく足を振り上げて跨ると、一気に掛かった体重により、ギシリと小気味よいスプリングに負荷がかかる音が響く。

 

「ほぉぉぉ!!」

 

「じゃ、ゆっくりで良いからやってみな」

 

「う、うん」

 

おっかなびっくり、初めて近くで見るバイクに目を輝かせながら、ハンドルとブレーキを握る。そしてサイドスタンドを払い、力強く右足を上げてしっかりとシートに跨った。

 

「お、おぉぉぉ!!」

 

自転車とは違う、重厚感あふれるハンドルの感触と座り心地。リンよりも少し身長があるとはいえ、それでも140センチ代であるなでしこは、片脚立ちの状態だ。だが彼女は、初めて跨ったバイクに感動を覚えていた。

 

「たまりませんなぁ…!」

 

「わかるか!?たまらんだろう?」

 

興奮と感動が伝染してきた。

 

「ねぇケン君。バイクって二人乗りできるの?」

 

「出来るぞ」

 

「じゃあ今度乗せてよ!」

 

「無理だな」

 

「そんなぁ…!」

 

感動から真っ逆さま。どよどよとお通夜ムードとなった。

 

「今は無理ってことなんだよ。免許を取ってから一年はタンデム―つまり二人乗りしちゃ駄目って法律で決まってるんだ」

 

「そ、そうなんだ」

 

「こればっかりは仕方ないな」

 

「じゃぁ一年後、楽しみにしてるねぃ!」

 

「覚えてたらな」

 

「やった〜!約束だよ!……じゃ、そろそろ降りるね」

 

ゆっくりと左足に重心を掛けて右足を大きく上げる。

しかし、

 

「危ない!!」

 

リンが叫んだ。付いた左足がバイクと離れていた為、バイクの重心が大きく左へ傾いたのだ。

 

「わわっ!!」

 

「各務原!!」

 

バランスが崩れたバイク。そしてそれにつられてなでしこもバイクと同じように左足が崩れて共々倒れ込んでいく。このままではなでしこの左足が180キロもある車体の下敷き。下手をすれば骨折の危険がある。

リンも、そしてなでしこも、このあと起きる大惨事、そして痛みに備え、グッと目を瞑る。

 

「〜〜〜〜…………!あ、あれ……?痛く、ない……?」

 

しかしいくら待てども痛みも重みもこない。

何が起こったのか、恐る恐る目を開ける。

 

「……ぶ、無事か?各務原……」

 

目の前にドアップでケンの顔があった。状況が飲み込めないなでしこは視線を動かすと、倒れそうになった自分の体がケンの右腕によって抱きかかえられていた。

そして更に視線を移せば、左半身でバイクをコケないように抑え込んでいたのだ。

間一髪のファインプレー。

だがその不安定な体制は長くは続かない。

 

「悪い……各務原。動けそうならちょっと離れててくれ。片手だけだと正直辛い……」

 

「う、うん……!」

 

「大丈夫か?」

 

「リン……悪いが軽くでいいからバイクを右から引きあげてくれ」

 

「わ、わかった」

 

ケンの右腕からするりとなでしこが抜けたことで右手が使えるようになったので、両手でバイクを支える。

そこにリンからのアシストでどうにか持ち直し、バイクが地面と垂直になったことでスタンドを立て、駐車ポジションに戻すことが出来た。

 

「はぁ……何とかなった……ありがとな、リン」

 

「うむ」

 

一息ついたことで緊張がほぐれたのか、ケンはバイクの傍らに座り込む。よもや一日目でバイクが転けそうになるとは思わなかった。

 

「ご、ごめんなさいケン君……!大丈夫?怪我ない?」

 

少し離れていたなでしこ。座り込んだケンを心配し、目に涙を浮かべて駆け寄ってきた。

 

「大丈夫だよ。各務原こそ怪我は?」

 

「私は平気だよ。ケン君のお陰」

 

「なら良かった。悪いな、危ない目に会わせて」

 

「私の方こそ……危ない降り方してごめんなさい」

 

「どっちもなんともなくてよかったよ」

 

リンもリンでホッと一息。ここで怪我でもされたら夢見が悪い。

 

「じゃ、なんともなかったって事で、ご飯にしようか。そろそろじゃないか?」

 

「あ、そ、そうだね!そろそろ頃合いかなっ!」

 

そういって鍋の方へ駆け出すなでしこ。

その顔はほんのり朱に染まっていた。

 

(どどどどどうしよう……!あんなふうに男の子に抱きかかえられたの、初めてだよぅ……!)

 

思春期真っ盛りの女子としては、同年代の男の子に、事故とはいえ密着されたことがとても恥ずかしかった。ましてや、男子と関わりが少なく、耐性がないなでしこだから尚の事。

 

(だ、だめだよ私!気を取り直していかなきゃ!ケン君は友達!変に恥ずかしがるのは駄目なんだから……!)

 

今は二人にごちそうする料理に集中だ。失敗なんかしていられないのだから。

 

「さ、さてと、そろそろいいぐあいかな〜?」

 

皆が座ったのを確かめ、蓋を開けて中を覗き込む。

そこから覗き込む赤い鍋よりも、今のなでしこの顔は赤く染まっていたのに誰も気付かなかった。きっと高鳴る心臓とともに体が熱いのは、カイロで血行が良くなったせいだと自分に言い聞かせながら。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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